表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/56

婚約の絆を深める為に、フローラ・フォルダン公爵令嬢を領地へ招待したのだが。(ローゼンサイド)下編

やっと領地に着いた頃には昼近かった。

古い洋館は、背後はうっそうとした森に囲まれ、前面には広大な葡萄畑が広がる。


馬車から降りたフローラがあたりを見渡して。

「まぁ。お伽話に出てきそうな場所ね。素敵だわ。」


ローゼンはフローラに。

「我が領地は、良いワインが出来ると評判でね。」

「だから葡萄畑があるんですね。」


ご機嫌の良いフローラ、そしてフローラのメイドのサラを連れて、

屋敷の門をくぐり、扉を開ければ、召使一同が並んで控えて待っていた。


「おかえりなさいませ。ローゼンシュリハルト様。」


執事が代表して挨拶すれば、ローゼンは執事に。

「フォルダン公爵令嬢を部屋に案内してやってくれ。」

「かしこまりました。」


二人を執事に任せると、自分は両親の部屋へ顔を出す。


部屋では父のアスティリオが、机で書き物をしており、母のシュリアーゼがこれまた、難しい顔でソファに座って書類を読んでいた。


ローゼンが挨拶をする。

「お久しぶりです。父上、母上。」


白髪の混じる歳になった元騎士団長、アスティリオは顔を上げず、書き物をしながら。

「久しぶりだな。ローゼンシュリハルト。」

母のシュリアーゼも、白髪の混じる髪を一つに纏め、薄水色のドレスを着て、そちらは書類から顔を上げ。

「お帰りなさい。ローゼン。婚約者は連れて来たの?」

「ええ、母上。今、客間にいます。昼食は一緒に取れますが。」

シュリアーゼはほほ笑んで。

「どんな子かしら。楽しみだわ。」


かつての英雄、女剣士のシュリアーゼもすっかり、中年の貴婦人になっていた。


ローゼンは自分以上に手厳しい両親に、フローラが耐えられるか心配になる。

ん?心配?何で私は心配しているんだ?あの娘の事を。


部屋を辞してから昼食の準備の為に自室で着替えをする。両親とフローラの初めての顔合わせだ。きちっとした格好で行かないとまずい。

メイド達に手伝わせ支度をする。

金と銀のあしらった上着に黒のズボンにブーツ姿で金の髪を肩まで垂らして。

鏡を見る。


「お坊ちゃま。今日もお美しいですわ。」


長年仕えてきた、歳をとったメイドが褒めてくれる。

他のメイド達も、ほうっとため息をついて見とれてくれた。


自分は美しいと思う。

それはローゼンの自信だ。なんせ、マディニア王国の美男の一人に数えられているのだから。



丁度、昼食の支度も出来たので、フローラを呼びに行く。

扉をノックして中に入れば、フローラはいなかった。

大きな鏡が客間の中央に設置してある。


「フローラ?」


名を呼ぶと、はい、今、行きます。

と、鏡の中から声がした。


鏡の中から現れたのは、薄橙のドレスを着て、髪を結い上げたフローラだった。

キラキラ光った橙の宝石をあしらった髪留めが綺麗である。


「自分の部屋に、転移して着替えてまいりました。どうかしら。ああ、ローゼン様、とても素敵ですね。」


ローゼンはまぶしそうにフローラを見つめて。

「とても綺麗だ。フローラ。」


本当に綺麗だと思う。

フローラはほほ笑んで。


「でも、やはり本当の姿を見て頂いた方が、よいかもしれませんね。」


髪留めを外すと、長い金髪がさらりと流れて。

羊のような魔族の角が頭に現れる。耳も尖ってさながら魔族そのものだ。

フローラは首を傾げながら。


「アスティリオ様とシュリアーゼ様はどう思うかしら。ねぇ。ローゼン様はどう思いますの?私の本当の姿。」


フローラはくるりと一回転する。金の髪と、橙のドレスがふわりと舞い。

それと同時にフローラの周りに花びらが舞った。


そう、あの婚約を決めた昼下がりは花びらが舞っていた。

あの時のように。


魔族姿のフローラは、雰囲気が変わる。

大人っぽくなるのだ。


16歳の少女なのに、政略結婚の相手なのに。


ローゼンはフローラを抱き寄せて、思わずそのサクランボのような唇に口づけをした。


そっと顔を離せば、顔を真っ赤にしたフローラがローゼンを見上げていた。


「ロ、ローゼン様っ、いきなりは反則すぎますっ。きゃあああっ。どうしましょう。どうしましょう。」


ローゼンが。おろおろと焦りまくるフローラを慌てて落ち着かせるように。


「いや…父上や母上が待っている。さぁ、フローラ、食堂へ行こう。」


フローラに手を差し出す。その手をそっと握り締めるフローラ。

二人は食堂へ向かった。


