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もう、逃がさない(ディオン皇太子)

ルディーンに隷属の首輪を着けた。


着けられた本人は極めて不機嫌で。昨日、騎士団寮のグリザスの部屋で、ジュエル帝国で聖剣と魔法図書を手に入れる為の集まりに、ディオン皇太子は弾かれた。正確には呼ばれなかったのだ。

その場で胸倉掴んで、注意したが…本人は魔法図書の為の集まりだからと言い訳をした。


気に食わない…。前だって、そうだ。ルディーンが中心になって事を進めてしまっていて、自分が責任者の黒竜魔王討伐事案の大事な集まりに、後から呼ばれるという事態があった。


そして、今夜。王宮に隷属の首輪のせいで、夜、拘束されてしまうルディーンの為に部屋を用意してあったのだが、行ってみればもぬけの空で、姿が見えない。


どうしてくれようか…


徹底的に探すことにした。


奴は王宮内の敷地から出る事が出来ないはず。


凄い不機嫌なディオン皇太子が廊下を歩くと、廊下をすれ違う人達は慌てて、逃げ出す。


そいつらをとっ捕まえて、ルディーン探しを手伝って貰う事にした。



☆☆☆



そんな事とはつゆ知らず、ルディーンはどこへ潜んでいたかと言うと、

騎士団寮の横にある、いつも見習い達がゴイル副団長に午後、授業を受けている教室にいた。

まだ冬なので、夜の教室は寒い。


厚着をして、仕事道具を持ち込み、ランタンの灯りを点けて、書類に目を通して行く。

聖女様の冠だけでなくて、ソナルデ商会の会長なのだ。そちらの仕事もやらねばならない。

ポットに入れて来た珈琲を時たま飲んで一休みしながら、仕事を片付けて行った。


王宮内の自分に与えられた客室は、何だか檻の中に入れられたようで息苦しい。

ディオン皇太子の顔を今は見たくなかった。


どこか遠くへ行ってしまいたい。

でもきっと…ディオン皇太子と離れたら離れたで寂しい事は解っていた。


俺はあの男に惚れている…。


だから、王宮は息苦しい。


ディオン皇太子とセシリア皇太子妃の居場所だから…


ある程度仕事を片付けると、少し眠る事にした。

灯りをフっと吹いて消し、机に伏せて瞼を瞑る。



☆☆☆



ディオン皇太子は、王宮から外に出て、騎士団寮に向かった。

王宮内を探したが、(使用人達も巻き込んで捜索を手伝って貰った。)

見つからなかった。という事は騎士団寮に潜んでいる可能性が高い。


ふと、騎士団寮の横の建物に目が行った。

確か、見習い達が副団長から授業を受けている部屋があるはずだ。

寝られるベットとかは無いが…。

扉を開けるとギギギと開いた。

そこには寮の食堂もあるので、まだ職員が残っているのかもしれない。


ディオン皇太子は足音を殺して、教室のドアをそっと開ける。

中は真っ暗で、何も見えない。

手に持っているランタンを掲げて中に入る。



☆☆☆



ルディーンは人の気配に目が覚めた。

まずい。逃げないと…。

ともかく荷物を机の下に押しやり、身を低くして移動する。

相手がこちらへ近づいてくる。


灯りに照らされる前に、教室の前方へ身を屈めて移動した。

教壇の下へ潜り込む。


ディオン皇太子だ…。探しに来たのか…何とかやり過ごさないと。


足音が近づいて来る。


まずい。見つかったか???



☆☆☆





ふん…人の気配がする。隠れているつもりか?


