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13.いっそムキムキになりたい

 放課後、剣技クラブが終わった後も、カイルは私の練習に付き合ってくれた。

 カイルの手が空いていないときは、ダーンが横から「そこ腕が低い」とか客観的に見て指摘してくれることもあった。

 ダーンも私がカイルの指導を受けているのが羨ましいようで、よく一緒に残って稽古の様子をじっと見ていた。


 カイルに最も口酸っぱく言われたのは、


「ユニカ。冷静になれ」


 だった。

 自分で自分を守れなければアレクが死んでしまう。そう思うと焦り、がむしゃらになっていた。


「ユニカは一つのことにまっすぐに走りすぎる。時々周りも見てほしい」


 カイルのまっすぐな目が私を射抜く。何もかも見通しているかのように。

 剣技の試験の後話しかけてくれたときも、こんな目をしていた。

 カイルは硬く、まっすぐな目と意思の持ち主だ。

 けれどそれだけじゃない。ちゃんと人を見る目を持っている。周りを見る目を持っている。だからこそ、こうして人にまっすぐな目を向けられるのだ。


 がむしゃらに剣を振る私に、それでは体を壊しかねないと練習メニューを組んでくれたのもカイルだ。

 焦りを向ける先を用意し、かつそれを即戦力に変える。そしてクールダウンも忘れない。私に合わせ、考え抜かれたメニューだった。

 カイルは口はうまくないけれど、とても指導者に向いていると思う。こうして的確に指導ができるのは、人のことをよく見ているからだ。

 それをカイルに伝えると、ふいっと目を逸らして言った。


「誰のことでもこんなに見てるわけじゃない。真っ直ぐに懸命に突き進もうとするその姿が気になって目を離せないだけだ」


 カイルを剣一筋脳筋なんて思っていたことを猛省する。そんなのは私のことじゃないか。

 穴を掘って埋まりたい気持ちになっていた私に、カイルの静かな声が響いた。


「自分の体、大事にしてほしい。ユニカの体も命も、ユニカのものだ。だけど、ユニカが自分よりも誰かを大切に思っているように、また誰かもユニカのことを自分より大切に思っているかもしれない。そのことを忘れないでほしい」


 言葉が胸に刺さった。

 カイルの目は、どこか祈るように私を見ていた。言葉がきちんと届くようにと。


 言葉でうまく言い表せないという自覚がある分、じっくりと考えて放たれた言葉は、その分だけ重みがある。


「ありがとう、カイル」


 カイルが言うように思ってくれている人がいるかはわからない。

 それでも私はやっぱり、アレクに生きていてほしいと思ってしまう。私にとって、それが私を大切にするということだから。

 これだけは、変えられなかった。

 それでもカイルの言葉は、いつまでも胸に残っていた。


          ◇


 いよいよその日が近づいてくると、私は練習量を増やした。

 カイルがそれに付き合ってくれ、クラブのときも、その後も付きっ切りで見てくれていた。

 カイルは雄弁ではなかったが、教えるのは上手かった。


「上段の構え、脇が甘い」


 カイルが私の背後から密着するように、ひょいと私の腕を掴み、「こう」と姿勢を正してくれる。


「そこから、こう」


 剣を持つ私の腕を支えながら、一緒に下に振り下ろす。真っ直ぐな軌道が描かれ、私は感動した。


「脇を締めれば、軌道もブレにくくなる」

「ありがとう、何となく感じがわかったかも」

「正しい構えは、何度も繰り返すことで身に付く」


 そう言って、カイルは何度も私の腕を支えながら、正しい軌道を覚え込ませるように一緒に剣を振り下ろしてくれる。

 だけど背後から手を添えているから、剣を振り下ろすと共に私の耳にカイルの息が吹きかかり、非常にくすぐったい。


「あの、カイル、ちょっとごめん、その……」


 懸命に指導してくれているのに、くすぐったいなどと言っていていいものかと言い淀む。

 そこに足音が近づき、私とカイルは同時にそちらを振り返った。


「アレク! どうしてここに……」

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