修羅場かしら…色々と忙しいわ。
翌日の事である。
昨日、魔族達に会った事をディオン皇太子にフローラが報告する事になった。
クロードに頼まれたのである。
第二魔国~第五魔国の魔王達との会話を簡単にレポート用紙に報告書を書いて。
仕方がないので、学園に行く前に、王宮の前に転移して、ディオン皇太子に渡そうとした。
早朝である。
王宮の窓口の文官はめんどくさそうに。
「ファンレターかね?多いんだよね。皇太子殿下にファンレター出す人は。」
「あの…この封筒渡しておいてくれませんか?」
「はいはい。」
学園もあるので、文官に渡しておくことにした。
ふと背後から声をかけられる。
「フローラ様じゃないですか?」
振り向けば、ルディーン・ソナルデが立っていた。
「あら、ルディーン。貴方も用事があるの?」
クロードの従兄のルディーンとは顔見知りである。何よりもソナルデ商会のジュエリーは気に入っていて、よく購入していた。
よい顧客であるので、様付けである。
彼は王族といえども、商売人であった。
「いえね。俺も報告があって…ディオン皇太子殿下に。早朝から顔を見たくもないし、面倒なんで、そこの文官さんに預けるのもありって訳ですかね。」
そう言うと、受付の文官に。
「そこのお嬢さんが渡した封筒と一緒に、ディオン皇太子殿下にこの封筒も渡してくれませんかね?」
文官が訝しげに。
「何の封筒なんです?」
「恋文ですよ。」
そうニンマリ笑って言うと、フローラに向かって。
「それではまた、新作が出たらお知らせしますよ。」
「楽しみにしているわ。」
そして、フローラはこの対応のせいで、大事な報告書が、5日も皇太子殿下の手に渡らなかったという事を、後で慌てる事になる。
5日後の夜、フローラはのんびりと、アイリーンとユリシーズと一緒に屋敷の居間で紅茶を飲んでいた。
サラがチョコレートケーキを切って持ってくる。
窓の外を見れば、また、雪が降ってきたようで。
サラがケーキを3人に出しながら。
「良く降る雪ですね。」
ユリシーズが窓の外を見ながら。
「明後日の魔王討伐の訓練、出来るのかな…」
フローラが紅茶を飲みながら。
「あまり雪が酷いと中止になるかもしれないわ。」
アイリーンは小さな靴下を編んでいた。産まれてくる子供の為である。
「本当によく降る雪で嫌になるわね。ところでユリシーズ。これからどうするの?」
ユリシーズはアイリーンの問いに。
「身体もよくなったし、明日からまた、午前中は騎士団見習いの人達と一緒に、グリザスさんの教えを請おうと思っているんだ。それでアイリーンにお願いが。午後から俺の先生になってほしい。一般常識とかもわからないし。君が無理なら家庭教師でもつけてくれないかな。ゴイル副団長の授業を受けてもいいんだけど、アイリーンが寂しいんじゃないかって。」
アイリーンは嬉しそうに。
「ええ、私が先生になってあげる。貴方にお勉強を教えてあげるわ。フォルダン公爵になるなら、領地経営の事も解らないとならないし、貴族のマナーも必要よ。」
ユリシーズが嬉しそうに。
「有難う。俺、頑張るよ。今度こそ。」
フローラがアイリーンに。
「赤ちゃんが産まれたら、お姉様をフォルダン公爵令嬢として社交界に紹介をしなくてはならないわ。私も仮デビューしたばかりで…。」
ユリシーズが疑問を聞く。
「本デビューは何歳だったっけ?」
フローラが説明をする。
「18歳よ。学園を卒業したら本デビューをして、茶会も開いて、本格的に貴族の貴婦人たちと交流をしなくてはならなくなるわ。」
アイリーンはフローラに向かって自信満々に。
「お母様が生きていれば心強かったのでしょうけど。私にはフローラがいるわ。
私達二人が揃えば最強のはず。必ず、将来、社交界の中心になってみせるわ。」
フローラは嬉しそうに。
「心強いですわ。お姉様。」
その時である。
フォルダン公爵が部屋に入ってきて。
「フローラ。お前にお客様だ。ディオン皇太子殿下が直々に見えられたぞ。」
「えええええ???何の用かしら?」
「客間に通してある。私も立ち会おう。」
慌ててフォルダン公爵と共に客間に行くと、凄く不機嫌そうなディオン皇太子がソファに座って待っていた。
「フローラ。この報告書、何故、俺に直接渡さない?5日前の物が今日、届いたぞ。」
「ええええ?5日もかかったのですか?」