俺は破天荒の勇者だ。

さぁ…どうしてくれようか。


ディオン皇太子はゆっくりと教壇へ近づく。


そして、身を屈めると、ニヤリを笑って、ルディーンの顔を覗き込み。


「みーーつけた。」


「うわっーーーーーー」


ルディーンの胸倉を掴む。


「もう逃げられないぞ。さぁ…観念するんだな。」


「逃げられないって、何でわざわざ探しに来たんです???俺がどこにいようといいでしょう。王宮の敷地内ですし…」


「首輪の意味がないだろうがっ。」


そう言うとディオン皇太子はかぶりつくようなキスをする。


そして、命じた。


「俺は欲求不満だ。今すぐ相手しろ。」


「お断りしますっ…」


ルディーンは思った。


こんな教室の寒い所で、やりたくはない。


服を脱ぐのも嫌だった。



思いっきり教壇を蹴り飛ばすと、教室を飛び出した。


一体全体、何のホラーな展開だっ。


隣の騎士団寮へ逃げ込む。


良く見知っている黒騎士グリザスの部屋へ飛び込めば、クロードとグリザスがテーブルの前に座っていて。


クロードが慌てた様子のルディーンに向かって、


「どうしたんです?そんな青い顔をして。」


「匿ってくれませんか。追いかけられているんです。」


「何に?何だかまるで…」


「ホラーの怪物より怖いお方にですよ。」



その時、扉がバンと開けられて。


「失礼だな…。俺はホラーの怪物か?」



ディオン皇太子が不機嫌に立っていた。


クロードが宥めるように。


「ともかく、二人とも落ち着いて…。珈琲でも入れましょうか。」


グリザスも立ち上がり。


「話し合いが必要だと思われます。皇太子殿下。」


と席を開けてくれる。



ルディーンと向かい合って、ディオン皇太子は座り、

勧められるがままの話し合いとなった。


ルディーンは不機嫌に。


「王宮は堅苦しくて嫌なんですよ。これ、外して家に帰してくれませんか。」


ディオン皇太子は反論する。


「首輪を外したら、お前は連絡もよこさない。俺に会おうとしないだろう。だから、外すわけにはいかない。」


「だったら、もう会わなくてもいいでしょう。」


ディオン皇太子は立ち上がって、机を片手でドンと叩く。


「お前…。魔族の精が中毒性があるって知っているな…。それも、一度、受けたら他の魔族の精では駄目だ。」


ルディーンはフフンと笑って。


「だからどうだって言うんです?貴方が薔薇の館に来たのがいけないんですよ。俺の責任だとても?」


「俺はマディニア王国の王になる男だ。お前ごときにこれ以上振り回される訳にはいかない。首をはねてやるか?いなくなれば、追いかける事はない。」


ルディーンはうっとりとした顔で。


「あああ…最高ですよ。首をはねるのなら貴方の聖剣ではねて下さいよ。

とても気分がいい…破天荒の勇者をそこまで支配していたなんて…。とても幸せな気分だ…殺すなら今すぐここで…」


クロードが困ったように口を挟んできた。


「ここで刀剣沙汰は困ります。それに…二人とも落ち着いて…。」


グリザスもディオン皇太子に。


「今は色々とやらねばならぬ事を控えております。ルディーンは役に立つ者。

殺すのは得策ではないと思います。」


ディオン皇太子は不機嫌に椅子に再び座って。


「まったく、ひねくれた男だな…。ルディーン。お前は…。俺に惚れているのだろう…。」


「でも、アンタは俺に惚れていないでしょう。だからもう嫌なんです。

アンタから離れて、俺も真実の恋とやらを探してみますかね。ああ、でも今は無理ですか。

聖女様の冠と、他にも色々やる事がありますから。

皇太子殿下の欲求不満なんて…自業自得ですよ。」


スっと立ち上がった。


そして、呪文を口にする。


「リリース」


ルディーンは呟くように唱えると、首輪がポトリと床に落ちた。


「さようなら。仕事だけはします。ソナルデ商会の責任ですから。」


そう言うとルディーンは魔法陣を展開して姿を消した。



落ちた首輪を手に持って、ディオン皇太子は寂しそうに。


「解除出来るなら、さっさとすればよかったのに…。」



グリザスがディオン皇太子に。


「どうしましょうか。皇太子殿下が命じるままに俺は動きたい。忠誠を誓っていますから。」


「お前が動かなくてもいい。諦める気はないが…」


クロードが目をパチパチさせて。


「諦めないんですか?ここは諦めた方が。」


「何だ?クロード。お前、もしグリザスが、さよならって言ったら諦めるのか?」


クロードはきっぱりと。


「捕まえて縛り上げて逃がしません。」


グリザスは焦ったように。


「俺はクロードにさよならなんて言わない。」


ディオン皇太子はニンマリ笑って。


「俺は破天荒の勇者だ。こんな事で引き下がる男ではない。覚悟しておけ。ルディーン。」




そして、翌日の夜…


ルディーンが仕事から自室に戻ると、ディオン皇太子がソファに座っていたのには驚いた。


「昨日。さよならって言いましたよね???」


「ああ、聞いたが。」


「ここは引き下がる所でしょう??空気読んで下さいよ。」


「お前。自分勝手すぎるぞ。何が俺の欲求不満を知らないだ。俺がお前に惚れていなくても、お前が俺に惚れていれば問題ないだろう。だから…相手をしろ。惚れているならしっかり奉仕だ。解ったか。」


ルディーンは思った。


あああ…俺はこの破天荒の勇者から逃げられない。


観念したように。


「仕方ないですね。お相手しましょう。」


ルディーンは、ディオン皇太子に近づいて、髪を指先でそっと撫で、唇に愛し気にキスを落とすのであった。



これで、ルディーンと皇太子殿下はさよならかな…と思ったんですが、皇太子殿下はしつこかったです(笑)

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