クロード・ラッセル(クロードサイド)
クロード・ラッセルは歳は18歳。人から見ても黒髪のどこにでもいそうな好青年である。
今日は、新たな人生の再出発日、王国マディニア騎士団の見習いとして、王宮の庭にて入団式の日だ。新人の見習いは20名程、入団する。
入団するには貴族でなくてはいけない。もしくは貴族の紹介がなければいけないとかあるので、大抵は貴族でなければ入れないらしい。たまに優秀な平民が認められることもあるけれど。
クロードはこのマディニア国の有力貴族フォルダン公爵に遠縁ということで、紹介してもらった。
騎士団は現在200名程いて、王宮を警護することが主な任務だ。
緊張しながら、王宮の敷地に入り、案内により庭に行ってみれば、同じく緊張した面持ちの青年たちが集まっている。
皆、クロードを見て声をかけてきた。
栗色のずんぐりした太めの青年が。
「お前も入団する仲間か。俺はカイル・セバスティーノ。セバスティーノ男爵の次男だ。」
もう一人の金髪のそばかすがある、細身の青年も。
「俺はギルバート・コンソル、コンソル伯爵の三男だ。」
クロードも自己紹介をする。
「俺はクロード・ラッセル。フォルダン公爵の遠縁にあたる者だ。」
「フォルダン公爵のっ?」
「それは、凄いっ。」
他のメンバーも自己紹介をするが、皆、貴族の次男、三男だったりする。
しかし、フォルダン公爵の名を出しただけで、凄いと言われた。
さすがフォルダン公爵の名は凄いなぁと、心の中でクロードは感心する。
なんだかんだと、話をしていると、茶髪の髭を蓄え、銀の立派な鎧を着た中年の大男が声をかけてきた。
「俺はマディニア騎士団の副団長、ゴイル・シャルマンだ。新人どもーー。がっつり鍛えてやる。覚悟しておけ。」
皆、緊張する。
クロードはひときわ高い声で。
「ゴイル副団長。よろしくお願いします。」
と、がっつりと挨拶をした。
他の面々も次々と挨拶をする。
「ワハハハハ。いい挨拶だ。さぁこれから入団式を始めるぞ。二列に整列っ。」
整列をしていると、騎士団の面々が次々と入ってきて、横に整列をする。
皆、銅色の鎧だ。しかし、後から入って来た30名程は前に並び、輝くような銀の鎧を着ている。
副団長ゴイルの横に立ったのは、この国でも名をはせている、マディニア騎士団長ローゼンシュリハルト・フォバッツア公爵。金髪碧眼のその強さから英雄と呼ばれている男だ。
クロードは最前列にいたので、間近で見ることが出来た。
凄い。美しさもさることながら、発せられる迫力に圧倒される。
ローゼン騎士団長が新人たちと、他の並んでいる仲間達200人ほどに向かって演説を始める。
「皆、いつも王宮の警備を滞りなく果たし、マディニア騎士団としての名を汚さぬ事を私は誇り高く思っている。今日この日に新たなる団員見習いを20名迎える事が出来た。新人達よ。鍛錬し、学び、半年後の騎士本試験に必ず合格し、我が王国騎士団の力になってほしい。私からは以上だ。」
ゴイル副団長が。
「新人ども。自己紹介をせい。」
クロードは真っ先に。
「クロード・ラッセルっ、フォルダン公爵の紹介で入団しました。励みますのでよろしくお願いします。」
フォルダン公爵のっ。・・。周りがざわつく。
ゴイル副団長が「静かにせいっ。」
と叫ぶ。それほどまでに凄いのかフォルダン公爵っ。とクロードは思う。
他の団員達も一通り皆、紹介をし、入団式は解散となった。
その後は、ゴイル副団長が、皆を寮に案内する。
王宮の庭にある一角が、騎士団見習いの寮に相当し、部屋を案内されながら、狭いながらも一人一部屋あるのはありがたいと思うクロードであった。
初日は荷物の整理とかあり、午前中は各自部屋になったので、部屋で荷物の整理をする。ふうとクロードはため息をつく。
本当にこれでよかったのか…。いや、自分には政は向いていない。
