晩餐会⇒セシリア皇太子妃の気持ち(ディオン皇太子)
マディニア王国の王宮で、晩餐会が行われた。
今日の晩餐会の目的は、ニゲル帝国から外遊に来た、リーナ皇女の歓迎である。
ニゲル帝国とはジュエル帝国の隣にある帝国で、遠国である為、国交とかは無いが、
ディオン皇太子とセシリア皇太子妃が外遊していた時に顔見知りになったリーナ皇女が遊びに来たのだ。歳は17歳。若くて可憐な皇女である。
「ディオン様、セシリア様、お会いしとうございました。お父様に無理を言って遊びに来てしまいましたわ。」
ディオン皇太子はリーナ皇女に向かって、微笑んで。
「しばらく会わないうちに大人っぽくなったな。リーナ。」
セシリア皇太子妃も、嬉しそうに。
「本当に…。とても綺麗になられましたわ。」
金髪の可愛らしい皇女リーナは嬉しそうに。
「お二人に褒められて嬉しいですわ。ああ、鎮魂祭があるとお聞きしました。
私、聖女の力があるのです。ですから協力したいと来たのですわ。」
ディオン皇太子がその言葉に表情を明るくして、
「それは助かる。沢山の魂を天に返さないとならない。我が国の聖女リーゼティリア
の助けになってくれれば非常に助かる。」
「お任せください。ディオン様やセシリア様のお役に立てるのなら、幸せですわ。」
その時、ディミアス・マーレリー大公が、ミリー・アルバイン伯爵令嬢をエスコートして現れた。
公のパーティーに来ることの無かった、双子の兄弟にディオン皇太子は驚く。
ディミアスはディオン皇太子を見かけると、チラリと見やり。
「俺がこのような場に来てはまずいか?婚約をしたので、ミリーのお披露目に出て来たのだ。ミリー・アルバイン伯爵令嬢、お前の側室だった女性だ。父上母上に許可は貰っている。
お前に文句言われる筋合いはない。」
ミリー・アルバイン伯爵令嬢はにっこり微笑んで。
「この度、マーレリー大公と婚約いたしましたミリー・アルバインと申します。よろしくお願い致しますわ。」
何年も会わなかった双子の兄弟、そして側室だった女性との婚約。
ディオン皇太子は珍しく気まずそうに。
「ああ…婚約おめでとう。この国の力になってくれ。」
セシリア皇太子妃はミリーの手を取って。
「この度はおめでとうございます。どうか、これからもよろしくお願い致しますね。」
ミリーは微笑んで。
「有難うございます。皇太子妃様。こちらこそよろしくお願いしますわ。」
二人がその場を離れていくのを見ながら、ディオン皇太子は、セシリアに向かって。
「派閥争いが激化するかもしれんな。アルバイン伯爵家令嬢達はアイルノーツ公爵派だ。
フィリップ殿下の婚約者ソフィア、そしてディミアス・マーレリー大公の婚約者のミリー、
どちらもアルバイン伯爵令嬢だ。
フォルダン公爵令嬢のアイリーンとフローラ。先行き、台風の目となる令嬢達だな。」
その時、フィリップ殿下にエスコートされてきたソフィアが、ローゼンにエスコートされてきたフローラの姿を見つけて、駆け寄って。
「フローラ様。お姉様が、マーレリー大公と婚約なさったんですよー。」
「まぁそれはおめでたいお話ですわね。」
楽し気に話をしている。
その様子を見て、ディオン皇太子は、
「今は仲がいいが、先行きどうなる事か、セシリア、頼んだぞ。」
「ええ…社交界の平和を保つのも、王妃となる私の仕事だと思っていますわ。」
そこへ、帝国の薔薇、メルディーナが真紅のドレスを着て、ディオン皇太子に近づいて来た。
背後には護衛騎士二人が付き従っている。
「ねぇ。ディオン。お願いがあるの。」
「何だ?それよりお前、いつまでいるのか?」
「いいじゃない。貴方だって、ジュエル帝国に長く滞在していたわ。
それでお願いって言うのは、ファルナードとフェデリックの事なの。」
「二人ともお前らに渡すつもりはないが…」
護衛騎士に促すと、傍のテーブルに二つの袋を置いて。
メルディーナはディオン皇太子に。
「金100ずつ入っているわ。二人に渡して欲しいの。母であるジュエル王妃からのお金よ。
いくら二人が取り違っていたからって、母はフェデリックの事を可愛がっていて、ファルナードには冷たく当たったわ。今更それを変える事なんて出来ないけど、やはり二人の息子たちは可愛いのね。国へ戻ったら二人とも、兄達に酷い目に合う未来が待っている。だから、どことなりとも逃げなさいって…できれば貴方に守って欲しいの。お金が必要なら、別に用意するわ。これは私からでは無くて母からのお願い。伝えたわよ。」
「お前は弟達は可愛くないのか。」
「フェデリックは可愛がってきたわ。でもファルナードはクズとして蔑んで来た。母と一緒よ。今更だわ。」
「俺は金はいらない。ファルナードはこちらで保護する約束をした。フェデリックは必要とあらばこちらで保護しよう。今はネリウスが守ってくれているからな。金は俺から渡しておく。」
人を呼ぶと、金をきちっとしまっておくように命じて。
ディオン皇太子はメルディーナに。
