朝のローゼン様の…素敵ですわ。
翌日の朝、目が覚めると、ローゼンはフローラの横で眠っていた。
額に手を当てると、熱は下がったようだ。
ローゼンがフローラの起きる気配で目を覚ましたようで。
「おはよう。フローラ。仕事に行きたいが、まだ、頭が痛い。」
「無理をなさらずに、お休みなさったら?ローゼン様。」
ベットから出ようとしたら、腕を掴まれて。
「もう少し…傍にいてくれ…。」
「ええ…。いいですわ。」
ローゼンの横に再び潜り込む。
ローゼンはフローラに向かって、
「君は私といて、つまらないだろう?」
と、突然言い出した。
フローラは驚いて。
「何をおっしゃっているのです?」
「私は…話題が豊富という訳でもない。洒落た会話も出来ない。つい小言が多くなる。
趣味一つ持っている訳でもない。」
フローラはローゼンの髪を優しく指先で撫でながら。
「それでは私がお話しますから、ローゼン様は聞いていてくれますか?でもその前に、何か食べた方がいいと思うの。お薬も飲まないといけないわ。」
ベットから下りると、フローラは部屋の外へ出て、メイド長に頼んで用意して貰い、薬と食べやすい柔らかいパンと、スープをトレイに乗せて持ってきた。
部屋へ戻ってみれば、ローゼンは起き上がり、部屋にある椅子に座って待っていた。
「有難う。フローラ。君も一緒に朝食を食べよう。」
二人で夜着姿のまま、朝食を食べる。
ローゼンはフローラに。
「ディオン皇太子殿下も体調が悪いらしい。」
「あの方、凄く頑丈そうに見えましたけど、体調が悪いんですか?」
「忙しかったから疲れが出たのだろう。」
「それでは第二回の魔王討伐訓練は出来ませんですわね。」
ローゼンはパンを食べながら頷いて。
「あの方が中心だから、仕方あるまい。私としては、助かっているが。
今、訓練となると、かなり辛い。」
フローラは、スープを飲んでから。
「そういえば、皇太子殿下とローゼン様の聖剣の担当、負担高いですよね。
どうするのですか?」
魔王が動かないように、拘束するのが、ディオン皇太子と、ローゼンなのだが、凄く体力を使うのだ。
「魔国の魔王の誰かに、手伝ってもらうしかあるまい。私達だけでは力不足だ。ああ…つい、真面目な話をしてしまったな…」
「いえ、私が魔王討伐訓練の事を聞いたのですわ。
そういえば、この間、面白い事がありましたの。グリザス様にギルバート様を連れ出して欲しいって言ったら、ギルバート様を脇に抱えて、カフェに走ってきてくれたのですわ。ギルバート様は真っ青で、もう、笑いをこらえて、演技するのが大変でした。」
「何故、連れ出す必要があったのかね?」
「ギルバート様とマギー・エステル伯爵令嬢、私のお友達の恋を実らせる為ですわ。
フィリップ第二王子殿下も、ソフィア・アルバイン伯爵令嬢と無事婚約出来ましたし、私、お友達が幸せになるのが嬉しくて。」
ローゼンは急に黙り込んでしまった。
フローラがローゼンの顔を見つめながら。
「どうなさったのですか?ローゼン様。」
「私には友がいないから、君の気持ちが良く解らない。」
フローラは真面目な顔で。
「最近、ふと思いましたの。ローゼン様にお友達が出来るといいと私、言いましたわ。でも、
クロードみたいに男に走ってしまったら、困りますから。
だって、ローゼン様、とても綺麗なんですもの。無理してお友達を作って、真実の愛とか言い始めたら、私…」
ローゼンは困ったように。
「君は私の事を美しいと言ってくれる。私も自覚はある…。だが、この美しさとて、歳を取れば衰えていく。それでも君は私の傍にいてくれるのか?」
フローラはローゼンの顔を正面から見つめ。
「お父様みたいに渋みが出てくるのもいいですわ。男の色気が増すのも最高です。
それに私も歳を取ります。お互い様ですわ。」
立ち上がるとフローラは、座っているローゼンの頬を優しく撫でて。
「昨日は暗くて…もっと明るい所で見たいわ…」
「な、何をだ?フローラ。」
ふわっとフローラの金の髪が広がる。羊の角が頭に現れた。
「ローゼン様の裸…」
ローゼンの耳元で囁く。
「ねぇ…お願い。貴方の裸が見たいの。」
