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風見鶏邸のハリー  作者: 日南田 ウヲ
恋人の仇討ち
4/32

その4

(4)


「今朝方運ばれて来たのはあんたんトコのキャラバンスタッフかい?」

 赤毛の髪を揺らして女がハリーに言った。ハリーはロビーのテーブルを拭き掃除をしている。今朝方運んで来たキャラバン隊員の怪我の手当てをしたりして、汚れていたからだ。

 手当をしたキャラバン隊員は幸い腕に切り傷があっただけで、他に目だった外傷は無かった。今は奥の小さな部屋で横になっている。

 女が壁に背をもたれさせて辺りを見る。見ればハリー以外には老人が居て、彼はカウンターに腰掛けて何気なく二人の会話に耳を向けているように見えた。

 女の名前はリサと言った。都の遺跡調査団における専門は古き世界の宗教だと言った。だがそう言った彼女の姿を見ても、誰がそんな軟な学者風情だとおもうだろうか。

 服装は躰の敏捷さと鍛えられた肉体のラインを強調するような繊維で編みこまれた上下に、そして太腿には小さな革ベルトに収まった電磁鞭が収まっている。

 恐らくそれが一度何かを絡めとれば人間なんぞ瞬時に気絶するくらいに電流が流れるだろう。つまりそれは完全な殺人武器なのだ。それが何事かが起きれば瞬時に抜かれて相手に絡みつくのに、それほどかかるまいとハリーは感じている。実際に彼女の動きは敏捷性を兼ね備えた猫科の動物の様に動くことは今も自分を警戒して容易に背を見せないことで分かっていた。

「おや、だんまりかい?」

 女がふふ、と笑う。

「なるほど、さすが無口(ハリー)という訳ね」

 ハリーのテーブルを拭く手が止まった。それに女が反応する。

「何よ?」

 ハリーがちらりと女の方を見て、手短に言った。

「グレンという男は知らない。確かに五年程前に此処に泊まったのは宿帳に書いてあったが、その頃、俺は此処にはいない」

 それに女の顔が真面目になる。瞬時に引き締まった眉の中にどれ程の思いがあるというのか。


 ――グレンという男は知らない


 ハリーの言葉が彼女の心の中にどんな感情を引き起こさせたか、しかしそれらの感情で引き締められた眉が今度は力なく開いて彼女の言葉になった。

「…そうかい。それならいいのさ」

 ハリーが彼女を見る。女の表情には明らかな失望が見えた。

「すまない」

 ハリーは言うと雑巾を変えてテーブルを拭いた。汚れが磨かれて鮮やかなテーブルの木目が見える。

「あんた今日は私達のガイドをしてくれるのだろう?聞いてるよ。峡谷にあるキングバレーの遺跡のね」

 老人がそこで動きを止めた様に女には見えた。現に老人はそこで動きを止めハリーを見ている。ハリーはというと老人の方を見て、女を順に見る。

  「聞いてないが…」

 と、ハリーが言い出した瞬間、老人が言葉を押さえた。

「ハリー、料金は既に頂いている。ホテルは旅人の安全も守らなければならないが、周辺の地理について必要があればガイドをする義務がある。何、嫌な顔をしている。これは五万ドルの仕事だ。月給一万ドルにも満たないお前が口出す様なことじゃないぜ」

「別に俺はそんなことを言いたい訳じゃない」

「じゃあ何さ」

 老人の言葉に間を置いてハリーが言った。それは老人ではなく、女に向けて。

「…死人は静かに眠らせておくべきだ。それがキングバレーの主人ならば特に」

 それは忠告を含んだ声だった。


 ――何故、この男がそんなことを言うのか


 そう女が心で呟くと、老人がテーブルの上に小さなバスケットを置いてハリーに言った。

「ハリー。マリーの手作り弁当だ。メッセージ付きだぜ。ほら持っていくんだ、あの精神刀剣(ストライダー)と一緒にキングバレーにな」

 ハリーは振老人を振り返り言われるままバスケットを手に取るとメッセージを開いた。


 ――ハリー、ガイドの役目はしっかりやるのよ。あとこのバスケットは必ず洗って私に返す様に!!じゃぁ行ってらっしゃい。





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