21 片足のドワーフ。
ブクマ評価感想、そして
20話突破ありがとうござます!
とある店のアクセサリーが目に留める。
煌びやかに光るから目がいく。
ヴィオとナータの手を引いて、その店に入った。
「いらっしゃい。冷やかしなら出て行っておくれ」
私を見るなり、ドワーフの女店員さんは追い払うように手を振る。出迎えたが、引き返していく。
カタンカタン、と音を鳴らす足音。どうやら義足のようだ。右足だろう。
「ショーウィンドウにあるアクセサリーは宝石ですか? ガラス細工ですか?」
「見りゃわかるだろう、ガラス細工だ」
「キラキラですね。子ども用のネックレスが欲しいんですが、四つ」
「……金はあるんだろうね?」
疑い深いドワーフだ。
「ありますが、安いものでいいんです。子どものお土産なので」
「女の子達にはガラス細工のネックレス」
「男の子達には短剣!」
「アンタ、バカなのかい?」
「!?」
初対面にバカと言われたリーノ。
同感だけれど、接客業をするつもりはないのか。この店員さん。
「刃のない短剣なら作ることは出来るよ」
「お姉さんが作るのですか?」
「片足がないけれど、腕はあるよ」
椅子に腰を置いた店員さんは、右足を見せ付けた。
やっぱり義足だ。
「刃のない剣なら……まぁ喜びそう」
ケンタウロスのケイニー達はチャンバラごっこが好き。
本物の剣はあげられないが、刃がないというならいいだろう。
リーノは納得いかないといった表情をしたが、無視をした。
人数分買ってあげれば、皆で遊べるだろう。イサークさんに稽古をつけてもらっているニーヴェアには、ちょっと物足りないかもしれないが。
「アッズーロも、たまにはケイニー達と遊べば?」
「……」
アッズーロに話しかけてみるも、また沈黙を返されるだけ。
もう慣れた私は怒ろうとするリーノに制止の声をかけてから、正式に注文をすることにした。
「ん? んん?」
そこで店員さんが、私の顔をまじまじと見てくる。
「アンタ、紅い目の吸血鬼かいな」
「ええ。紅い目の吸血鬼ですが、それが何か?」
「いや、昔に会ったことがあるんだよ。紅い目の吸血鬼にね。アンタと同じ白銀の髪だった。親父さんかもね」
「私、孤児なので知りません」
「ああそうかい」
店員さんはあっさりしていた。同情の欠片も見せない。
どうでもいいので、私は気にしなかった。
「……ヴェルミ、いいのか? 自分の実の父親の情報かもしれない」
「ん?」
繋いだままの私の手を揺らして、ナータが気を引く。
「吸血鬼は、特殊能力を親から引き継ぐ。容姿も濃く受け継ぐから、実の親か親戚なのかもしれない」
私の特殊能力は自分の影を操ること。私は影遊びと呼んでいる。
イサークさんも、この特殊能力を持つ吸血鬼を知っているようだった。影遊びの対処法を知っていたもん。
「私は捨てられたの。縁は切られた。知る必要なんてないと思うけれど? 逆に知ってやるつもりもない」
「……」
はっきり言ってやると、ナータは押し黙った。
「そうだよ、捨てた親なんて知るこったないね」
店員さんから言い出したくせに、そう言うものだから、私達は沈黙をする。
「あたしゃ、リリース」
「私はヴェルミ」
「聞いてないよ」
「じゃあなんで名乗ったの」
私はおかしくて笑った。
「ここはあたしゃの店だよ。剣はこの数でいいのかい? だったら、五時間程度だね」
「賊を倒すには十分の時間じゃない?」
ヴィオを見上げる。
「賊だって?」
リリースさんは食い付いた。
「アンタらまさかリザードマンの賊に立ち向かおうとしているのかい? やめておきな、死ぬだけだよ。せっかくの客に死なれちゃ困る。作業した分、無駄になるじゃないか」
「じゃあ前払いしておく。それでいいでしょう?」
「……」
リリースさんって口悪い。
私は前払いをすれば損はないでしょう、とヴィオに払ってと伝える。
そんなやりとりを見て、あやしみいぶかる顔をするリリースさんだったが、ヴィオに差し出されたお金をブンッと受け取った。
「殺されてしまっても、あたしゃ知らないからね!」
言っておくけれど、と言うと私達を店から追い出す。
ドアには作業中という看板がかけられた。
「むぅー。悔しいです! ヴェルミ様の力を見くびっているのは我慢なりません!」
「まぁいいじゃん。片付けてから、ギャフンと言わせれば」
