波乱の会議⇒その後にお茶しましたわ。
今現在、第一魔国の片隅で、氷漬けになっている魔王討伐の為に、魔界の魔王達を始め、色々な人達に協力してもらったらどうかという事で、ディオン皇太子は魔界の魔王に、魔王討伐を手伝ってほしい旨の親書を送った。
そうしたら、訓練より先に会談をしないかと、第一魔国の魔王サルダーニャが提案したので、
ディオン皇太子はマディニア国王に了解を取り、とある日、会談が行われる事になったのである。
当日、出席するのは、マディニア国王、ディオン皇太子、フィリップ第二王子、王弟殿下、フォルダン公爵、アイルノーツ公爵、神官長 王族と実力者達である。
魔王側は、第一魔国魔王、サルダーニャ、第二魔国魔王レスティアス、第三魔国魔王シルバ、第五魔国魔王ロッド、そして今まで、影の薄かった第四魔国魔王ティムゼールアウグストスが参加する事になったのである。
サルダーニャは色気のある美女、レスティアスは元宰相で、黒髪長髪の切れ者の美男、
シルバは白銀の長い髪、金色の瞳の美男、ロッドも黒髪長髪の美男である。
そして、今回初めて出て来たティム(長いので省略しよう)は、10歳くらいの幼い金髪の魔族であった。
マディニア王国側と魔王側が向かい合って座り。
それを横側から見る形で前列にローゼン騎士団長、勇者ユリシーズ、フローラ、クロード、前魔王の息子ミリオン。
二列目にグリザス、ツルハ医院長、ザビト総監、聖女リーゼティリア、ルディーン、スーティリア、ゴイル副団長が座り、後ろに近衛騎士30名と、治安隊10名が座って、魔王討伐に関連する人々は全て揃った形になる。
マディニア国王が魔王達に。
「よくぞ、会談に応じてくれた。私がマディニア王国、国王だ。」
サルダーニャが代表して。
「お逢い出来て嬉しく思うぞ。さてと、さっそく魔王討伐の打ち合わせをしようじゃないか。」
その時である。第三魔国魔王のシルバが立ち上がって。
「ちょっと、待ってもらおうか。魔王討伐の中心的役割の聖剣を持つ連中に、問題があるのではないかと思っているのだ。」
ディオン皇太子がその言葉に聞き返す。
「どういう問題があるというのだ?力不足だと言うのか?」
シルバはディオン皇太子を見てニヤリを笑い。
「薔薇の館で男を銜えこんでいるような男が皇太子とは笑わせる。」
ディオン皇太子はフンと笑い。
「とんだ言いがかりだな。身に覚えのない事だ。」
シルバはルディーンに向かって。
「ルディーン。お前が相手をしたのは皇太子では無いのか?」
ルディーンはチラリとシルバを見やり、
「さぁ。暗かったですし…誰だか解りませんでしたねぇ…よくまぁ、俺がそこで遊んでいるのを調べたもんだ。
ディオン皇太子は。
「証拠はあるのか?俺に喧嘩を売るのが、第三魔国のやり方か?」
シルバはチっと舌打ちして。
「それじゃ…勇者ユリシーズ。貴様はアイリーンに性的に痛い事をされて喜ぶ変態らしいな。」
いきなり言われて真っ赤になるユリシーズ。
しかし、立ち上がって。
「証拠はあるんですか?俺は将来、フォルダン公爵になる事を約束されている。
そして、この国の勇者の一人だ。勇者の名を貶める事は、ディオン皇太子殿下の名も貶めている事になります。失礼極まりないのではないですか?」
こちらもしっかりと反論した。
それならばと、シルバはローゼンに向かって。
「ローゼンシュリハルト・フォバッツア公爵、騎士団長でしたな。
貴方はフローラの前で、良く見えるように素っ裸になる事に快感を覚えている変態だという情報があるが。本当ですかな?」
ローゼンは顔色一つ変えず、
「私まで変態扱いとは失礼極まりない。」
「それじゃフローラに聞く。どうなのか?」
フローラは立ち上がって。
「そんな事はございませんわ。ローゼン様は婚約中という事もあり、とても紳士的にふるまって下さいます。言いがかりですわ。」
ものすごく、険悪な雰囲気になった。
皆、黙り込む。
その時に第四魔国の魔王ティムが声を上げた。
「ねぇ。変態さんだっていいんじゃないのー。だって、誰に迷惑かけている訳でもないしさ。
要するに魔王を倒してくれりゃいいって訳。俺的にはさ。」
第五魔国魔王ロッドが長い髪を掻き上げて。
