勇者ユリシーズ披露パーティ
今日は王宮でユリシーズを勇者だと、貴族達に紹介するパーティをディオン皇太子殿下夫妻によって開かれる事になった。
アイリーンが張り切って。
「私もお洒落をして行かないとならないわ。婚約者が行かなくてどうするのよ。」
フローラは心配する。
「赤ちゃんは大丈夫なの?お姉様。」
「体調はいいのよ。コルセットで締め付けないでゆったりしたドレスを着て、ダンスも踊らないわ。ただ、私もフォルダン公爵令嬢だという事と、勇者ユリシーズの婚約者だと紹介して貰うわ。せっかくだから。」
この国では男女とも18歳以上にならないと婚姻は認められていない。
だから、今は婚約者という扱いだった。
ユリシーズも心配そうにアイリーンに。
「本当に無理しないで。アイリーンは座っていればいいんだから。」
「ええ、そうさせて貰うつもりよ。」
今日のアイリーンは青のキラキラしたドレスに髪をアップにして、青の宝石をあしらった髪飾りを着ける。勿論、ソナルデ商会の髪飾りだ。
ユリシーズの聖剣と合わせた色だ。
ユリシーズは真っ白な貴族服を着て、青の聖剣を腰に差し、
「俺、勇者ユリシーズ本人って信じて貰えるかな…。ディオン皇太子殿下みたいに印があるわけじゃないし…。」
フォルダン公爵がユリシーズの肩に手を置いて。
「ディオン皇太子殿下や私がいる。もし異議を唱える者がいたら、全力で君を勇者だと証言しよう。」
「有難うございます。」
フローラは橙のふわりとしたドレスに、同色の髪飾りを着けて、背に長い髪を流した姿で。
「時間ですわ。参りましょう。」
フォルダン公爵が唱えた転移魔法で4人は王宮に転移する。
王宮の会場ではローゼンが黒に金糸をあしらった貴族服を着て、フローラを待っていた。
待っていたのだが、例のアンリエッタ・シャルマン公爵令嬢が傍にいて、親し気にローゼンに話しかけている。
ローゼンはアンリエッタの他に数人の令嬢に囲まれて困っているようだったが、フローラ達の姿を見ると、女性達を手で制して、こちらに来て。
「こんばんは。フォルダン公爵。そして、ユリシーズ、アイリーン。
フローラ待っていたよ。」
フローラに手を差し出す。
フローラはローゼンの手を取って、二人は腕を組んでゆっくりと会場の奥へ歩を進めた。
周りの嫉妬に溢れる視線が気持ちいい。
ユリシーズもアイリーンをエスコートして続いて会場の奥へ行く。
その後をフォルダン公爵がのんびりと歩を進め、奥に用意されていた席に5人はついた。
ディオン皇太子殿下がセシリア皇太子妃と共にこちらに近づいてきて。
「アイリーン、君も来るというから驚いた。今日、ユリシーズと共に紹介しよう。」
アイリーンは立ち上がり、優雅にドレスの裾を両手で持ってお辞儀をし。
「有難うございます。皇太子殿下。嬉しいですわ。」
そして、人が集まった頃、ディオン皇太子が会場の貴族の人達へ。
「今日は紹介したい者がいる。30年前に黒竜に姿を変え、魔物と共に隣国アマルゼ王国を中心に暴れまくった前魔王、それを封印していた勇者ユリシーズが見つかった事は以前発表した通りである。今日はそのユリシーズを紹介しよう。勇者ユリシーズ、前へ。」
ユリシーズが席から立ち上がり、ディオン皇太子の隣へ行く。そしてディオン皇太子は紹介した。
「勇者ユリシーズだ。」
皆、あっけにとられる。
「勇者ユリシーズって、もっと凛々しい顔をしているんじゃなかったか?絵本や書籍にそう描いてあったぞ。」
「銅像とまるで違うじゃないか。小さいし、子供っぽい顔つきだぞ。」
「なんかぱっとしない外見ですわね。」
