我儘令嬢フローラ、大活躍します。主役は私のはずよ。
アイリーンとユリシーズはディオン皇太子の王宮の部屋に出現した。
アイリーンは物凄い憎悪の目で、ディオン皇太子とフローラを睨みつける。
ローゼンはフローラを庇うように後ろに下がらせて。
ディオン皇太子は聖剣を構える。
ふと、ユリシーズが腿に怪我を負っているのに気が付いた。
「ユリシーズ。大丈夫か?目を覚ませ。」
ユリシーズは聖剣を構えて。
「俺は、アイリーンを守らないといけない。守ったら、ご褒美に痛い事、沢山してくれるって…ああ、違う。嫌だっ…。」
ディオン皇太子は叫ぶ。
「お前は勇者だろう。アイリーンの支配なんかに、負けるな。そして俺も勇者だ。邪悪の根源、アイリーン。お前を成敗する。」
フローラが叫ぶ。
「皇太子殿下っ。お願いですから。お姉様の命だけは…」
ローゼンが聖剣に力を込める。
そこから金色の網が飛び出した。
そしてアイリーンとユリシーズに絡みつく。
アイリーンが叫ぶ。
「何、これ。許せない。」
邪悪な先の尖った触手が数本、ディオン皇太子を襲った。
全て聖剣で叩き落とす。
「目に目を。歯には歯をだ。」
部屋の床を突き破り、数本の太いツタがアイリーンに襲い掛かる。
網の中でユリシーズがアイリーンを庇った。
ツタは金色の網と同様、二人に絡みついて、身動きを取れなくした。
ディオン皇太子がアイリーンに向かって。
「再びお前を第二魔国の牢獄へ送る。大事な我が国の騎士達に対して殺人未遂の罪は重い。ただし、処分はフォルダン公爵に任せる。そして、第一魔国の王族であるクロードが絡んだ事件だ。サルダーニャ殿も、黙ってはいないだろう。」
アイリーンは憎々しげに。
「ユリシーズはもう、私の物だわ。隷属の魔法は一生取れない。いい気味よ。アハハハハハハ。」
ユリシーズはアイリーンを抱き締めて。
「ごめんね。アイリーン。俺が君を狂わせてしまったんだ。俺がもっとしっかりしてれば、
本当にごめん…。もし、生きられるのなら、結婚しよう。牢の中でもいい。俺は君と夫婦になって、一生傍にいるよ。」
そして、ディオン皇太子に向かって。
「俺は正常です。ううん…完全ではないけれど。きっと魂も真っ黒で、ボロボロなんだと思う。でも…アイリーンと結婚したい。その気持ちは本当です。俺は勇者としてアイリーンを守ります。今度こそ。」
アイリーンは、ユリシーズに抱き着いて。
「私は罪人よ。恐ろしい女よ。いいの?ユリシーズ。」
「いいよ。結婚しよう。牢の中で一緒に暮らそう。俺、痛くされてもいいよ。
いやその、痛いのは嫌だけど。君の傍にいたい。
楽しく過ごそう。色々と話をしてさ。一からやり直そう。」
フローラがユリシーズに向かって。
「お姉様をよろしくお願いしますわ。まずは貴方の怪我の手当てをしましょう。」
そっと近づくと、網の隙間から手を伸ばし、フローラはユリシーズの腿の部分を布で縛って、血を止めて。
「後でしっかりと治療を受けて下さいね。」
「有難う。フローラ。」
ユリシーズは礼を言う。
フォルダン公爵が魔法陣で転移してきた。
金の網とツタでがんじがらめになっているアイリーンとユリシーズを見て、
ディオン皇太子に向かって。
「我が娘が迷惑をかけて申し訳ありません。魔界の牢獄に再び連れて帰ります。」
それに対してディオン皇太子は。
「クロードとグリザスはどうだ?傷は大丈夫か?」
「はい。神官長様と、聖女様達が助けてくれました。命は大丈夫です。」
ユリシーズは安堵したように。
「良かった。本当に…。」
アイリーンは黙り込んでいる。
ディオン皇太子はフォルダン公爵に。
「今回の我が国の騎士達に対する殺人未遂、処分はフォルダン公爵に任せる。サルダーニャ殿と協議して決めて欲しい。」
フローラがディオン皇太子の前に進み出て。
「お願いがあります。お姉様の処分、襲われたクロードとグリザス様に一任出来ないでしょうか?」
ディオン皇太子はチラリとフローラを見やり。
「何か考えがありそうだな。」
「ええ、考えがあります。お父様もお願い。」
フォルダン公爵はフローラに向かって。
「皇太子殿下が許可すれば、私としては構わない。サルダーニャは説得しよう。」
ディオン皇太子は断言する。
「許可する。襲われた本人に今回は処分を一任しよう。」
