到着
間も無くして高速を降りた。降りてすぐのところはそこそこ栄えてはいたが、だんだんと視界のほとんどを畑が占めるようになってきた。
そんな風景をぼんやりと眺めていた私であったが、重大なことを見落としていた。身体の持ち主の名前だ。すぐさま、足元にあった小さなカバンを手繰り寄せ中を漁ってみた。中には着替えが3セット、水着、歯ブラシセット、ガマ口、それに筆記用具と絵日記帳が入っていた。
(絵日記に何かあるかもしれない)
そう思い、表紙を見てみると名前が書いてない…気を取り直して、中を見てみるととりあえず一人称を確認することができた。“ボク”であった。私の一人称もそうであるのでそこは助かったような気がした。そうやって、日記帳を眺めていると
「おっ、そうだ絵日記ちゃんとやってるか?お前は絵が上手だもんな。あっち行っても毎日かけよ」
と父親に言われた。
確かに描き方、色使い共に上手であった。奇しくもそこも私と同じであった。私も美術の成績は良くて、小さなコンクールなんかでも賞を取ったことがあった。
でも結局は中学生の時、進路相談でそっちの道も勧められたが親の意向もあり普通科の高校へとすすんだ。
(そういえば、あの時普通科に行かなかったらどうなっていたんだろう…)
高速を降りて30分弱、ついに目的地に近づいてきた。
(ここが伯父さんの家か)
瓦屋根の純和風の大きな家だった。ここで私は1ヶ月弱暮らすことになる、らしい。
「こんにちは、長旅お疲れさま、緊張してるかな?よろしくね」
伯母さんらしき人物が話しかけてきた。えくぼが似合うその顔からは優しさがにじみ出ていた。。
向こうの方では父親と伯父さんが談笑している。さすが兄弟。顔少し似ている。
「よし、じゃー、俺は東京の方に帰るから うちのちびのことよろしくお願いします」
父親はそう伯父さんと伯母さんに話すと、私の頭をすこしなでてから車に乗って帰路へとついた。
私だけぽつんと取り残されてしまった。
「じゃー自己紹介としようか。俺が君のお父さんの兄の伯父です。よろしく!」
こんがり日焼けした顔をクシャッとさせて、言ってきた。人の良さそうな感じだ。
「伯母です。君がもっと小さかった頃に会ったことがあるんだけど、覚えてないかな?1ヶ月ちょっとお母さんとお父さんと離れて暮らすけど寂しくない?」
私は頷いておいた。
「おーい、柚月でてきなさーい」
伯母さんにそう呼ばれると、家の中から“ボク”よりも身長が少し高い、髪の毛を三つ編みにした女の子が出てきた。
「私は柚月、小学四年生。あなたより少しだけお姉さんだね。よろしくね。」
少しだけかがんで“ボク”と同じ目線になって話をしてくれた。小学四年生にしては大人びている感じがした。
「よし、次は君の番だ。」
伯父さんにそう言われると、私はドキッとしてしまった。
(結局本名が分からない!)
グズグズしていられるわけでもないので、私はこう言った。
「ぼくはボク」
すると柚月は少し笑いながら
「なんじゃそりゃ」
と言ってきたので少し考えて
「ぼくの周りには自分のこと ボク っていう子がいないんだ。だからぼくのあだ名はボクなの」
一応それっぽい説明をしてみた。
「あーら、そういうことなんだ。そういえばうちの近所でも自分のこと ボク っていうこいないなー。じゃ、ボクくんって呼べばいいのね。改めて、よろしくねボクくん。」伯母さんが笑いながら呼んでくれた。
なんとか切り抜けることができた。小学生だからこそできる自己紹介だ
その後、家の敷地内を一通り柚月に案内してもらった。そして居候している間は柚月の部屋で寝ることとなった。
「皓の部屋でもいいんだけどねー、受験生だからねー。」
と伯母さんに言われたので、私は
「こうって誰?」
と尋ねると
「皓ってのはね、うちのお兄ちゃん。今は大学に入るために浪人してるの。」
どうやらこの家には年の離れたお兄ちゃんがいるらしい。
「とりあえず、荷物も片付いたことだし、家の周りをみてきたら?ただし、川に入ったりはしないでね。」
と伯母さんに言われたので、私は家の周りを歩いてみることにした。




