婚約からの残虐…気がすみましたわ。(アイリーン)
R15の残虐シーンと、BLと、注意の回です。
翌日の事である。
フローラは慌てて、サラに命じて支度をしていた。
黒のドレスに、イヤリングを付けて。
父親のフォルダン公爵も、黒一色の服装を着て、しかし、今日はとてもご機嫌よさげである。。
フローラは支度が出来ると、転移鏡を大きく展開し。
「お父様。支度が出来ました。参りましょう。」
「まったく忙しい事だ。婚約破棄してから2日後でな…。」
出かけた先は今度は、第一魔国ではなく、マディニア王国の王宮の広間だった。
先にアイリーンが黒のドレスを着て立っている。
アイリーンの隣で、ディオン皇太子と勇者ユリシーズが、待っていた。
ユリシーズが困ったように。
「何だか、俺、良く解らないんだけど…。」
ディオン皇太子が、フォルダン公爵に向かって確認する。
「フォルダン公爵、アイリーン嬢とユリシーズとの婚約を認めて欲しいという事で間違いないかね?」
ディオン皇太子の問いにフォルダン公爵は断言する。
「間違いございません。ディオン皇太子殿下。我が娘、第二魔国の魔王であり、公爵令嬢でもある、アイリーン・フォルダンと、勇者ユリシーズとの婚約を認めて頂きたいと存じます。」
驚いたのはユリシーズだ。
「いつの間にそんな話になっていたんですかっ??俺、アイリーンとこの間知り合ったばかりだし…。うん。でも惚れているのは確かだし…魔国のマナーを教えて欲しいってクロードに頼んだのも本当だし…」
アイリーンが呆れて。
「まぁ。クロードに頼んだの?」
「だって、クロードは魔国のマナーに詳しいみたいだったから…。でも、アイリーンは気を悪くするよね…」
アイリーンはユリシーズに抱き着いて。
「貴方がそこまで、私の事を好きになってくれたのは嬉しいわ。」
そして、ユリシーズの首にその白い手を這わせ、耳元で囁く。
「私と婚約してくれるわよね…ユリシーズ。」
ドクンっと心臓が音を立てて鳴ったような気がした。
赤くなりながら、ユリシーズは。
「でも、俺、マナーとか覚えられるか解らないし…アイリーンに恥をかかせる事になるよ。魔国の王配が、ダンスの一つも踊れないんじゃ、困るだろう?」
「エスコートしてくれて、お食事のマナーが出来ていれば後は求めないわ。貴方は勇者なのだから、どんと構えていればいいの。」
アイリーンの言葉ににっこりとユリシーズは笑って。
「それじゃ。俺。アイリーンと結婚する。あ、取り合えず婚約みたいだけど。結婚出来るんだーーー。長かったなぁ…。こんな美人さんと結婚出来るなんて…幸せだな…」
ディオン皇太子は仕方がないという風に。
「我が国の国民である事には変わりないからな…。ユリシーズ。魔国の王配だけではなく、この前に言った活動もやってほしい。勇者ユリシーズとして、国民、皆を力づけて欲しい。」
フローラがふと…ディオン皇太子に質問する。
「恐れながら。ディオン皇太子殿下も、勇者ではないですか?何故、ユリシーズが必要なんですか?かえってユリシーズに人気が出て、王家は困らないんですの?」
ディオン皇太子殿下は、フフンと笑い。
「ユリシーズには王家の広告塔の役目もある。マディニア王家の名のもとに活動してもらうつもりだ。まぁ俺も勇者だが…。強さは国で一、二番と言われているがね…
使える駒は使う…それが俺の信念だ。」
ユリシーズはディオン皇太子に。
「そこまで俺の事を評価してくれて嬉しいです。俺は貴方の為に、マディニア王国の為に、広告塔の役割としてでもいいですから、国民を力づけたいと思います。勿論。王配として、アイリーンの役に立ちたいとも思っているよ。」
その言葉にアイリーンは嬉しそうに。
「まぁ嬉しいわ。クロードは王配になりたがらなかったけど、貴方はなってくれるのね。」
その様子を見てフローラは安心した。
これで、クロードの恋人も狙われなくなるんじゃないかしら…
アイリーンは幸せそうに、ユリシーズの腕に腕を絡めて、二人は見つめ合っている。