「有難うございます。」
フローラはスカートの裾を両手で摘み、優雅に礼をする。
そして、アイリーンとユリシーズはフォルダン公爵により、魔界の第二魔国の牢獄へと再び、移送された。
それから数日後のことである。
第二魔国、魔王城の牢獄で、アイリーンとユリシーズは過ごしていた。
隣の牢で、互いの間は鉄格子で仕切られている。
罪人なのだから、本来、薄い布団に、衝立のないトイレや風呂とかのはずなのだが、
二人の牢は、ベットが置かれ、衝立がある風呂とトイレ、あったかいストーブ、白いテーブルと椅子があり、至れり尽くせりの過ごしやすい牢内環境にあった。
ユリシーズは結婚して一緒に過ごしたいっていったけど、
アイリーンの処分もまだ決まっていない。
だが、ユリシーズ自身は、アイリーンに操られていて、アイリーンがクロード達を襲った時に庇ったって事で、支配の状態を見て、牢から出られる事になっていた。
今は様子見である。
ユリシーズは床に座って、隣の牢のアイリーンと話をしていた。
アイリーンは温かなクッションを床に置いて、こちらも楽しそうにユリシーズに話を強請る。
アイリーンがユリシーズに話しかける。
「ねぇ。それでそれで?貴方が最初に魔王を倒した話を聞かせて欲しいわ。」
ユリシーズは懐かしむように。
「シュリアーゼに結婚を申し込んだら。シュリアーゼって、今はローゼン騎士団長のお母さんだけど。思いっきり頬を引っ張だかれた。リリアにも睨まれたんだ。だって、俺さ。結婚したかったんだよ。リリアはちっとも結婚してくれなかったし、じいちゃんに嫁見つけてくるって約束していてさ。懐かしいなぁ。」
「ちょっと。魔王を倒した話はどこへいったのよ。シュリアーゼにビンタされた話なんて、聞いていないわ。」
そう言うとアイリーンは楽しそうにクスクス笑う。
ユリシーズは思い出すように。
「魔王ってその時、簡単に倒れたんだよ。だから、自慢にも何にもならないなぁ。」
その時である。足音が聞こえてきて。
アイリーンもユリシーズも思わずそちらを見る。
フローラとクロードが立っていた。
二人とも、角を生やして、真っ黒な衣装を着て魔族の姿である。
二人が来たと同時に、城の兵達が白いテーブルと椅子が牢の前に運んできて置かれた。
アイリーンが二人を睨みつけて。
「笑いに来たの?フローラ。クロード。いい気味だって。」
フローラは微笑んで。
「ロールケーキを買ってきたのよ。お姉様。一緒にお茶しましょう。」
クロードも椅子に座って。
「話をしに来たんだ。お茶でもしながら、話そうよ。昔みたいにさ。」
牢の中の二人にも切られたロールケーキと温かい紅茶が差し入れられて。
アイリーンとユリシーズも、テーブルと椅子を鉄格子の前に置き、外の二人と対面しながら、お茶をすることとなった。
クロードが口を開く。
「アイリーン。君への処分は俺に一任されている。姉上からもグリザスさんからも俺に一任する許可を取っている。」
アイリーンはクロードを真っすぐ見つめながら。
「まぁ。それで、私を死刑にするのかしら。第二魔国の法律なら処刑も可能だわ。それとも、マディニア王国の法律に乗っ取って、北の牢獄へ送るのかしら。」
「俺はともかく、グリザスさんを殺そうとした罪は重い。でも…元をただせば、俺が君と婚約破棄をした事が原因なんだ。そこで提案。君が二度と、人を殺さないと誓えば、フォルダン公爵夫人にならないか?ユリシーズと婚姻して。」
フローラも、優雅にロールケーキを食べてから。
「お姉様。私はフォバッツア公爵夫人に2年後になる予定ですわ。お父様の後を継ぐ人がいなくなります。ユリシーズ。貴方、負担だったのよね。王配とマディニア王国の貴族の付き合いが。でも、もう、王配になる事はないのよ。お姉様は貴方のせいで、魔王の座を失った。責任取りなさい。せめてフォルダン公爵となって、お姉様と共に生きて欲しいの。」
そして、フローラは立ち上がり、牢越しにアイリーンの傍に行って。
「新しく生まれてくる赤ちゃんの為にも。牢の外に出で、お姉様には幸せになって欲しいわ。」
ユリシーズが驚いたように、アイリーンに向かって。
「本当かい?俺の子が…アイリーンのお腹に…」
アイリーンは頷いて。
「産むかどうか迷っていたの…。とっちにしろ死刑になれば産めないし。
