闇色の鍵
ある日、何者かによって魔界に飛ばされてしまった、魔族達。
愛する人間達と引き離されてしまった、フローラやアイリーン、クロード、ルディーン、
そして、フォルダン公爵、ミリオン、スーティリア、第一魔国の王宮の広間に集まっていた。
第一魔王、サルダーニャやその王配ゾイドリンゲン、第二魔国魔王レスティス、第三魔国魔王シルバ、第四魔国魔王ティム、第五魔国魔王ロッドも集まって皆、悩んでいた。
他にマギー・エスタル一家や、サラ達他、魔族が飛ばされて魔界に戻っているが、彼女たちは別室で休ませている。
大きな丸テーブルに座って、まずサルダーニャが、
「クロードとグリザスが連絡を取れたことはよかったと思う。われらがすることは、
魔界と人間界を再び繋げる為に、闇色の鍵を探し出し、空間の臍へ差さねばならぬ。」
クロードが浮かない顔をしながら、
「姉さん。後、10日でグリザスさんとは会えなくなってしまうんだ。急がないと…
ディオン皇太子殿下達がきっと黄金の鍵を、空間の臍に差してくれる。
だから、こっちも、急いで探して差さないと…」
フローラが泣きながら。
「二度とローゼン様に会えないのは嫌…。闇色の鍵を探すためなら私、何だってするわ。」
アイリーンはフォルダン公爵に。
「お父様。どうにかならないのかしら??」
フォルダン公爵は頷いて。
「スーティリア。お前の占いで占ってみてはくれまいか?」
スーティリアはにっこり笑って。
「二度やってみたけど失敗しましたーー。でも三度目は成功するかもしれないですーー。
やってみますっーー♡」
レスティアス、シルバ、ロッドが立ち上がり。
「我らが力を貸そう。」
「ありがとうーーー」
ぽんと水晶玉を取り出すと、手の上に掲げ。
「スーティリア様にお任せよーー。妖精さん達、闇色の鍵はどこーー?」
クルクルと羽の生えた小さな天使たちが水晶玉の周りを回り出す。
三人の魔王が魔力を籠めて、その水晶玉に力を注ぐ。
水晶玉が明るく輝き始めた。
映し出されたのは、黒い洞窟の入り口。
スーティリアがそれを見て呟く。
「この洞窟の中にあるみたいでーす。魔法が働いていて、入り口までしか転移できません。
どうしますかー?」
そして、水晶玉を放り投げると、ぱぁんと割れて魔法陣が展開する。
ミリオンが魔法陣の前に立ち。
「行くしかないだろう?」
クロードも頷いて聖剣を手に持ち。
「俺は行くよ。」
フローラが心配そうに。
「私も行きたいけど。足手まといになるわね。」
シルバが馬鹿にしたように。
「女子供は留守番していろ。行くぞ。ロッド。」
「了解。」
サルダーニャが動きやすい、ズボンとブーツ姿に着替えて、マントを羽織り。
「わらわも行こう。いかに女といえども、足手まといにはならぬ。」
フォルダン公爵が楽しそうに。
「それでは私も行きますかな。サルダーニャが行くとなったら、これは行かないと。」
ゾイドリンゲンとレスティアス、ティム、フローラ、アイリーン、スーティリアに留守を頼む。
強引に、ルディーンは拉致されて、連れていかれた。
「何で、俺は留守番じゃないんですかね?」
クロードとミリオンはにっこり笑って。
「当然だよね。付き合って貰うよ。」
「お前は愛するディオンに会いたくないのか?」
先頭はサルダーニャ。ロッド、シルバ、ミリオン、クロード、ルディーン、最後にフォルダン公爵の順で続く。
暗い洞窟に手に松明を持ち、奥へ奥へと進む。
するといきなり、巨大な一つ目巨人が数匹奥からやってきた。
サルダーニャとロッド、シルバが攻撃する。
「業火のサルダーニャの実力を見るがよい。」
サルダーニャは手から物凄い勢いで炎を発すれば、あっという間に化け物たち数匹は炎に包まれて燃えてしまった。
ロッドの稲妻とシルバの氷の槍の攻撃はむなしく、空を斬ってしまう。
シルバが不機嫌に。
「俺の攻撃が無駄になってしまったではないか。」
ロッドも。
「サルダーニャはさすがだ。強すぎる。」
