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第二王子フィリップ殿下の活躍(ディミアス・マーレリー)

皆さんはこの小説で一番最初にセリフを述べたこの男の事を覚えているだろうか?

この国の第二王子、フィリップ殿下である。

闇竜退治で腰を抜かしたり、フローラとマギーが出現させた、偽化け物のお陰でソフィアと婚約出来たり、ちょっと情けない第二王子であるが、この男、社会奉仕活動に熱心であり、

第二魔王レスティアスと晩餐会で意気投合し、仲良くなってしまったという地味に国の為に活躍している王子であった。


そして、そのフィリップ殿下であるが、実は兄のディオン皇太子殿下とは、それ程、仲が良い兄弟という訳ではない。ディオン皇太子が色々と忙しい事あり、(鎮魂祭の事とか、黒竜魔王退治の事とか、ルディーンにストーカーする事とか)なかなか交流する事が出来ない兄弟であった。


そんなフィリップ殿下が良く行く場所があった。

王宮図書館である。

学園から戻って来ると、週に3回は菓子を持って王宮図書館へと向かう。

そこで会いたい人物がいるからだ。

女性ではない。女性だったらソフィアに失礼である。


今日も王宮図書館へ向かい、係員に断って中に入り、奥の部屋に行けば、

一人の人物が図書の整理をしていた。


黒髪で口髭を生やし、顔の右半分に薄い赤い痣がある。

しかし、その顔はディオン皇太子に瓜二つであった。


フィリップ殿下はその人物に声をかける。


「ディミアス兄上。苺大福を買ってきました。一緒に食べませんか?」


「フィリップ。いつも有難う。俺などに構わなくてもいいのに。」


「いえ、貴重な書籍を教えて頂いていますし、私が兄上に会いたいからです。」


図書室の隣の個室へ行き、茶を入れて二人で苺大福を食べながら、茶を飲む。


ディミアスと呼ばれた男は粉だらけになった、唇をハンカチで拭きながら。


「お前位だな。俺などに会いに来るのは。」


「当たり前です。兄上だって身内ですから。」


「ディオンなんて、もう、何年も顔を見ていないぞ。父上母上だって…」


そう言うと寂しそうに笑うディミアス。


彼はディオン皇太子の双子の兄弟であった。

ただ、どちらが兄でどちらが弟かは今はもう解らない。

産まれた時に持っていた顔の痣と、病弱だったために王族から降ろされてしまったのだ。

今はディミアス・マーレリー大公。この王宮図書館の図書館長でもある。


フィリップ殿下は力強く。


「王族から降ろされてしまいましたが、王位継承権はありますよね。」


そう、降ろされたはずなのだが、王位継承順位は彼は現在第4位である。


今だ子がいないディオン皇太子や、まだ婚姻すらしていないフィリップ殿下の次の次の継承順位を持っているのだ。勿論、王弟殿下も継承権を持っている。王弟殿下は第3位、その次の継承権であった。


そして、彼は、大公という爵位を持っている。

公爵より上の爵位を持っている唯一の人物であった。


美味しそうに目の前で苺大福を食べる弟を見ながら、ディミアスは思う。


もし、この弟がいなかったら、自分は憎しみの中で生きていたのではないか?

顔に痣があったから、病弱だからと、離宮で育てられた。

もしかしたら自分は皇太子だったかもしれないのだ。

ろくに顔も見せにこない両親。そして、ディオン。憎かった。

だが、そんな自分を気遣ってくれるフィリップの事はとても愛しい。


フィリップはお茶を飲むと、慌てて。


「今日は宿題が多いので、失礼します。また、来ますね。兄上。」


そう言うと、慌てて部屋を出て行く。


入れ違いに一人の女性が入ってきた。


「仲の良いのね。フィリップとは…」


ジュエル帝国の皇女メルディーナだ。


ディミアスは微笑んで。


「フィリップは俺を気遣ってくれる良い弟だ。」


メルディーナはディミアスに近づくと、しなだれかかって。


「ねぇ。考えてくれた?私との婚姻を。憎きディオンへの復讐になるわ。私はマディニア王国に嫁ぎたいの。お願い。」


「お前の狙いは俺が王を継いで、王妃になる事だろう。フィリップにどんな危害が及ぶか解らない。だから、お前の思い通りになる訳にはいかない。」


「そんな事はないわ。ただ、この国に興味があるだけよ。」


ディミアスは首を振って。


「帝国の楔をこの国に打ち込む訳にはいかない。」


「憎んでいるはずよ。国王や王妃、ディオン皇太子を…」


「それでも俺はこの国を愛している。」


そう言うとディミアスは個室の扉を開けて、


「帰ってくれ。」


メルディーナに帰るように促す。


「解ったわ。私は諦めないから。」


メルディーナは出て行った。




ふうっとため息をつくディミアス。

こういう嫌な事があった日には、庭を散歩する事に限る。

頭にフードを被って顔を隠して散歩をする。痣を見られるのは嫌だし、何よりディオン皇太子と瓜二つの顔をさらすのも嫌だ。だから口髭も生やして雰囲気も敢えて変えている。


王宮の東の庭には池があり、そこを散歩するのが好きだった。

そして最近よく見かける令嬢がいて。金髪で楚々とした感じの薄緑のドレスを着た女性で、池の周りを散歩したり、ベンチに座って絵を描いたりしているのだが、なんとなく気になってしまい、一度話しかけた事がある。


