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転生したら吸血鬼。彼女は本物の絆が欲しい。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
第一章

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13/24

13 戦闘開始。




 見回す限り、オークらしき種族の人影が五十。黒い犬も同じくらい。

 合わせて100の軍。

 赤い夕陽が照らす荒れ地に、ずらりと並んでいた。

 先頭のオークが乗っている黒い犬は一際大きい。

 多分ボスであろうその先頭のオークは、緑色の肌を持ち、茶髪は後ろに掻き集めた髪型。赤メッシュの前髪が一部垂れている。毛皮のベストだけを着ていて、鍛え上げられた上半身が露わになっていた。下の八重歯が尖って唇からはみ出ている。


「まずい! ヴェルミ! 降りてくるんだ! 避難するぞ!」


 下のヴィオさんが言う。

 だが、もう見付かってしまっている。


「子どもと男がいるわ」


 オークのボスの隣に立つ女性のオークが言う。こちらは黒い髪を右サイドに集めた髪型。そして下の八重歯がはみ出ている。胸当てをしていて、女性も露出が多い服装だ。

 緑色の肌と下の八重歯がオークの特徴か。


「ふむ、子どもに用はないが……」

「捕虜にした方がいい」


 オークのボスのもう隣に控えている男性のオークは、そう提案する。

 こちらは赤毛で前髪を下ろしていて、もみあげ部分は剃られていた。冷静そうな眼差し。首には毛皮のスヌードを巻いている。

 補佐役だろうか。でもなんだかボスより強そうに感じる。

 気のせいか?


「おーい! そこの子ども達! 投降しろ! 悪いようにはしない!」


 オークのボスから、そう声をかけてきた。


「嫌だって言ったらー?」

「ヴェルミっ!」


 私は木からスタンと降りて、尋ねてみた。

 慌ててヴィオさんが私を捕まえる。


「はっはっは! いいか、一度しか言わないからよく聞くんだ!」


 豪快に笑うオークのボスは告げた。


「オレは強い!!!」


 ビシッと親指を自分に指して、キリッとした目付きで、ニヤリと笑って見せる。


「……」

「……」

「……」


 それだけだ。他に言うことはないらしい。

 私が抱いた印象は、お調子者。

 私はスゥッと息を吸い込んで。


「そうは思えないー!」


 と言ってやった。

 ヴィオさんに口を塞がれたが、手遅れ。

 オーク軍は怒ったように騒ぎ始めた。

 なるほど。慕われてはいるようだ。

 カリスマ性はある。でもやっぱり強いとは思えなかった。

 比較している相手が、イサークさんだからだろうか。


「相手は子どもだ。そう騒ぐな」


 寛大なオークのボスは、仲間をそう宥めて静かにさせた。


「捕らえろ」


 そして命令を下す。

 私達を捕まえろと。

 ヘルハウンドを連れたオークの数人が前に出てくる。


「セイカ」

「な、なに? ヴェルミ」

「悲鳴上げて」

「え?」


 怖がってヴィオさんの背に隠れていたセイカに頼む。


「思いっきりやっちゃって。それからフランケン院長にオークが攻めてきたって伝えてきて」

「わ、わかったっ!」


「皆、耳塞いで」と私が言う前に、アッズーロはもう頭の耳を塞いで蹲っていた。

 ニーヴェアも耳を塞いで、ヴィオさんは私の前に出てから耳を塞いだ。

 セイカは腕の翼を羽ばたかせて、飛ぶ。


「スゥッ……いやぁあああああああああああっ!!!!!!」


 思いっきり上がるセイレンの悲鳴。空気がビリビリと震える。

 耳を塞いでいても痛みを感じた。

 前に蜘蛛が頭に落ちてきて悲鳴を上げたことで、発覚した強力な声。追い払うには最適な声だ。

 思惑は成功して、オーク達は耳を押さえて中には倒れる者がいた。ヘルハウンドは皆が逃げ出す。

 オークのボスを乗せていた大きなヘルハウンドも、尻尾を巻いて逃げた。

 これで軍は半減。


「もういい?」

「いいよ。ありがとう」

「じゃあいんちょーに伝えてくる!」


 セイカに笑みで礼を伝えて、森の中を飛び去るのを見送る。

 いい仕事をしてくれた。

 オークの方を見れば。


「なんだったんだ? 今のは」

「……セイレンの声だ。惑わす歌声を出すとは知っていたが、追い払う声を上げることもあるとは知らなかった」

「まだ耳が痛い……」


 先頭の三人は、倒れなかった。

 ヘルハウンドに振り落とされても、着地したオークのボス。

 残念、無様な姿を見たかった。


「ごめーんなさーい。捕まえようとするから抵抗しましたー。でもちょっといいですか? 話し合いで解決する気はありませんかー? この街を襲う気なら、私達戦いますけどー引きませんかー?」


