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番外編.この世界についてのイリーナの考察

読み飛ばしてOKなところです。

イリーナとユニカがひたすらこの世界がどうやってできたのか考察するだけの話です。

結論の出ない二人のもやもやを書いただけなのでスルーでもお話的には問題ないです。

 お互いの今後の方針を「自分の想い人との恋愛を他人が見てもテンションが上がるように盛り上げる」と決めた私とイリーナは、やっと落ち着いて紅茶を嗜んでいた。

 でも私はこの世界がゲームだとか架空だとか言われたばかりで、内心のごちゃごちゃが何も片付いてはいなかった。

 そしてずっと頭の隅にあった最も気になる疑問をイリーナに投げかけた。


「ねえ。この世界がすごろくみたいなゲームの世界ってことはさ。じゃあ、ゴールに辿り着いたら? 終わり?」


 恐ろしいことを考えてしまった。ぶるりと身震いする。

 いろんな宗教が終末論を語るが、これほど身近に終末を恐れたことはない。

 イリーナもそのことは頭にあったようで、考えるようにしながらも答えてくれた。


「それはない、と思う。ゲームが始まるのは『ユニカ』の入学式なの。だけど私たちにはそれ以前の記憶も、もっと言えばこの国にはそれ以前の歴史もあるわよね。『前』があるなら『後』もあってもおかしくないと思うし、とにかくこの世界は生きてると私は思うのよ」

「生きてる、って?」

「さっきは苗佳の世界の視点から『架空の世界』って言ってしまったけれど、私もここに生きてる一人なわけで、私もずっと考えてたのよ。この世界は架空なのか、私は創られた存在なのか、って」


 そう。

 この問いは足元が揺らぐ恐ろしさを秘めている。

 アイデンテティが丸ごと失われる。それどころではない。生きる意味を問いたくなる。考えだすと、生きていけなくなりそうな気がする。

 だがイリーナはずっとそのことを一人抱えてきたのだろう。

 イリーナとて、別の記憶を持っているだけでこの世界の住人であることは変わらない。


「だけど、この世界にはゲームにはない町や国や食べ物、飲み物、言語、人もちゃんと存在してる。ゲームには生徒たちの家族なんて登場しないけど、私にもちゃんと両親がいる。ゲームと同じような世界なのは確かだけど、それだけじゃないのも確か。それはあなたにもわかるでしょう?」

「ええ。私のこの思考まで誰かに創られたものだとは思えない」

「私もそう思う。それで、まだ結論は出てないけど、この世界はゲームに付喪神みたいな何かが宿って命を持ったんじゃないかって考えたの」


 私の顔に浮かんでいた疑問符を正確に感じ取り、イリーナは指をピンと立てて説明を続けた。


「付喪神っていうのは、苗佳の世界で信じられてる神様で、長く愛用された物に宿るらしいの。このゲームは苗佳の兄が創ったもので、相当な思い入れがあったし」


 聞きながら、なるほど、と頷く。

 聞いたばかりで熟考できたわけではないが、なんとなく納得できる部分はある。

 反論がないことを確認し、イリーナは続けた。


「生命の起源なんて結局はすべて『そうかもしれない』っていう推察にすぎなくて、実際に目にした人はいない。人の始まりも、この大地の始まりも。苗佳のいた世界だって、本当は同じように何かの物語の世界なのかもしれないじゃない」

「うーん。まあ、自分の記憶だって、赤ちゃんの時のことは自分では覚えていないわけで、親とか周囲の人が、あなたはこんなだった、っていう話をするからそういう時代があったと信じているだけだものね。世界もそれと同じように考えたらいいのかしら」


 しかし、完全に「それだ!」という気持ちにはならない。どことは言えないが、なんとなくスッキリ説明がつかないところがある気がする。

 それはイリーナも同じだったらしい。再び唸り、また指をピンと立てた。


「あと一つ考えたのは、元々あったこの世界のことを苗佳が知って、それを暖人に話してゲームが創られた、っていう説」


 確かにそれなら私たちのこの世界が架空ではないということになり、足元が崩れるような不安は感じなくなる。だけど色々と疑問が残る。


「でもどうやって私たちのことを知るの?」

「私も苗佳の記憶を夢に見たわけで、同じことが苗佳に起きているかもしれないじゃない」

「でも時系列がおかしくない?」

「あー……確かに。二年前の何事も起こる前の時点で、苗佳の記憶では既にゲームは存在してたんだものね。でも世界が違うんだから時間だって違ってもおかしくないわよね。これから起こることを苗佳は何らかの方法で知った。その記憶を過去の私が垣間見た」

「パラドックスがすごい」

「うーーん……! 苗佳じゃなくて暖人とかゲームを創った人に関連する誰かがこの世界のことを知ったのかもしれない。それなら苗佳がこの世界のことを知らず、ゲームのことしか知らなくても納得はいく。それに、単に苗佳たちが発想の一部として利用しただけだと思えば、ゲームとこちらの世界の現実が異なるストーリーなのも納得できるし、異なることが何の問題にもならない。本当は何の補正もかかってなくて面白くなくちゃいけない制約もないと思ったら、私たちものすごく自由じゃない」

「でも、だったらさっきのメッセージは何だったの、ってことにならない?」


 そのことに触れると、イリーナは押し黙った。


「いたずらか……、単なるゴミで偶然拾っただけかもしれないし」


 苦しい。

 だが、あれがこの世界の創造主的な何かからのメッセージだと断定する方が苦しいことだ。

 そう考えれば、確かに最も理想的な説ではあった。私たちは何にも縛られていないことになるのだから。

 だが、そう考えて自由気ままに生きるのは、いつでもできることだ。

 今は世界が望まぬ姿になったときに私たちが負わされるデメリットの方が怖い。

 つまり、恋の踏み台として用意されたアレクとはそのまま恋に発展せず、しかもヒロインでなくなり人生が下降の一途を辿ることだ。

 互いに無言で考える間に、イリーナも同様の結論に達したらしい。


「まあ、結局正解はわからないわけで、どう転がってもいいように安全策を取るに越したことはない、ってところかな」


 答えが出ずもやもやするが、正直、答えがはっきりしてしまったときの怖さもある。

 私はイリーナに頷いた。


「そうね。だからここが架空の世界だからって自棄になるのはひとまず置いておくことにするわ」


 私の言葉に、イリーナが明らかにほっとしたように肩を下ろした。

 不用意な発言で私を不安にさせてしまったと責任を感じていたのだろう。


 誰かに創られた存在で、操られたように生きているだけ。

 そう感じると生きるのが馬鹿らしくなり、投げやりになる。

 けれど同時に、架空だとしても、誰かの筋書き通りに動いているのだとしても、今ここにいる私の意思は、誰にも侵せない、私だけのものだとも思う。

 私は決意を改めるように、大きく息を吐きだした。


「どうせなら楽しんで生きてやるわ。創られた世界だろうが何だろうが、今私が感じている気持ちは本物だと信じられる。アレクと結ばれる道が残ってる限りは、私は闘い尽くすわよ。たとえ相手が世界でも。神であっても」


 そう答えると、イリーナも口元に笑みを浮かべ、大きく頷いた。


「ええ。私もそう思うわ。お互いに頑張りましょう」


 かくして、我々は乙女同盟としての絆を強固に結んだのであった。

 ちなみに、「乙女同盟」は私の勝手なる自称である。

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