ミリオンとクロードは顔を見合わせて。
「凄いな…あっという間だ。」
「俺達の出番、あるのかな。」
奥へ奥へとさらに進めば、奥からうじゃうじゃと魔物が湧くように出て来た。
あまりにも数が多くて、サルダーニャの炎、ロッドの稲妻、シルバの氷の槍でも、
埒が明かなくなる。
こぼれ出た魔物を、ミリオン、クロードが聖剣で斬る。
ルディーンはフォルダン公爵とその様子を見ていた。
サルダーニャが炎の攻撃しながら、
「このままでは埒があかぬ。シュリッジ。お前にまかせよう。」
フォルダン公爵は腕まくりをし。
「やっと私の出番ですかな。それでは失礼。」
何やら詠唱すると、手に光が集まってくる。
そして、その光をえいやっと洞窟から湧く魔物達に投げつけた。
どどおおおおおおおおおおおおん。と音がして、魔物達がなぎ倒されていく。
なぎ倒された魔物はしゅううっと音を立てて消えていき、
あっという間に、魔物の気配はしなくなった。
皆、あっけにとられる。
クロードが恐る恐る。
「フォルダン公爵一人でも、よかったんじゃないですか?ここへ来るのは。」
フォルダン公爵は首を振って。
「何度も繰り出せる攻撃ではなくてな。それに久しぶりに使った魔法なんで、出来は今一だ。」
ミリオンもハァとため息をついて。
「凄い…化け物だ…フォルダン公爵…。」
サルダーニャがにこやかに。
「助かったぞ。シュリッジ。」
「大した事はない。奥へ進もう。」
ロッドもシルバもルディーンも驚きのあまり言葉を失っているようだ。
魔物の気配がしなくなった、洞窟の下層へ出れば、部屋があり、中に入ると、
黒い小さな箱が一つ置いてあった。
サルダーニャが皆に向かって。
「罠が仕掛けられているかもしれぬ。」
クロードが頷くも、
「それでも行かないと、あれが闇色の鍵なら…」
皆で箱に近づいて、開けてみれば、真っ黒な色の鍵が入っていた。
フォルダン公爵が鍵を手に取り。
「闇色の鍵だ。しかし、空間の臍はこの洞窟内にあるのか?」
その時、どこからかドオオオン、ドオオオンと音が聞こえてきた。
ルディーンが叫ぶ。
「洞窟が崩れる音ですよ。これは…。」
皆、慌てる。
転移魔法が効かないのだ。急いで逃げないと。
闇色の鍵を持ち、皆、出口へと走り出す。
逃げる背後から洞窟の天井が崩れていく。転びでもしたらおしまいだ。
ミリオンが先頭を走っていたが、走り行く先の天井が崩れていくのが目に入った。
「駄目だ。崩れる…逃げきれねぇ。」
その時、フォルダン公爵が魔法を唱える。
すると、逃げる7人の上に透明な幕が張られて、その上に岩が積み重なっていく。
クロードが走りながら。
「凄い魔法だ。」
しかし、フォルダン公爵は。
「地面が崩れたら、まずい。急げ…」
命からがら出口へ出れば、洞窟は崩れ落ち、入り口は岩で塞がれた。
全員、ぜぇぜぇ息を荒げて、座り込み。
シルバがハァハァいいながら。
「久しぶりに走った気がするが…」
ロッドもふうーと息を吐き。
「酷い目にあった…」
サルダーニャも疲れたように。
「本当にシュリッジがいなかったら、まずかった…助かったぞ。」
ルディーンがクロードとミリオンに。
「俺って行く必要ありましたかね???」
ミリオンがガシっとルディーンの肩を抱き寄せて。
「ディオンの為だ。お前だって命かけたいだろう?」
「いやその…皆さんが命をかけてくれて解決するならお任せしますよ。」
フォルダン公爵は鍵を手に持ち、
「とりあえず、一旦、皆の所へ戻ろう。」
クロードも頷いて。
「そうですね…」
魔法陣を展開し、第一魔国の王宮の広間へ戻れば、スーティリアが皆に向かって。
「鍵見つかりましたーー?こっちは空間の臍の場所を見つけておきましたー。」
レスティアスが7人に近づいてきて。
「お疲れ様…。とりあえずはゆっくり疲れを取って下さい。」
皆、紅茶を飲んで、椅子に座って疲れを取る。
一息ついた所で、フォルダン公爵が闇色の鍵を皆に見せて、