だったら、こうして外に出て、少しでも我が王国の役に立った方がよいのではないか…。
そう、我が王国とは、マディニア王国ではない。彼の本当の王国の事である。
その時、狭いベットの脇机に置いた鏡がピカピカ輝いた。30センチ程の丸い姿見である。
覗き込むと、そこには二つの羊のような角を持ち、ウエーブのある黒髪を背まで垂らしたよく見知った顔がこちらを見ていた。
「はぁい。クロード。無事、入団式は終わったの?」
「アイリーン。さすが、君の父上だね。皆、君の父上の名前を出しただけで、驚いていたよ。」
アイリーンと呼ばれた少女はほほ笑みながら。
「それは良かったわ。まぁ、私としては貴方が第一魔国の魔王にならないって言った時に、私の物になる覚悟を決めてくれたんだと思っていたんだけど…」
「いや、それはない。」
きっぱりと断言する。アイリーンを傷つけないように言葉を続けて。
「君の好意は嬉しいけど、男たるもの若いうちはやりたい事をやるのが男ってもんだろう。」
「それじゃ…もっと時が経ったら私の元へきてくれるの?」
アイリーンの両手が鏡から伸びてクロードの両頬を優しく撫でる。
「俺は決めたんだ。第一魔国の魔王を姉に譲ったのも、第二魔国の魔王のアイリーン、君の元へ婿入りしないのも…人と言うものを見極める為…。人と魔族の在り方を見極める為にも。それにはこの騎士団に入団するのが一番だという事を。」
「クロード。貴方が傍にいないと寂しいわ。」
アイリーンは角を頭から消して、黒いドレス姿ですうっと鏡から抜け出し、抱き着いてきた。
そのまま、仰向けにクロードはひっくり返る。
「いつだって会えるだろう。こうして。」
ダダを捏ねるようなアイリーンを宥める。
上から見下ろしているアイリーンは赤い唇を引き上げ微笑んで。
「私はなんでも我慢してきたの…。でも貴方だけは我慢したくない。」
アイリーンの顔が近づいてきた瞬間、部屋の扉が開け放たれた。
「クロードっ。うわっーーーー7」
カイルとギルバートが悲鳴をあげて、慌てて扉を閉める。
しまった…。ここは騎士団の寮。当然ながら女人禁制だ。
アイリーンは慌てるでもなくチュっとクロードの唇に口づけを落とすと。
「また、来るわ…。愛しのクロード。」
鏡の中に姿を消した。
クロードは慌てて廊下に出て、カイルとギルバートを探す。
二人を見つけると。
「あれは違うんだっ…いやその…」
「解った解った。お前にも事情があるんだろう。」
カイルがぽんぽんとクロードの肩を叩く。
ギルバートも。
「しかしだな。ここは女人禁制。ばれたら懲罰もんだぞ。」
「解っている。幼馴染でな。押しかけてくるんだ。」
「しかし、ここは王宮の庭で警備が厳しいよな。良く入れたな…」
カイルが首をかしげる。
ギルバートが。
「まぁほどほどにしておけよ。俺達は近衛騎士を目指すんだから。」
「近衛騎士って30名しかなれない最高級の騎士だよな。」
クロードが言えばカイルも。
「憧れだよな…近衛騎士になりゃ、大金持ちになれる。なりたいよな…。」
3人でため息をつく。
クロードがふと、
「で、俺に何か用があってきたんじゃないのか。」
ギルバートが慌てて。
「寮長が飯だってさ。食いにいこうぜ。」
20名の騎士見習いたちが、寮長の用意してくれた、昼飯を食べる。
大きなステーキ肉に山盛りの野菜、焼き立てのパン。アツアツの良い香りの珈琲。なかなか美味い。
皆、がつがつ食べる。
貴族の子弟達にしては、もっと上品なもんかと思っていたが、豪快な食いっぷりで頼もしい。
騎士団に入ろうとする元気な輩達だ。皆、それなりのヤンチャはしているんだろう。
飯が終わると、午後からは騎士団入団の心得とか、この国のマナー講座とか、一般常識とか、これから学ぶことの説明を一部屋に集められて受けた。
なかなか、大変そうである。だが、クロードにとっては物珍しく楽しかった。