「要するにシルバは主導権をこちらで握りたい訳だと思うが、私はディオン皇太子に主導してもらう方がいいと思う。他の魔王達の意見は如何?」
シルバはロッドを睨みつけて。
「親友だろう?お前は。何故、俺の意見に反対する。」
「お前が主導権を握って上手くいくとは思えない。」
第二魔国魔王レスティアスは、チラリとディオン皇太子を見やり、
「私はシルバの意見に賛成だ。ディオン皇太子が主導にふさわしいとは思えぬ。」
その言葉にフォルダン公爵はレスティアスを睨むも、レスティアスは涼しい顔で知らんぷりする。
魔王達の意見は真っ二つに割れた。
第一魔国魔王サルダーニャは、黒い扇で優雅に扇ぎながら。
「のう、シルバ、レスティアス、マディニア王国側はこれだけの討伐人数を揃えてくれたのじゃ。わらわも、ディオン皇太子に今回は主導を任せてよいと思うぞ。前魔王は今、我が魔導士達が、抑えておるが、復活し暴れ始めたら魔国も地上の人間の国も多大な被害が出る。
なるべく早く討伐をせねばなるまい。」
ディオン皇太子がサルダーニャに礼をいい。
「ありがとう。サルダーニャ殿。だが、討伐は春のアマルゼとマディニア王国の鎮魂祭が終わるまで待ってくれ。そちらの方も厄介でな。アマルゼ王国の死霊たちの怨念を収めねばならん。」
「解っておる。初夏までは魔導士達は抑えられる故、それまで万全の訓練をという事であろう?」
「そうだ。それでは具体的な打ち合わせを始めようではないか。シルバ殿、レスティアス殿。よろしいか?」
ディオン皇太子の言葉に、渋々頷くシルバ。そして知らんぷりのレスティアス。
ディオン皇太子は説明する。
「手元に配った各人の名前と経歴を見て欲しい。
まず、攻撃陣はミリオン、ユリシーズ、グリザス、ザビト。
強化補助要員は、フローラ、クロード。 魔王拘束要員は、この俺と、ローゼン。
怪我人を見るのは神官長、リーゼティリア、ツルハ、他神官を神官長が選別して連れてきてくれるそうだ。強化補助と拘束要員、神官長達を守るのが、ゴイルと近衛騎士30名、治安隊10名
ルディーンとスーティリアは、魔王の気を散らす役目を果たしてもらう。
こちらではこのような感じだが。」
サルダーニャがその説明に。
「業火のサルダーニャと、氷のシルバ…二人は攻撃要員に加わればよいかのう…
探索のロッド。魔王の弱点を探って貰おう。レスティアスはフローラ達の補助、
ティムはディオン皇太子達の補助でよいであろうか?」
ティムはディオン皇太子に。
「俺の強化魔法は一流だよ。小さいからって馬鹿にしないでね。」
ディオン皇太子はティムに向かって。
「期待している。俺とローゼンの魔王拘束要員は負担が高い。助けてくれれば助かる。」
そしてサルダーニャと他の魔王達に。
「ご協力感謝する。皆で、訓練を重ね、魔王を倒そう。」
次の訓練日程を約束し、何とも言えぬ雰囲気の中、会談は終わったのであった。
解散してフローラとクロード、ユリシーズは歩きながら話をしていた。
フローラがふうとため息をついて。
「とんでもない会談でしたわね。ユリシーズ、よくきっぱりと反論できたわ。偉いわ。」
クロードも頷いて。
「ユリシーズ偉いよ。よくやったね。」
ユリシーズは赤くなって。
「そりゃもう、必死だったよ。でも、本当かな…。ディオン皇太子殿下や、その…ローゼン騎士団長の話。」
フローラが赤くなって否定する。
「オホホホホ。違うわよ。貴方だって違うでしょ?ユリシーズ。」
ユリシーズも首をぶんぶん振って。
「勿論だよーー。そんなはずないよ。それが本当だったら変態だよー。」
クロードが呆れて。
「二人とも、本当だって認めているようなもんだよ。俺だって追及はされなかったけど、グリザスさんと付き合っているんだし。人の事言えない…。」
3人とも落ち込んで。
クロードがぽつりと。
「まともなのはミリオンだけか?」
フローラが遠い目をして。
「あの人が一番、危なく見えたのですけど…まともだったのね。」
3人が話をしていると、シルバが近づいてきて。
「クロード久しぶりだな。フローラ、調子に乗るなよ。お前なぞ突き落としてやる。」
フローラはシルバに向かって。