食堂では気難しそうな顔をしたアスティリオ・フォバッツアと、こちらもまた、気難しそうな雰囲気のシュリアーゼが席についていた。

フローラは二人を見ると、優雅にドレスの両端を指先で持ち、おじぎをし。


「フローラ・フォルダン公爵令嬢です。初めまして。お会い出来て光栄ですわ。」


アスティリオはフローラをしみじみと見やり。

「私がアスティリオ・フォバッツアだ。公爵の位は息子に譲り、隠居の身だがね。これは魔族と伺っていたが、なかなか美しいお嬢さんだ。」


シュリアーゼもフローラに向かって。

「私がシュリアーゼ・フォバッツアですわ。これはまた、可愛らしいお嬢さんですわね。こちらこそ、お会い出来て光栄だわ。さぁ座って下さいな。」


ローゼンとフローラは二人の目の前に座る。


アスティリオが、運ばれてくる前菜の魚と野菜の料理を食べながら。

「二人の結婚は、フローラが学園を卒業してからになるのかね?ローゼン。」


ローゼンは赤ワインを優雅に飲み。

「ええ、そのつもりです。」


シュリアーゼがナプキンで口を拭いてから。

「出来るだけ早く、領地経営を教えたいわ。それから茶会の事も…。慈善活動までやれとは言わない。我がフォバッツア家の嫁として、しっかりとしてもらわなくては。」


フローラはにっこり笑って。

「勿論、心得ております。これからは週に1回、こちらへ伺い、シュリアーゼ様の教えを請いますわ。魔族の転移鏡を使えば、すぐに来れます。ああ、わたくし、人付き合いが苦手で。学園ではお友達が少ないんですの。シュリアーゼ様に色々と教わって、フォバッツア家に恥ずかしくない位の嫁になりたいですわ。」


シュリアーゼは満足げに頷いて。

「いい心がけだわ。ローゼン。良いお嬢さんを貰えそうね。」


和やかに食事は進む。

そして食後の珈琲を飲み、フローラが王都から持ってきた、焼き菓子を食べながら。


ふとフローラが。

「そういえば、わたくし聖剣を賜りましたの。ディオン皇太子殿下から。」


アスティリオとシュリアーゼが驚いたように。

「それは凄い。」

「素晴らしい事だわ。」


ローゼン自身はディオン皇太子殿下から聞いていたから、驚きはしないが…。

金の聖剣を賜り、特別感が強かった自分としては、ちょっと面白くない。


フローラはローゼンの顔を見つめながら。

「わたくしが聖剣を賜った事が、何か意味があるのなら、ローゼン様のお力になりたいと思います。」


見つめるフローラの周りに再び、あでやかな花びらが舞った、そんな幻を見た。

今回は実際に舞ってはいなかったが。


アスティリオが満足そうに。

「良い令嬢と縁があってよかったな。ローゼンシュリハルト。」

シュリアーゼもほほ笑んで。

「本当に。良かったわ。」


両親の反応も上々である。


昼食が終わり、廊下に出ると、フローラがふぅと息を吐いた。

「緊張したわーー。私、ボロ出さなかったかしら。」


ローゼンはフローラの顔を見つめながら。

「上出来だ。まぁ勝負はこれからという事もあるが。毎週の母上の教育に耐えられるかな?フローラ。」

「私、一応、公爵令嬢ですから。フォルダン公爵家はいずれ、お姉様とクロードの物になるから、帰る所ないのよね…。貴族の令嬢の宿命だわ。ここは頑張らないと…」

ふとフローラが寂し気な顔をして。

「でも、どうして大人にならなければならないのかしら…。私、本当はずっと子供でいて贅沢して、美味しい物を食べて…お友達と買い物して…。後、2年で終わってしまうのね。ちょっと寂しいですわ。」


ローゼンはそんなフローラにふと愛しさを感じて、背後から抱きしめて。

「結婚すれば、新たな楽しい事も出てくるはずだ。確かに大変な事も沢山あるが…

一緒に乗り越えていかないか。フローラ。」


フローラは真っ赤になった。

そして頷いて。

「有難うございます。ローゼン様。私、頑張りますわ。」


午後になって、フローラを葡萄畑に連れだした。

幼い頃に大好きだった葡萄畑…

そんな景色を見て貰いたいとローゼンは思ったからだ。


丘の上から、二人きりで葡萄畑を眺める。

何でこの少女に愛しさを感じるのであろう。理由は解らなかった。


ただ、触れていたい。

ローゼンはフローラの手を握り締めた。

赤くなってフローラが手を握り返す。


「私、この領地が好きになりましたわ。ローゼン様。」


見上げたフローラの顔が美しかった。

なんともいえぬ幸せを感じるローゼンであった。


よかった。なんとなく両想いになってくれた。ほっとしてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