夕飯を食べてから、部屋に戻って仰向けにひっくり返る。
明日からワクワクする。もう、楽しみで仕方なかった。
そこへ、また、鏡が光っている。
顔を覗かしてみると、また、アイリーンが居た。
クロードはアイリーンに向かって冗談っぽく笑いながら。
「しつこい女は嫌われるぞ。」
アイリーンはほほ笑んで。
「解っているわ。ねぇ…。今週のにちの日、行くんでしょ。ほら、第五魔国の魔王の婚姻式。」
「ああ…魔王なのに、人間の女性を妻にするっていう…珍しい婚姻式だよな。勿論。姉上に言われているからな…」
「楽しみにしているわ。ダンスは私と踊ってくれないと嫌よ。」
「はいはい。」
「おやすみなさい…愛しのクロード。」
鏡越しにチュっとクロードの口づけをし、アイリーンは消える。
恋ってあまり押せ押せで来られてもなぁ…ってクロードは思う。
追いかけたいよな…俺だって。
鏡をぱぁっと光らせて、すうっと中に入るとそこは、暗い洞窟のような部屋だった。
部屋の灯りはシャンデリア、高そうな装飾が施されている。
白くて長い寝間着姿のアイリーンが驚いたように立ち尽くしてこちらを見つめていた。
アイリーンに近づくとぐいっと抱き寄せて口づけをする。
「お姫様。ダンスの練習をしませんか。」
「まぁ…。驚いたわ。しつこい男は嫌われてよ。」
「俺の恋は追いかけたくて。でも嫌われたくないなぁ。」
「ふふふ…可愛い人。」
パチンと指を鳴らすと、クロードは頭に羊のような角を生やし黒のマントを羽織り、勲章をつけた黒服の正装に早変わりする。アイリーンもくるりと一回転すると、黒の同じく胸に勲章をつけた豪華なドレスに早変わりした。クロードが手を差し伸べると、アイリーンはその手を取り、ほほ笑んだ。
その後、クロードとアイリーンはダンスの練習をした。
ある程度の心得はある。魔族…特に魔王を目指していたのだから、クロードとしては当然だし、第二魔国の魔王であるアイリーンだって当然だ。ダンス位踊れないと、高位魔族の集まりでは笑われる。
二人は夜遅くまでダンスをしていた。明日も早いという事をそしてクロードはすっからかんに忘れていた。
騎士団の朝は早い。
昨夜は遅くまでダンスの練習をしていたので、危うく寝坊をするところだった。
しかし、昨日仲良くなったギルバートとカインが部屋におしかけて起こしてくれた。
「おおおおおおい。朝だぞーーー。クロード君。」
「朝飯、しっかりっ食っておかないと、今日は実践練習だぞーー」
ギルバートとカインの声に飛び起きる。
「ありがとー。お前らいい奴らだな。」
二人を両側から抱き寄せる。
顔を洗って、食堂に行ってみれば、朝から肉汁たっぷりのステーキ、山盛りの野菜。
焼き立てのパンに、いい香りの珈琲。
ギルバートとカインと共にがつがつと食べた。
美味い。特に焼き立てのパンと香り高い珈琲がたまらなく美味かった。
朝ごはんが済むと、ゴイル副団長が皆に、剣や盾の稽古をつけてくれるという。
この時代の人間達は、魔法という巨大な力を得るには魔道具に頼る。
ある程度、剣や盾が使えるようになったら、魔力を帯びた武器が下賜される。
それによって王宮を警備するのだ。
30年前、隣国アマルゼ王国にて勇者ユリシーズ、女神リリア、女剣士シュリアーゼにより魔王は倒された。それによって魔物の出没はなくなっていた。なくなっていたはずなのだが。
クロードにとっては魔法が簡単に使えない人間は不便だって思う。
ゴイル副団長の元へ行けば、さっそく剣の構えから、稽古が始まった。
一通り基礎を教え込まれる。
クロードはある程度、剣が使えるので、そう基礎練習は苦でもない。
今度は盾を持って、いかに剣を使い、盾で防ぐか細かい練習が行われる。
なんか一人前になるには気が遠そうな練習だ。
他の見習い達は、真剣にやっている。