口々に陰口が囁かれる。
そして、ディオン皇太子はアイリーンを紹介する。
「違う国で暮らしていた、フォルダン公爵令嬢アイリーンだ。勇者ユリシーズの婚約者である。それにより、ユリシーズは先々フォルダン公爵家を継ぐことになる。」
アイリーンが立ち上がり、優雅に両手でドレスの裾をつまんだお辞儀を披露する。
「おおおおっーー。フローラ嬢も美しいが、アイリーン嬢もさらに美しい。」
「妖艶な美女だ。」
「フォルダン公爵は美しいお嬢さんが2人もいて幸せ者だ。」
ディオン皇太子は皆に向かって。
「これから先、この二人をよろしく頼むぞ。」
色々な貴族の人達が、フォルダン公爵家のテーブルに近づいて、ユリシーズとアイリーンに挨拶をする。
ユリシーズとアイリーンはにこやかに、貴族の人達に対応していた。
ダンスが始まったようだ。
ディオン皇太子はセシリア皇太子妃と共に、華麗なるダンスを披露する。
皆、口々に褒め称える。
「まさに美男美女ですわね。」
「本当に素敵なカップルですこと。」
ディオン皇太子の白に金をあしらった貴族服と、セシリア皇太子妃の薄水色の品のあるドレスはとても合っていて。
ローゼンはフローラの手を取って。
「私達も踊ろう。フローラ。」
「ええ…ローゼン様。」
フロアにはディオン皇太子達カップルの他に数組のカップルがダンスを踊っている。
ローゼンとフローラもその輪に加わった。
ローゼンはいつも優しく、そして力強くフローラをリードしてくれる。
フローラが回る度に橙のドレスがふわりと舞って。
ローゼンの美しさと合わせると、お伽の世界のようだった。
皆、見とれているようだ。
「あああ、なんて美しいカップルなんでしょう。」
「お似合いだな。」
「さすがフォルダン公爵令嬢だ。」
「ローゼン様、素敵…」
ダンスを楽しんだ後、2人はテーブル席に戻った。
フォルダン公爵は、他の貴族達と談笑していて、アイリーンとユリシーズは一通りの貴族達の挨拶から解放されて息をついている所だった。
アイリーンが口元を扇で隠してフローラに。
「さっきから貴方の方をずっと見ているわ。特にあの女…金髪の桃色のドレスを着た…。」
フローラがそちらへ視線を向けると、ふいっと視線を逸らされてしまった。
ローゼンがフローラに。
「気にしなくていい。フローラ、飲み物は何がいいかね?頼んであげよう。」
アイリーン達は既に飲み物を飲んでいたので、ローゼンに頼んでオレンジジュースを貰う事にした。
ローゼンは会場の使用人に、
「オレンジジュースと赤ワインを一つずつ。」
「かしこまりました。」
テーブルには軽食と菓子が用意されており、フローラは運ばれてきたジュースを飲み、チョコボンボンを摘まんで食べる。
ローゼンはユリシーズに向かって。
「楽しんでいるかね?ユリシーズ。」
「いやその…目が回ってしまって。凄い煌びやかですね。お伽の世界だ。」
「それが貴族の世界だ。だが、気を付けないと足元を掬われる。」
「心得ておきます。」
フローラは立ち上がって。
「ちょっとお化粧室に行ってきますわ。」
皆に断って、王宮の廊下に出れば、背後から声をかけられた。
「貴方にローゼン様は似合わないわ。フォルダン公爵令嬢。」
振り向けば先程から自分を見ていた、アンリエッタ・シャルマン公爵令嬢が立っていた。
フローラはカチンと来て。
「何故、そう言えますの?」
「私とならすぐに結婚出来ますわ。ローゼン様も27歳、早く結婚したいはず。貴方は後2年、結婚出来ないでしょう?」
この女性は帝国貴族と婚約しているとローゼンは言っていたが…
