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一夜人形ロシェ

フローラとローゼンは、とある日、ディオン皇太子に呼ばれた。

私室に行けば、セシリア皇太子妃が、メイドに命じて、紅茶を出してくれる。


ソファに座れば、ディオン皇太子に用件を切り出した。


「一夜人形だ。」


ローゼンが聞き返す。


「一夜人形?何ですか?それは。」


「今、王宮に来ている客人が持っている人形だ。

昼は白い猫位の大きさの人形で、ボタンのような目が二つしかない。魂をコピーして、伽の相手をさせる人形だ。一度コピー元の人間の髪を食べさせたら、その人間の姿を毎夜取り続けるらしい。」


フローラが頷いて。


「聞いた事がありますわ。その人形を作るのは相当難しいとか…腕の良い魔導士ではないと作れないと言っておりました。お父様が。」


ディオン皇太子が眉を寄せて。


「その人形なんだが、ローゼン。お前の姿をしている。ジュエル帝国で、例の外交官シュッセンと、第二皇子のアルフレッドが作らせて、伽の相手をさせていた。それを、第四皇子フェデリックが持ち出して、隣国のネリウスという鬼畜な勇者…。まぁそいつが保護していてな。そのネリウスが神イルグの啓示を受けて、俺を尋ねて来た。今、マディニア王宮にいる。その人形もだ。言いたい事は解るな。」


ローゼンは断言する。


「その人形を始末しろという事ですね。」


「いや、違う。客人が持っている人形だ。勝手に始末しないで欲しい。ネリウスの力を黒竜魔王討伐に使いたいと思っている。いいか。ローゼン。お前が我慢してくれればいい。奴らに手出しするな。これは皇太子命令だ。いいな。」


「お断りします。」


フローラは驚いた。ローゼン様がディオン皇太子殿下の命令を断るなんて。

王族の命令は絶対なのに。


ローゼンは立ち上がって。


「私を模した人形が、今もその鬼畜な勇者に弄ばれているという事でしょう。

叩き壊してきます。ローゼンシュリハルト・フォバッツア公爵であり、騎士団長でもある私に対する侮辱です。いいですね?皇太子殿下。」


「お前、俺の言葉聞いていたよな?」


ローゼンは無言で出て行ってしまった。


フローラは慌てて。


「私、止めてきます。」


「俺も行こう。」


セシリア皇太子妃も。


「私も参ります。」


皆で訪問者達が泊っている客室へすっ飛んでいった。




ローゼンは聖剣をいつも腰に下げている。

何があるか解らないからだ。ディオン皇太子殿下に会う時も帯刀を許されている。


そのままの足で、廊下に歩くメイドにネリウス達が泊っている客室の場所を聞くと、

歩いて行き、バンと扉を蹴り開けた。


「一夜人形はどこだ。叩き斬る。我が名はローゼンシュリハルト・フォバッツアだ。」


扉を開けた先にはネリウス・ロイドという金髪の柄の悪そうなオッサンと、レオンハルト・ディークリーという銀髪の筋肉隆々の大男と、フェデリック・ルース・ド・ジュエルというジュエル帝国の第四皇子である薄い茶の髪をした青年の3人が、ソファに座ったまま、こちらを見ていた。テーブルの上には観光地図が広げられている。


