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北の魔女の屋敷

フローラはローゼンと共に出かけられるのは嬉しかった。

ただ、仕事疲れなのか、今日のローゼンは具合が悪そうだった。


クロードが前に座るローゼンに声をかける。

「騎士団長。顔色が優れませんね。大丈夫ですか?」


ローゼンは瞼を瞑っていたが、目を開けて。

「ああ、すまない。ちょっと寝不足でね。少し、寝ていてかまわないか?」


フローラは心配そうに。

「ええ、着いたら起こしますから。」


馬車の扉に寄りかかるように、そのままローゼンは眠ってしまった。


フローラはそんなローゼンを見つめて。

「余程、疲れていらっしゃるのね。」


クロードも頷いて。

「騎士団長は激務だからな。」


アイリーンがクロードの手を握り締めて。

「フローラ達がいなければ、うんといちゃつけるのに…。なかなかクロードと会えないんですもの。」

クロードもアイリーンの手を握り返し。

「忙しくてごめん。ほら、あの例のグリザスさんって…ほんと、ほっとけないんだよな。タダカツベア買いに行きたいって、お世話になっている女の子にあげたいからってさ。

俺に店の事なら聞いてくれたらいいのに。一人で店が解らなくて困っていたから。」


フローラが納得したように。

「それで、貴方達、タダカツ様のお店にいたのね。もう、驚いてしまったわ。ばったり会った時は。」


クロードがフローラに小声で。

「何もあんなとこでイチャイチャしなくても。」


アイリーンがそれをしっかり聞いて呆れて。

「何よ。それ。あんたたち、お店でイチャイチャしていたの?」


フローラが拳を握り締めて。

「だって、タダカツベアの魅力を解って欲しかったんですもの。だからお連れしたんです。

そしたら、ローゼン様が…。ああ、もう恥ずかしいですわ。」


それからフローラ達は、お弁当を食べて…そうこうしているうちに、馬車は深い森の中に入っていった。


森の奥地に薔薇の園に囲まれた古びた洋館が見えてくる。


いよいよ北の魔女に会えるようだ。



皆、馬車から降りれば、薔薇の園の門で、羽の生えた髪の長い美しい女性が出迎える。妖精か何かだろうか?


「ディオン皇太子殿下でございますね。それから聖剣を持つ方々。お待ちしておりました。

どうぞ、こちらへ。」


洋館の入り口に着くと、中に案内される。

広間へ着けば、幅広のツバの帽子に、ふわりとした首まであるドレスを着て、いかにも魔法使いと言わんばかりの黒づくめの小さな老婆が現れて。


「やっと来たか。ディオン。ミリオン久しいのう。」


ミリオンは老婆に近づいて。


「何だ。北の魔女って、ばーちゃんだったのか。」


ディオン皇太子が、ミリオンに。


「何だ?身内か?」


「俺のばーちゃんだ。オーネットばーちゃん。」



オーネットは7人を見渡して。


「無事、揃ったようじゃの。」


その後ろから、真っ白な服を着た、老人がよたよた歩いてきた。


「おおおおおっ。7人揃っておるっーーー。苦労の甲斐があった。」


ディオン皇太子殿下が、オーネットに。


「そちらのご老人は?」


老人は自己紹介をする。


「わしは、リリアの父親じゃ。神、イルグという。勇者ディオン。よくぞ勇者と認識し、こうして全員集めてくれた。」


ディオン皇太子はハタと思い当たったように。


「お前かっーーー。俺の胸と背に、でかでかと、これ見よがしな黒の百合の花を浮かびあがらせたのはっ…。7つの聖剣を連日、道路に突き刺しておいたのはっ…。

黒百合のでかい紋章のお陰で、世間からは笑いものになるわ…。7つの聖剣を見つけてきたって見つけ過ぎだろうって、噂になるわ…神を見つけたら一言、文句を言おうとしていた所だ。いい加減にしろっ。」


イルグは慌てたように。


「いや、大きくしておかないと、自分自身、勇者だって解らないじゃろう。うっかり、これ小さなただの痣だろうで終わったら、わし、悲しいし…。聖剣だって、一々、該当者を探して道路に落とすのも面倒じゃったから…」