「鍵は手にいれた。スーティリア。空間の臍の場所はどこだ?」
スーティリアはにっこり笑って。
「なんと、黒竜魔王が氷漬けになっているすぐそばの洞窟ですう。起こさないように、そっと行かないと大変な事になっちゃいますよーー。」
クロードが目を見開いて。
「えええ?起こしちゃったらその場で黒竜魔王討伐になっちゃうのかな?」
サルダーニャが困ったように。
「今は我が魔導士達20名が交代で、封印を続けているが…下手な刺激をすると、氷が砕け散ってしまうかもしれぬ。」
フローラが聞いてみる。
「下手な刺激って?」
「大きな声を出したり、音をたてたりじゃな。」
皆、焦る。
サルダーニャが皆に向かって。
「近くまでは大勢で行くが、黒竜魔王の傍を通っていかねばならぬという事は、鍵を差す者は一人となる。誰がよいかのう。」
責任重大である。仕損じれば、全てが終わるのだ。
ロッドが両腕を組んで。
「もし、失敗した場合は、魔国が滅びる可能性がある。黒竜魔王が暴れ出した場合、勇者がいない状態で倒せるとは思えぬ。」
ミリオンがクロードに。
「お前、行けよ。クロード。俺はガサツだから、絶対に音を立てちまうが、お前なら大丈夫だろう?」
フローラがクロードの手を両手で握り締め。
「クロードなら、大丈夫。信じています。だからお願い。」
アイリーンも、クロードの肩に手を優しく置きながら。
「私も貴方が良いと思うわ。クロード。貴方ならちゃんとやってくれる。そう信じられるわ。」
クロードは困ったように。
「本当に俺でいいの?みんな。」
シルバも頷いて。
「お前なら出来る。どうか、この魔国を救って欲しい。」
サルダーニャとフォルダン公爵は頷いて。
「決定じゃのう。クロード。」
「期待しているぞ。」
クロードに闇色の鍵を渡された。
ああ…上手くできるだろうか…できなければ…二度とグリザスに会う事は出来ないのだ。
その夜、第一魔国王宮の自分の部屋の寝室で寝転がると、
魂の世界でグリザスを呼び出してみる。
「グリザスさん…どこ??」
「俺はここだ…」
夕闇の景色の中、グリザスが近づいてきた。
灰色の幕越しに、話をする。
「こちらは闇色の鍵を手に入れたよ。そっちは見つかった?」
グリザスは頷いて。
「こちらも王家の宝物庫の中から見つけた。明日にでも、北の牢獄へ向かう。その先の岬に空間の臍がある。」
「それなら、俺も明日、向かうよ。黒竜魔王の傍に空間の臍があるんだ。時間を合わせよう。」
「なら、明日の夕方5時はどうだ?その時にお互いに空間の臍に鍵を差すということで。」
「うん。もし片方がたどり着けなかったら、改めて相談しよう。」
愛しのグリザスの顔を見つめる。
灰色の幕越しでぼやけるが、金髪に男らしい顔立ち…普段、黒い兜で覆われて見えないから、魂の世界で顔が見れるのは嬉しいけど…早く幕を取って、はっきり見たい。
「愛してます…グリザスさん…必ずまた、会ってイチャイチャしましょう…」
「ああ…俺も愛してる。またクロードとイチャイチャしたい。」
クロードは思った。
とても不安だけど、必ずグリザスと再会してみせるって…
二人は約束をして、幕越しにキスをし、その場を別れた。
そして、翌日、クロードは足音を殺して、歩いている最中だ。
第一魔国の片隅の森で、見上げれば、巨大な氷漬けになっている黒竜魔王、10名の魔導士達が、周りにいて、魔法で必死に氷が解けるのを抑えている。
大きいなぁ…
こんな大きな黒竜魔王を倒せるのだろうか。
そう思いながら、黒竜魔王の横を通って、空間の臍の洞窟へ向かう。
洞窟になんとか入れば、すぐに鏡の間があって、鍵の差込口が見えた。
まだ、5時まで時間がある。
ここで、静かに過ごさなければ、音を立ててはまずい。
クロードは時間までひたすら待つ事にした。
床に座って待っていたら、うつらうつらして、夢を見た。
グリザスに初めてあった時、何で魔物みたいな死霊なのに、騎士団見習いの指導者にしたんだろう?と疑問に思ったっけ?
