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白蓮教 首都連続爆破事件  作者: 松本忠之
9/18

午前十一時

「尊師。尊師の予測通り、河南ビルに仕掛けた爆弾は撤去されました」

「通信が途絶えたか?」

「はい。よって、ご指示いただいた、もう一つの方法で河南の儀式を完成させます」

「よかろう。もう手段はそれしかない。公安も馬鹿じゃないからな」

「それが…」

「どうした」

「非常に申しあげにくいのですが…」

尊師は、何かを口にすることをはばかる信者を見て、はっとした。

「まさか」

「はい、河南の儀式に向かわれたのは」

その名前を聞くと、尊師は絶叫した。

「誰がそんなことを!」

常に冷静沈着な尊師がここまで狼狽したのを、信者たちは初めて見た。

「尊師、お言葉ですが…」

「今すぐ北京教会に連絡を!」

「尊師、落ち着いてください」

信者は必死で尊師をなだめたが、聞き入れる様子がなかった。そして、早く北京教会に連絡しろと叫び続けている。

「もうすでに、北京教会を出ています。連絡を取るには、河南ビルにいる者に電話をする必要があります」

「構わない!早く電話を!」

「しかし、尊師。電話をすると、公安に電波の発信を察知される恐れがあります。危険です」

「構わぬ!早くしろ!私の命令が聞けないのか!」

もはや、尊師を止めることは不可能と察知した信者のひとりが、電話を発信した。しかし、河南ビルの現場にいる信者の携帯に電話する必要があるため、インターネット回線ではなく、電話回線に入り込む必要があった。

信者が電話を試みる光景を見つめながら、尊師の脳裏にはまたしても、過去の記憶がよみがえっていた。

地獄の日々。もう一生、陽の目を見ることはないとあきらめていた日々。そんな時、ついに、ついに光が見えたあの日の記憶。光をくれたあの人の記憶。闇から光へ。そして、ついに手にした日の当たる場所での生活。安定と安寧をもたらしてくれた教団への感謝と感動。そして、報恩。この恩に報いるには?学べと言われた。とにかく学べ、徹して学べと。古典から最先端科学技術まで、徹底して学んだ。そんな自分をいつも、変わらず、温かい心と食事で包んでくれた。涙が溢れ、止まらなくなる。ここまで来たのだ。あと二つだ。復讐の儀式の完成まで、あと二つ。河南と、そして最後の儀式。なのに、なぜ。一緒に、この儀式の成功を祝うのではなかったのか。なぜ。なぜ…。


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