「貴方は婚約者が帝国にいると聞いておりましたが。」
「ローゼン様が忘れられなくて…婚約破棄をしてこの国に戻って参りました。相手がマリアンヌ様ならあきらめもつくでしょう。王族ですから。でも、貴方は公爵令嬢。互角ですわ。」
確かに立場的には互角である。互いに公爵令嬢。しかし…フローラは断言した。
「貴方にローゼン様をお渡しする訳には参りません。私の婚約者なのですから。」
言い争っていると、ローゼンが心配して見に来たのか、声をかけてきた。
「フローラ、どうしたのだ?」
アンリエッタがローゼンの近くに行き、胸元に縋りついて。
「貴方の事を私は忘れられません。どうか、私と結婚して…あんな女より私の方がすぐに結婚出来るわ。」
ローゼンはアンリエッタをそっと引き離して。
「すまない。私はフローラの婚約者だ。フローラの事を愛している。」
そう言うとフローラの傍に行き、
「化粧室へ行っておいで。私は廊下で待っていよう。」
「有難うございます。ローゼン様。」
化粧室の傍までローゼンは着いてきてくれた。
アンリエッタは後を着いてきて、フローラが化粧室へ入っている隙に、ローゼンに真剣に話しかけていたようで。
「あの夏の日、貴方と沢山過ごす事が出来て、私は幸せでしたわ。忘れる事など出来ない。
どうか私と結婚を…」
「申し訳ないが…アンリエッタ。これ以上、私に付きまとわないでくれ。」
フローラが化粧室から出て来ると、ローゼンはフローラの手を取って。
「席へ戻ろう。愛しのフローラ。」
「ええ…ローゼン様。」
廊下を歩いている時も、他の令嬢数人から話しかけられて。
「ローゼン様。レイトン伯爵令嬢アリアですわ。お近づきになれたら。」
とずうずうしく近づいてくる女性もいたりして。
本当にローゼン様はモテるわ。私と言う婚約者がいるのに。
何とか席に戻って来たら、ユリシーズがアマルゼの外交官と名乗る男に話しかけられていた。
「我が国へ戻ってきてくれませんか?勇者ユリシーズ。貴方の生まれはアマルゼ王国のはずだ。」
「俺はこの国で暮らすって決めたんだ。アイリーンと結婚して、フォルダン公爵になる。」
「でしたら、こちらは大公の地位を用意いたします。お願いですから。」
「困るな…我が国の勇者を…。ユリシーズはマディニア王国の勇者だ。」
ディオン皇太子が両腕を組んで、アマルゼ王国の外交官を睨んでいた。
「いや、元々は我が国の…」
「何だ?ユリシーズはマディニア王国で暮らすと言っている。文句あるのか?」
外交官はすごすごと引き下がった。
フローラがディオン皇太子に向かって。
「凄いですわ。さすが皇太子殿下、引き下がりましたわね。」
「ユリシーズを取られる訳にはいかないからな。」
セシリア皇太子妃がフローラとアイリーンに優しく微笑みながら。
「今度はお二人で遊びにいらして。ゆっくりとお茶したいわ。」
アイリーンが座ったまま頭を下げて。
「光栄ですわ。セシリア様。是非お邪魔させて頂きます。」
フローラも嬉しそうに。
「私もセシリア様と沢山お話したいですわ。姉と一緒にお伺い致しますわ。」
「楽しみにしていますわ。お二人が来るのを。」
こんな優しくて美しいセシリア皇太子妃がいるというのに、ルディーンにちょろまかされるなんて一言位、言ってやりたかったが…この間、首輪を着けようと協力した事だし、フォルダン公爵家の為にやめておいた。
ディオン皇太子もなかなかイイ男である。男の色気溢れていて、それなりにファンが多く、ファンレターが王宮に沢山届くと以前、聞いた。
ルディーンも国で2番目と言われる程の美男だわ。一番目はローゼン様だけど…