フォルダン公爵も満足そうだ。
しかし、残虐な事件が翌日の朝、起こるのである。
翌日の朝、雪がやっとやんで、王宮の騎士団寮がある庭は一面、真っ白に雪が降り積もっていた。
騎士団見習い達は、今日の午前中のやる事は雪かきである。
王宮の庭を雪かきするのは、大事な仕事であった。
勿論、見習い達だけでなく、正騎士達も加わって雪かきをする。
寮から見習いの一人がまっさきに外へ出て、寮の玄関の前に繰り広げられている光景に悲鳴をあげた。
「うわっーーーーーーーーーーー。」
何事だ?と見習い達や、正騎士達も集まってくる。
寮の玄関の前だけ、何故か雪が無く、
そこにピンクの髪の女の首が置いてあったのだ。
身体も横たえてあるが、四肢が切断されて散らばっている。
全員がその光景を見て、凍り付いた。
正騎士の一人が叫ぶ。
「騎士団長を呼んでこい。」
すぐに、ローゼン騎士団長が駆けつけてきた。
死体の女を見て、平然と検証を始める。
「これは…。」
ディオン皇太子も駆けつけてきた。
「酷いものだな…」
クロードもギルバートやカイル達も覗き込んでいる。
そこへ、大きな鎌を持った、アイリーンが黒いドレス姿のまま、魔法陣を展開して現れた。
その鎌は血がしたたっている。
アイリーンは嫣然と微笑み。
「ごきげんよう。皆様…。ねぇ…クロード。貴方の彼女を殺して差し上げましたわ。」
クロードは青くなって。
「俺はこの女性を知らない。」
「だって、フローラが言っていましたもの…。ピンクの髪の胸のふわふわした女性だと。」
ユリシーズが王宮から、駆けつけてきて。
「うわっ…なんてことをしたんだ。アイリーン。君は俺と婚約して、幸せになるんじゃなかったのか?」
アイリーンはユリシーズに近づいて、優しくその唇にキスを落として。
「私を裏切った落とし前はつけないといけませんわ。私は第二魔国の魔王なのだから。ユリシーズ、貴方も裏切ったら…どうなるか…」
正騎士達がローゼン騎士団長に。
「あの女を拘束しますか?」
ローゼン騎士団長は、正騎士達を手で制し、ディオン皇太子に。
「刑法291条が適用されます。アイリーン第二魔国魔王に、褒美を与えるべきだと。
殺された女性の素性を調べ、その背後にいる者を捕らえて、たくらみを暴かねばなりません。」
ディオン皇太子も死体の女を見て、納得したように。
「アイリーン嬢、マディニア王国の禍の元をよくぞ、退治してくれた。後で。褒美を取らせよう。」
アイリーンは鎌を置き、優雅にドレスの裾を両手で摘み、頭を下げる。
「光栄でございますわ。ディオン皇太子殿下。」
ギルバートがクロードに。
「あれ、転生者だよな…」
クロードも頷いて。
「この国の女性なら、あんな腿丸見えの短いスカートは履かないだろう?
あの格好だけでも北の牢獄行きの大罪だ。確か女性も男性も下半身の下着が見える着衣は公衆衛生違反罪だったよね…」
カイルが北の牢獄と聞いて。
「北の牢獄へ行ったら、飢え死にか、凍え死ぬか…この国には死刑制度がない代わりに、牢獄行きで、殺すんだよなぁ…」
ジャック・アイルノーツが思い出したように
「転生者事件が10年前にあったからな。高位貴族の子息が、王立学園でスカートの短い転生者に惑わされて婚約破棄ラッシュがおきて、廃嫡騒ぎになり、国が乱れる元として転生者は、禍と認定される法律が出来たんだったな…それを取り除いた者は褒美を与えるとか。」
皆は思う。
「転生者って怖い…」…
正騎士達が、死体を片付けて、運んで行く。
ディオン皇太子も、王宮に戻っていって、ローゼン騎士団長も、死体の身元を調べる為に、
正騎士達と共に行ってしまった。
アイリーンは微笑みながら、クロードに向かって。
「これで、落とし前はつけたわ。でも、貴方の本当の恋人を知らないなんて、つまらない…誰なのかしら?貴方の恋人。ねぇ…貴方達の中で知っている人いない?」
騎士団見習い達の顔を見渡す。
アイリーンは探っているのだ。動揺を見せる者がいるかどうか?