許されない事をした。クロードとグリザスに。
貴方にだって…無理やり関係を結んで出来た子。だから諦めていたのよ。」
ユリシーズは鉄格子を両手で握り締めて、隣の牢のアイリーンに訴えかける。
「俺、お父さんになるんだ。産んで。お願い。やっと家族が出来る。絶対に守る。
君と赤ちゃんを。だからお願いだから…産んで。アイリーン。」
「産んでいいの?」
アイリーンはユリシーズに、クロードに、そしてフローラに確認する。
ユリシーズは泣きながら。
「うん。俺は産んで欲しいよ。アイリーン。」
クロードも頷いて。
「フォルダン公爵夫人となって、その子を育てて欲しい。これは俺からの願いだよ。
幼馴染として、君には幸せになって欲しい。」
フローラも微笑みながら。
「お姉様。ユリシーズ。お二人のお部屋を屋敷に用意しますわ。お父様も初孫を凄く喜んでいますわ。手続きを済ませて、家に帰りましょう。我がフォルダン公爵家へ。」
アイリーンは立ち上がり、フローラとクロードに向かって。
「酷い事をしたのに、ごめんなさい。クロード。
貴方にもひどい言葉を、フローラ。ごめんなさい。
そして…有難う。私の幸せを思ってくれてたのね。」
フローラはアイリーンに近づき、鉄格子を握っているアイリーンの手に手を添えて。
「私はいつでもお姉様の事を思っていましたわ。小さい時からずっと…」
「有難う。フローラ。」
アイリーンは涙を流した。
魔王城から、フォルダン公爵家に戻ると、そこにはディオン皇太子と、フォルダン公爵が待ち構えていた。
アイリーンはディオン皇太子に頭を下げる。
「寛大なご処置、感謝しますわ。ディオン皇太子殿下。」
そして、フォルダン公爵に向かって。
「お父様。私は心を入れ替えて、フォルダン公爵家の為に尽くします。」
ディオン皇太子は満足そうに頷いて。
「今回の事件は、関係者に他言するなと釘を刺してある。これからは、フォルダン公爵家の跡目をユリシーズと共に継いで、我が王国の為に役立ってほしい。いやその前に、魔王討伐をしなければならないが、子が出来ているとなれば、アイリーンは無理だな…」
ユリシーズはアイリーンを庇うように。
「当然です。俺がその分、頑張りますから。アイリーンは無理せずに、俺達の子を第一に考えて欲しいな。」
アイリーンはディオン皇太子に向かって。
「申し訳ありません。お役に立てなくて。」
「いや、仕方がない。」
フォルダン公爵はアイリーンに。
「ともかくだ。暖かくして。ゆっくりしてくれ。我が孫の為にもな。ユリシーズも色々あって大変だっただろう。身体を休めてくれ。」
普段、冷静で切れ者のフォルダン公爵も初孫が出来るとあって、凄くご機嫌だ。
アイリーンとユリシーズを別部屋でゆっくり休むように言いながら、フォルダン公爵は二人と共に部屋を出て行った。
フローラとクロードは安堵したように、ソファに腰かけて。
フローラが、クロードに。
「良かったわ。本当に。有難う。クロード。」
「普通なら、ただでは済まない罪状だけどね。俺も、アイリーンには幸せになって欲しいから。捻じ曲げられるのも公爵家の力って事かな。」
「当たり前よ。フォルダン公爵家と、我儘令嬢フローラ様を舐めないで欲しいわ。」
そう言ってフローラは楽し気に笑った。
ディオン皇太子はそんなフローラに。
「フォルダン公爵令嬢には、これから先も振り回されそうだ。我が王家もな。」
「皇太子殿下。ユリシーズが、先々、フォルダン公爵になった暁には、よろしくお願いしますわ。勿論、私もフォバッツア公爵夫人として、力になります。
マディニア王国で、最強の勢力となって、この二家は、ディオン皇太子殿下をお支えしますわ。」
「期待している。」
フローラは思った。
最強の王国、マディニア王国をつくるために、私も力になりたいと。
お姉様の件も解決した。後は魔王討伐よ。
我儘令嬢、フローラの心は更に燃え上がるのであった。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
フローラが主役のはずなんですが、本人が影が薄いわ私と、嘆いておりました。
まぁ、ディオン皇太子殿下とかアイリーンとか色々と、出張っていますから(笑)今回頑張って貰いました。




