別れ
更新頻度が落ちてしまいすいません。
それと前回の部分は手違いで編集途中で掲載されてしまったので加筆しました。よかったらそちらを読んでから26部をお読みください。
よろしくお願いします。
日中、みんな心ここにあらずと言った感じであった。
昨晩家に帰ってから泣いたのであろうか、涼の目はウサギのような真っ赤な目をしている。それに負けじと珠美の目も腫れている。因みに柚月の方は夜遅くまで机に向かって何かをしていた。
最終チェックがあるとのことで翔太は不在だった。今日の夕方から花火をするらしい。あまりにも夏らしく、楽しいはずのものなのだがそうにはならなそうな雰囲気が何処と無く漂っていた。
特に長い会話を交わすこともなく、イタズラに時間は過ぎていった。
「ねぇ、ほんとに翔太は明日この街からいなくなっちゃうのかな」
涼は今までに聞いたことのないくらい憂いに満ちた声を発した。
「おれ、夢なんじゃないのかって何回も考えた。でも頬をつねっても、お母さんにしっぺをしてもらっても痛いんだ。それになんか胸の方もぎゅーっとしてイタイんだ」
そして、彼は胸の真ん中に手を当てシャツの襟を握りしめた。
「今日の花火もそれをやったら、本当に終わりが来ちゃいそうで怖いんだ。だったらやらないほうがいい、そうだ、もうやめよ。やめちゃおう。もう何もかも嫌だ」
涼は自分の髪をくしゃくしゃにしてそう続けた。
すると不意に柚月は立ち上がり、叫んだ。
「バカやろーっ!」
驚いた私たちはポカンと口を開けて固まってしまった。
「はぁー、はぁー、みんなもやりなよ。なんだかスッキリするよ。」
そう彼女に言われると、涼はすぐさま柚月の隣に立って空に向かって叫んだ。
「バカやろーっ!」
珠美と私も続いた。
「バカやろーっ!」
吸い込まれそうな空へ四人の叫びは消えていった。それと同時に心のモヤモヤも少し飛んでいった気がした。
「本当だ、なんかスッキリしたよ」
涼は少し満足げに言った。
「ね、言ったでしょ。スッキリするって。」
そう言いつつも、柚月の頬に一筋の涙がたどっていったのを私は見た。夏の日差しを浴びて、キラキラと輝いていた。本当は悲しいのだろう。けれども、もしこんな風にしてでも紛らわせなければ一気に溢れ出て来てしまう“何か”があるのだろう。
その後4人で今日は絶対に泣かないという決まりを立てた。翔太本人だって相当辛いはずだからとのことだった。
夕方、一度家に帰り軽く夕食を済ませた後、再び秘密基地へと向かった。時間通り、翔太は大量の花火を準備して待っていた。
「へへ、これだけ準備すればなかなか終わらないでしょ?」
翔太は袋を広げてみんなに見せながらそう語った。足元には水がたっぷり入ったバケツが置かれている。
辺りが段々と暗くなって来た。ここ数日、日が落ちるのが早くなったと思う。この前、皓が言った通り秋が近づいてきているようだ。
みんな思い思いの花火を手に取り、そのうちの一つ、翔太が持っていたものに火をつけその火をみんなの花火につけた。
色とりどりの花がうす暗がりの中に咲いた。
小学生のときは何故、こんなにも色とりどりの火花を散らすのかわからなかった。わからないことは悪いことではないのかもしれない。わからないからこそ色々な考えを巡らせることができる。高校生になって、それは炎色反応というものだと知ったときは何だか夢を壊された感じがした。
翔太が言ってた通り、かなりの数の花火があったので休む暇もなくひっきりなしに火をつけた。この最後の花火に皆は何を思うのだろうか。花火に照らされたみんなの顔は楽しそうにも悲しそうにも見えた。
火薬の匂いと花火の煙が身体全体に染み付いていった。私は自分が子どもだったときのことを思い出し、懐かしく感じた。だけど、彼らはの場合はどうなるのだろう。別れの悲しみを思い出すことになるのだろうか。
1時間ぐらい経つとついにそのときは来てしまった。線香花火だ。
始めたときは薄暗かったけれども、すっかり辺りは夜の闇に包まれていた。さっきまではしゃいでいた声は静まり、花火の煙もなくなっていた。
みな黙り込んで線香花火を見つめていた。これが終わったとき、本当の“終わり”は来るのだろう。
柚月のもっていた最後の線香花火が消えたとき、辺りは真っ暗になった。鈴虫の鳴き声だけが広がったいた。
翌日、翔太の家の前に集合した。彼の祖父に駅まで送ってもらって電車で向かうらしい。
「じゃー、みんなこれで本当にさようならだね」
翔太は出来るだけ明るい顔でつとめていった。
「そうそう、秘密基地はこっちのおじいちゃんの管理だから変わらず使えるから。大事にしろよ」
「秘密基地なんてどうだっていいよ」
涼は声を張り上げていった。
「そんなのどうだっていいんだよ、だからさ…」
涼はそこで言葉を詰まらせた。
「涼、そんなこと言ったって翔太も悲しいんだよ」
珠美は涼を慰める。
「翔太、色々本当にありがとう。」
私は先陣を切ってそう彼に伝えた。
「ボクくん、こちらこそありがとう。もっとたくさん遊びたかったよ」
そういって握手をした。そんな私達の姿を見て覚悟を決めたのか、みな別れの言葉を伝えた。
最後、柚月と握手を交わしたあと彼はいった。
「また明日ってもう言えないんだね。今まで当たり前だと思っていたんだけどさ。言えないのは悲しい。でもまた会えるから。だからその時までじゃあね。そうだ涼、次会う時までにおねしょしないようにしとけよ」
彼は最後は笑顔でそういった。涼は「わかってるよー」と少し泣きつつも笑いながらいった。
彼の乗った車は新たな生活に向かって走り出した。それが見えなくなるまで手を振り続けた。
彼らにとってこの思い出はきっと色あせることはないのだろう。そして彼らの仲は本物になったのだろう。その中に“ボク”は入っているのだろうか。
彼らの横顔見てそんなことを考え、羨ましく思いながら私は手を振った。