その女性は正面からディミアスの顔を見た途端驚いたようで。


「あの…ディオン皇太子殿下の身内の方でしょうか?あまりにも似ていらして。」


「ディオンとは兄弟だ。だが、俺は王族から外れてしまっている。ディミアス・マーレリー大公だ。」


「まぁ大公様。私はミリー・アルバインですわ。この度、ディオン皇太子殿下の側室に召し上げられましたの。」


「ディオンの側室か…それはマズイな。こういう風に話をしてはいけないだろう。」


「いえ…いいのです。ディオン様は側室など目にないようで、無視されていますわ。」


寂しそうなその女性に惹かれてしまったディミアス。


その女性はスケッチをしていたようで。

聞いてみる。


「何を描いているのだ?」


「池の鴨ですわ。なかなか可愛くてお気に入りですのよ。」


画を見て見れば、うううううううん。下手だな。まだ俺の方が上手く描けるぞって感じで。


それから色々と話をした。空の事…雲の事…花の事…


ミリーは色々な事に興味津々で。ディミアスの話を真剣に聞いてくれた。


話をしていて楽しかった。だが、やはりディオンの側室。あまり親しくするのも悪いだろうと、その日、その場で別れて以外、遠目で見かける事はあっても話をする事はなかった。



つい。フラフラと東の池へ今日、来てしまった。


すると、池の傍で、宿題がどうのこうのと言っていたフィリップと、以前話をしたミリーという女性と、もう一人の学生っぽい地味な女性が話をしていた。


思わず近づいて行き、声をかける。


「フィリップ、宿題が多いのではなかったのか?」


「兄上。すみません。ソフィアに会いたかったものですから。」


そして、ソフィアを紹介する。


「ソフィア・アルバイン伯爵令嬢、私の婚約者です。こちらは私の兄上、ディミアス・マーレリー大公だ。」


「ソフィア・アルバインです。貴方様がもう一人のお兄様なのですね。」


地味な眼鏡をかけた女性は自己紹介をしてにっこりと微笑む。


以前、話をしたミリー・アルバインも微笑んで。


「ディミアス様。ソフィアは私の妹なのです。妹がフィリップ殿下の婚約者になれて本当に幸せですわ。」


フィリップが皆に提案する。


「せっかくですから、あそこに座って、お茶を飲みませんか?」


皆が同意したので、池の横にある丸テーブルに座って、使用人を捕まえて、お茶を持ってこさせる。

4人は楽しく会話をして盛り上がった。


ミリーはため息をつきながら。


「ディミアス様のような方に私は嫁ぎたかったですわ。ディオン様は私の顔を見ても無視するのです。とても悲しくて。」


フィリップ殿下がフォローするように。


「兄上はセシリア義姉上一筋ですから。」


ソフィアがディミアスに質問する。


「ディミアス様はご結婚されていないのですか?」


「ああ、俺は独り身だ。こんな顔に痣がある男なんて皆、結婚したがらないだろう?」


ミリーはディミアスの手を両手で握り締めて。


「私は痣があってもかまいませんわ。貴方様のお話をもっともっと聞きたい。

雲が水から出来ている事、空の彼方に魂がある事、色々なお花の種類がある事、

ああ、この王宮を出て、色々と見ることが出来たら素晴らしいでしょうね。」


ディミアスは困ったように。


「俺はこの王宮を出られない。王宮図書館長だからな。でも、一週間位の休みなら許されるだろう。」


フィリップ殿下はディミアスとミリーの二人に向かって。


「もし、お二人がご結婚したいのなら、私が力になります。ディオン兄上の許しなんていりませんが、母上の許しは必要です。側室は母上が決めた事ですから。私が母上に頼んでみます。」


ミリーは嬉しそうに。


「ありがとうございます。フィリップ殿下。どうかよろしくお願いします。」


ディミアスはミリーに向かって。


「本当に俺でいいのか?」


ミリーは熱い眼差しで。


「ええ、どうか私と結婚して下さいませ。」



人生最良の日だ。ディミアスはこの日ばかりは、神に感謝を捧げた。



フィリップ殿下はマディニア王国の王妃である母を訪ねた。


マディニア王国の王妃は、キツイ顔立ちの美人である。

ディオン皇太子殿下に良く似ていた。


フィリップ殿下はマディニア王妃に向かって。


「お願いがあります。ディミアス兄上と、ミリー・アルバイン伯爵令嬢との結婚を

認めて頂きたいのです。」


王妃はソファに座って扇を仰ぎながら。


「ミリーはディオンの側室です。ディミアスがミリーを欲しいと言ったのですか?

フィリップ。」


「はい。いいました。兄上は日陰の身で苦労してきました。せめて、欲しいといった物を差し上げても良いのではないでしょうか?」


王妃はあっさりと。


「認めましょう。ディオンも反対はしないでしょう。どうせ、側室の顔すらも覚えていないでしょうし。ミリー・アルバインを側室から解放します。手続き書類も作りましょう。後はアルバイン伯爵家との話し合いになるでしょうけれど、嫌とは言わないでしょう。しかし、アルバイン伯爵家は王家の男を蕩かす力でも持っているのかしら。呆れたものだわ。」


フィリップ殿下の尽力もあり、ディミアスとミリーはとりあえず、婚約する事となった。

ディオン皇太子に至っては、ミリーという女性が側室だと言う事すらすっかり忘れている始末だった。


帝国のメギツネ、メルディーナ皇女は企みを諦めるしかなく、ギリギリと悔しがるしかなかった。


ディミアスの王宮図書室の個室には、フィリップ殿下の他にミリーとソフィアが加わって、4人で楽しくお茶をする機会が増えた。


ディミアスは幸せだった。もう、ディオンや父母を恨むまい。そう思えるようになった。

そして、弟のフィリップに改めて感謝した。


フィリップ第二王子、彼は目立たなくて頼りない王子であるが、地味に活躍している男である。彼がいなかったら、ディミアスはメルディーナと結婚し、帝国の干渉をマディニア王国に引き入れていたかもしれない。フィリップ殿下のような男も勇者と言えるのではないかと思う。


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