明らかに動揺を見せる人達がいた。
それはギルバートとカイルである。
アイリーンは二人に近づいて。
「ねぇ…貴方達。知っているのね?クロードの恋人。」
クロードが二人を庇うように。
「二人は関係ない。何も知らないはずだ。」
カイルがモジモジして、ニンマリ笑うと。
「ばれちゃったか。俺。クロードの事、愛しているんだっ。好きで好きでたまらない。」
クロードに抱き着く。
すると、ギルバートもわざとらしく。
「俺も。クロードとの熱い抱擁が忘れられなくて。クロードっ。俺と結婚してくれ。」
ぎゅううっと抱き着く。
すると他の連中も次々と。
「クロード。俺とは遊びだったのか。本気で愛していたのに。」
「俺もだ。お前の事っ…愛しているっ。」
皆、クロードに向かってハートを飛ばし、わいわいと抱き着いて行く。
アイリーンが怒りまくって。
「何よっーーーーー。この集団はっ。私を馬鹿にしているの??」
すると魔法陣を展開して、ミリオン・ハウエルが現れて。
「ハハハハハ。アイリーン。お前の負けだ。俺も愛してるぜーーーー。クロード。
愛しくて愛しくてたまらねぇ。」
ユリシーズが笑い出して。
「ねぇ。アイリーン。騎士団の皆はクロード大好きなんだよ。恋人探しは諦めたら?」
クロードは、ミリオンに向かってきっぱりと。
「貴方の愛はいりません。」
「冷たい奴だな。クロードは。」
皆に向かって、
「俺も愛しているぜーーー。騎士団見習いのみんなっ。」
そこで、ふと、アイリーンは気づいてしまった。
その様子を冷静に見ている男がいた事を。
グリザス・サーロッド。死霊の黒騎士である。
グリザスの前に行くと、アイリーンは尋ねる。
「貴方はご存知かしら?クロードの恋人。」
騎士団見習い達の空気が一瞬にして変わった。
クロードがグリザスの前に庇うように出て。
「この人を守るように、皇太子殿下に言われているんでね。」
他の見習い達も、グリザスの周りを囲み。
ギルバートが。
「俺達の姫に危害を加えたら許さない。」
カイルも頷いて。
「そうだそうだ。」
アイリーンは呆れて。
「何よ…。姫って、ただの死霊じゃない。男だし…。」
ミリオンがアイリーンに。
「この男は、クロードの恋人なんて知らないはずだ。騎士団見習いの剣技の指導者だからな。」
黙っていたグリザスが、初めて口を開いた。
「お前はクロードの恋人の名を知ってどうするつもりだ?今度こそ、殺すのか?」
アイリーンは微笑んで。
「私の気はすんだわ。クロードの本当の恋人を前は殺してしまいたいと思っていたけれど、今はユリシーズがいるから…。クロードと戦ったら、私、勝てないもの。」
そう、言うと、グリザスに近づいて。その顔を見上げる。
クロードと、騎士団見習い達、ミリオンにも緊張が走る。
アイリーンは断言する。
「貴方ね…クロードの恋人って…みんな知っているのね…必死になって庇っている…
男に…それも死霊に負けるなんて…。私のプライドズタズタだわ。謝りなさい。」
グリザスはアイリーンと、そしてクロードに向かって。
「すまない…。俺はアイリーン嬢を傷つけてしまった。クロードの人生を壊してしまった。謝っても謝り切れない。だが、もうクロードとは離れられない。」
クロードも頭を下げる。
「ごめん…アイリーン。どうしよもなく、グリザスさんの事、愛しているんだ。
性別なんて関係ない。」
アイリーンは腰に手をやって。
「解ったわ。二人して幸せにならないと承知しないわよ。ユリシーズは私を幸せにして頂戴。」
ユリシーズはにっこり笑って。
「うん。俺がアイリーンを幸せにするよ。」
騎士団見習い達はほっと胸を撫でおろした。
ギルバートがクロードに。
「良かったな。一安心だ。」
カイルも胸を撫でおろして。
「よかったよかった。」
ミリオンも髪をポリポリと掻いて。
「俺も安心したぜ。よかったな。クロード。グリザス。」
こうして、丸く収まった訳だが。一番気の毒なのは、どばっちりを受けて殺されてしまった転生者の女性で。
その事件を聞いたフローラは、
やたらとピンクの髪のふわふわな胸の女性なんて言うもんじゃないわと、思ったとか。
でも、クロードとグリザス様の事がアイリーンに許されてよかったと胸を撫でおろしたのであった。
マディニア王国、転生者は禍の元で、殺した者には褒美、ミニスカートは死罪な恐ろしい国である(笑)




