ああ、やはり私も魔族なのね…貴方を支配したいですわ。
聖女様の名で国民にお触れが出た。
この春、マディニア王国とアマルゼ王国共同の過去に戦で亡くなった戦士たちの鎮魂祭をやる事になりました。。
それに伴い、そこに飾る花を作るボランティアを募集するので、是非皆さん、参加して下さいね。
フローラとマギーは、近くにある会館で、花づくりをやる事にした。
王立学園の生徒も率先してやるように、先生に言われているからである。
王立学園の生徒だけでなく、大勢の民衆が集まって、ワイワイ、騒ぎながら花づくりをしている。
小雪が降る中、窓の外をふと見ればユリシーズが木箱の上に立って、叫んでいた。
「花づくりのボランティアをよろしくお願いしますっーー。」
この会館に入る時には彼、いなかったけど、フローラはとりあえず、ユリシーズの所へ行ってみる。
フローラはユリシーズの姿を見て近寄ってみれば。
「あ、フローラ。俺も少しは役に立ちたくて。」
今、フォルダン公爵家で一緒に暮らしていて、朝、食事をした時は何も言っていなかったのに。
それに、この男が30年前の勇者ユリシーズだと、人々は解っていないみたいだった。
銅像はこのマディニア王国にもあるが、本人に今一、似ていない。
絵本とか、書物とかに出てくるくらいの有名人なのだが、正確な顔が記載されていないのだ。
ユリシーズ自身、背があまり高くなく、顔もその辺に転がっているような地味な青年である。
ディオン皇太子殿下のように、はっきりとした痣があるわけではなく、
今、木箱に乗って叫んでいるユリシーズ自身も、ただのボランティアの呼び込みという感じで、名乗ってもいなかった。
フローラはユリシーズに。
「あまり無理をしてはいけないわ。身体だって完璧ではないでしょう?」
ユリシーズはにこにこして。
「大丈夫。俺、お父さんになるんだから、頑張らないとね。」
再び呼び込みを続けるユリシーズを見て、フローラは、ちょっと心配した。
そういえば、ローゼン様も働きすぎよね…。
マギーに断って、フローラはちょっと騎士団事務所に行ってみることにした。
ここから、事務所までは近いのだ。
騎士団事務所に行けば、レリッタという女性事務員が、
「これはフォルダン公爵令嬢様。ローゼン騎士団長は今日は休んでおります。
御存じなかったのですか?」
と、ちょっと意地悪そうに言ってきた。
フローラは驚く。聞いていなかったからだ。
「確かめてみます。」
外に出ると携帯用の転移鏡を取り出し、展開する
ローゼンの屋敷の転移鏡を置いてある部屋へ転移した。
コンコンとローゼンの部屋の扉を叩いてみる。
中からメイド長が顔を出した。
「これはフローラ様。御主人様は熱が出て休んでおられます。」
「まぁ。心配だわ。私が看病して構わないかしら。」
「よろしくお願いします。お薬は飲ませてありますので。」
メイドを仕切るメイド長はある程度、歳が行っている中年だ。
若いメイドが看病して、間違いとか起きないように監視しているのだろう。
フローラがベットの傍に近づくと、ローゼンはフローラを見つめ。
「近寄らないでくれ。昨夜から風呂に入っていない…。」
「看病しに来たのですわ。」
傍に近寄って、額のタオルを手にとり、洗面器で濡らし、再びローゼンの額に乗せる。
ローゼンは瞼を瞑りながら。
「私は駄目だな…ちょっと無理をするとすぐ身体に来る…。」
「働きすぎなのですわ。ローゼン様。」
その手を握り締める。
メイド長が失礼しますと、部屋に入ってきて。
「お着替えをお持ちしました。」
「ありがとう。自分で着替えるから、置いておいてくれ。」
熱で顔が幾分か赤い…
そして、色気がいつもの二倍増しで、フローラはドキドキする。
ああ…でも気を付けないと…この間みたいに押し倒されてしまうわ。
でも、ローゼン様の裸…見て見たい。
あら…何かしら。この感覚…。
コノヒトヲシハイシタイ…
ユリシーズの魂に隷属をかけたアイリーン。
グリザスの魂に自分の魂を分割し、憑依させたクロード。
魅了は使ってはいけないけれど、ああ、ちょっとだけ…
魂を支配していいかしら。
フローラは束ねていた三つ編みを解き、角を生やして、耳を尖らせ、魔族の姿に戻る。
ローゼンの傍に行くと、そっと耳元で囁いた。
「お願い。ローゼン様。着替えて欲しいの。私の前で…」
橙の花びらがパァっと、フローラから巻き上がり、ローゼンへと吸い込まれていった。
