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風見鶏邸のハリー  作者: 日南田 ウヲ
恋人の仇討ち
7/32

その7

(7)


 精神刀剣を身構え、目を細めるハリーに向かってバンパイアは言う。

「愚かな…所詮、人間風情がこの造魔に勝てると思うのか?造魔は元来、お前達人間が有していた恐怖と想像が創り出してうみだしたこの世界の新創造物なのだ。古き世界の聖書(バ・イーボ)の創造神話にも無いこの地球『ガレリア』の新しき存在、それこそが造魔なのだ、分かるか。人間よ?」

 言ってからバンパイアは壁伝いに浮き上がり、半身を闇に浸す。

「ゆえに造魔の力は人間の恐怖を支配する力なのだ!!そして我らバンパイアは夜の闇を支配する王なのだ!!」

「バンパイアは夜の闇を支配する王ではない、唯の闇の眷属でしかない」

 ハリーはストライダーを構えながら、腰を低く沈めて剣を軽く引いた。弧を描く剣が、青白く輝く。

 青白い刀身、其れこそ剣を持つ人間の精神と魂が融合する輝き。この輝きこそが、人間の恐怖と想像から生まれた造魔を切り裂く力だということをリサは理解している。

 大僧正会では精神刀剣、いや精神を宿した武器を使う僧がどれほどいる事か。その中でも刀剣を扱うものは研ぎ澄まされた精神性を持ち、他のマスターの中でも群を抜く。過去に居たマスターとして見事な剣技を持つ者としてリサが聞いているものは僅か数名。その内のひとりが野に降り、狩人になったと聞いた事はあるが名は知らない。

 だがハリーは現存するマスターの誰一人のも劣らないだろう。それは先程、人狼――いや自分の過去の恋人の首を切った鮮やかな神速の手並みで分っている。その刀剣の刃が今一段と青白く輝いている。それはまるで青白い炎を上げる紅蓮の様に。

「唯の闇の眷属でしかないだと!!ほざけ、人間め。ならばお前もそこに転がる人間の首の様に、全身の血を吸い下僕に変えてやるわ!!」

 言うや、バンパイアは勢いよく闇から躍り出て乱杭歯を出してハリーに襲い掛かった。

 闇を引き連れてハリーに迫るその速さにリサは目を閉じる間がなかった。それはバンパイアがハリーを襲って喉を食いちぎり、噴き出る鮮血を貪る瞬間を見るという事ではない。つまり、ハリーが身体を動かすことなくまるで静かな動作でバンパイアの首を刎ねたと瞬間をだという事だ。

 何と鮮やかな手並みだろう。彼はほぼ動くことなく、バンパイアの首を鮮やかに刎ねた。バンパイアはまるで自分の首が刎ねられたのが分からなかったのか、唯、言葉を吐いた。

「…あれ、なんだ、何故、躰がそこに立っているのだ。あれ、あれ…」

 ハリーは精神刀剣を下段に下げたまま、リサを片手で抱き起した。それから彼女に自分の刀剣を渡した。それをリサは何も言わず受け取る。

 ハリーが言った。

「恋人の仇を討つんだな」

 その意味が理解できたリサは、突如涙が溢れて来た。溢れて手の甲に落ちた涙を瞼で拭くと、彼女は刀剣を逆手にして転がるバンパイアの首の上に思いっきり突き刺した。

 それと同時に首が燃え上がり、バンパイアの身体は霧散するように千切れ、やがて多くの蝙蝠になったが瞬時にバタバタと音を立てて地に落ちた。そして最後に大きな鉱石が落ちて、それがハリーの足元に転がった。それをハリーが握りしめると、ハリーは刀剣を受け取り、剣の柄で鉱石を砕いた。

「悪いが、俺は鉱石集めに興味がない。唯俺がすることはこの世界に散らばる『奇蹟(ミラクル)』を破壊することだ。奇石集めは君達の仕事だろうが、ここは恋人の仇討ちと交換させてもらう」

 ハリーは砕いた鉱石を興味なさげに、地に放った。それを見てリサが言う。

「バンパイアの『奇蹟』、売れば100万ドルも有り得ただろうに…」

 リサは燃え屑となって消え去ったバンパイアの首を見ながら言った。

「そう、『風見鶏邸のハリー』はそうやって『奇蹟』を破壊する。だから大僧正会はあなたをある意味危険視しているのよ…」

 その言葉を聞いているのかどうかハリーは静かに剣を鞘に納めリサに背を向けた。その背にはマリーがランチに渡してくれたバスケットが揺れている。

 ハリーはそのバスケットに手を触れながら囁いた。

「汚れたバスケットは洗って返すんだったな、マリー」






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