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婚約披露パーティでの波乱

フローラがフォバッツア領地へ初めて行ってから、一月が経った。

週に一度はアスティリオ・フォバッツアと、その夫人、シュリアーゼに会って領地経営の事を教わる。忙しいはずのローゼンも毎回、フォルダン家の転送鏡で共に領地へ行き、フローラに領地経営のアドバイスをしたり、領地を案内したりしてくれた。

フォバッツア家の屋敷の使用人達も、フローラが持ってくるお菓子を喜んでくれ、色々と親切にしてくれる。

フォバッツア夫妻も実の娘のようにフローラを可愛がってくれた。


平日、学園が終わった夕方、時々ローゼンと共に外で夕食を取る。

ローゼンはフローラに高級な食事処で、豪華な料理を食べさせてくれる。

街の明かりが灯る道を、二人きりで手を繋いで歩いてみたりした。

王都は治安が良く、ローゼンは強いので安心して歩ける。


今日も豪華な夕食の後、手を繋ぎながら道を歩く。

空には星がチカチカと輝いていた。

フローラがローゼンの横顔を見つめながら。

「もうすぐ冬ですね…。ローゼン様。」

「ああ…だが君が傍にいれば、いつでも暖かい。」

「まぁ。ローゼン様ったら。」


ああ//////

なんて幸せなんでしょう。


ぎゅうっとローゼンの腕に腕を絡め、身を寄せれば、チュっと額にキスを落とされる。


それだけで、もうもう、フローラは幸せ一杯になった。


ローゼンが微笑みながら。

「そういえば、婚約披露パーティは一週間後だが…心づもりは大丈夫かね?」

フローラは赤くなりながら。

「合間を見てローゼン様と練習したダンス。しっかりとステップを間違えずに披露いたしますわ。当日はよろしくお願い致しますね。」


宮廷で国王陛下や王妃様、皇太子殿下夫妻、王弟殿下夫妻

高位な貴族達に婚約披露のパーティを、フォバッツア家とフォルダン家主催で開くのだ。

粗相があってはいけない。

ローゼンに屋敷の門まで送って貰う。


「おやすみ。フローラ。良い夢を。」


「おやすみなさい。」


王都のフォルダン家からローゼンの屋敷までそう遠くない。

額にチュッとキスを落として別れ、ローゼンは歩いて帰っていった。


ご機嫌に屋敷に戻り、サラを呼ぼうとすると、父のシュリッジ・フォルダン公爵が難しい顔をして待っていた。姉のアイリーンと、その婚約者(婚約をしたらしい)クロード・ラッセルもいた。


3人は居間の豪華なソファに座り、父のフォルダン公爵がフローラにも座るように言う。

フローラが父の隣に座ると、アイリーンがフローラに。

「貴方、困った事をしてくれたわね。」

「え?なんのことかしら。お姉様。」


フォルダン公爵が眉を寄せながら。

「いいかい?フローラ。人間に魅了の魔術を使ってはいけない。そう何度も言ったはずだ。

フォバッツア公爵と、その両親や使用人達に使っただろう?」

アイリーンがバンと片手で机を叩き。

「使ってないなんて言わせないわ。」

クロードも困ったように、

「騎士団長の魂に君の花びらが絡みついていた。見える者にはわかるよ。」


フローラは悲しくなった。涙がぽろぽろと流れる。

「だって私なんて私なんて、ローゼン様に魅了でも使わなければ愛されないわ。

ご両親やお屋敷の人達だって好きになって貰えない。私、魔族ですし、まだまだ子供ですもの。」


フォルダン公爵は愛しい娘の髪を撫でながら。

「お前の気持ちは解る。だが…一週間後の婚約披露のパーティに、我がフォルダン公爵家と、フォバッツア公爵家の失墜を図ろうとする断罪が行われようとしているのだ。お前の魅了のせいでな。」

フローラは慌てて。

「何で?私の魅了のせいで?」


「第三魔国の魔王シルバが、マリアンヌ・マディニア様と組んだ。

フォバッツア公爵とお前との婚約披露パーティで、魔王シルバとマリアンヌ様の二人の婚約を発表し、主役を奪う。

それだけでなく、お前がフォバッツア家に魅了を使って、乗っ取りをたくらんでいると国王様に報告。神官長もいらしているから、そこで魅了の鑑定が行われ、それが事実と認定されたら我がフォルダン公爵家は終わりだ。そして魅了をかけられて気づけなかったフォバッツア公爵家もただではすまないだろう。」


長々としたフォルダン公爵の説明に、フローラはわぁあああと大泣きした。


アイリーンが不機嫌に。

「泣くんじゃないわよ。対策を考えないと。まずはフォバッツア公爵と、そのご両親や屋敷の使用人たちの魅了を解いておかないと。ご両親や屋敷の人たちの魅了は、一度に解いて大丈夫だけど…フォバッツア公爵は少しずつ解かないと。」


