秘密の秘密
その空き家の裏に在ったのは大木と、その根元には廃車となったトラックがあった。荷台にはトタン屋根がつけられ、その荷台の上に机などを置いた“秘密基地”なるものがあった。
「どう?ここが秘密の秘密の場所だよ」
「す、すごいね」
私はあっけにとられた。自分の想像を超えたものが眼前に広がっていたからだ。
「そいつ、誰だよ」
すると、トラックの荷台の奥の方に座っていた小さな男の子がそう柚月に尋ねた。
「この子?この子はねボクくん。私のいとこで今月いっぱいこっちにいるんだ。だから仲間に入れてもいいでしょ?なんか文句ある涼?」
涼という男の子はそう言われると、私の元へ近づいてきた。
「何年生?」
「三年生」
「ならおれとおんなじだな。おれは涼っていうんだ、よろしく」
私は今朝やったようにペコっとお辞儀をした。
「涼ったらまた朝起きれなかったの?夏休み入ってからまだ2、3回しかラジオ体操きてないんじゃない?」
柚月にそう言われると涼は下を向いて小石を蹴りながらボソッと何かを言った。
「こいつまたおねしょしたんだってさ。それでまた怒られたんだってよ」
そう言いながら翔太が入ってきた。
「バカっ、翔太いうなよ〜」
涼は少し泣きそうになりながら言った。
「どうボクくん?ここ、なかなかすごいでしょ」
「うん、そうだね。」
「なんつったておれたちがつくったんだからな」
と得意げに涼はいった。
「私たちは少ししか手伝ってないでしょ。基地つくってくれたのもそうだし、場所も、全部翔太のお父さんのおかげじゃん」
柚月がそういうと翔太は説明してくれた。
「うちはね、不動産屋なんだ。ここの空き家もうちの物件。でもここは家自体はこの有様だし、なかなか売れそうにないから。父さんが僕らのために場所を提供してくれて、なおかつ基地も作るの手伝ってくれたんだ。」
なるほど、だからこんなにもしっかりした場所にしっかりした基地ができるわけである。よく見れば、トタン屋根は簡単に飛ばされぬよう、本格的なネジのようなもので固定されている。
「ここでは何をしているの?」
「そうだなー、いろんなことをするよ。今の時期は虫を戦わせたりするんだ」
翔太はそう言うと、すかさず涼は私に聞いてきた。
「ボクくん、虫持ってる?」
私は首を横に振った。
「そっか、じゃー取りに行こう。今すぐに!」
涼はすぐ私の手を引いて、基地から出て行こうとしたが翔太にとめられた。
「こんな昼間にカブトやクワガタがとれたとしてもよした方がいいよ」
「なんで?」
「もともとあいつらは夜行性でしょ、だから昼間に出て動いてる奴らは寿命が残りわずかだったり、弱ってる個体が多いんだよ。わかったかいボクくん?」
初耳だった。そもそも私自身虫捕りをした記憶がなかったので仕方がなかったが…
「ちぇー、そうだったのかー…じゃーボクくん、今日の夜柚月の家の前集合ね。よる7時半ね」
私は涼の気に押されてつい頷いてしまった。
「じゃー、決まりね。おれ、このあと歯医者行かなきゃいけないからじゃあね」
そういうと涼は帰っていってしまった。
「ボクくん、約束するのはいいけど私のお母さんにはなんていうの?」
柚月にいわれてハッとなった。私は今、私であって“ボク”なのだ。夜に子どもだけで雑木林に行くのなんて大人は許すのだろうか。
「どうしよう…」
しかし涼は行く気満々であったし、どうしたものだろうか…
その後、珠美もきて4人で遊んだあと家に帰り、夕食を食べ終え、畳の上に寝っ転がった。
(さて、どうしようか…)
そんなことを考えている間にも時間は迫っているのであった。




