アマルゼ王国での交渉(ディオン皇太子殿下 御一行)
翌日の事である。
いよいよアマルゼ王国へ、ディオン皇太子は交渉の為、出かける事になった。
他にセシリア皇太子妃、リーゼティリア聖女、フィーネ、クロード、グリザス、ユリシーズ、ミリオン、スーティリアが同行する。
御前10時、マディニア王国の広間から、アマルゼ王国の王宮の門の前に転移すると、門の前にアマルゼの出迎えの人が2人、待ち構えていた。
雪は止んでいい天気だ。
「お待ち申し上げておりました。どうぞこちらへ。」
ディオン皇太子達、9人は案内人の後に続いて、王宮へと入る。
王宮へ入った後、何故か、ディオン皇太子、セシリア皇太子妃、リーゼティリア以外の人は、別室でお待ちくださいと、連れて行かれてしまった。
ディオン皇太子が、案内人に。
「あの者達は交渉に立ち会わせたかったのだが。」
案内人は、
「ジョセフ皇太子殿下は少人数で、お会いになる事を希望されております。」
と、断られてしまった。
広間の扉が開き、中へ案内されてば、そこにアマルゼ王国、ジョセフ皇太子と、カロリーヌ皇太子妃が待っていた。
ジョセフ皇太子は両手を広げ。
「おおおおっ。久しぶりだな。ディオン。」
「3年ぶりか。俺も忙しくてな。」
ガシっと二人は抱きしめ合う。
抱擁がすんだ後、カロリーヌ皇太子妃にディオン皇太子は。
「カロリーヌも息災そうで何よりだ。」
「お久しぶりでございます。ディオン皇太子殿下。」
ジョセフ皇太子が、テーブル席に案内し、3人はジョセフ皇太子とカロリーヌ皇太子妃の前に腰をかける。
ディオン皇太子が、まず、リーゼティリアを紹介する。
「ジョセフの兄の婚約者だった、リーゼティリアだ。よく知っているな?」
リーゼティリアは挨拶をする。
「お久しぶりでございます。ユージン様とは私、結婚しましたわ。ご存知と思いますが、マディニア王国の王立病院で医者をしています。」
ジョセフ皇太子は、ディオン皇太子と、リーゼティリアに。
「勿論、ロリントン公爵令嬢だった、リーゼティリアとは顔見知りだ。妹のセシリアとも仲良かったからな。元気そうで、安心したぞ。兄上も、医者として立派にやっているという噂は聞いている。こちらも安堵している。で、ディオン。どういう用件で来た?冬の大雪を物とせず、来たのだ。緊急の用件なのであろう?」
ディオン皇太子は用件を述べる。
「200年前に戦で亡くなった者達の鎮魂祭を、共同でやって欲しいのだ。春になったらすぐに。国境の村辺りがいいだろう。アマルゼ王国の亡者がしつこくてな。俺やリーゼティリア、そしてグリザスという者が恨まれて、実害をこうむっている。
アマルゼ王国にも協力してほしい。」
ジョセフ皇太子は考え込むように。
「200年前の戦の死者の鎮魂祭より、30年前、魔王襲来で亡くなった者達の鎮魂祭をやった方が我が国としてはいいのだがな…民衆もその方が納得する。」
「それならば、その両方を合わせてやればいい。鎮魂祭には俺とお前が主催になる。そして、聖女リーゼティリアが責任者として適任だと思う。協力してほしい。」
ジョセフ皇太子は困ったように。
「しかし、我が国の財政は厳しいのだ。そんな儀式をやるなら、暮らしを楽にしてほしいというのが民衆の願いなのだ。」
「全額こちらで出すわけには行かない。それはそれで、マディニア王国の民衆が納得しないだろう。」
互いの意見が対立する。
ディオン皇太子は切り札というように。
「30年前、封印した魔王が近々、復活するのは知っているか?魔王は倒されたのではない。今だ、魔界の片隅に封印されているのだ。丁度、この国の領土の下だな…。」
「何だって??」
アマルゼ王国は30年前に、魔王と魔物達によって、一番被害を被った国だ。
沢山の人が殺され、街が焼かれた。
ジョセフ皇太子が青くなるのも無理はない。
しかし、疑問を持つように。
「本当の話なのか?証拠はあるのか?」
ディオン皇太子はニヤリと笑って。
「俺の事を疑うのか?7つの聖剣を俺は拾った男だぞ。7つも揃える必要があったのは、魔王が復活するからだと、神に言われた。魔王は俺と、6人の聖剣を持つ者達で必ず倒す。