午前中は剣の練習、昼飯を食った後は部屋に集められて、勉学だ。今日はこの国の歴史についてだった。
いやーー。こんなの人間だって学院の時に習うでしょと思う。まぁ異国にいたようなクロードにとってはありがたい授業であるが。
隣で、疲れ果てたのかギルバートが居眠りしている。
ひじで突いてギルバートをこっそり起こす。
ここでの教師もゴイル副団長だ。
「こらっ。そこ寝てるんじゃねぇーー。」
慌ててギルバートがぴしっと姿勢を正す。
クロードにカイルが耳打ちをする。、
「眠くなるよなぁ…。あれだけの練習の後じゃ。」
「そうだな。」
「こらーっ。そこ私語厳禁だぞ。」
ゴイル副団長に怒られた。
その後、授業は夕方まで続き、やっと解放される。
ギルバートとカイルと共に、夕飯に向かおうと食堂へ歩いていた時だった。
ぞくりと寒気がする。
空から巨大な圧力を感じる。
慌てて外へ飛び出てみた。
暗闇にぼうっと浮かぶ金色の魔法陣。
やばい。あそこから何か出てくる。それもとてもマズイものだ。
びりびりと空気が振動する。
他の皆は何も感じないのか。あたりを見渡してみれば、ローゼン騎士団長と、ゴイル副団長が庭に飛び出してきた。
他にも銀色の鎧を着た30名の近衛騎士団達が庭に集まってくる。
ローゼン騎士団長が叫ぶ。
「盾を持ち、防御に備えろ。あれは俺が斬る。」
ゴイル副団長と30名の近衛騎士が盾を構える。
黒い巨大な龍が魔法陣から飛び出てきた。体が金色に輝き夜空に輝いている。
それがこちらに向かってまっすぐ降りてきたのだ。すごい勢いで。
クロードが見ていると、ローゼン騎士団長は空に向かって飛びあがった、黒い龍に向かって剣をふるう。
「はぁっーーーー」
黒い龍に向かって剣を振り上げた。
ずばっーーー。と口から尾に向かって綺麗に龍が斬られる。
クロードはそれを見て凄いと思った。さすが英雄と言われていることがある。
しかしだ。真っ二つにされた龍がこっちに向かって落ちてくる。
それをゴイル副団長と近衛騎士達の盾が輝き、跳ね返した。
空に向かう魔法陣に向かって龍は吸い込まれたかのように押し戻され、魔法陣は何事もなかったかのように掻き消えた。
ただそれを見ていただけのクロードに、剣を収めながらローゼン騎士団長が声をかけてきた。
「あの龍の気配に気が付くとは、見込みがある。騎士見習いか?」
「さすが騎士団長。見事な腕前でした。凄いです。」
「腕を磨けば君もそれ位になれる。精進してくれ。」
いやーー。アンタが特別だからでしょーー。っと突っ込みたくなったクロードである。
腕を磨いても普通の人間が龍を叩き斬れると思えない。まぁ自分は人間ではないけれど。
あの盾で龍の身体を魔法陣の彼方へ押し戻したのも見事だった。
「道は遠いいな。」
ため息をつくクロードである。
ローゼン騎士団長が「何も今夜に限ったことではない。ここ数年、たまにああいう攻撃を受ける。今夜の事は他言無用だ。」
質問を受け付けないという風にローゼン騎士団長は急ぎ足で行ってしまった。
一体全体何の攻撃なんだ。それに龍が出現したのに、他の人間は気が付かないようだった。
ギルバートが廊下を歩くクロードに。
「おおい。飯時なのにどこへ行っていたんだよ。」
カイルも自らの出っ張った腹を撫でながら。
「今日の肉汁美味かったぜーー。」
クロードは慌てて。
「まだ残っているかなぁ。ちょい食堂行ってみるわ。」
時、すでに遅し、食堂は片付けられていた。
がっかりして、風呂場に行き、汗を流してから、部屋に戻る。
あああ。あの龍のせいで、腹が減ったなぁ…外出は禁じられているしな。
肉汁食いたかったなぁ…だなんてベットに寝転がって思っていると。
鏡が光った。アイリーンかなぁ。そうだ。何か食い物、持っていないかなぁって鏡を覗けば、アイリーンとよく似ているが髪色が違う少女、フローラが映っていた。
「あ、フローラ、久しぶり。」