私も美しい方だとは思うけれども…
お父様とお母様に感謝しなくてはいけないわね。
ローゼン様と並んで、月とすっぽんなんて言われないだけ、良かったわ。
ぼんやりと物思いにふけっていたその時である。
アイルノーツ公爵がディオン皇太子に向かって。
「勇者ユリシーズが本物と言う証拠があるのですか?見せて欲しい物です。皇太子殿下。」
他の貴族達も
「まさか、でっち上げようとしているのでは?」
「銅像や書籍の顔と違うぞ。」
ディオン皇太子はニヤリと笑って。
「ユリシーズは女神リリアに貰った、形を変える腕輪を持っているんだったな。見せてやれ。後、青の聖剣はユリシーズに渡した。7つの聖剣の一つだ。それも証拠になろう。」
「解りました。」
念じれば銀色の腕輪が両手首に現れる。
「これは万能のリリアの腕輪です。何にでも形を変える事ができます。」
ユリシーズが念じると、黄金色の剣と盾に腕輪は形を変えた。
皆、それをみておおおおおっーーー。これがリリアの腕輪っ。とか騒いでいる。
そしてユリシーズは元の腕輪に戻して、見えなくすると、
次に腰に差してある聖剣を抜き、掲げて刀身が見えるようにする。
青くキラキラと輝いて、まさに聖剣のパワーを放っていた。
ディオン皇太子はアイルノーツ公爵に。
「これで証明されたと思うが。」
「確かに…勇者ユリシーズの証拠ですな。」
忌々しそうにユリシーズを睨むアイルノーツ公爵。
ディオン皇太子は貴族達に。
「これから出版する書籍や絵本は、ちゃんと本人に似せて勇者ユリシーズの顔を修正しろと命を出すつもりだ。我が国にある銅像も作り直す。
ユリシーズのお陰で30年間、黒竜の魔王を封印する事が出来た。
まさに勇者だ。」
ユリシーズは赤くなって。
「有難うございます。俺の事をそんな風に高く評価してくれて…嬉しいです。」
アイリーンが嬉しそうに。
「さすが皇太子殿下ですわ。よかったわね。ユリシーズ。」
「うん。俺、皇太子殿下の為に、この国の為に一生懸命働くよ。」
こうして色々とあった勇者ユリシーズお披露目パーティは終わった。
皆でフォルダン公爵の魔法で転移してフォルダン公爵家に帰る。
そこから、ローゼンを屋敷にフローラが共に転移して送ってあげる事にした。
ローゼンの屋敷に転移鏡でフローラとローゼンのみ転移する。
ローゼンがフローラに向かって。
「少し、私の部屋でお茶でも飲んで帰らないか?」
「良いのですか?」
「話をしたい。」
ドレス姿のまま、ローゼンの部屋に入り、向かい合って一人用のソファに互いに腰かける。
部屋に入る前にメイドに紅茶を頼んでおいたので、紅茶が運ばれて二人の前に置かれた。
ローゼンがフローラに向かって謝る。
「今日はすまなかった。アンリエッタに言われて不快な思いをしただろう。きっぱりと断ったから安心してくれ。これから先、付きまとうようならシャルマン公爵家に苦情を入れるつもりだ。」
テーブルの上のローゼンの手に手を添えて。
「大丈夫ですわ。ローゼン様。私はローゼン様を信じる事に致しました。ですから、もう怒ったりしません。酷い事もしませんわ。」
「私は…酷い事をされても君の事が好きだ。あれは全面的に私が悪かったのだから仕方なかったと思っている。君を傷つけてしまった罰だ。フローラ、君の事を愛している。」
「私もですわ。」
ローゼンが立ち上がって傍に来て、フローラも立ち上がる。
二人は唇と唇をそっと重ね合わせた。
愛しいローゼン様、愛しています。どうかずっと私の事だけを見ていて下さいね…
冬の一日が終わろうとしていた。