「お前、この国にいるのなら暇だろう?黒竜魔王討伐、手伝え。いい暇つぶしになるぞ。」
「まったく、メギツネに言う言葉かしら。いいわよ。手伝うわ。出来ればいい縁を紹介して欲しいけどウンとは言わないでしょう?」
「悪いな。俺の弱点は母上だ。」
メルディーナは背を向けて、その場を去っていった。
セシリア皇太子妃がディオン皇太子に。
「あちらの国の王妃様もやはり親なのでしょうね…・」
「ああ、そうだな…。」
ふと、見るとマリアンヌが第三魔王シルバと共にこちらへ歩いて来て、
「お久しぶりですわ。ディオン様、セシリア様。」
「おおっ…マリアンヌ。それからシルバ。久しぶりだな。マリアンヌ、第三魔国の妃教育はどうだ?」
「つつがなく、進んでおりますわ。」
シルバもマリアンヌの手を取りながら。
「きわめて優秀なマリアンヌは、覚えも早くて、俺としては嬉しい限りだ。」
「それは良かった。二人の婚姻は魔族と人間の光になるからな。」
マリアンヌは微笑んで。
「ええ。光になるように努力していきますわ。」
フローラとソフィアが、マリアンヌを呼んでいるようだ。
マリアンヌは「失礼しますわ。」
と言って嬉しそうに、2人の元へ行ってしまった。
シルバも失礼すると言って、後を追う。
先程、先行きの不安を感じたが、あの3人が仲が良いのは、希望の光か…
その後も忙しく、貴族達の交流をディオン皇太子はセシリア皇太子妃と行って、
晩餐会が終わった後は、もうクタクタにくたびれてしまった。
部屋に戻って、ぐったりと、ソファの上に仰向けになるディオン皇太子。
セシリアが、傍によって。
「寝るのならベットがいいですわ。」
「風呂…風呂に入って寝ないと…セシリアも着替えてくれ…」
ディオン皇太子は身を起こすと、いつもの風呂場に向かう。
広めに作ってある風呂場はお気に入りだ。
服を脱ぎ捨てて、身体を流し、湯船に入る。
春が来た。支度が出来次第。鎮魂祭を開催しなくては…
メンバーはどうするか?アマルゼの死霊が妨害してくる可能性は高い。
腕の立つ者を共に立ち会わせるしかない。グリザスは王宮に置いて、厳重に警護しないと。
アマルゼの死霊たちが狙ってくるのは、王族である自分や弟、両親、そして聖女リーゼティリア、黒騎士グリザス。もしかしてセシリアも危険かもしれない。自分はともかく他の危険な人達を警護するメンバーを考えないと…
湯船に入れば、考え事が出来る。ぼんやり考えていると、扉が開いて誰か入ってきた。
誰だ???緊張して、扉の方を睨めば、セシリアが、簡易なドレスを着て、裾をたくし上げながら入ってきて。
「お背中を流しますわ。お疲れでしょう?」
「え???いいのか?」
何だか照れる。
風呂から上がり、洗い場に向かって、風呂椅子に腰かける。
背を向ければ、セシリアが近づいて来て、湯で背中を流し、石鹸を泡立てて、擦ってくれた。
セシリアは背を洗いながら。
「本当に綺麗な黒百合の痣…私、大好きですわ。」
「そう言ってくれて嬉しい。困った事に、この痣を見たがる輩が多いのが悩みだが。」
「私が男だったら、なまめかしく濡れるこの痣を見ることが出来たのでしょうけど、ちょっとルディーンが羨ましい…」
「セシリア…」
背を湯で流して、セシリアは立ち上がり。
「先に出ていますわ。ディオン様…」
「背を洗ってくれて有難う。」
セシリアは風呂場を出ていった。
ルディーンが愛しくて仕方がない自分に罪悪感を感じるディオン皇太子であった。
夜着を着て風呂を出ると、セシリアは先にベットに入っていた。
隣に入ってセシリアにのしかかり、そっとその唇にキスを落とす。
セシリアは抱きついてきて。
「愛していますわ。ディオン様…。いつか貴方はいなくなってしまうのではないかと。
あの人と一緒に消えてしまうのではないかと…」
「俺は王になる男だ。お前を置いて行くわけないだろう。」
「貴方が先行き、王で無かったら?私を連れていって下さいますか?」
時が止まったような気がした。俺が先行き、王で無かったら…。
セシリアは涙を流して。
「貴方のお心は既にあの男にあります。私はあの人が憎い…。
でも、貴方は必ず王になるお方。ですから絶対にあの人に渡しません。王として生きて。王として死んで、私はずっと貴方の傍で王妃として生きとうございます。勿論、愛人として生涯囲うのは構いませんわ。あの人の他に何人側室がいようとも。王妃は私です…。貴方と共に生涯走るのは私ですわ。それだけは譲れません。」
ディオン皇太子はセシリアの髪を優しく撫でながら、
「セシリア…すまない…。勿論、俺はお前を愛している。王に必ずなって生涯、お前と共に過ごそう。」
そう言って優しくセシリアを抱き寄せた。
ああ…俺の心はルディーンにある…そしてセシリアを泣かせてしまった…
愛人関係をやめる事は出来ない。ルディーンを失ったら、それだけで怖くなる。
ディオン皇太子は何とも複雑な気持ちを抱えて、夜は更けていくのであった。




