綺麗な人…嫉妬してしまいましたわ。
本当に偶然だった。
フローラはマギーと共に、聖女様の鎮魂祭の花を段ボールに入れて届けに王宮に来た。
そこで見かけたのだ。
ローゼンが王宮のカフェの前の廊下を美しい女性と共に歩いているのを。
金髪の淡い桃色のドレスを着た、青い瞳の若い女性だった。
フローラはショックだった。何やら親しそうな感じだったから。
「マギー…あれは浮気かしら。」
マギーは首を振って。
「知り合いだと思いますわ。気にしない方がいいと思います。」
「そ、そうよね…。」
あああっ…二人はカフェに入っていくわ。どうしましょう。
フローラは箱を持ったまま、フラフラとカフェの入り口に近寄って行く。
そっとカフェの中を覗き込んでみれば、親し気にその女性とローゼンは話をしているようだ。
何だか凄く落ち込んだ。
マギーが心配そうにフローラに近づいて。
「箱を受付に渡しに行きましょう。フローラ様。」
「ええ…そうね…マギー。」
そして、箱を渡してから、屋敷に帰ったのであるが、気になって気になって仕方がなかった。
あの人は誰?
とても綺麗な人だった。
夜にローゼン様に会って聞いてみよう。
そして、夜、ローゼンの屋敷に転移すると、さっそく部屋を訪ねてみた。
風呂に入った後なのか、ローゼンは夜着に着替えた後で、
金色の髪をタオルで拭いていた。
「あ…フローラ。ソファに座っていてくれ。メイドに頼んで紅茶でも持ってこさせよう。」
「ローゼン様。お聞きしたい事があります。」
「何だね?」
ローゼンはタオルを置くと、ソファに優雅に座る。
フローラはマジマジとローゼンの顔を見つめ。
「今日、カフェに一緒にいらした方はどなた?」
「見ていたのか?」
「ええ、とても親しそうでしたわ。」
ローゼンは足を組んで。
「知り合いだ。あまりにも久しぶりだったから、少し話をしただけだ。」
「お名前はなんておっしゃる方ですの?」
「アンリエッタ・シャルマン公爵令嬢だ。近衛騎士ルイス・シャルマンの妹で、帝国に留学していた。
女性ながらしっかりした人だ。」
何だろう…なんか引っかかる。
女の感なのかしら…
フローラは聞いてみる。
「ローゼン様はその人の事を好きだったんですか?」
「それはない。何事にも前向きな姿勢は尊敬しているが…。彼女も帝国の貴族と婚約している身だ。」
何だか悲しくなった。
ローゼンは否定はしたが…、あのローゼンが親しく女性と話をするなんて、今まで見た事がない光景だったから。
ふわりと髪を解いて魔族の姿になる。
ローゼンは困ったようにフローラを見つめて。
「魅了を使うのかね?私を信用していないのか?」
「だって、あまりにも楽しそうにお話していらしたから…。本当は今でも好きなんでしょう?」
「そのような気持ちはない。私が愛しているのはフローラ。君だけだ。」
「ローゼン様…」
灯りがフっと消えて真っ暗になる。
「私を愛しているなら…私の全てを受け入れて下さいませ。」
フローラの身体から、植物のツルが伸びてローゼンの手足を拘束する。
「私は恐ろしい姿をしているわ…貴方に見られたくない。でも…私は貴方の姿が見たいの…今だけ、目を瞑っていて下さいね…愛していますわ。ローゼン様。」
フローラはローゼンの視界を魔力で奪った。
灯りが再び灯る。
ローゼンは手足をツルに巻き付かれながら、立っていた。
しかし、目は見えなくなっていて、フローラが今、どんな恐ろしい姿をしているのか解らないはずである。
「私をどうする気かね?ユリシーズみたいな事をされるのか?」
「だって、貴方に私、捨てられたら悲しくて悲しくて…私は我儘だから貴方に捨てられたくない。捨てられる位なら、強引に今夜、私の物にするわ。」
涙がぽろぽろと流れる。
ローゼンは気配で解ったのか。
「泣いているのか?フローラ。」
「だって悲しいんですもの。」
「私は君と婚姻すると決めている。だから、捨てる事など有り得ない。
抱き締めたい。フローラ。頼むから自由にしてくれないか?」
「嫌よ…ローゼン様。ごめんなさい。好きです…愛しています…」
花びらがブワッと舞ってローゼンに襲い掛かる。
そして、それがローゼンにとって悪夢の夜の始まりであった。
翌日の朝、フローラは自分の部屋に帰ってきて、泣きじゃくっていた。
サラが心配して、フローラに声をかける。
「昨夜はどちらへ?ローゼン様の所ですか?」
ローゼンの所で添い寝をしてくることもあるので、サラはフローラに聞いたのだ。
「わ、私…私…」
「まさか、ローゼン様に襲われました?婚姻前にコトに及ぶことは禁じられているのに、
フローラ様っ。」
「違うの…違うのよ。」
自分が襲ったなんて言えないわ…
そして、今朝、怖くなって、ベットにローゼンを寝かせたまま、逃げかえってきただなんて言えない。
愛想を今度こそつかされるわ。でも、ローゼン様がいけないのよ。
あんなに楽しそうに、他の女性とお話をしているんですもの…
悲しくて悲しくて…フローラはさらに大泣きした。
フォルダン公爵や、アイリーン、ユリシーズが心配して、フローラの様子を見に来た。
フォルダン公爵がベットにつっぷして泣きじゃくるフローラの肩に手をかけて。
「どうしたのかね?何があった?」
「何でもないわ。お父様。ヒクヒクっ。」
「それならどうして泣いているんだね?」
「何でもないと言っていますっ。」
アイリーンが呆れたように。
「ろくでもない事をしでかして、泣いているに決まっているわ。
ちょっとフローラ。何をやらかしたのか、教えなさい。」
「嫌よ…」
ユリシーズも心配そうに。
「ねぇ…。俺達心配しているんだよ。フローラ。何があったの?」
「何でもないわ…何でもないわよ。」
しかし、泣きながら思った。逃げ帰ってきたけれど、心配になって来た。
ローゼン様大丈夫かしら。
自分が行く勇気が持てない。
こういう時はクロードに頼ろう。
立ち上がると、通信魔具を取り出して。
「ちょっと連絡する所が出来ましたわ。私は何でもないですから。お父様、お姉様。ユリシーズ。」
そう言うと、衣裳部屋へと逃げ込んで。
「クロード。ねぇ…聞こえる?お願いがあるの。」
「フローラ。何?俺、これから朝ごはん食べないと。」
「ローゼン様の様子を見て来てほしいんだけど。」
「え?俺が?君が行けばいいんじゃない?何かあったの?」
「お願い…」
「仕方がないな…グリザスさんと一緒に見てくるよ。」
ああ…心配だけど、クロード達に任せたから…。
フローラはとりあえず学園に行かなくとならないので。
サラに命じて支度をするのであった。
不安な心を抱えながら…。
ここでは書けないので、詳細は〇歳以上の方に…(-_-;)。ぼかしまくりシーンです。すみません。