でも、何だか依存されているうちに、好きになっている自分に最初は気が付かなかった。
グリザスが怪我をした時に、骸骨の歯をこじ開けて、薬を流し込むキスをした時から…
きっと思いが強くなったんだなぁって今なら思える。
魂の分割をしてしまった…
傍にいればいる程、可愛くて可愛くて…
ああ、会って今すぐに抱きしめたい。だから、お願いだから…
神様どうか、もう一度、グリザスさんに会わせて下さい…
お願いだから…俺は彼と結婚したいんです…
涙がこぼれる。
気が付いたら、5時になっていた。
鏡の前に立てば、そこには、ディオン皇太子殿下と、ローゼン騎士団長。そして愛しのグリザスが立っていた。
「あああ…皇太子殿下…騎士団長、グリザスさん、来てくれたんですね。鍵を差してもいいですか?」
ディオン皇太子は頷いて。
「勿論だ。マディニア王国は魔族と共にある国。黒竜魔王が復活するのなら、共に戦おう。
さぁ、同時に差すぞ。いいか?クロード。」
「ええ。有難うございます。皇太子殿下。」
同時に闇色の鍵と、黄金色の鍵が臍に差される。
パァンと音がして、鏡が割れた。
そして、人間界と魔界が再び繋がれた瞬間だった。
全てが元通りになった。
二度と、空間が破壊されないように。二つの鍵の刺さっている臍の間は、強固な結界が張られた。
その日の夜、クロードはグリザスと共に騎士団寮へ帰って来れば、泣きながらギルバートやカイルに抱き着かれた。
「心配したぞー。クロード。」
「よかったよかった。」
他の騎士団見習い達も、皆、喜んでくれた。
「おかえりなさい。」
「待っていたぞーー。」
皆、いい奴だ…クロードは幸せに思った。
「有難う。有難う…みんな…俺、幸せだよ。」
皆とワイワイと楽しく夕食を食べた後、
グリザスの部屋へ行き、やっとクロードは一息ついた。
グリザスが目の前にいるその幸せを、しみじみと感じる…
その身体を抱き寄せて。
「グリザスさんとまた、会えてよかった。神様にお願いしたんです。
また、会わせて下さいって…。」
「俺も会えて嬉しい…魂の世界で、熱く愛しあわないか?」
「ええ…行きましょう。」
二人でベットに寝転がり、魂の世界へ飛んだ。
再び会えた喜びを共に感じる為に…
その頃、フローラはローゼンに抱き着いて、大泣きしていた。
「うわーーん。ローゼン様…こうしてまた、お会いできて…嬉しいっ」
フォルダン公爵家の居間での出来事である。
ローゼンは優しくフローラの髪を撫でながら。
「私もこうして会えて嬉しい…」
アイリーンがユリシーズと共に、部屋に入ってきて。
「よかったわ。本当に…やはり人間界はいいわねぇ…ユリシーズとも再会できたし。」
「俺もだよ。アイリーンと再び会えて幸せだよ。」
ニコニコしながら、ソファに座る。
フォルダン公爵はそんな娘たちを見つめながら。
「一件落着でよかった。私はちょいと疲れたがね…」
サラがフォルダン公爵に。
「帰って早々すみません。王家から使者が来てこちらを。」
手紙が渡される。
中身を見て、フォルダン公爵は顔をしかめた。
フローラが心配そうに。
「どうしましたの?お父様。」
「マディニア国王からだ。アルフォンス様もまったく…」
ローゼンがソファに座りながら。
「陛下が如何したんですか?」
「いやまぁ…。あまりにも口説きが酷いもんで、抱き枕を預けておいたのだ。
抱き枕に魔法をかけて、私であるように思わせていたんだが…毎夜、スリスリしていたらしい…」
全員絶句する。何て魔法掛けたんだ…???
フォルダン公爵は紅茶を飲みながら。
「いや、魔界で久しぶりにハッスルしすぎてしまったせいで、うっかり魔法、解けてしまったみたいでな…アルフォンス様が激怒しているとか…」
アイリーンが呆れたように。
「覚悟して、捧げてしまえばよいのですわ。お父様。」
フローラが目を見開いて。
「何をです?お姉様。」
「あら…公爵令嬢の口から言えないわ。」
ユリシーズが真っ赤になって。
「その…お…」
フォルダン公爵はゴホンと咳払いして。
「新しい抱き枕でも見繕って渡しておこう。」
皆、思った。国王陛下って気の毒だなぁって…
皆で楽しくお茶をした後、ローゼンと二人きりで、夜の庭を散歩した。
「こうしてローゼン様とお散歩できるなんて…」
繋いだ手が温かい。
ローゼンは微笑んで。
「クロードが頑張ってくれたようだな…。フォルダン公爵や魔王達も…。
フローラ。これから先、まだいろいろな事があるかもしれないが、共に乗り越えて行こう。私の妻は君だけだ。フローラ。」
ローゼンがフローラの唇にキスをしてきた。
ああ…なんて幸せなんでしょう…この幸せがどうか続きますように。
そう思うフローラであった。