クロードが、はいと右手を上げて。

「騎士団長は俺がやるよ。騎士見習いだけど、同じ職場だ。都合がいい。屋敷の人間はアイリーン、君に任せるよ。」

アイリーンは頷いて。

「解ったわ。」


フローラは泣きながら叫んだ。

「嫌よっ。ローゼン様に嫌われてしまう。うわーーん。いやっーーー。」


バンと扉を開けてサラが飛び込んで来た。

「お嬢様。お嬢様、サラがついています。」


サラがフローラを抱きしめる。

「ご主人様。アイリーンお嬢様。クロード様。申し訳ございませんっ。フローラ様はローゼン様を愛するあまり。」


フォルダン公爵が頷いて。

「解っている。フローラの心もな。しかし、神官長に魅了をかけたと判定される訳にはいかないのだ。そして、シルバは第二魔国の我らを面白く思っていないのであろう。私はマディニア王国で公爵という立場で政治に関わり、国王に意見出来る強い影響力を持つからな。自分が取って変わりたい。そう思っているのであろうよ。」

アイリーンが更に不機嫌に。

「忌々しい男だわ。シルバ。昔から気に食わなかったけど。」

クロードがフォルダン公爵に。

「でも、二人を焚きつけている黒幕もいるのでしょう?」

「王弟殿下、王妃様、そして王妃様の実家のアイルノーツ公爵家だな。王弟殿下とアイルノーツ公爵はフォルダン公爵家を特に良く思っていない。かといって、逆にシルバとマリアンヌ様を名誉棄損で断罪に持っていくのも難しいであろうな。王妃様と王弟殿下の横やりは確実に入るからだ。」


フローラは泣きながら。

「ローゼン様とは会えないの?お父様。」

「残念ながら、お前はフォバッツア公爵と当日まで離れているしかない。魅了を解いている途中で会えば、公爵が混乱する。よいな。」


幸せから一気に地獄に落とされてしまったフローラ。

サラにすがって泣くしかないのであった。



そして、婚約披露パーティの当日、フローラはローゼンに一週間ぶりに会った。

豪華な桃色のドレスを着たフローラを見つめ、ローゼンはにこやかに。

「綺麗だよ。フローラ。」

「ローゼン様。」


魅了は解けているはずである。世辞であろうか?

その手を取り、二人はフロアへと出ていった。


まずはダンスを披露する。

壇上にマディニア王と、王妃。右手には王弟殿下夫妻、その娘のマリアンヌ。

左手にはディオン皇太子殿下と、セシリア皇太子妃。(フィリップ殿下は外遊でいなかった)

横手には招待された高位貴族達が席に座っていた。上座には神官長の姿も見える。

アイルノーツ公爵夫妻とその長男夫妻、主催のフォバッツア夫妻の姿も見えた。

勿論、主催であるシュリッジ・フォルダン公爵もアイリーンとクロードと共に席に着いている。


シルバの姿が見えないが、後から出てくるのか。

そっとマリアンヌが席を外すのをフローラは確認した。


ダンスの曲が流れる。

白銀の礼服を着たローゼンの主導の元、フローラは踊りだした。

二人の優雅なステップに皆、ほおおおおっと見とれている。


一通り踊り終えると、拍手が二人に起こる。


ふと、白銀の長い髪、金色の瞳の黒服を着た魔族に手を引かれ、マリアンヌが入ってきた。

マリアンヌのドレスは黒を基調としているが、銀の糸が織り込まれており、薔薇が沢山飾られていてキラキラと輝いている。金の髪をカールし、長く垂らしたマリアンヌは本当に美しかった。


二人が踊りだすと、皆、目が釘付けになった。

見事な踊りである。優雅なステップ。ふわりと翻るドレス。

華があった。


踊り終わると、皆、凄い拍手で湧き上がる。


王弟殿下がわざとらしく、二人に向かって声をかける。


「マリアンヌ。そこに連れているのは誰だ?」


「ご報告がありますわ。お父様、そして国王陛下。発言をお許しいただけるでしょうか?」


マディニア国王は頷いて。

「許す。申してみよ。」


マリアンヌは優雅に微笑んで。

「わたくし、マリアンヌ・マディニアは、第三魔国魔王、シルバ様と婚約したいと存じます。

お許しいただけないでしょうか?陛下。」


シルバもマリアンヌの手を取り。

「この美しき令嬢に惚れましてございます。国王陛下。どうかお許しを。」


国王陛下は二人を見つめ、椅子から立ち上がり。

「このマディニア王国、国王の名において。第三魔国、魔王シルバと、マディニア王国、王弟が娘、マリアンヌ・マディニアの婚約を許可しよう。」

「有難うございます。」

マリアンヌは優雅に両手でドレスの裾を持ってお辞儀をする。

シルバも頭を下げ礼をした。


その時である。

国王の隣に座っていた濃い赤のドレスを着た、王妃が扇で口元を隠しながら。

「して、話は変わるが、フローラ・フォルダン公爵令嬢が、フォバッツア公爵家の乗っ取りを図って公爵家の者達に魅了をかけているという噂を聞いたのだが、本当の事か?」


王妃が断罪を?情報ではシルバとマリアンヌが言い出すのではなかったか?