「マリアンヌ様に言い付けますわ。シルバに虐められているって。」
マリアンヌのシルバは婚約者なのだ。
「マリアンヌとて、父親の王弟殿下がアイルノーツ公爵派だ。本来ならお前とは敵対しなければならぬ立場だが?いつぞやのパーティでは何故かお前を庇っていた。いや、前の婚約者ローゼンへの未練か?ローゼンが破滅するのをヨシとしなかったのか。ふん。面白くない事だ。」
フローラは拳を握り締め。
「友情ですわ。私を友情から庇って下さったのですわ。」
「友情?婚約者を奪い取った女との友情等ありえぬ。」
二人が言い争いをしていると、廊下の奥からマリアンヌが優雅に歩いてきた。
「シルバ様、お迎えに参りましたわ。一緒にお茶でも。あら、フローラ、貴方も一緒にお茶でも如何?」
フローラはマリアンヌの姿を見つけると嬉しそうに。
「マリアンヌ様。貴方と私は熱い友情で結ばれているのですよね?」
「ええ?いつの間にそんな事になっていたのかしら。まぁよいお友達になれそうとは以前言いましたけれど。」
シルバがマリアンヌの手を取って。
「フォルダン公爵家の没落を願っているのだろう?君の父上も、その周りの派閥も。
何故、親しくしている?」
マリアンヌはきっぱりと。
「王立学園の生徒だからですわ。今は学びの時、色々な方と知り合って見聞を広げる時ですから。まぁ、フローラ、貴方の事は、嫌いではなくてよ。一時は憎んだけど、今はシルバ様がいるから…どうでもいいわ。」
フローラは頭を下げて。
「ごめんなさい。私。酷い事をしたのね。」
「今更気が付いたの?まったくあんたって、本当に自分本位の我儘令嬢なのね。」
マリアンヌはフローラの顔を優しく見つめて。
「正直な話、私は派閥などどうでもいいの。ですから、フォルダン公爵家に没落してほしくないわ。これからも仲良くしてほしいのよ。フローラ。」
「マリアンヌ様。」
シルバも、そしてその近くで様子を見ていたクロードとユリシーズも入り込めない友情世界である。
マリアンヌがシルバと腕を組んで。
「それでは参りましょう。シルバ様。皆さんも一緒にお茶しましょう。」
シルバは嬉しそうに。
「ああ。愛しのマリアンヌ。」
クロードがシルバに。
「何だよ。お前。デレデレだな。」
「うるさい。そういえば、クロード。お前、死霊の男が恋人だろう?詳しく聞かせろ。」
「嫌だよ。変態だって暴露されちゃうよ。皆の前で俺まで。」
シルバはきっぱりと。
「お前の事を言わなかったのは、お前が変態だって既に広まっているからだ。」
「酷いな。それって…」
ユリシーズがフローラに。
「クロードってシルバと仲がいいんだね。」
「魔国の王族って結構、顔なじみなのよ。」
王宮の一室に広い客間があり、そこの6人掛けのソファに座り、メイドに頼めば、紅茶や珈琲、焼き菓子などを出してくれる。
5人は腰を掛けると、メイドが持ってきた珈琲や紅茶を飲みながら、焼き菓子を摘み、
シルバがクロードに。
「お前、何で男に走った?アイリーンが怒りまくって大変だったと聞いたぞ。」
「うううん。200年間洞窟に閉じ込められて戻って来た死霊の黒騎士の面倒をディオン皇太子殿下に見ろって命令されてさ。何だかんだ面倒を見ていて気が付いたら好きになっていたんだ。見かけは不気味な黒騎士だけど、凄く可愛いんだ。もう。愛しくて愛しくてたまらない。」
フローラも頷いて。
「あの方。とても可愛いですわ。クロードが夢中になる気持ち解りますわ。」
マリアンヌが驚いて。
「そういう世界もあるのね。黒騎士の死霊が可愛いだなんて…私には理解できないわ。」
シルバはマリアンヌの手の甲にチュッとキスを落として。
「何者にも君の美しさには叶わない。マリアンヌ。」
フローラが聞いてみる。
「お二人はどこでお知り合いになったのです?」
マリアンヌが思い出すように。
「私が夜に庭の薔薇園で散歩をしていた時に、シルバ様が舞い降りてきて。
薔薇の話で意気投合したのよ。」
シルバも金色の瞳を細めながら。
「何とも美しい薔薇と美しい令嬢の取り合わせ…。たまらない魅力で。俺はもう、心を射抜かれた。」
クロードが珈琲を飲みながら。
「はいはい。良かったねーー。シルバ。昔からロマンチストだからね。」
