ローゼンシュリハルト・フォバッツア騎士団長様 フローラは恋に落ちました♡
「寒いわっ。なんでこう寒い中にいるのかしら。」
フローラはブルブル震えていた。
霧雨が降っている中、彼女はマギーと共に宮廷にある騎士団の建物の外に居た。
他にも沢山の女性達が建物の外で待っている。
そう、ローゼンシュリハルト・フォバッツア騎士団長が皆、お目当てなのだ。
麗しい金髪に整った顔。乙女なら誰しもあこがれる凄い美しい青年だった。
こんな寒い雨が降っている中で、騎士団の練習が行われるという。
女の子達はローゼン騎士団長を見たくて皆、集まっているのだ。手に手にプレゼントも持ってさながら現代で言うアイドルを待つ感じだ。
練習光景は一般にも開放しているので、門が開けられる。
皆、一斉に中に入り、霧雨が降る寒い中、傘をさしてフローラはマギーと共に大勢の中で、騎士団の練習が始まるのを待つ。
耐えきれずにフローラは背後に向かって。
「寒すぎるわ。サラ、サラはいるの?」
ちゃんと背後にメイドのサラが控えている。
学園以外はどこにでも付き従うサラである。
「コート持って来て頂戴。」
「かしこまりました。」
サラが馬車からコートを持って来てくれるも、一枚しかなくて。
「マギー一緒に羽織りましょ。」
「それは困ります。フローラ様に風邪でも引かせたら。」
「大事なマギーに風邪を引かせたらそれこそ悲しいわ。」
二人でくっついてコートを羽織る。
それでも寒くて寒くて。なかなか騎士団の練習は始まらない。
フローラはマギーに向かって。
「騎士団の建物に行くわよ。マギー。」
「えっ?どうなさるのですか?」
「私はフォルダン公爵令嬢。文句言ってくるわ。」
そういうと騎士団の建物に向かって歩いていく。
マギーも慌ててくっついていき、サラと護衛のルシアもちょっと離れてついていく。
建物の入り口に入ると、事務員の女性が出て来た。フローラは腰に手を当てて叫ぶ。
「ちょっといつまで待たせるのよ。私はフローラ・フォルダン。あんなとこで待たされたら風邪ひくわ。そうだわ。貴賓室に案内しなさい。特別扱いは当然でしょ。」
女性事務員は困ったように。
「貴賓室は王族か、外国の賓客のみに使われます。それに我が騎士団は王家直属。どんな貴族の方も特別扱いするいわれはありません。」
マギーが小さな声で。
「フローラ様、外へ参りましょう。この方の言われる事は正論です。」
「ここで引っ込むのも嫌だわ。特別扱いしなさい。フォルダン公爵家を怒らせたら、まずいのは解るわよね。」
女性事務員がフローラを押し出すように。
「ともかく、お帰り下さい。」
その時である。
「何の騒ぎだ。」
ローゼン騎士団長が、数人の近衛騎士と共に近づいてきた。
女性事務員が訴える。
「ローゼン様、フォルダン公爵令嬢が貴賓室に案内しろとおっしゃられるのでお断りしたのですが、引き下がらないのです。」
フローラは近づくローゼンを見上げた。
遠目で見た事はあるが、これ程、美しい男性だとは知らなくて。
思わず顔が真っ赤になる。
「これは失礼致しました。フォルダン公爵令嬢。貴賓室へご案内致しましょう。レリッタ。
ご令嬢を貴賓室へ。」
「よろしいのですか?」
女性事務員が驚いたようにローゼンに問えば、ローゼンは、ほほ笑んで。
「フォルダン公爵とは良好な関係で居たいのでね。よろしく頼むよ。」
渋々、女性事務員が貴賓室へ案内してくれる。
あったかくてガラス張りの貴賓室は、騎士団が集まっている広場が良く見えた。
ソファに座れば、女性事務員が紅茶とクッキーを持って来て、テーブルに置いていった。
不機嫌である。
マギーと共にソファに座って紅茶を啜る。
後ろにはサラとルシアが控えていた。
マギーがフローラに。
「あったかいお部屋に入れて貰えてよかったです。それにしても、お噂通りの美しいお方ですね。ローゼン様は。」
フローラもうっとりと。
「本当にお美しい方だわ。確か、王弟殿下の御令嬢とご婚約されていたのよね。マリアンヌ様でしたっけ。」
「マリアンヌ様かぁ。クラスが別だからお話した事はありませんけど。お美しい方でしたよね。」
フローラはすくっと立ち上がり。
「おりしも私は婚約破棄されて、今は自由の身。まだまだ一人で贅沢三昧していたいけれど…。燃えて来たわ。」
「えっ??何がです?」
驚くマギーに、フローラは。
「マリアンヌ様から、盗る。ローゼン様と結婚するわ。」
「えええええっ???それはさすがにマズイのでは?」
「山は高い程、登りがいがあるのよ。」
「フローラ様、登山した事ありませんよね??」
ワイのワイの騒いでいると、騎士団の練習が始まったようだ。
霧雨の中、200名程が隊列を組み、ローゼン騎士団長指図の元、綺麗に陣形を展開していく。
フローラは窓ガラスにへばりつきながら、
「綺麗だわ…凄く素敵。」
マギーもうっとりして。
「本当ですね。」
サラが背後から。
「盗るとおっしゃられるのなら、このサラご協力致しますわ。」
ルシアは無言で黙っている。何と言ったらよいかわからないのだろう。
フローラはくるりと振り向いて、
「有難う。サラ。勿論、ルシアも協力してね。」
ルシアはこくんと頷いた。
練習が終わり、しばらくしてローゼンが部屋に現れた。
「フォルダン公爵令嬢、如何でしたかな?」
「とても素敵でしたわ。さすが王家を守る騎士団です。」
ローゼンを見上げる。ああ、なんて美しいのだろう。
この方となら、キス・・・キス・・・キスっ。
真っ赤になって目を瞑る。
ローゼンは目を瞑って顔を突き出すフローラに向かって。
「気を付けてお帰りを。まだ雨が降っておりますから。
くれぐれも父上に宜しく言っておいてください。」
フローラは目をぱっちり見開いて。
「今度、是非、我が家に遊びに来て下さいませ。何だったら私が遊びに伺っても。」
ローゼンはにっこり笑って。
「一応、婚約者の居る身ですので。お気持ちだけでも頂いておきましょう。」
出口までローゼンは見送ってくれた。
馬車に乗りマギーが。
「山は高いですね…フローラ様。」
「こうなったら父上に頼むわ。」
「えええっ?相手は王弟殿下の令嬢ですよーー。」
「王弟殿下が強いか、フォルダン公爵家が強いか、勝負だわ。」
雨脚は強まって行き、フローラの心は恋に燃えるのであった。