フローラが進み出て。

「王妃様、断じてわたくし、フローラ・フォルダンは魅了等、使っておりません。」

王妃はニヤリと笑って。

「噂は噂だが、真実は確かめておかねばなるまい。神官長、フォバッツア公爵と、アスティリオとシュリアーゼを調べてたもれ。」

神官長は前に進み出て。

「かしこまりました。王妃様。」


シュリアーゼが立ち上がり、

「恐れながら、王妃様。わたくしたち、フォバッツア公爵家はフローラ・フォルダン公爵令嬢を大切に思っております。フローラが魅了を使っていないと言っているならば、その言葉を信じたいと思いますわ。いかに王妃様と言えども、フォバッツア公爵家とフォルダン公爵家を侮辱しているではないでしょうか。」

元、英雄で隣国の王女である。

その態度は堂々としていた。

王妃は苦々しく、しかし凛とした声で。

「魅了を受けていないと自信があるならば、わたくしにも解るように証拠が見たいと言っているのです。シュリアーゼ。これは王妃命令です。」


その時である。

マリアンヌが進み出た。

「王妃様。わたくしからもお願い致します。フローラは魅了なんて使う子じゃありませんわ。フォルダン公爵家とフォバッツア公爵家は、このマディニア王国では大切な公爵家です。

どうか、侮辱するような事はおやめください。」

マリアンヌが頭を下げる。


フローラがマリアンヌの傍に行き。

「マリアンヌ様。」

マリアンヌは小さな声で。

「主役は奪ってやったわ。これで恨みっこなしよ。でも、貴方を失墜させたくない。

悔しいけど貴方とは良いお友達になれそうな気がするの。」


ローゼンが王妃に向かって。

「もし、神官長が調べて魅了した証拠が出てこなかったら、王妃様はわれらが公爵家を疑った責を取って下さるというのでしょうな。」


それまで黙っていたディオン皇太子殿下が笑って。

「母上。どの公爵家も、そしてどの魔国も我がマディニア王国にとっては大切なものだ。

神官長。この件はこれで終わりだ。席に戻りたまえ。それでよいですね?父上、母上。」


マディニア国王は頷き。

「疑ってすまなかった。フローラ・フォルダン公爵令嬢。改めて婚約おめでとう。

ローゼンシュリハルト・フォバッツア公爵。フローラ・フォルダン公爵令嬢。

二人の結びつきが我が国の力に、敷いては人と魔族の強い結びつきを作るきっかけになる事を望んでおるぞ。」


ローゼンと共にフローラは頭を下げる。

「有難うございます。国王陛下。」


王妃は不機嫌に椅子に座って、フローラを睨みつけていた。


パーティが終わり、皆、帰り支度をし始めた。

フローラは改めてまず、マリアンヌに礼を言う。

「かばって下さってありがとうございます。マリアンヌ様。」

マリアンヌは扇で口元を隠して小声で。

「魅了なんて貴方が使いそうな手だわよ。まったく。まぁいいわ。

私も学園卒業後に魔国に嫁ぐことになるけど、こちらの王宮にもちょくちょく顔を出すから。お互いに人と魔族の強い結びつきを作るきっかけになるといいわね。それじゃまた。」


マリアンヌはシルバの傍に行ってしまった。

シルバの事は知っているが、アイリーンと同様、よくは思っていない。

野心家の男だ。

だが、幸せそうに微笑むマリアンヌを見るシルバの目は優しかった。

次にアスティリオ・フォバッツアとシュリアーゼの元へ行き、頭を下げる。

「先程は有難うございました。私は…」

アスティリオはフローラに向かってしぃっと指先を自分の唇に押し当て、優しい眼差しで。

「フローラは大事な私たちの娘だ。疑いが晴れてよかった。」

シュリアーゼもそっとフローラの手を握り締めて。

「貴方が来るようになってから屋敷に花が咲いたよう。大事な大事な娘よ。

また、いらしてね。お待ちしているわ。」


嬉しかった。魅了が解けたはずなのに。フローラは本当に嬉しかった。


ローゼンがフローラの手を取って。

「私にとっても君は大事な婚約者だ。君と付き合うようになってから、本当に幸せを感じた。もし、魅了されていたとしても、感謝している。私はフローラ、君の事を愛しているよ。」

「ローゼン様。」


フローラは泣きだした。そしてローゼンに抱き着いた。


そんな様子をシュリッジ・フォルダン公爵とアイリーンとクロードは遠くから見つめていた。

アイリーンがふううと息を吐いて。

「まったく、騒動が収まってよかったわ。」

クロードも。

「騎士団長、魅了を解いてもフローラが好きだなんて、まぁフローラの魅力はひたむきな所だからな。解って貰えてよかったよ。」

アイリーンが不機嫌に。

「ちょっと…クロード。それでは私の魅力は?」

クロードがやばいと思ったのか。

「そりゃもう、全てだよ。君の魅力は全てが素晴らしい。」


そんな様子をフォルダン公爵は笑いながら見ていた。

娘たちが幸せならば言う事はないと…。

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