フォルダン公爵が疑問を持って聞く。
「何の報告書ですかな?」
「第二魔国魔王~第五魔国魔王までのフローラとクロードが面会した会話記録だ。魔王達の考え方が解って非常に興味深かった。
所で、フォルダン公爵、レスティアスの件だが、どうなったのかね?」
ディオン皇太子の問いにフォルダン公爵は思い当たったように。
「第二魔国は自分の物だと思いあがっていたようなので、しっかりと釘をさしておきました。ディオン皇太子殿下と私に失礼な態度を取らぬように、念を押しておきましたから、これからは素直にいう事を聞くでしょう。」
「それは頼もしい。あの男は反抗的だったからな…有難う。」
フォルダン公爵の言葉にディオン皇太子は満足したようだ。
フローラもディオン皇太子に。
「一番心配なのは第三魔国シルバですわ。野望を持っている男です。
ただし、マリアンヌ様に惚れていらっしゃいますから、マリアンヌ様に上手く、操って貰えば問題はないかと思います。」
ディオン皇太子はフローラに。
「有難う。フローラ。さすが、フォルダン公爵令嬢だ。優秀だな。これからは何かあったら、フォルダン公爵に言付けるか、それとも俺の部屋に直接転移してきてもかまわん。」
「えええええ?皇太子殿下のお部屋ですか???あ、あの、お美しいセシリア皇太子妃様にお会いできるのかしら。」
フローラの言葉にディオン皇太子は驚いたように。
「フローラはセシリアに会ったことは無かったのか?」
「お会いした事はありますわ。でも、バタバタしていた時だったので、ゆっくりとお話も出来なくて。以前、お姉様の事で皇太子殿下をお部屋で待っていた時に、セシリア様は、紅茶を出してくれて励まして下さったのです。また、お会いしてゆっくりとお話出来たらよいと思いますわ。お礼も言いたいです。」
「解った。フォルダン公爵に頼んで、転移鏡を俺の部屋に置くようにするから、いつでも訪ねてきてくれ。」
「あ、あの…隣室とかでもよろしいかしら。もし、お着替え中とかだったら悲鳴ものですわ。」
フローラの言葉にディオン皇太子は笑って。
「それはそうだな。それでは、隣の部屋という事にしておこう。俺はまだ行くところがある。」
フォルダン公爵は立ち上がって。
「玄関までお見送り致します。雪が酷いのでお気をつけて。」
ディオン皇太子殿下をフォルダン公爵と共に玄関で見送るフローラ。
フォルダン公爵はフローラに。
「皇太子殿下も大変だな。色々と気を配らねばならん。私はお前が優秀と言われて鼻が高いぞ。」
「有難うございます。お父様。」
ふと時間を気にする。
「まぁ、時間だわ。ローゼン様の所へ行ってきます。」
そうフォルダン公爵に断ると、ユリシーズを居間に呼びに行き、
「ユリシーズ時間よ。行くわよ。」
「了解っ。」
アイリーンがにこやかに見送る。
「行ってらっしゃい。頑張ってきて頂戴。」
フローラ達は「いってきまーす」と言ってアイリーンに手を振ると、
転移鏡を使ってローゼンの屋敷に転移した。
いつもの使っていない部屋に転移すると、廊下に出て今日は客間に向かう。
客間へ行けば、そこにはローゼンと共に、ゴイル副団長と近衛騎士2名が来て、ソファに座り話をしていた。
フローラとユリシーズの姿を認めれば、
ゴイルはフローラとユリシーズに向かって。
「これはフローラ・フォルダン公爵令嬢、先日の魔王討伐会議ではどうも。それからユリシーズ。女装可愛かったぞ。思わず恋人申し込みしちまったわ。ハハハハハ。」
フローラが驚いて。
「まぁ、そうなの?ユリシーズ。」
ユリシーズは赤くなりながら。
「ゴイル副団長とミリオンに交際を申し込まれたんだ。俺…何だかなぁ。複雑だな。」
ローゼンが呆れて。
「そんな事をやっていたのか?ゴイルっ。お前はっ。」
ゴイルは髪をポリポリ掻きながら。
「だってよぉ。団長。あまりにも可愛かった。ユリシーズの女装。気が付かなくてつい…」
金髪碧眼の美男の近衛騎士一人が。
「ゴイル副団長、独身ですからねぇ。」
そしてフローラとユリシーズに自己紹介をした。
「ルイス・シャルマンです。シャルマン公爵家の3男です。騎士団長の婚約者であり、聖剣の持ち主のフローラ・フォルダン公爵令嬢にお会いできて光栄です。それから勇者ユリシーズ殿。貴方は俺の小さい頃からの憧れです。握手してくれませんか?」
ユリシーズが照れたように。