 大声を上げて、とりあえず確認をする。

「ヴェルミ!」とヴィオさんが振り返った。


「戦ってくれないの? ヴィオさん」


 上目遣いをして訊いてみる。

 戦わないと言うなら、暗示使わせてもらうけどね。


「うっ、戦うが……君達を逃すためだ!」

「一人じゃあ大変でしょう? ニーヴェアもアッズーロもいける?」


 戦う、言質は取った。

 あとはニーヴェアとアッズーロ。二人は頷いた。


「はっはっは! 戦うだと!? この人数を相手すると言うのか! オレ達三人を相手するだけでも負けるぞ」


 オークのボスは、何を根拠にそんな自信を言い切るのだろうか。

 どう見ても、私達の方が勝ちそうだけど。

 まぁ一対一の対決ならの話だけどね。


「面白い、誰かあの赤い目の子どもを捕まえてこい」


 オークの目では、私の目の中にある十字に気付かないらしい。

「オレこそが!」と足を進めてきたオーク。顎が突き出ていて大柄だ。

 ヴィオさんが大剣を構えたが、私は腕を伸ばして制止させた。

 剣を持って目の前まで来たそのオークに、にっこりと笑って見せる。


「その剣、ちょうだい」


 私の目を見たオークは、容易く私に剣を渡す。


「あ、あ、あれ?」

「次は奇声を上げながら走って帰って」

「きえええええええええっ!!!」


 戸惑っているオークに続けて暗示をかけた。

 奇声を上げて仲間の間を突っ切る大柄のオーク。

 その従順さを笑った。


「おい、何が起きた?」


 状況が読み込めないオークのボスの困惑が伝わる。

 私は剣をニーヴェアに渡した。


「オークの剣か……まぁないよりはマシか」


 切れ味の悪そうな剣を見て、不満を漏らしたそうなニーヴェア。

 うん、ないよりはマシだろう。


「自己紹介からしようか! 私は吸血鬼のヴェルミ。オーガのヴィオ。エルフのニーヴェア。獣人のアッズーロ」


 私はまた声を上げて、紹介をする。


「吸血鬼だと?」

「目を見るな。言葉に従わされる」

「うむ、わかった」


 オークのボスは、また補佐役に話しかける。

 んー。補佐役がいなくなった時のボスの反応が見たくなった。


「オレは、この軍の大将だ! 名をリーノ! こっちはナータ。こっちはミーニだ」


 ボスの名前がリーノ。補佐役はナータ。女オークがミーニ。


「あと……」

「ああ、モブは紹介無用」

「モブ?」


 私は歩み出した。

 影を伸ばして、自分の身体に這わせる。掌まで伸ばしたあとは、ズインと立体化させる。


「影遊び、剣」


 初めてやるけれど、成功だ。

 自分の影を剣に変えた。それを出来るだけ長く、大きく育てる。

 だいたい六メートルは伸びただろうか。


「なんなんだ? あれは!?」

「……」


 リーノの問いに、ナータは答えない。答えられないのだろう。

 立体化しただけあって重さも感じる影の剣を、思いっきりスイングした。


「なぎ払うってこういうことを言うんだよっ!」


 オーク軍に向かっていく影の剣は、なぎ払う。

 中にはしゃがんだり倒れたりして避けた者もいたが、大半は影の剣の餌食になった。餌食といってもそれほど尖っていないので、吹っ飛んだ程度の被害だ。

 おお、よく飛ぶ。


「なんだ!? ナータ!」

「わからない。吸血鬼の中には特殊な能力を持つ者もいる。それだろう」


 影の剣を避けたリーノとナータ。

 同じく避けたミーニが飛び出してきた。


「アタシが仕留める!」


 強気なつり目をしているミーニの武器は、逆手に持った二つの刃物。

 ズンズンとした足取りで迫るから、ヴィオさんが私の前に立つ方が早かった。


「させない!!」


 大剣と二つの刃物が交わる。

 オーガの怪力はなかなかのはずなのに、ミーニは持ちこたえていた。

 オークの怪力も相当のようだ。


「ニーヴェア、アッズーロ。他のオーク達を倒してきてよ。二人とも背中を守り合ってさ」


 影遊びの剣で減らしても数では負けるけれど、一対一ではニーヴェアとアッズーロの方が強いだろう。

 顔を見れば、怖じけた様子のない二人が頷いて向かっていった。

 私はリーノとナータの動きを伺おう。

 そう思ったのだけれど、いつの間にか接近してきたナータが、左から剣を振り下ろしてきた。

 腰に携えたナイフは、間に合わない。影遊びで壁を作った。

 でも壁の前に男が現れて、ナータと一戦交える。

 影から出てきたチェシャだ。


「!?」

「お前の相手はオレにゃ」


 チェシャが首を突っ込んでくるとは意外だと思った。

 ナータとも戦いたかったけれど、チェシャに任せよう。

 私はビシッとオークの大将、リーノを指差す。


「私と対決してもらいましょうか! 大将リーノ!」


 にんやりと笑って見せた。



 




残り三話、かな!?

20181124

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