オーネットが口を挟む。


「まぁまぁ、お前達はただ選ばれただけじゃないぞ。ちゃんと理由がある。

ディオンはこの国の王族であり、勇者じゃ。ユリシーズも、因縁がある勇者じゃし…

ローゼンはシュリアーゼの息子、アイリーンとフローラは、リリアの娘じゃ。ミリオンはわしの孫じゃし…、ええとお前は誰じゃったかの?」


クロードが落ち込んだように。


「俺って、名前も認識されていなかったのかな?オーネットさん。もしかしてオマケ??」


オーネットは思い出したように。


「ああ…魔族で、ひと際、優秀じゃから、オマケにしたんじゃったな?イルグ。」


イルグも思い出したように。


「そうじゃそうじゃ。やはり聖剣は7つがいいじゃろう?オマケも必要じゃ。」


クロードは思いっきり凹んだ。


「俺、帰ろうかな。」


ディオン皇太子はクロードに。


「もうろくし始めたじーさんやばぁさんの言う事を真に受けるな。で、元魔王の事について、しっかりくっきり説明して貰おうか。」


フローラはオーネットに向かって。

「説明前に、椅子に座りたいわ。紅茶も飲みたいし、美味しいケーキも食べたいですわ。」


アイリーンも同意して。

「立ったまま、説明を聞けというの?お茶ぐらい出しなさいよ。」


オーネットは頷いて、指を鳴らせば、ソファが5組、ドアから部屋の中へ滑って来た。ついでにテーブルも滑ってくる。


「そこへ腰かけるのじゃ。紅茶とケーキも出してやろう。」


7人が腰かけると、机の上に湯気の立った紅茶とチョコケーキが現れた。


オーネットとイルグも腰かけて。


オーネットが説明を始める。


「魔王は、黒龍一族の血を引く、今の5魔国の頂点にいた魔族じゃ。第一魔国から第五魔国まで、昔は一つの魔国じゃった。野望を持った男での…。臣下達の諫めも聞けず、アマルゼ王国を中心に魔物を率いて暴れまくったのじゃ…。

まったく、我が息子ながら、情けない。して、ミリオンは黒龍の魔王の息子じゃ。」


ディオン皇太子は納得したように。

「そんな事だと思っていた。魔王は黒龍に姿を変えて、暴れまくったと言われているからな…ミリオンの聖剣の鞘に黒龍が巻き付いているのを見た時、関係あると思ったんだ。」


ミリオンは頷いて。

「そうか…。解っていたのか…。俺自身、父親の記憶は全くない。生まれた時にはもういなかったからな…」


ローゼンがオーネットに。

「それで、我が騎士団に黒の龍の幻を出現させて、鍛えてくれていたわけか…。」


オーネットはヒヒヒと笑って。

「美男がわしは好きでの。思いっきり贔屓してやったわ。」


イルグが紅茶を啜りながら。

「では、わしから聖剣の説明をば…。ディオンとローゼンの剣には攻撃だけでなく魔王の動きを止める機能もついておるぞ。ミリオンとユリシーズは攻撃の機能しかついておらん。クロードとフローラとアイリーンの剣は、他の連中に力を与える事が出来る。クロードは攻撃も出来るが。それぞれ、上手く使ってくれ。」