「お前のそういう所、好きではない。もっと心を込めてだな。」
そう怒ってから、シルバはユリシーズに。
「それで、新しい生贄がユリシーズって訳だな…変態調教されて気の毒に。」
ユリシーズは首をぶんぶん振って。
「それは誤解だって。俺は変態調教されてないっ。」
シルバはふふんと笑って。
「調べはついている事だ。魔界の王族を舐めるなよ。具体的に今、話してやろうか?御令嬢がいる前で。」
クロードが真っ赤になるユリシーズを庇って。
「いくら本当の事だからって、言うなよ。可哀想だろ?」
「俺は主導権を握りたい。魔国でも、このマディニア王国でも。」
クロードはニンマリ笑って。
「姉上から主導権奪うの難しいよねーー。ディオン皇太子殿下から魔王討伐の主導権を得て、それに乗じて、徐々に主導権を得て行こうとしたのか。」
シルバはハァとため息をついて。
「サルダーニャは強敵だからな…。ディオン皇太子も…。そしてフォルダン公爵もだ。なぁに。俺は必ず野望は果たす。邪魔するなよ。」
クロードは間髪入れず、
「邪魔するよ。俺はフォルダン公爵のバックアップを受ける事に再びなったから。
騎士団で出世する予定だし。騎士団で出世してグリザスさんと良い家庭を作るんだ。」
「この変態が…。」
フローラも紅茶を楽しみながら、にっこり笑い。
「お父様を陥れようとするのなら、私、全力で敵対しますわ。シルバ。幸い、マリアンヌ様は味方ですし。」
マリアンヌはシルバの手を取って。
「強い貴方は好きですわ。でも…大事な友達のフローラを困らせる事はおやめになって。」
シルバは頭を抱え。
「ああああ…愛しのマリアンヌ。君は罪な女性だ。何故、俺の野望を邪魔する…。
悩み過ぎて、夜も眠れなくなりそうだ。」
クロードがシルバに向かって。
「眠れないのなら、夜も仕事したら?魔王なんだしさ。」
シルバは真顔で。
「そういう所、嫌いだ。クロード。」
ユリシーズは焼き菓子を食べながら。
「このお菓子美味しいね。」
シルバはユリシーズに向かって指を突き付け。
「変態の勇者2人も追い落としてやる。」
今度はフローラがしょんぼりするユリシーズを庇って。
「可哀想でしょ。どうして、こんな可愛い子を虐めるの?」
マリアンヌがユリシーズをマジマジと見つめ。
「貴方。本当に勇者なの?女の子の格好させたらきっと可愛いと思うわ。」
フローラも頷いて。
「そうね。背も低いし、顔も幼いし絶対に可愛いと思うわ。私も。」
マリアンヌとフローラは、がしっとユリシーズを両側から抱えて、
「参りましょう。ユリシーズ。」
「可愛くして差し上げますわ。」
拉致して、姿を消してしまった。
残されたクロードとシルバ。
クロードがポツリと。
「何が起こったんだ??一体全体。」
シルバも唖然として。
「さぁ…俺に聞かれても。女性の心は今一、理解できん。」
しばらくすると、一人の可愛いメイドの女の子を連れて、フローラとマリアンヌは戻ってきた。
ほんにうっすらと化粧を施されたユリシーズは元々あった幼い顔にメイド服が似合って、凄く可愛い。
クロードがユリシーズの顔をまじまじと見やり。
「凄く可愛い。騎士団見習い達に見せたら、喜ぶだろうな。」
シルバも頷いて。
「勇者にしておくのもったいない。いっそ、女の子に転身したらどうだ?」
ユリシーズは泣きだして。
「俺、恥ずかしいよ。やだっーーー。」
その姿のまま走り去ってしまった。
フローラが困ったように。
「ちょっと悪乗りしすぎてしまったわ。」
マリアンヌも同意して。
「そうね…でも。あんな可愛い子、なかなかいないわよ。」
その頃、泣きながら走り去ったユリシーズは、廊下で思いっきり転んでしまった。
「大丈夫か?」
腕を取って起こしてくれたのは、ゴイル副団長、独身、30歳。ローゼンと違ってこちらはプロの女性と適当に遊んでいるオッサンである。
ユリシーズの可愛さに一目惚れしてしまった。
「このような可愛らしい王宮メイドがいたとは。名前は? 俺はゴイル・シャルマン。騎士団の副団長だ。」
ユリシーズは思った。自分に気が付いていないのか??騎士団の見習いの授業に出た事があるのに??