橙の花びらが、ふわりと舞って、ローゼンの身体に吸い込まれていく。
ローゼンは立ち上がると、うっとりした表情で、フローラの唇にキスを落として。
「おおせのままに…」
どうも、脱ぐのが気に入ったようで、パラリと夜着を脱ぎ、下着も脱ぐと、全裸で窓際に行き、大きめの窓の傍に立って、カーテンを一気に開けた。
朝日が差し込んで、ローゼンの鍛え抜かれた美しい裸体をはっきりと映し出す。
ローゼンはフローラの方に身体を向けて。
「君の目にしっかりと焼き付けておいてくれ…。歳を取れば取るだけ、衰えてしまう身体だ。
今の私を見ておいて欲しい…」
しばらくの間、窓にもたれかかるように背を預け、フローラを気だるげに見つめ、
そして、身体の向きを窓の方に向けて、綺麗な背から尻、そして足まで見えるようにフローラに向けた。
横顔が見えるが、その表情が色っぽくて。
「明るい所で見るローゼン様の裸…昨日以上に美しいですわ。」
うっとりとフローラが眺めていたその時である。
コンコンとノックの音がして、メイド長が失礼しますと入ってきた。
メイド長はどうぞの返答が無い場合でも、入室を許可されていた。
中で具合の悪いローゼンが倒れていては大変だからである。
そして、素っ裸で窓際にいたご主人様の姿に、凄く驚いた。
しかし、さすがメイド長、顔色一つ変えず。
「ローゼン様。食器を片付けに参りました。片付けてよろしいでしょうか?」
ローゼンも平然と返事する。
「片付けてくれ。」
そして、脱いでいた夜着を再び纏い、下着を着けると、ベットに腰かける。
フローラも、元の人間の姿に戻り、椅子に腰かけて。
ともかく、また、魅了を解かなければ。
メイド長が出ていった後、魅了を解いてみる。
ローゼンは、何事もなかったかのように。
「もう少し寝るから、君は帰ってくれてかまわない。」
「今日は怒りませんの?」
「あんなに喜んで脱いだ自分を差し置いて、怒る気になれん。
ただ、頼むから、人前でその命令をしないでほしい。フォバッツア公爵としても、騎士団長としての私が終わる…」
「勿論、そんな事しませんわ。大丈夫ですから。ローゼン様。」
フローラは慌てる。
人が沢山いる前で、いきなり脱いで全裸になるローゼン様。怖すぎる。
ローゼンは立ち上がり、椅子に座るフローラの傍に来て、その顔を覗き込み。
「メイド長は口外しないだろうが、このことは、私と君との秘密だ。いいかね?」
フローラは頷いた。
「ああ、でも、ローゼン様ってやはり露出するのが好きだったなんて…
ストレスが溜まっていたのかしら…」
フローラがそう言うと、ローゼンは落ち込んだように。
「私の立場はストレスが多い。こんな形で解放感を感じてしまうとは。」
「魅了を使われなくても、脱いでくださってかまいませんわ。勿論、二人きりの時に。」
「いやその…全裸を君に見せて興奮するのって変態だろう?はっきり言って。私は自ら変態になりたくない。
それに、もう魅了も使わないで欲しい。二度と、脱ぐつもりはない。」
ローゼンは断言すると、ベットに戻って、毛布に潜り込んだ。
フローラは謝る。
「ごめんさない、だって、あまりにもローゼン様が色っぽくて、ドキドキしてしまったから。
裸を見たくなったのですわ。ローゼン様がいけないのですから、責任を取って下さいませ。」
「ちょっと待ってくれ。謝っていないぞ、確実に。それは…。」
フローラはローゼンの毛布をめくり、夜着の前をはだける。
ローゼンは驚いたように目を見開いた。
その顔に顔を近づけて、フローラはにっこり笑い、
「これからも、見せて下さいね。これはお願いよ。」
フローラは、初めて、ローゼンの魂に触れた。
金色に輝く、高貴な魂。
ああ…この人は魂までも綺麗でプライドが高いのね。
その魂をそっと撫でてみる。
優しく優しく愛撫した。
ローゼンはうっとりした表情をして。
「いくらでも…。君の為なら、私は全裸になる。愛しいフローラ。
愛しているよ。」
「いい子ね…ローゼン様。」
その頬を優しく撫でて、そっと口づけを唇に落とす。
そんな雪が降っている冬の朝だった。