オーネットは。


「今のままじゃと、魔王はいずれ復活する。皆で十分、訓練をし、しっかりと魔王を滅ぼしてほしい。これはババからの願いじゃ。」


ディオン皇太子は立ち上がり、二人に向かって。


「承知いたしました。マディニア王国、皇太子ディオン。必ず、皆と共に魔王を倒すことを約束致しましょう。」


ミリオンも立ち上がって。


「俺も、必ず、父であっても、この世の邪悪ならば魔王を倒すぜ。約束する。」


ローゼンも立ち上がり。


「私も約束しよう。ディオン皇太子殿下に付き従い、必ず、魔王を倒す。」


ユリシーズとクロードは顔を見合わせて。


まず、ユリシーズが小さな声で。


「俺も約束します…。今度こそ。魔王と決着をつけます。」


クロードも立ち上がり。


「俺も、微力ながら力になります。魔王を倒します。」


フローラはチョコレートケーキを食べていたが、慌てて。


「私も頑張りますわ。」


アイリーンも、優雅に紅茶をたしなみながら。


「勿論、私も力になりたいと存じます。」


オーネットはイルグに。


「よかったのう。イルグ。これで、リリアは浮かばれるの。」


イルグも頷いて。


「ああ…娘もあの世で喜んでおろう。」


フローラがイルグをハタと見つめ。


「それじゃおじい様に当たるわけですね。イルグ様は。」


イルグがフローラを抱きしめて。


「おおおおおおおっ。我が孫娘…。」


アイリーンがフンっという感じで。


「私は抱き着かれたくないわ。」



結局、その日は皆、この屋敷に泊まらせて貰い、明日、王宮に転移魔法陣で送ってもらう事になった。


ディオン皇太子は、オーネットにこの屋敷を案内してもらう。


沢山の魔物達が、庭の薔薇の手入れをしたり、地下には黒龍が何匹もいて、その剥がれた鱗を魔物達が集め、黒龍せんべいなんていうのを作っていたり。


共について来た、クロードとアイリーン。


アイリーンがディオン皇太子に。

「黒龍せんべいは、我が魔国では人気商品なのですわ。ちょっとした風邪なら、食べた途端に元気になるんですもの。風邪予防にもなりますのよ。」


ディオン皇太子がオーネットに。


「このせんべい、うちの王国にも売って貰えぬか?」


オーネットは考え込んで。


「人気商品じゃからのう…。まぁ考えておくが…」


「しっかり考えておいてくれ…そうだな…1枚の相場はいくらだ?どの位なら売る事が出来る?」


だなんて、交渉を始めているのは、さすが一国の皇太子だ。


クロードが廊下に飾ってある花瓶の花を見て。


「青い薔薇だ…綺麗だな…。アイリーンの髪に飾ったら似合いそうだ。」


オーネットが気を利かせて魔法をかけたのか、アイリーンの黒髪に青い薔薇がふわりと一輪、舞い降りた。


アイリーンは微笑んで、クロードに。


「どう?似合うかしら。」


「とても素敵だよ。アイリーン。」


ディオン皇太子が。


「若いっていいものだな…俺もセシリアの髪に薔薇の花を飾ってみようか。」


オーネットも頷く。


「そうじゃの…本当にいいものじゃ。昔を思い出すのう。」




その頃、ミリオンはこの屋敷の美味い酒を、イルグと共に飲みまくっていた。


樽から椀にすくって飲む酒は、琥珀色をしていて美味い。


「ああ…やはりばーちゃんのとこの酒は美味い。魔物に作らせているからな。」


イルグもごくごくと樽の酒を椀にすくって飲み。


「そうじゃろーそうじゃろーー。飲め飲め…」


ユリシーズは一人、テーブルに出されたお菓子を食べていた。


ここのお菓子は、かなり美味しい。


「何だか。俺、食ってばかりいるな…。まぁいいか…」




そしてその頃である。


ローゼンはベットで寝ていた。


具合が悪かったのに、無理をしていたのか…


熱が出て気分が悪そうだ。


フローラは心配そうに、額に冷たいタオルを当てたり、


看病していた。


薬を屋敷の人から貰ったので、飲んで貰ったのだが、とても寒がっていて。


フローラは夜着に着替えると、ローゼンの隣に潜り込んだ。


優しく抱きしめる。


ローゼンがぎょっとしたように、目を見開いた。


フローラはローゼンの頬をそっと撫でて。


「今宵は一緒に寝ます。私は貴方を信じますわ。」


「フローラ。有難う…温かいな。」


甘えるようにフローラの胸に顔を埋めて、ローゼンは瞼を閉じる。


ちょっと恥ずかしいが、何とも言えない愛しさを感じて、


優しくローゼンの髪を撫でた。


先々、不安だけれども…


こうしてともに居られる幸せを噛みしめるフローラであった。


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