された化粧が上手くて解らないのだろう。ともかく逃げなくてはと思い。
「ユリーナですっ。失礼しますっ。」
走り出そうとして再びコケてしまった。
ガシっとお姫様抱っこされる。ゴイル副団長は顔を近づけて。
「ユリーナ殿。どうかこの俺とお付き合いをっ。」
展開早すぎるよーーー。
ユリシーズは真面目な顔をして。
「す、すみません。俺、婚約者いるし、もうすぐお父さんになるんで。ごめんなさいっ。」
ゴイル副団長は驚いてユリシーズを落としそうになり、再びガシっと抱き上げたまま。
「お前、ユリシーズか???」
「すみませんっ。」
そっと地面に降ろして。
ユリシーズは頭をぺこっと下げて。
「女の子の格好を、フローラ達に…本当にごめんなさい。」
ゴイル副団長はハハハと笑って。
「女装が似合っているぞ。ユリシーズ。騙されたわ。」
ユリシーズは恥ずかしくなって。
「失礼しますっ。」
再び駆け出した。
廊下の角を曲がったところで、勢いよく人とぶつかった。
「ごめんなさいっ。」
見上げればミリオンである。
ミリオンは驚いたようにユリシーズの姿を見て。
「えらい可愛い子だな…どうよ。俺とお茶しねぇ?怖がらなくてもいい。
いきなり襲ったりしねぇからさ。まずはお互いにじっくりと仲良くなってから。」
ユリシーズはミリオンに抱き着いて泣き出した。
「俺って俺ってそんなに女の子に見えますか?いつも勇者に見られないし…もう、嫌だ。」
ミリオンは驚いたように。
「へ???ユリシーズなのか?どうしてそんな可愛い恰好しているんだ?」
「フローラ達に女装をっ…。」
ユリシーズはミリオンに頼んで、服を取ってきてもらい、なんとか元の男の姿に戻ったのであった。
2人の男に付き合いを申し込まれたショックが大きかったのは言うまでもない。
王宮でフローラはクロード達と別れてディオン皇太子に用があると言っていた、ローゼンの姿を探した。
ローゼンが部屋から出て来た所でばったりと会ったので、少し王宮の客間でお茶する事にした。
フローラが再び紅茶を飲みながら。
「今日は大変な一日でしたわね…」
ローゼンは頷いて。
「何はともあれ、訓練が出来るのだ。皇太子殿下は喜んでいたぞ。」
こうしている間にも、通りかかるメイド達や貴族の女性の視線が、ローゼンに注がれる。
国一番の美男なのだ。あまりにも優秀なので、男性からはそのうち失墜するさと妬みのあまり傾国の美女とか悪口を言う者もいた。
女性からは、婚約者がいるのにも関わらず手紙やら、夜のお誘いやら相変わらず自宅や騎士団事務所に送られてくる。
「ローゼンシュリハルト様だわ。」
「何てお美しい。」
「一緒にいるのはフォルダン公爵令嬢。」
「幼い感じですわね。」
「わたくしの方が余程ふさわしいのに。」
「あああ、本当に目の保養ですわ。」
王宮に来ている貴族の令嬢達のひそひそ話が聞こえてくる。
王宮には王立図書館とかあるので、一部、出入りは自由なのだ。
広い客間では何客も席があり、お茶菓子を楽しみ、他の人達との交流も出来る。
ローゼンが立ち上がって。
「どうしても目立ってしまうな…帰ろうか?フローラ。」
「ええ。ローゼン様。」
廊下を歩くときに、そっとその手に触れる。
ローゼンも手を握り締めてくれた。
「今夜、お伺いしていいですか?ローゼン様。」
聞いてみれば、ローゼンは頷いて。
「かまわない。共に食事をしよう。」
ローゼンとの仲良さを見せびらかして、優越感に浸る。
嫉妬に満ちた視線が気持ちいい。
ああ…なんて幸せなのからしら。
私は世界で一番幸せものだわ。
幸せに感謝しながら、廊下をローゼンと仲良く歩くフローラであった。