「え?握手するよ。なんだか嬉しいなぁ。」
ルイスと喜んで握手する。初めて勇者扱いされたようで嬉しいのだろう。
もう一人の近衛騎士、こちらは銀髪で青い瞳の、渋い感じの男が。
「シリウス・レイモンド。名前くらいは知っておろう。フォルダン公爵にはいつもお世話になっている。お二人にお会いできて光栄だ。」
フローラはシリウス・レイモンド公爵について、知っていたので。
「父がお世話になっておりますわ。レイモンド公爵。お会い出来て嬉しいですわ。
それからルイス様。私もお会いできて光栄ですわ。」
ユリシーズも今度はシリウスに握手をして、改めて言葉を正して。
「俺もお二人にお会いできて光栄です。よろしくお願いします。」
ローゼンが二人に。
「フォルダン公爵派とアイルノーツ公爵派が騎士団にはいるが、差別はしてはいない。
レイモンド公爵は、フォルダン公爵派だったな。ルイスの父君、シャルマン公爵はアイルノーツ公爵派だ。」
シリウスは頷いて。
「騎士団長。俺はフォルダン公爵派ですが、政治に参加していませんし、公爵位も父が早死にしてしまったから継いだだけで、領地経営は母がやっております。しかし、フォルダン公爵にはよくして頂いて感謝しております。」
ローゼン騎士団長はフォルダン公爵令嬢を婚約者にしているのだ。
如何に差別はないと言われ、政治には参加していない弱い立場でも自分はフォルダン公爵派だというアピールは必要である。ローゼンの印象が良くなるであろうシリウスの計算だ。
一方ルイスは、反派閥であるが。
「我が公爵家はアイルノーツ公爵派ですが、差別していないと聞いて安心しております。俺は国の為、騎士団の為に頑張って働きたいと思っております。」
と、当たり障りないように会話をしている。
今はローゼンが騎士団長であるが、近衛騎士達は戦々恐々として、騎士団長や副団長の地位を狙っている。
だから、騎士団長や副団長として信頼はされていれども、近衛騎士達はローゼンやゴイルのライバルでもある訳だ。
そして、今、騎士団の権限はローゼン騎士団長にあるのだから、近衛騎士達は会話に凄く気を遣う。
今日、集まっていたのは、どうやってディオン皇太子殿下、ローゼン騎士団長、ティムの魔王拘束要員、フローラ、クロード、レスティアスの強化補助要員を守るか、神官長達は治安隊が守ってくれるとの事なので、相談に訪れていたのだ。
ゴイルがローゼンに向かって。
「30名の隊を二つに分けて、一つは俺が率いるからいいが、もう一つの隊はシリウスかルイスに任せようと思っている。この二人は優秀だからな。」
ローゼンが二人の顔を見つめ。
「シリウス。お前がもう一つの隊を率いて欲しい。ルイスはシリウスの指揮をしっかりと勉強するように。」
シリウスは満足げに。
「了解しました。」
ルイスは不満そうにローゼンに向かって。
「シリウスが選ばれた理由を教えて下さい。やはりフォルダン公爵派だからですか?」
シリウスとルイスは剣技の強さは似たような物で、互いの実力は均衡していた。
歳はシリウスは30歳。ルイスは25歳と幾分若い。
ローゼンはきっぱりと。
「実力は均衡している。しかし、いざという時の冷静さにおいて、シリウスの方が勝っている。ルイスの悪い癖は、頭に血が上りやすい事だ。シリウスの冷静さを学んでほしい。」
ルイスは納得したのか。
「理由を述べて下さり有難うございます。精進致します。」
フローラはそんなやりとりを聞いていて。
マリアンヌ様は派閥なんて関係ないっておっしゃっていたけれど、
なかなか難しい問題ね。騎士団の中でも、派閥問題で緊張感がありますもの。
将来、私達女性が皆、仲良くなって、その緊張感がある関係を少しでも解消出来たらよいのだけれど。
と思ってみたりした。
その後、ゴイル副団長から魔道具で強化した盾で、周りを囲んで結界を張る予定だとか、説明を受けたけれど…
関係のある人達には今度の訓練で説明すると言っていたわ。
しばらくして、ゴイル副団長と近衛騎士達が帰っていった。
ローゼンがフローラに向かって。
「フローラ。君に頼みがある。」
「何でしょうか?ローゼン様。」
「セシリア皇太子妃様と、親しくなって欲しい。今の王妃様はアイルノーツ公爵派だ。
この間の婚約発表のパーティの時に、君と私を陥れようとしたのは記憶に新しいだろう?