ネリウスは舐めるような視線でローゼンを見つめ。


「ほほう。ロシェにそっくりだ。成程。アンタがロシェの魂の元か。」


フェデリックという青年が、バっと立ち上がり、窓際の方へ駆けた。

陽だまりの中、籠の中に入っている白い人形を抱き締めて。


「ロシェは渡さない。」


人形はわずかに身体を動かして、フェデリックに抱き着いて震えているようだ。


ローゼンが聖剣を抜き、窓際のフェデリックの方へ行こうとすれば、レオンハルトという男に遮られた。大剣を背に担いでいる。


「聖剣持ちか。ローゼン騎士団長。ロシェを壊させる訳にはいかねぇな。壊すと言うなら、俺が相手だ。」


二人は睨み合う。


そこへフローラとディオン皇太子、セシリア皇太子妃が飛び込んできた。


ディオン皇太子が叫ぶ。


「そこまでだ。ローゼン。やめろ。」


フローラがローゼンに近づいて、背後から抱きしめる。


「おやめになって。ローゼン様。ここはまず、話し合いですわ。」


「フローラ…。私の名誉の問題なのだ。このままにしておく訳にはいかない。」


フローラは、ローゼンから離れると、レオンハルトに向かって。


「あの子をちょっと見せて貰っていいかしら。危害は加えないわ。」


そう断って、一夜人形のロシェを抱き締めているフェデリックに近づく。


そしてロシェを傍で見つめて、


「まぁ可愛い。この子はコピーされたローゼン様の魂と共に、この子独自の魂があるのね。フェデリック様の事を好き好きって言っているわ。

とても丁寧に魂がメンテナンスされている。それは誰がやっているのかしら。」


ソファの上に座っているネリウスは不機嫌に。


「俺だ。ロシェもフェデリックも、相棒のレオンも伽の相手をしてもらっているからな。面倒を見るのは当たり前だろう。お前も魔族か?」


「ええ…フローラ・フォルダン公爵令嬢ですわ。約束して頂戴。ローゼン様の姿で、王宮内を出歩かないで欲しいの。公爵であり、騎士団長であるローゼン様は悪い評判を出すわけにはいかない。一夜人形は夜の間だけ、人の姿になるのよね。昼間は人の姿を保つには魔力を使うから、長く保てないわ。フードを被って顔を見せないのなら、出歩いてもよいのだけれど…ともかく、ローゼンシュリハルト・フォバッツア公爵は私の婚約者です。お願いですから、評判を落とすような事だけはしないで下さいませ。」


ガシガシと髪を掻きながら、ネリウスは。


「俺も来たくてこの国に来たわけじゃねぇ。あのしつこい神イルグに呼ばれたからだ。

黒竜討伐の用事が済んだら、ニゲル帝国にこいつらと共に帰る。ともかく、ロシェに危害を加えるな。それが黒竜討伐参加の条件だ。」


セシリアが、ローゼンに向かって。


「ローゼン。ここは貴方が折れるべきよ。黒竜討伐の為にも、我慢して頂戴。いいわね。」


ローゼンは跪いて、騎士の礼を取り。


「かしこまりました。セシリア皇太子妃殿下。」


そして、立ち上がり、フローラに向かって。


「すまなかった…。止めてくれてありがとう。」


「いえ。解って下さってよかったですわ。」


ディオン皇太子がネリウスに近づいて。


「後、お前も俺の大事な友や、臣下達に手を出すな。暴虐の勇者は手が早いからな。」


「はいはい。お互いに手を出さねぇって事で。とりあえず、明日、観光してきていいだろ?

せっかくマディニア王国に来たんだ。楽しまねぇとな。」


フェデリックはロシェを窓際の籠に戻してやる。

一夜人形は太陽の光が栄養なのだ。これで魔力を回復させているのである。


ディオン皇太子が、フェデリックに。


「お前、一度、兄であるファルナードと話し合った方がいいのではないか?」


フェデリックは首を振って。


「兄とは交流が無かったから、兄がジュエル帝国に来てからの5年間。だから、何を話したらよいか解らない。有難うございます。ディオン皇太子殿下。」



客室から出て、ディオン皇太子夫妻と別れ、ローゼンが騎士団長室へ行くというので、フローラも一緒にそちらへ向かって歩き出した。


フローラがローゼンに向かって。


「自分と同じ姿の男性が夜の伽の相手をしているというのは嫌でしょう。でも。ここは我慢して下さいませ。あの子にだって魂はあるのですわ。

とても怖がって震えていました。可哀想ですわ。」


「つい頭に血が上ってしまった。ジュエル帝国の皇族はまったく始末が悪い。」


「あの…ローゼン様。私、一言、言ってよろしいでしょうか。」


「何だ?フローラ。」


立ち止まると、ローゼンの顔を正面から見つめ。


「ローゼン様はとても仕事熱心で、剣技も強く、私にはとても優しくて素晴らしい方だと思っておりますわ。でも…。」


「でもなんだ?」


「とても、冷たい所も持っていらっしゃいます。転生者のあの女に対する態度は私も賛成です。あの女は犯罪者ですもの。でも、フィーネちゃんも、ロシェも、犯罪者ではありません。もしかしたら、グリザス様だって、皇太子殿下の命が無ければ危険視していたのではないですか?ローゼン様の考え方は時にはとても危険だと思えます。一歩立ち止まって、考えて下さいませ。皇太子殿下はその点は優れていらっしゃいます。そこを見習ってほしいと思いますわ。」


ローゼンは頷いて。


「薄々、自分でもそう思っていた。私は視野が狭い。とても不器用な人間だ。

フローラ。有難う。指摘してくれて。これからは気を付けるようにしよう。ディオン皇太子殿下の事は尊敬している。勿論、あの柔軟な考え方を見習いたいと思う。」


ああ、とてもローゼン様の瞳、青くて綺麗…


フローラは愛しくなってローゼンの身体を抱き締める。


「愛していますわ。ローゼン様。」


「私もだ。フローラ…。」


「ともに、苦難を乗り越えていきましょう。」



王宮の廊下に暖かい風が吹く。


春はもう、すぐそこまで来ていた。


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