その8 終わり
(8)終わり
「今日、風見鶏邸を出てくわ。あんたのとこの例のキャラバン、怪我も治ってD地区のカンザスシティヘ向かうらしいじゃない。一緒にそこまで行って都へ戻ることにした」
リサは赤毛に鋏を入れて髪を切り落とした。それを軽く手に束ねると、それをハリーに渡した。
「…これを悪いけど、この地区の共同墓地の彼の墓に埋葬してくれない?いいよね、それぐらいサービスとして」
言ってからハリーから視線を外してカウンター越しの老人へ視線を向ける。老人はその視線を受けて、軽く首を縦に振った。それを見てリサはポンと軽くハリーの方を叩いた。
「じゃぁ頼むわ…」
それからリサはハリー耳元で小さく言った。
「…ありがとう、調査団の捜索隊が来た時、グレンが人狼になったこと黙ってくれて。もし、彼が造魔になったなんて知れたら、…人間の墓には入れないんだからね」
ハリーは綺麗に伸びた鼻筋を軽く指でなぞり、それから瞼を開けてリサを見た。リサには黒髪の下から見える彼の美しい睫毛の下の黒瞳に映る髪を切った自分を見た。それは生まれ変わってこれから生きる自分の姿だった。それから彼女はやや含み笑いをしてから彼に言った。
「…夜風、夢魔、そんな意味も分かる気がするけど私にとってはあんたは、やはり無口ね。そうそう、少しだけ学者らしく教養を見せびらかすとすれば、昔ジパングでは男は黙して語らないことが美徳だったそうよ。そこには侍と言う戦士が居て、彼等は黙して語らない。それは沈黙こそが相手への最大の礼儀であって、秘密は心中に秘するものして友の為に死んでいったそうよ。ねぇハリー?もしかしてあなた…そんな侍を気取ってるんじゃないよね?」
再び含み笑いをしようとしたリサの耳に声が聞こえた。それを聞いて彼女は立ち上げる。
「どうやら出るみたいね、カンザス迄のキャラバンが呼んでるわ」
彼女はリュックを背負い足元に電磁縄をセットした。それから彼女を見送ろうとして立ちあがったハリーへ手を差し伸べた。その手をハリーが軽く握りしめる。
彼女が言った。
「ありがとう、ハリー。あんたの実力なら風見鶏グループのトップクラスのホテルの壁人として働けると思うけどね。もしその気があれば推薦状ぐらい書くわ」
言うと彼女はドアを開けて外で自分を待つキャラバン隊の所に歩いて行った。歩きながら彼女は一度だけこちらを振り返った。その眼差しに去来する思いを誰が図ろうとするのか分からないが、キャラバン隊の旅立ち別れの音が鳴り響いた。それで彼女は赤毛を風に吹かせたまま、風見鶏邸を去って行った。
暫くその姿を見ていたハリーは後から出てた老人に声を掛けらた。
「彼女の言う通り、他のトップクラスのホテルに行くか?ハリー」
しかしハリーは老人の言葉に何も答えず、唯去ったキャラバン隊の名残の風に吹かれたまま何も言わなかった。
「何だよ、此処でも無視か!無口野郎めっ!!」
そこでハリーは小さく微笑した。その微笑で揺れた黒髪に声が届く。それは自分を呼ぶマリーの声だった。
――ハリー、さぼってないで皿洗い手伝ってよ。キャラバン隊が去って、朝食の片づけでこっちは忙しいんだからね!!
『風見鶏邸のハリー』この作品はどちらかと言うと余計な情景描写を消して、人物の会話劇に主を置いて書いた短編です。この世界観は今後も自分の作品で色々と出てくるとおもっていて自分観のコロニー型小説に位置付けられています。また短編をこのシリーズで書きたいとおもっていますので、良ければ是非また
その時にお会い出来たらいいなと思います。ではまた
聖飢魔Ⅱ
STAINLESS NIGHT を聞きながら
#日南田ウヲ