「着替えればいいのか?」
「できれば、貴方の裸を見たいわ。ねぇ。お願い。愛しのローゼン様。」
「解った。」
ローゼンは身を起こす。
纏っていた夜着を脱ぐと、熱で汗ばんでいる、逞しい身体が晒された。
「これではよく見えないだろう?」
下着もするりと脱いで、全裸になると、ベットに再び横たわり、フローラの方を見つめ。
「どうだ?見せたぞ。気が済んだか?フローラ。」
灯りに照らされた、ぞっとする程の色気と、美しい身体。
逞しい胸から…腰…そして、その下の…腿も引き締まっており、
完全な美を備えていた。
青い瞳がじっとフローラを見つめる。
フローラは急に気恥ずかしくなって。
「も、もういいわ。服を着て頂戴。」
真っ赤になって両手で顔を隠す。
ローゼンはフローラに近づいて、その顔を覗き込み。
「脱げって言ったのは君だ。他に要望はないのか?」
フローラは隠していた両手を外せば、間近にローゼンの顔があり。
「近いですわ。ローゼン様。」
フローラの唇にチュっと軽くローゼンはキスを落とすと、
ベットから降りて。
「背中から…足元まで…上から下まで…じっくり見てくれ。」
フローラに背を向ける。
金の髪が背に掛かり、背から尻にかけての綺麗な筋肉が…
魅了が強すぎたのかしら…。とりあえず、褒めてあげないと…
フローラはにっこり笑って。
「とても素敵ですわ。ローゼン様。美しくて目の保養です。」
こちらへ身体を向けてローゼンは微笑む。
「有難う。フローラに褒められて私は嬉しい…」
そして、急に気分悪そうに膝をついた。
しまった。病人だったわ。
「ローゼン様、早く寝て下さい。病人でしょう?」
「そうだな…」
着替えの夜着を羽織り、下着を着けると、ローゼンはベットに潜った。
そして、フローラに向かって。
「すまないが…身体を拭くのを手伝ってくれないか?自分で拭くから、洗面器を持ってきてくれ。」
フローラが慌てて。
「解りましたわ。」
ローゼンは辛そうに身を起こすと、フローラに渡された濡れたタオルで、自らの身体を拭き始めた。
フローラは魅了を解かないと…と思っているのだが、どのタイミングで解けばいいのよと、迷っていた。
タオルを渡され、何度か濡らして絞ってローゼンに渡す。
ローゼンは身体を拭き終わると、疲れたように瞼を瞑り。
眠そうにしていたので、
今でしょ。今…。
フローラは魅了を解く。しかし、フローラは忘れていた。
魅了を解いても、やられた事の記憶が残る事を。
そして、魅了を解いてから気が付いた。
「私ったらバカバカ。もっと記憶の残らない方法、なかったのかしら。
例えば、魂の…ああ、勉強不足だわ。」
「フローラ。」
ふと、ベットの上のローゼンを見て見れば、
ローゼンに睨まれていた。
「ごめんなさいっ。わ、忘れますっ。見た事…だ、大丈夫ですから。」
「どこが大丈夫なんだ?それに、全裸で君に見られて私は凄く気持ちよかったんだが…
魅了のせいなのか?それとも私がへ…ああ、考えたくもない。」
「決して、ローゼン様は実は露出狂だったとか、変態だったとか、思ってもいませんわ。本当に本当に思っていませんわ。」
「なんだか、余計に具合が悪くなってきた。」
「お詫びに添い寝して差し上げますから。胸枕お好きでしょう?」
ローゼンは疲れたように瞼を瞑り。
「よろしく頼む…一緒に添い寝してくれ。」
フローラは転移鏡で、急いで屋敷に戻り、夜着に着替える。
ベットに潜り込んで、ローゼンの顔を自分の胸の傍に寄せた。
甘えるように顔をフローラの胸に擦り付けるローゼン。
優しくその金の髪を撫でてあげた。
私もやはり支配したい魔族なのね…。
もっともっと…貴方の全てが見たい…
そっとその耳元で囁く。
「ねぇ…ローゼン様。愛しておりますわ。もっともっと恥ずかしい姿、見せて下さいませ。」
ローゼンはぎょっとしたように、フローラの顔を見た。
そして、フローラの手の甲にキスを落として。
「おおせのままに…私はユリシーズのように、逃げたりはしない。
フローラ。私の全ては君の物だ。
だが、忘れないでほしい…君の全ても私の物だということを。」
ああ…凄く綺麗な宝石のよう…。美しいだけでなくて高いそのプライド。
とてもゾクゾクしてしまいますわ。
フローラは再び、魔族姿になって、愛し気にローゼンの頬を撫でるのであった。
もう。決して離さないわ…愛しのローゼン様。




