ムシムシ
更新頻度が遅くなってすいません。というか読んでくださってる方はいるのだろうか…
約束の時間まで残り五分となった。多分、伯母さんに見つからずには家を出ることは可能だろうが、帰ってくるときは見つかってしまうだろう。ここは素直にいうべきなのだろうか。そんなことを考えつつ、玄関に向かうと後ろから気配を感じ、振り返るとそこには伯母さんがいた。
「あれボクくん、何してるの?」
「えーっと…」
私は何もいえずに、もじもじしていると玄関の鍵が開く音がした。
「ただいまー、今さ門のとこに涼がいて声かけようとしたら隠れたんだけど、何かあるの?」
柚月の兄、皓が帰ってきたのであった。そして伯母さんが疑惑の眼差しを私に向けてきたので、正直にこの後どうするつもりだったのかを話した。
「なるほど、確かに行かせてあげたい気持ちは山々なんだけど、こんな時間に、子ども2人で雑木林に行かせるのはちょっと心配なのよね…うーん、そうだ皓、あんたついてってやりなさい。どうせ家帰ってきたら勉強はしないんでしょ?よし、決まりね。お願いしたわよ」
それだけ言うと伯母さんはひとり納得した顔で、台所の方へと戻っていた。
「うーん、どうやら俺には選択肢はないようだね。」
皓は苦笑いしながらそう言った。
「よろしく、皓兄(柚月がそう呼んでるので私もそう呼ぶことにした)」
「わかった、荷物置いたらすぐ行こう。虫取りなんて小学生だった時以来だ。なんだか俺もワクワクしてきたよ」
彼はそう言うと階段を登って自室へと向かった。
涼に事情を説明し、さらに皓は涼の親にもちゃんと承諾を得て、湧水の奥の雑木林へと向かった。どうやら涼の話によると、何ヶ所か虫がたくさん集まる樹液の木があるらしい。そこをしらみつぶしにしていくという計画だった。
最初の数カ所ではコクワガタとノコギリクワガタ数匹を採ることができた。
「ねー皓兄、この雑木林なら他にどんな種類のがとれる?」
「そうだなー、カブトはたぶんとれるでしょ。で、クワガタは標高の関係とかもあるからヒラタならとれると思うよ。俺も小さい頃よく取ったなー」
どうやらヒラタクワガタが手に入るかもしれないらしい。私は野生のヒラタクワガタ見たことがなかったので内心とてもワクワクしていた。
その後も数カ所まわったがカブトムシ、ヒラタクワガタは手に入らなかった。そして最後にして最大の樹液スポットに到着した。皓が懐中電灯で木の上の方を照らすと、大きなカブトムシの存在が確認できた。しかし“ボク”身長では到底届く高さではなく、皓でも無理そうだった。
「うーん、どうしようか…」
皓は少し考えると、その場にしゃがんで
「ボクくん肩車だ。肩車すればギリギリ届くかもしれない。やってみよう」
私はとても恥ずかしい気持ちになったが、今は“ボク”であるのだし、カブトムシは採りたかったので肩車してもらった。そしてめいいっぱい手を伸ばし、ついにカブトムシを手に入れることができた。
「やったー!」私はつい童心に帰って喜んだ。
「やったな、ボクくん!」
涼も私と同じく興奮していた。とったカブトムシは80ミリはいかずとも70ミリはゆうに超えていた。これは大きいのではないか。
「とれたね、ボクくん。しかもこれ相当大きいぞやったな。」
皓はそう言うと私の頭をわしゃわしゃと撫でた。なんだか自分がとてつもないことをやり遂げたような高揚感があった。
その後もくまなく探すと、涼が木の幹の間に大きなヒラタクワガタがいるのを発見した。
「ボクくん、みてこれ。かなり大きいぞ」
そう言うと、私よりもやや細い手を器用に幹の間に入れ込んでヒラタクワガタまでも手に入れることができた。そのヒラタもかなり大きなサイズであった。私たち3人は大はしゃぎしてしまった。気づけば、本当に子どもような感性を取り戻しつつある自分がそこには確かに存在した。
「はい、これ。ボクくんにやるよ」
涼はヒラタクワガタを差し出しながら言ってきた。
「えっ、いいの?」
「あーいいさ。オレはもう持ってるし、それに一緒にここに来れてたのしかったし。友情の証ってことな」
「ありがとう、涼」
カブトムシ、それにヒラタクワガタまでも手に入れることができたのだ。
「ここで、虫スポットも最後だし、帰るとするか」
その後涼を家まで送り、皓とともに帰宅した。その日の絵日記にはカブトムシとヒラタクワガタの絵を描いた。自分で言うのもなんだがなかなかいい出来栄えである。
「あら、ボクくん本当に絵が上手いのね。感心しちゃった。」
伯母さんに絵を褒められた。人に褒められるなんて、社会人になってからは皆無であったので嬉しかった。まだ、たった1日しか“ボク”の体では過ごしていないのに、この生活を楽しんでいる自分がいた。
(そういえば、こんなに充実した位置にを過ごしたのはいつぶりであろう)
床につくと、私は一種の不安に駆られた。
(また目覚めたら元の時代に戻ってしまうのではないだろうか、そんなのは嫌だ)
そんな風に素直に考えてしまった。だったら無理矢理にでもこの時代にとどまってやる。そう思い、寝るまいと必死に目を開けていたがだんだんと意識が眠りへと引っ張られて行くのを感じる。そしてついにわたしは睡魔との闘いに敗れ、闇へと吸い込まれていった。




