告白 前編
前後編で分けたいと思います。中途半端なところで切れてしまいました。すいません。
翔太の相談から2日が経った、本日は8月18日。お盆が明け社会人は仕事が始まっていることだろう。かくいう私も社会人なわけだが、今は小学生の“ボク”なので関係のないことだ。しかし、現代の“私”はどうなっているのだろうか、という不安が一瞬頭をよぎったが忘れることにした。
翔太は次の日には何も言わなかった。というのも珠美が不在だったこともあり、全員が揃わなかったからだろう。内心私はソワソワしていた。いったい彼が何を話すのか、柚月たちはどのような反応を示すのか。
朝食を取り終え、準備しようと階段を登りかけると伯母さんに引き止められた。
「ボクくん、お母さんから電話だよー。」
“ボク”の母親からの電話だった。そういえば、母親の声すら聞いたことなかった。少しのワクワクとともに居間に引き返した。
「もしもし、翼久しぶりね。そっちの生活には慣れたかな?迷惑かけてない?大丈夫?」
声から優しさが感じられた。それにしても母親という生き物はみな心配性なのだなと思った。
「もうすぐ出産予定日なの。だから迎えに行くのは夏休み終わりギリギリなっちゃうと思うんだけどいいかな?ごめんね。でもそこでしか体験出来ないことも沢山あると思うから満喫してときなさいね。子どもの時にしかできないことだって幾らでもあるのよ。後悔先に立たずって言うじゃない、いいね?あとちゃんとお兄ちゃんになる準備もしときなさいよ〜、わかった?しっかりね。」
「うん、わかったよ。」
そう返答すると「じゃあね。」と言われて電話は切れた。
ここに来てようやくわかったことがあった。“ボク”の本名である。苗字は柚月の家と同じだからわかっていたが、下の名前は分からなかった。だからといって「僕の名前は何?」と尋ねるのも意味がわからないのでできなかった。鏑木翼という名前らしい。
「久しぶりにお母さんと話してどう?やっぱり寂しい?」
受話器を置くと伯母さんはそう聞いてきた。
「そんなことないよ。だってここのみんなは優しいし、毎日楽しいもん。」
「あら、嬉しいこと言ってくれるのね。ボクくん、かわいい。大好きよ。」
その後、伯母さんに抱きしめられた。柔軟剤のいい香りと暖かな体温が鼻と心をくすぐった。
「あと少しかもしれないけど思う存分楽しんでね。」
伯母さんはそう言うと、“ボク”の頭を撫でて洗面所に向かった。それにしてもよく頭を撫でられる。“ボク”の身長はそんなにも手を置きやすい高さなのだろうか。
改めて二階の柚月の部屋へと向かった。
着替えを済ませ、虫かごを取ると異変に気付いた。なんとヒラタクワガタがお亡くなりになられていたのだ。
「うわっ!そんなどうしよう…」
思わずそう騒ぐと、声につられて柚月も部屋に入ってきた。
「ボクくんいきなり騒いでどうしたの?」
「あっ、柚月…ヒラタクワガタが死んじゃったんだ…」
すると柚月は隣にしゃがんだ。
「ボクくんは悪くない。偉いよ。ちゃんと責任を持って飼ったんだもん。最後まで面倒見たんだ。立派だよ。」
彼女は少し悲しそうな顔でそう言ってくれた。
「あのね、去年のことなんだけどね、家の近くにね弱った雛鳥がいたの。それで治るまで飼って森に返したんだけど、結局次の日には他の野鳥に食い殺されちゃったんだ…」
柚月は衝撃的なことを打ち解けてくれた。
「それでねわたし思ったの。飼い慣らしてしまったら最後の最期まで責任を持たなくちゃいけないんだって。だって、助けなかったらただ沢山いる雛鳥の一羽に過ぎなかったのに、それとは違う特別な一羽にしてしまったんだから、人間の勝手にやったことなんだから。その責任は果たさなきゃいけないって。だからボクくんは間違ってない。」
そう強く言うと、彼女は立ち上がった。
「さ、その子に感謝して埋めてあげよう。」
「うん。」
その後、庭へと赴きヒラタクワガタを丁重に葬った。これで彼は文字通り土へと還るのだろう。戦いの日々は終わり、生命のサイクルへと帰還したのだった。
「よし、基地に行くか。」
太陽は雲に隠れどんよりしていた。まるでこの後のみんなの心の在り方を予想するかのようだった。
基地に着くと既に涼と珠美がいた。彼らはこの後なにをしようか話しているところだった。
「よっ、2人とも翔太に会わなかった?」
「いや、会ってないけどなんで?」
涼の質問に柚月は答える。涼によると先程、翔太にあって今日みんな来るか聞かれたらしい。そしてちょっと遅れて行くと言われたらしい。
「なんか話でもあるのかな?」
涼はどうやら感が鋭いようだ。私はその話題から晒すようにヒラタクワガタの話をした。
「そっか…死んじゃったんだ。やっぱ悲しいよね…」
彼の顔に悲壮感が漂ってしまい、なんだか逆効果に思われた。
そんな会話を交わしてから約10分後、翔太が到着した。いよいよ始まる。翔太の告白が。
「やぁ、みんな。よし、みんないるね」
翔太はそう言うと少し置いて続けた。
「みんなに言わなきゃいけないことがある。おれ明後日でこの街を離れるんだ」
『えっ…』
私を除いた3人は驚いた顔をしてそう呟いた。そして暫く沈黙が流れる。
「実はね…」
その後翔太は先日、“ボク”と皓に話した引っ越しの概要をみんなに伝えた。伝えてもなお彼らは納得のいかない顔をしていた。
「そんな、そんなの嘘だよね?ねぇ、翔太」
涼が今にも泣き出しそうな顔で尋ねる。翔太は黙ったままだった。
「本当に居なくなっちゃうの?」
珠美は不安げな表情で翔太に聞いた。彼は依然として沈黙を貫いている。
「で、でもさ翔太のとこは不動産屋でしょ?引っ越しなんてありないんじゃ…」
柚月は少し動揺した感じで皓と同じことを聞いた。兄妹の血は争えないかと少し思った。