それは交換条件だ。必要経費は折半だ。民衆を説得しろ。お前なら出来るだろう?」
ジョセフ皇太子は頷いて。
「破天荒の勇者殿の言葉だ。信じよう。鎮魂祭の準備を主導してくれるのは、リーゼティリアでよいのだな。こちらに指示してくれれば、必要な物を揃えよう。」
ディオン皇太子は安堵したように。
「有難う。感謝する。」
リーゼティリアも頭を下げて。
「有難うございます。よろしくお願いしますわ。」
交渉がすんだので、後は私的な話になる。
ディオン皇太子はカロリーヌ皇太子妃をちらりと見て。
「カロリーヌ。そういえば、俺の子が出来ない事を心配してくれたんだってな。」
カロリーヌはディオン皇太子の従妹に当たるのだ。互いに顔見知りである。
カロリーヌはホホホと笑って。
「だって、ディオン。跡継ぎが出来なくては困らなくって?だから、側室になるような令嬢を紹介しましょうか?って言ったまでですわ。そうしたら、そちらの王妃様が探してくださっているとか。安堵致しました。ディオンも大変ですわね。」
セシリア皇太子妃は、紅茶を啜って黙っているようだ。
ディオン皇太子は、隣のセシリア皇太子妃の手を握りながら。
「お前なら俺の性格よくわかっているよな。カロリーヌ。側室はいらない。フィリップに、跡継ぎを作って貰えばいいだろう?俺はセシリア一筋なんだ。セシリアの胸枕が無いと眠れなくてな。」
セシリア皇太子妃は赤くなって。
「まぁ嫌ですわ。ディオン様っ…。胸枕だなんて。」
「俺はお前がいればいい…。愛しているセシリア。」
ジョセフ皇太子はハハハと笑って。
「仲が良くて羨ましい限りだ。俺なんて邪険にされていてな…」
カロリーヌ皇太子妃はジョセフ皇太子を睨んで。
「だったら、マリア側妃に慰めて貰えばよろしいでしょう。」
そう言うと、カロリーヌ皇太子妃は立ち上がり。
「私、失礼致しますわ。」
不機嫌に退室して行った。
ディオン皇太子がジョセフ皇太子に。
「ジョセフ、側室がいるのか?」
「ああ、20歳の若い女っていいぞ。肌も艶々でな。」
そんなような話をして、そろそろ退室をと思っていたら、廊下からミリオン達が飛び込んできた。
「おい、ディオン。無事か?」
「どうした?何かあったのか?」
クロードがミリオンの肩に手をやって、口止めしたようで。
ミリオンは慌てて。
「何でもない。そろそろ終わるかと思って迎えに来た。」
ディオン皇太子はジョセフ皇太子に念押しする。
「それじゃジョセフ。鎮魂祭の準備に関して、改めて連絡をする。よろしく頼むぞ。」
ジョセフ皇太子は頷いて。
「承知した。連絡を待っているぞ。」
転移をし、マディニア王国の広間へ戻る。
ディオン皇太子は、ミリオン、クロード、グリザス、ユリシーズ、スーティリア、フィーネに対して、何があったか報告を求めた。
ミリオンが説明する。
「アマルゼの魚の化け物が、客間に居た俺達に襲い掛かって来た。数が多くて、キリがなかった所を、ユリシーズが、黒い穴の奥に大元がいるから倒してくるといって、中に入ったんで、俺達は追いかけた。目玉の化け物に死霊が沢山憑いていて、口々に呪いや、苦しみの言葉を呟いていた。倒せない程、強力だったんで、一旦、退却して。追いかけて来た魚の魔物をフィーネがチュドーンで、追い払ったんだが、また、出てきそうだったから。仮に封印をクロードとスーティリアと協力してやっておいた。しばらくは抑えられるが。まぁ大まかにそんな感じだ。」
ディオン皇太子は腕を組んで、考え込むように。
「やはり、鎮魂祭は必要って事だな。」
ミリオンは頷いて。
「目玉に憑いている、死霊を成仏させないと、目玉の魔物は倒せないと思うぜ。」
クロードが報告を追加するように。
「女の笑い声が聞こえました。目玉の魔物から逃げる時に。殺せ殺せって。あれは…何だったんでしょうか?」
死霊の騎士、グリザスが、思い当たったように。
「あの女なのかもしれない…。」
ミリオンも頷いて。
「あの女か??聖女様を陥れて、火炙りにし、マディニア王国の王族の祖先でもあるあの女。」
リーゼティリアが、頷いて。
「マルセオ第一王子が夢中になっていたあの女性なのですか?」
グリザスが説明する。
