恋は逃げれば追いかけたくなる、そうものだ。(ディオン皇太子)
ディオン皇太子は素っ裸で、ベットの上で目を覚ました。
薔薇の館以来、やっと待ち望んだルディーンとの二回目の夜を過ごしたのだ。
まだ、窓の外を見れば暗い。昼過ぎからイチャついていたから当然と言ったら当然か…
隣にいるはずの男の姿はなかった。
だるい身体を引きずって、ベットから下りて用意されていたガウンを羽織る。
部屋を見渡してみれば、空中に浮かんだ緑色の文字の計算式、緑色の冠の図を前に
スケッチブックを広げ、ペンを片手に何やら悩んでいるガウン姿の男に声をかける。
「何だ、仕事か…。何やら悩んでいるようだな。」
ルディーンは振り向いて。
「起こしてしまいましたかね?水でも飲みますか?」
立ち上がると、グラスに冷たい水を汲んできて、手渡してくれた。
「有難う。」
机の前にある、ソファに腰かけて水をゴクゴクと飲む。渇いた身体に染みわたって美味い。
ルディーンは、ペンで空中に浮かぶ方程式に何やら書き込みながら。
「浄化の方程式が上手くいかなくて、これでは冠から聖なる力が流れない。水晶がいけないんですかね…。もっと、透明度の高い物を使えば何とかなりそうですが…。」
グラスをテーブルに置くと、ディオン皇太子は。
「金20以上は出せんぞ。これが予算ギリギリの範囲だ。」
「水晶をどこかから借りてきましょうか?使い終わったら冠から外して返せば…」
「どこに借りるんだ?当てはあるのか?」
「いえ…ちょっと探してみますよ。ああ、時間がないのに…」
ディオン皇太子は立ち上がると、ルディーンの傍に行き、その長い髪を指先で遊びながら。
「苦労をかける。だが…ともに走ってくれて俺は嬉しい。」
そういうと、ルディーンの顔に顔を近づけてキスをする。
ルディーンは眉を潜めて、引き離し。
「そういう訳で、当分…皇太子殿下とはお会いできませんので。そのつもりでよろしくお願いしますよ。」
「やけに冷たいな…。お前の方からちょっかいかけて来たんだろうが…」
「それに乗って、薔薇の館に現れたのはアンタでしょう?」
「俺の何が気に入らない。」
「いやもう、鎮魂祭を成功させたいのなら、ちょっかいかけないで下さいよ。」
「解った。解ったから、王宮の俺の部屋まで送れ。帰る。」
「承知しました。皇太子殿下。」
王宮のディオン皇太子の部屋にルディーンは魔法陣を展開し、ディオン皇太子を送り届ける。
夜中で、セシリア皇太子妃は他の部屋で寝ているのか、誰もいなかった。
帰ろうとするルディーンの首に、隷属の首輪をカチっと着けて、ディオン皇太子はニヤリを笑って。
「お前にはこの首輪が良く似合う。外すべきではなかったな…。」
首輪を愛し気に撫でれば、ルディーンは困ったように。
「ジュエル帝国の王宮へ押し入る時は外して貰えるんでしょうね…。
これじゃ夜が明けるまで、仕事が出来ないじゃないですか。」
「仕事より…俺を優先しろ。」
ディオン皇太子はその手を引き、ベットにルディーンを押し倒す。
「もっと楽しませてもらうぞ。ルディーン…」
「仕方ないですな…」
その後、さんざんルディーンと楽しんだ。
いや、ルディーンは仕方なく相手をしていたのかもしれないが。
夜が明けると、早々に魔法陣を展開し、姿を消した。
朝、セシリアが部屋に戻って来て、ベットで寝ているディオン皇太子に声をかける。
「まぁ、ここでお楽しみでしたの?」
「すまない…あいつがあまりにも逃げるものだから。首輪をつけて、無理やり相手をしてもらった。」
「もうすぐ、朝食ですわ。身体を洗って、お支度を…。」
「お前は怒らないのか?」
ディオン皇太子の問いにセシリアはにっこり笑って。
「怒ってもどうしようもない事に私は怒りませんわ。それより、どういたしますの?
王妃様が用意した側室の方たち。」
「ほっておけ。側室まで気が回らん。」
ベットから下りるとガウンを羽織る。
セシリアはディオン皇太子に近づいて。
「ディオン様…」
そう言うと抱き着いてきた。
「セシリア…」
「貴方様がルディーンを欲しいというのなら、いくらでも協力します。でも私の事を忘れないで。」
胸の黒い百合の痣に顔を寄せる。
セシリアを優しく抱きしめて。
「勿論…お前が一番だ。すまないな…本当に。」
朝日が差し込んできて、今日も一日が始まろうとしていた。




