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12.同時に二つのことを進められないのが私の短所だとは知っていた

 バーンとドアを開け放ったダーンの後ろには、ルーイまでいた。


「なんであなたたちがここに……」


 ものすごく突然でものすごくびっくりした。

 まだ心臓がばくばくいっている。

 あまりに乱暴に扉を開けたものだから、壁にぶち当たった扉がばいんと跳ね返り、ダーンは慌ててそれを手で押さえた。

 一方でフリードリヒは「おや、聞かれてたかな?」と頬をかきながらも驚いてはいない。

 どうやらこれは彼の計算のうちだったようだ。


「俺たちは隣の空き教室にいたんだよ。ルーイがいつもそこで指輪の細工を彫ってるからな。最近は俺も暇つぶしにそれを見に来てる。まったく、そんな特技があって指を大事にしたかったんなら、剣技の試験の時にもそれを言えばよかったのによお。おかげでユニカが暴走するし、いらねえ冷や汗かいたぜ」


 ルーイとダーンもあれから話したのだろう。

 言い訳になるからと理由を話さないことは時に美徳であるが、誤解で他人のいらぬ暴走を生むこともあるとルーイは思い知ったのに違いない。

 けれどダーンの言葉を聞いて、まさかフリードリヒはそのことを知っていてこの場所を選んだのではないかと思った。

 二人とも釣れてちょうどよかった、とでも言いたげな、ほくほくとした顔を見れば、その確信が深まる。


「おい、ユニカ。さっきからちょっとやばめの話だったから黙って聞いてたけどよ」


 黙って聞いているのもどうかと思うが。

 後ろからおずおずと顔を出したルーイが後を継いだ。


「一人で乗り込むなんて無謀すぎるよ、ユニカ。何かもっといい策があるはずだよ」


 その言葉に、フリードリヒが嬉しそうに口角を上げるのが見えた。

 フリードリヒの思惑が分かった気がする。

 ルーイを参謀として巻き込むつもりなのだ。

 いずれは城の関係者たちに話をし、協力を得なければならない。だがそれには情報漏洩のリスクが付きまとう。だから敵国に漏れるのを少しでも遅らせ先手を打つために、こうして閉ざされた学園内で作戦を練れる味方が欲しかったのだろう。




 それから私たちはフリードリヒとルーイを中心に話し合いを重ね、計画の素案が出来上がった。

 まず私が戦場に出るのは却下。前にも言った通り、『華』を舞う私を守るための犠牲が大きくなりすぎる。弓や投石で狙われたら私は防御もできない。しかも味方とて守る対象が剣を振り回しているのだから、守りたくても近づけない。


 だから結局私が言ったように、敵の城に乗り込むことにした。でも一人じゃない。カイルとダーンが一緒に来てくれる。

 手引きをしてくれるのはダーンの叔父のルーダス。流れの旅芸人一座としてギスモーダ国王に紹介してもらう。

 こうなると、フリードリヒはダーンの叔母の嫁ぎ先がギスモーダ国の貴族だということを知っていて、最初から仲間に引き込むつもりだったのに違いないと思えてくる。ルーイだけが目当てかと思っていた私は甘かった。


 ユラシーン国では予定通り舞踏会をしてもらうことも決めていた。理由の一つは皆には話していないけれど、ゲームとしての見せ場を作るため。華やかな舞踏会、色とりどりのドレスなど、乙女が憧れる要素が満載だから。

 表向きの狙いは、ちょうど私たちが乗り込む頃に、聖剣の乙女が現れたという噂が流れるようにするため。

 その噂を利用して、聖剣の乙女が剣舞によって魔を祓うこと、その(かた)をこの旅一座が舞えることをダーンの叔父から話してもらい、ギスモーダ国王の興味をひく。

 聖剣の乙女は遠い王城にいるはずだから、旅一座に本物がいるとは思うまい。デメリットもなく、事前に敵の手の内を知れるとなれば、ギスモーダ国王も食いつくだろうという算段だ。


 最も心配なのが、舞っている途中で魔に取り憑かれたギスモーダ国王が「ぐわあああ!」とか言い出したり、聖剣がパアアアァッと光り出したり異変が起きて取り囲まれることだ。実際にこの聖剣で祓ったことがないからどうなるかがわからない。

 異変を察知されたら「ひっとらえろ!」となるのが定石だが、そこは手引きをしてくれるルーダスにも手を回しておいてもらうしかない。何人が味方になってくれるかはわからないけれど、一人でも多いほど私たちの生存率は高まる。


 そこまでをフリードリヒとルーイがほとんど練り上げた。

 やってみなければわからない未確定な要素は多いが、総力戦の方が未知数だ。何より個人的なことを言えば、私かアレクが死ぬことになっていた状況よりはまだ望みはある。ただストーリー上にないことをしているから、世界の優しい補正は働かないとみるべきで、どんな事態になるかは全く読めない。

 それでもこんな作戦に許可が下りたのは、国にとっても、聖剣の乙女が返り討ちに遭ったって少ない犠牲で済むからだ。あとはこれまでと変わらず戦で勝てばよいだけだ。兵力を失わずにうっかりカタをつけられたらラッキーくらいのもので、国にデメリットはない。


 ただ私としては、カイルとダーンという将来有望な若者を道づれにしてしまうのはとても気が引ける。

 だから、やっぱり私は一人で乗り込もうと心に決めていた。


     ◇


 私は毎日剣技クラブに通った。

 クルーグ先生がいない日は、カイルが見てくれる。

 家に帰ったら筋トレ、走り込み。

 私はひたすら体を鍛えた。

 これまで私は(かた)と素振りばかりだったから、人と剣を交えるのも久しぶりのことだった。

 幼い頃、アレクと一緒に稽古していた頃以来だ。


 イリーナにも今回の件で協力してもらうことになっていたから、イリーナも多忙を極めていた。

 それに私の目的はアレクと、私と戦に行くことになったであろう兵士たちの命を失わずに済むことに変わっていたから、乙女同盟作戦会議は活動停止していた。


 だから私はすっかり忘れていた。

 もう一つのエンディングと、その時自分に起きることを。

 そして乙女同盟作戦会議とその実行は、そのためにも必要だったのだということを。

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