「200年前、マディニア王国のマルセオ第一王子に取り入ったあの女は、王子の子を産んで、亡くなった。アマルゼ王国の間者だったようだが。しかし、変だ。以前、演武会の時に俺は過去に飛ばされた。あの女を、殺すように仕向けられた。いかに聖女様を火炙りにするよう進言した女とはいえ、マディニア王国の王族が、あの女を殺すと消えてしまう。
ミリオンが止めてくれたからよかったが。敵に、アマルゼの怨念にあの女も利用されているのかもしれない。」
ディオン皇太子は窓の外を見れば、また、雪が降って来て。
「晴れていたのに、また、雪だ。春になるまでは準備しか出来ない。リーゼティリア、グリザス、お前達は特に気を付けてくれ。それから、魔王復活を阻止する為に、訓練を週に1回行いたいと思う。聖剣を持ったものは必ず、出席してくれ。ローゼンと、フォルダン公爵令嬢達には俺から言っておく。ミリオン、クロード、ユリシーズ。いいな。」
ミリオンがまず返事をする。
「任せておけ。俺の父親の不始末を片付けるのは、俺の仕事だ。」
クロードも頷いて。
「俺も頑張ります。必ず、魔王を倒しましょう。」
ユリシーズも力強く。
「今度こそ、魔王を倒すよ。必ず。決着をつける。」
皆で燃え上がっている時に、フィーネがスケッチブックを持ってきた。
ディオン皇太子に差し出して。
「客間でクロード様とグリザス様がいちゃついてたよーー。結婚したいって言ってた。」
ソファで、クロードがグリザスを押し倒している、クレヨンで描かれた絵…
ディオン皇太子はその絵を見て、チラリとクロードとグリザスを見つめ。
「ほほう。お前達は、客間で魔物退治をしていただけでなく、このような事を?」
セシリア皇太子妃も、リーゼティリアも、その絵を見て、まぁ♡だなんて顔を赤くしている。
一気に空気は氷点下まで下がったような…
クロードは慌てて。
「いやその…なんとなく成り行きで。」
グリザスも慌てたように。
「クロードは悪くない。悪いのは俺で…」
「何だ?グリザス。お前が、クロードを誘惑したというのか???」
女性陣から、きゃぁ♡だなんて悲鳴が上がる。
ミリオンがディオン皇太子を宥めるように。
「まぁまぁ。若いんだからさ。我慢できない事もある。ほら、お前も疲れただろう?ディオン。セシリア様に甘えん坊してベットで早く休めよ。」
「まだ、昼間なんだが???生憎、この国の法律は同性婚は認めていない。残念だったな。
お前達には風紀を乱した行動をしているという事で、ローゼンに騎士団規則、102箇条を徹夜でしっかり、指導して貰え。以上。」
リーゼティリアがディオン皇太子に。
「処分が厳しすぎますわ。ディオン皇太子殿下。厳重注意で、許して差し上げて。」
セシリア皇太子妃が赤くなりながら。
「私もリーゼに同意しますわ。もう、胸枕、して差し上げなくてよ。ディオン様。」
胸枕…。
ここにいる男性陣は皆、羨ましいと思った。クロードだってグリザスだって、お互いに愛し合う関係になったが、元々、趣向は女性なのだから。
ディオン皇太子は仕方がないという風に。
「それでは、今回は大目に見る事にする。さすがに疲れた。セシリア、ソファで膝枕してくれ。今日は皆、ご苦労だったな。ゆっくり休んでくれ。」
皆を帰らせると、ディオン皇太子は、セシリアの膝枕でゆっくりとくつろいだ。
「セシリアも、今日は有難う。」
「いえ、私は、何もしていませんわ。ただ、座っていただけで。
それにしても、胸枕の件は恥ずかしくて。何もあの場で言わなくてもよろしくてよ。」
「その割には、クロード達を庇う為に、胸枕の件を言ったな…。」
「だって、あまりにも可哀想で。若いのですから、大目に見て差し上げて。」
「解った。眠くなってきた。このまま寝ていいか?」
セシリアは優しく髪を撫でてくれた。
「雪がまだまだ降りますわね。」
「雪掻きを、国としてもやらないとな…。お前の膝も胸も…いい枕だ…」
セシリアの膝は柔らかく、撫でる指先が優しくて気持ちいい。
何とも言えぬ、幸せを感じて、昼寝をするディオン皇太子であった。
胸枕って…??胸に甘えん坊して寝るんでしょうかね。まぁ♡。羨ましいディオン皇太子殿下でございます♡




