表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

君の声が聞きたい

作者: とりけら

ジリリリリリ


「……ん~」


朝起きると目覚ましの音が聞こえる。布団から出て窓を開けると鳥の鳴き声が聞こえる。自室から出るとお母さんが朝ご飯を作っている音が聞こえる。リビングに入るとテレビの音が聞こえる。

何気ない音。当たり前の音。

だけど、私は聞こえすぎてしまうのだ。


私の聞こえる音。

目覚まし時計の針の動く音がはっきりと聞こえる。すごく離れた鳥の鳴き声が聞こえる。自室から出なくてもお母さんが朝ご飯を作っている音が聞こえる。

病気とかではない。ただ、他の人よりも耳がいいだけ。

急に聞こえるようになったわけではない。これは生まれつきだった。だから、大変なことがたくさんあった。基本的に外出する時はイヤホンをする。いろんな音が聞こえてしまうからだ。聞きたくない音はたくさんある。特に学校は大変だ。内緒話は基本、同じ教室にいれば聞こえてしまう。だから、授業中以外はできるだけイヤホンをしている。私はずっと、独りぼっちだった。

悪いことばかりではない、耳が良くていいこともある。目覚まし時計の音がすごくうるさく聞こえるから起きやすいし、学校の先生のお話は聞き洩らしがほとんどない。……いいところはそれくらい。

だから、高校2年生の春、彼女との出会いは私の人生を大きく変えたんだ。


高校2年生になると、クラス替えがあったからかしばらくの間いつも以上に騒がしかった。皆、新しい友達を作っていたが私は案の定1人でいた。もちろん、イヤホンを付けて。でも、そんな私に話しかけてきた1人の女の子がいた。

その女の子は明るくてにぎやかな子だった。誰とでも仲良くなっちゃうような人。だから、私に話しかけてきたのは同じクラスメイトとして頑張ろうというあいさつだったのかもしれない。けれど、その時の私は喜びの感情が溢れていた。なぜならまともに人と話すのが久しぶりだったからだ。もちろん、すごく緊張していたから何をしゃべったかはあまり覚えてはいない。でもとても楽しかったな、いい人だな、と感じたのは確かだった。


その日からちょくちょく話しかけられるようになった。基本的に彼女が一方的に話しかけてくる。それに対して私は相槌をうったり、ひと言ふた言話したりする。ただそれだけの関係。だけど私はどこか心地よさを感じていた。苦と感じない何かがあった。

だから……だから私は、どこか安心していたんだと思う。


その日、私は耳が聞こえなくなった。

いつも使う通学路で事故があり、遅い時間の投稿になった日。

授業がもうすぐで始まるからと、イヤホンを外して油断した。

教室に入る直前で聞こえた私の悪口。

悪口自体は気にしていなかった。

問題だったのは言っていた人。

私が信じていた彼女だったから。

プツンとどこか遠くの方で聞こえた瞬間、私の世界は静寂に包まれた。


あれはいつだったか、小学生の時。

私への悪口を偶然聞いてしまって、私はもう何も聞きたくないと願った。その瞬間、私の耳は聞こえなくなった。どうやってまた聞こえるようになったかはおぼろげな記憶しかない。確か、もう一度聞きたいと願ったのか。簡単なことだった気がする。

けれど、今の私はそんな簡単な願いすら生まれないほど深く、堕ちていた。確かに、私が勝手に信じていたのが原因だったのかもしれない。どこかで我に返ればよかったのかもしれない。

でも私は。

私は思ってしまっていた。


君の声が聞きたい、と。


毎日、少しの会話でも、適当な内容でも、心地よさを感じていたら、また聞きたいと考えてしまう。自分がそんなことを考える人間だと思っていなかったから、その気持ちに気づいたときはびっくりした。でも同時に安心した。私にもようやく「友達」と呼べる人ができると思ったから。

そんな、淡い期待。

薄っぺらな気持ちが、崩れるのは簡単で。

静寂な世界の中で私は、ただ、音が聞きたくないと思い続けた。



私が悪い。

人が本当に絶望した時の顔は、ひどく悲しげで、冷たい顔だった。

彼女に話しかけていたのは、どこか同じ雰囲気を感じていたから。私は、1人が好きだった。けれど、1人では何もできないことを小学生の時、知った。集団の中にいれば安全。集団の中の高い地位にいればなおさら。だから私は、明るくにぎやかな子になった。あの時だって、いつも通りだった。けれど彼女に話しかけた瞬間、彼女のその目は、私の「裏」を見透かしているようだった。それから私は、彼女に対して私の求めている「なにか」の答えを知るため毎日話しかけた。彼女は依然として対応は変わらず、私もそれでいいと思っていたがだんだんと不満を募らせた。


君の声が聞きたい、と。


そう思うようになった。彼女はあまりしゃべらないから、本当に笑ってしゃべってほしかった。ただ、彼女と楽しくおしゃべりがしたいだけだった。けれど、私の周りの人はあまりいい気ではなかったらしく、その時は私も話を合わせるしかなかった。そんな偶然を、彼女に聞かれてしまうなんて。


「本当に、ごめんなさい。私はあなたにひどいことを言ってしまった……」


彼女の部屋の前で私はそうつぶやいた。彼女が今、何をしているかわからない。けれど、私にできることは固く閉ざされた扉の前でただただ謝ることだけだった。



私には何も聞こえない。

聞こえないはずだった。

けれど、奥の方でかすかに聞こえる「なにか」。その「なにか」に手が届きそうで、届かずにいた。いや、あえて届かないふりをしているのかもしれない。「なにか」をつかんだとして、その先はどうするのか。また勝手に信用して、裏切られて、落ち込んで。結局同じ結末が待っている。私にはわからなかった。



私は叫んだ。

叫ぶことしかできなかった。


「私はあなたのことを勝手に友達だと思っていた!でも、それは建前でしかなくて!結局昔から変わらない、他人に流される人生で……。でも!あなたを見て、しゃべって、思ったの!私が求める「なにか」はあなたが持っているって!ううん、私が求めた本当の「友達」ってあなたなんだって!だから、私は……!」



かすかに聞こえていた声がだんだんとはっきりしてくるのがわかった。きっと私も思っていたのだろう、彼女となら友達になれるって。友達になってもいいって。そして、楽しくおしゃべりがしたいって。友達の……私の大切な友達の……!



「「君の声が聞きたい!」」


気づくと私の目の前に彼女はいた。彼女は、笑っていた。私も笑っていたと思う。そして私たちは、言った。


「「友達になってください!」」

最後まで読んでくれてありがとうございます。

久しぶりの投稿でおかしな所が多々あるかもしれません、申し訳ないです。

令和でもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