「そうですね!」
ミーニは聞き分けがいい。
「さぁ、行こうか。トカゲ狩り」
なんて冗談を言ってニヤリとする。
先ずは情報収集とランチをとることにした。
私はランチが要らないので、探索させてもらう。
一人がよかったのに、ナータがついてきた。
まぁ、私は常に一人と一匹なのだが。
影に猫が一匹潜んでいる。
「……猫は、リザードマンとの戦いに加勢をしてくるのか?」
鍛冶屋を覗き込む私の影を見下ろし、ナータは問う。
「さーね。猫の気まぐれで出てくるかもしれないし、傍観するかもしれない。チャシャがいないとキツイって判断しているの?」
「水中や水辺ではリザードマンの方が分がある。我々は勝てないだろうが、それ以外の場所なら問題はないだろう。君があの夜のようになぎ払ってしまえば呆気なく終わる」
「そう」
水中では、ということは水中戦が得意のだろうか。
トカゲって泳ぎが上手いのだっけ。
首を傾げつつ、鍛冶屋のカンカンと響く鉄の音を聞く。
(普通は湿地帯にいるにゃ、リザードマンは)
チェシャの声が、割り込んできた。
湿地帯か。
その鍛冶屋の亭主に見つかってしまい「子どもは入ってくるな!」と怒られてしまった。私はナータの手を引いて立ち去る。
「そう言えば、リザードマンは鱗が硬い。君のナイフが持ち堪えるか、わからない」
「じゃあ影遊びで無双する」
ナイフを壊したくない。誕生日プレゼントだもの。
「……鍛冶屋で研いでもらうか?」
「そうしてくれる?」
「ああ。あとで門番も理由を伝えれば、ナイフを持って中に入ることを許可するだろう。リザードマンの賊を討伐した報酬で」
「そうだね」
やったぁっとその場で飛び跳ねた。
ナータは、少し柔らかい表情となる。
ヴィオ達と合流をして、ナータも屋台で食事を済ませた。
門を出て武器を返してもらったオーク三人は、心なしか生き生きしているように見えた。血の気が多いオーク達だこと。
「リザードマンの盗賊の根城は、どうやらここから西にある森にあるらしい」
西を向けば、森が見えた。
「地図によれば、水辺はないな」
ナータが続けて言う。
こちらは不利にならないということだ。
森に向かって歩き出す。
「ヴィオ。ナータと話していたんだけど、鍛冶屋でこのナイフを研いでもらうって。いいよね?」
「もちろん、ヴェルミが望むのならば」
ヴィオの手を掴んで、念のために確認すれば、にこりと笑った。
私もにっこりと上機嫌になる。
パチリ、と瞬きをして吸血鬼の目で、森を見たら人影。
ぞろぞろと出てきた。トカゲ。じゃなくて、リザードマン。
茶色っぽい鱗に覆われた人型のトカゲ、リザードマン族の盗賊だろう。
「アイツです! 頭! あのスミレ色の髪の男!」
耳に届いた声が、ヴィオを指差した。
ヴィオは私の目の前に庇うように立つ。
「あやつか」
そういう声を発したリザードマンを、ヴィオの陰から見たが、貫禄がある。右目に傷があって、それが悪っぽくも見える。鎧をつけている上に、オレンジ色のマントを羽織っていた。
見た目年齢はわからないけれど、声音的には三十代かも。
「オレ様の配下が世話になったようだな! 名を聞こう! オレ様は頭のアトラン!」
前に出てきたそのリザードマンの頭アトランは、頑丈そうな槍を手にしている。
「ヴィオだ!」
名乗り返すヴィオは、私を振り返った。
紹介でもしようとしたのだろう。我が主、と。
私が口止めをしなかったから。
「そうか……ヴィオ。ーー死ぬがいい!!」
「!」
アトランは槍を構えた。そして真っ直ぐにヴィオ目掛けて飛ばす。
弾丸のようなスピードで迫り来る槍を、ヴィオが避けられるわけがなかった。
私は咄嗟の判断で、ヴィオの身体を影遊びで横に突き飛ばす。
ヴィオを退かせば、槍の矛先は私になった。
腹に衝撃が襲いかかる。
後ろに飛び、倒れた。
ゴフッ、と喉から込み上がった甘い血を吐き出す。
ああ、これはまずい。
そう思った。この怪我も、この状況もまずい。
私が彼らの主だというのに、先に倒れるなんて。
なんて格好が悪い。興醒めするだろう。従者なんてやめる。
その前に、現状を乗り切れるだろうか。
相手は約三十ほどのリザードマン。こっちは私を抜いて五人だ。
「ーーーーヴェルミ!!!」
かすれる意識の中、聞こえてきた声は。
20181215