「お久しぶり。クロード。元気だった?」
金髪の髪を三つ編みに一つに結って、顔はアイリーンとそっくりなフローラがニコニコしていた。彼女はアイリーンの双子の妹である。だから髪色は違えど良く似ているのだ。
フローラはにこやかに。
「お姉様には悪いと思ったんだけど連絡しちゃった。クロードが騎士団見習になったって聞いたものだから。おめでとう。自分のやりたい事見つけたんだね。」
「ああ。やっとね。俺には魔王は向いていないみたいだ。」
「そう?良い魔王になったと思うけどね。だってクロード優しいもの。」
「ありがとう。フローラ。」
「何か困った事があったら言ってね。って言いたいとこだけど、お姉様に言ってね。焼きもち妬かれちゃうから。」
「うん。そうするよ。」
なんだかんだいったって、クロードはアイリーンが愛しかった。
それにアイリーンを怒らせたら非常に怖い。
ぐうううっとお腹が鳴ってしまった。
そういえば、腹が減っていたんだった。
フローラが笑い出した。
「ちょっと待っててね。」
鏡越しにバスケットにいれた白いパンを3つとハチミツの入った瓶をくれた。
「助かるっーー。ありがとう。」
「いいえ。それじゃまたね。」
フローラとの通信を切ると、パンにハチミツをたっぷりとかけて食べる。美味い。
鏡の向こうから声が聞こえた。
「あの子はなんでも恵まれていて…羨ましいわ。」
「アイリーン。」
アイリーンはフローラを嫌っている。フローラはアイリーンを大切に思っている。
フローラはマディニア国の貴族フォルダン公爵令嬢として、貴族の学院に通い何不自由なく暮らしていた。
同じフォルダン公爵の娘としてアイリーンは魔力が高いために第二魔国の魔王として暮らしているのとは偉い違いである。
アイリーンは幼い頃から魔力が高く、魔王になる事を期待されていた。
だから、人間の国で、甘やかされて育てられている双子の妹、フローラを羨ましく思い、何故、自分ばかりそんなに辛い勉学や魔法の勉強をするの?と幼い頃から良く泣いていたらしい。
それを幼馴染のクロードは良く知っていたからこそ、姉妹仲良くなって欲しいし、アイリーンをほってはおけなかった。
鏡をすりぬけて、アイリーンの部屋に現れる。
アイリーンはうつむきながら。
「私を見ないで…。嫉妬で嫌な顔をしている。そんなの見られたくない…」
「アイリーン。」
「フローラはいい子よ。とてもいい子…。解っているの。でも。嫌い。私だってお父様といつも一緒に居たい。日の光が沢山当たる場所で学園生活を送ってみたい…。」
クロードはアイリーンを後ろから抱きしめる。
「今度の土の日、一緒に街を歩かないかい?いつも仕事ばかりじゃ気も滅入るだろ?」
「ありがとう。デートのお誘い?でもお金大丈夫なの?まぁ私がお金は出すけど。」
「しまった…。姉上からお金はもらっているけど、騎士見習いとして給金まだなんだよな。」
「うふふ。それもあなたが選んだ道でしょ?第一魔国の魔王になっていれば、お金なんていくらでも自由に出来たのに。」
アイリーンから離れて床に座る。
「それはそうと、今日、空から黒龍が降って来たんだよな…。騎士団がやっつけて追い返したけどさ。」
アイリーンが眉をひそめて。
「黒龍を召喚して王宮を攻撃するだなんて…どこの魔国の仕業かしら…。人の国とは争わないんじゃなかったの?」
「穏やかじゃないよな。どうも何回も王宮はあのような攻撃を受けているらしいんだよ。」
「調べてみるわ。」
アイリーンの言葉にクロードは頷いて。
「よろしく頼むよ。明日も早いから俺は寝るよ。」
「おやすみなさい。愛しのクロード。」
お互い鏡越しに顔を近づけ、ちゅっとキスをする。
黒龍の事も気になる。そういえば昔、倒された魔王は巨大な黒龍だったと聞いたことがある。関係あるのか。
なんか今日も疲れた。明日も早い。クロードは眠りにつくのであった。