ディオン皇太子殿下は幸いな事に私を信頼しているが…もし、セシリア様がアイルノーツ派に取り込まれたら、非常に厄介になる。」
フローラはまっすぐローゼンを見つめ。
「でも、私の理想は、派閥などなくマリアンヌ様やソフィア様と仲良くしたい。
これからもずっと。そう思っておりますわ。」
「君の気持ちは解るが、念には念を入れて欲しい。」
「解りましたわ。幸いにも、お部屋の出入りを、皇太子殿下に許可されました。
セシリア様にお会いして仲良くなるよう努力致しますわ。」
ローゼンは満足そうに頷いて。
「よろしく頼む。」
ユリシーズがしみじみと。
「貴族の世界って大変なんだね…。フォルダン公爵になったとしても、すぐに追い落とされそうだよ。」
フローラがユリシーズに。
「私達が守るわ。ローゼン様も守って下さるわ。だから、頑張ってお勉強するのよ。色々と。」
「うん。解っているよ。」
その日はローゼンにおやすみなさいを言って、自分の屋敷に帰ったフローラとユリシーズであった。
翌日の午後、学園から帰ってきたフローラ。
フォルダン公爵が、ディオン皇太子殿下の部屋の隣の空き部屋に転移鏡を置いたというので、フローラは転移してみた。
隣の部屋をノックすると、どうぞと聞こえてきたので、中にお邪魔してみる。
セシリア皇太子妃が、ソファに座っていて。
「あら、フローラ。どうしたの?ディオン様なら、今、執務室にいらっしゃるわ。」
「こんにちは。今日はセシリア様とお話がしたくて参りましたわ。」
「まぁ嬉しい。おかけになって。」
ソファを勧められて、腰かければ、セシリアは侍女に命じて、紅茶と苺の沢山入ったケーキを出してくれた。
セシリアはフローラに向かって。
「一度、ゆっくりお話をしたかったの。有名な公爵令嬢ですもの。貴方は。」
フローラは赤くなって。
「我儘令嬢で有名なのですわ。ローゼン様と強引に婚約してしまいましたし。」
セシリアは楽し気に笑って。
「あれには驚いたわ。でも、最近のローゼンは、昔と比べると表情が柔らかくなった気がするの。特に貴方が一緒にいる時は…以前、婚約発表のパーティで見かけた時は本当に、ローゼンは幸せそうだったわ。」
「有難うございます。そういえば、セシリア様はローゼン様の従妹なのですね。」
「ええ、シュリアーゼ様は私の叔母ですもの。ローゼンは色々あって、なかなか結婚できなかったけど、貴方に知り合えてやっと結婚できそうでよかったわ。」
フローラは思った。
なんていい人なんだろう。セシリア皇太子妃様は。
セシリアは思いついたように。
「貴方にお願いがあるの。」
「何でしょうか?」
「ルディーン・ソナルデを紹介して下さらない?貴方なら、彼から買い物をした事があるでしょう?」
ルディーンっですって???
この間、まさに、薔薇の館で皇太子殿下が、ルディーンを銜えこんでいたって、シルバが責めていた、その相手…
恐らくこれは事実よね。
だって、ユリシーズの性的変態な事や、ローゼン様の素っ裸を見せびらして喜んでいるとか、まさに本当の事でしたもの。
修羅場の予感しかないわ。
フローラは慌てて。
「そ、それ程、親しい訳ではないですわ。王妃様の方が親しいと思いますの。
よくソナルデ商会のジュエリーを着けていらっしゃいますし…王妃様に頼んだ方が」
セシリアがにっこり笑って。
「その橙の宝石の髪飾り、綺麗ね。」
ああああああっーーー。私ったらバカっ。
これ、ソナルデ商会のジュエリーじゃない。
詰んだわ。
通信魔具を取り出して。
「こちら、フローラ。ルディーン・ソナルデ。出なさい。」
通信魔具から、すぐにルディーンの応答があった。
「これはフローラ様。何かご入用な物が?すぐにお持ちしますが。」
「至急、王宮のディオン皇太子殿下の部屋へ転移してきて頂戴。」
「え?」
「セシリア様が貴方と皇太子殿下との浮気についてお話があるそうですわ。」
セシリアがその言葉を聞いて。
「あら、ディオン様。やはり浮気していたのね。」
きゃっーーー。私ったら墓穴をっーーーーー。
魔法陣が現れて、ルディーンが転移してきた。
「お呼びですか?セシリア皇太子妃様。」
セシリアはにっこり笑って。
「どうぞお座りになって。ルディーン。」
フローラの隣に腰かけるルディーン。
セシリアは、侍女に紅茶と苺ケーキを出すように命じながら。
「ところで、ルディーン。ディオン様が貴方と浮気をしていたって本当かしら。
薔薇の館で、ディオン様が貴方にその…足を開いたって。」
ルディーンは出された紅茶を優雅に飲みながら。
「さぁ…薔薇の館って、仮面をつけて楽しむところですから、相手が誰だか解らないんですよ。だから、皇太子殿下だったかと聞かれたら、解らないと答えるしか…」
「貴方は誰だと思ったのかしら?」
「俺は皇太子殿下とそれ程、親しくもないんで、見当がつきませんな。」
フローラは思った。
逃げる逃げるーー。ルディーンったら逃げまくっているわ。
険悪な雰囲気の中、扉が開いてディオン皇太子が入ってきた。
「やっと執務が終わった。これは、フローラ。さっそく来てくれたんだな。
ルディーン。お前も来てくれるとは、何か新しい報告でもあるのか?」
きゃっーーー。すごい悪いタイミングで部屋に入って来たわ。皇太子殿下。
セシリアが立ち上がると、ディオン皇太子の前に立ち、
「私は貴方の正妃です。ですから、他の方と寝るのでしたら、ご報告をお願いしますわ。
把握しておかなければ、なりません。どこの誰といつ寝て、本当に貴方の子供か…貴方の事は全て私に報告して下さいませんと困ります。」
そう言うと、セシリアはぽろぽろと泣きだした。
ディオン皇太子はセシリアを抱き締めて。
「すまん…そうだな…お前に報告をしないとだな…
ルディーン・ソナルデと、一週間位前、薔薇の館で、身体を繋いだ。
軽蔑してくれていい。俺はルディーンに縋った。もう、重荷に耐えられなかった。
本当は、廃嫡をしてもらって、全てを捨てたい。
皆、死ぬ夢を見る…。魔王討伐に失敗して…
国が滅びる夢を見る…。
あまりにも、破天荒の勇者は…、マディニア王国の皇太子は俺には重い。」
ルディーンが立ち上がると、
「勝手にすればいい。俺に縋ったって、何も解決はしない。
廃嫡でも何でもしてもらって、野に下り、国が滅びるのを見るのもまた。一興でしょ?
俺があんたの立場なら、嫌だね。滅びるなら、全力を尽くしてからでないと、納得しない。
全力を尽くして滅びるのなら、諦めもつくだろうよ。」
うんざりしたようにルディーンはフローラに。
「用事は終わったようだ。俺は商用があるんで、失礼しますよ。」
「お待ちなさい。」
セシリアがルディーンの前に行って。
「縋られたのなら、最後まで責任を持ちなさい。」
そして、ディオン皇太子の前に行き、
「ディオン様。ルディーン・ソナルデは貴方の手足となり、死ぬまで尽くしてくれるでしょう。勿論、私も全力で貴方の力になりますわ。
貴方は私がいるから、走る事が出来るといいました。
私は一生貴方の傍におりますから、走って下さいませ。
もし、辛いとお思いになるなら、私もおります。この責任を取って下さると約束してくれたルディーンもおります。ミリオンやローゼンも力になって下さいますでしょう。
ですから、走りましょう。もっともっと、全力で。」
フローラもディオン皇太子の傍に行って。
「私も力になります。魔界の事なら任せて下さい。クロードだって、ユリシーズだって。グリザス様だって力になってくれるわ。一人で抱え込まないで、みんなで抱え込みましょうよ。皇太子殿下は行き先を示してくれればよいのですわ。私達はついていきますから。」
ルディーンは困ったように。
「いつの間にか、責任を取る事になっているんですが…。まぁ、いつか、忠誠を誓った気がしたんで、俺も出来る限り力になりますから…。仕方ないですな。」
ディオン皇太子は、3人に向かって。
「みんな有難う。魔王討伐を、アマルゼの呪いを、全て解決しないとな…」
セシリアに向かって。
「お前は本当に女神だ…。俺には過ぎた妃だな…。有難う。」
強く抱きしめる。
フローラとルディーンはこっそりと、部屋を後にした。
フローラがルディーンに向かって。
「という事は公認の愛人?」
「さぁ…どうでもいいんですけどね…。相手に不足していませんし…
ただ、ディオン皇太子も、セシリア皇太子妃も俺を手放したくないようだ。
それだけ評価が高いって事ですかね。」
そう言うと、魔法陣を展開して、ルディーンは姿を消した。
フローラは思った。
ディオン皇太子殿下を皆で支えて、魔王討伐を頑張ろう。
新たにそう思えるのであった。




