夏祭り 後編
タイトルは夏祭り後編になってますが、文字数が多くなりそうな気がしたので次回にももつれ込みます。
あとこの前まで気付かなかったのですが、bttfパート3は90年公開でしたね。でも映画作中の通常の時間軸は85年なので大目にみてください。お願いします(泣)
「うわぁぁ…」
校門を抜けるとまさに別世界が広がっていた。
フランクフルトや綿菓子、焼き鳥などなど総勢10個ほどの屋台があった。それらのいい匂いがプンプンしていた。子どもも大人も沢山の人が心躍らせているのを感じた。
「すごいね。」
思わず隣にいた柚月に話しかける。
「そうでしょ、これが毎年恒例のお祭りなの。」
柚月は少し誇らしげだ。
「どこから回りたい、ボクくん?」
「ぼくに決定権があるの?」
「だって一応わたしより年下でしょ。」
一歳しか変わらないのに年下扱いされるのは腑に落ちないが、小学生のときの一歳の差というのは大きい気がした。なので遠慮なく決めさせてもらった。
「じゃー、焼きそば、焼きそばにするよ!」
「オッケー、早速並ぼっか。」
焼きそば屋の前には既に7、8人ほど並んでいた。
「ねー、柚月、この祭りって全校生徒のほとんどが来るの?」
私は辺りを見回しながらたずねる。
「うーん、流石に全校生徒は来ないかな。六年生は自分たちで準備してるのもあるからほとんどいるけど、他の学年の子たちは帰省してる人がいっぱいいるわけだし、まばらって感じかな。」
言われてみると確かに、周りに比べて背の高い子どもの割合の方が高そうだ。
改めて柚月をまじまじと見る。落ち着いたピンク地浴衣に身にまとった姿はやっぱり少し大人びて見える。その横顔に少し見とれてしまった。周りには彼女と同じように浴衣を着て来ている娘もいたけど、柚月は特別に見えた。それは“ボク”の身内だから、ひいき目で見ているからかもしれないけれども。
そんな視線を感じてか、柚月はこちらを振り返る。私は悟られないよう虚空に目をそらした。
「ボクくん、わたしの顔になんかついてる?」
柚月は覗き込んで来たので顔を背ける。
「変なボクくん。」
クスクスと笑われた。
そうこうしているうちに自分たちまで残り3人となった。
「どうしようか、1個ずつ買う?それとも2人で1個にする?」
「うーん、お金勿体無いし、たくさん色々なもの食べたいし、2人で1個にしよう。」
この日、私達は伯母さんから500円ずつもらっていた。もともとこの祭りのルールで売り物は原価そのまま、利益なしで販売しているため物自体は安いのだが、少しでも節約したいためにそう提案した。
「そうだね、そうしよう。」
柚月が納得してくれてよかった。いよいよ注文する時がきた。するとそこで焼きそばを焼いている人に見覚えがあった。
「あれ、伯父ちゃん!?」
そう、“ボク”の伯父さん、もとい柚月の父親がそこで働いていたのだ。
「ふふっ、ボクくん驚いた?この祭りではね、保護者も参加して働けるの。殆どの屋台は父兄が切り盛りしてるんだよ。」と柚月に説明された。
「おっ、2人ともきたか。食え食え、旨いぞ〜」
伯父さんは頭にタオルを巻き、一生懸命に焼きそばを作っている。
「2人で1つ食べるので、箸は二膳ください。」
柚月はおばさんにそういうと、大盛りの焼きそばを受け取った。そして2人で校庭の端にあるタイヤ飛びに腰掛けて食べる。
「あっつ!!」
口にかきこんで思わずその熱さに驚いた。
「たくさんあるんだからゆっくり食べな。」
2人でそうやって食べていると、よく知る声が耳に通った。
「おーい、2人ともー」
そこには柚月と同じように浴衣を着た珠美がいた。柚月のとは対照的な青地に花柄の浴衣だった。
「2人で仲良く焼きそば食べてんな〜」
と冷やかすような口調で話す男の子の声がした。それにも聞き覚えがあった。ひょっこりと珠美の後ろから姿を現したのはやっぱり涼だった。
「涼、やっぱり小さいよね。居るかわからなかったよ〜。」
と涼は柚月に冷やかされた仕返しをされ地団駄を踏んでいる。そんな彼も“ボク”と同じく甚平を着ている。紺色のものだ。それに頭にはカンカン帽を被っている。
「一緒にまわろうよ」
という珠美の提案に賛成し、そのあとは一緒にまわった。射的をしたり、フランクフルトを食べたりしてあっという間に500円は無くなった。
「ねー、そういえば翔太は?」
ここまでまわって彼の姿は一度も見かけなかった。
「もちろんいるよ、今から行くところにね」
涼は何か企んでいるような顔をしている。不気味だからやめていただきたい。
「今からこの祭りのメインでもある、お化け屋敷に行くぞー」
と張り切りながら続けた。
ふと、数日前に言われたことを思い出した。この夏祭りのメインイベントは学校全体を使ったお化け屋敷であったということ。そして、翔太はその準備のためにここ数日秘密基地に来なかったということを。一昨日の夜釣りや昨日熱が出たことなどが重なりすっかり忘れてしまっていた。
お化け屋敷の入り口にあたる生徒昇降口へとむかう。説明によると、昇降口から入ってまず一階の中央階段まで行って、二階に登って東階段のところまで行き、三階に登り、三階の六年一組の教室の黒板からお札を剥がして、西階段を一階まで下ってそのまま体育館へと続く渡り廊下に出て、お札を渡したら終わりらしい。なるほど意外とハードなのかもしれない。
「これが怖いんだけど、なんだかテンション上がるし楽しいんだよね〜」
と興奮気味に涼が話す。確かに夜の学校というシチュエーションだけでも気分は上がる気がする。ちなみに、光を弱くするために半透明のフィルムのようなものをレンズにかけた懐中電灯だけ持って入るらしい。
いよいよ、私達の番がやってきた。
「お化けやしきには1人もしくは2人か3人かで入ってもらうのでどうしますか?」
受付係の眼鏡をかけた六年生と思われる女の子に尋ねられる。
「じゃー、2人ずつにしよう。グ、パーでわかれようぜ」
涼の提案にみな無言で承諾し、
「グっとパーでわかれましょっ」
私と柚月はパー、珠美がグーで涼はチョキだった。
(なんで言い出しっぺがチョキ出してるんだよ!)
と心の中でツッコミを入れつつ、(チョキはグーのもとというよくわからないルールで)ペアが決まった。
内心、柚月と一緒でホッとしている自分がいた。
「よし、決まった。初めてこのお化けやしきに入るボクくんのリアクション見たいからおれら先でいい?」
「あっ、いいねそれ。あたしも賛成〜」
と2人に気を押されて私達のペアは後になってしまった。
「じゃ、出口でね〜」
2人は校舎へと消えていった。
次のペアは前が入ってから3分後に入るというルールがあるらしい。
時間が迫るにつれて楽しみなのか、はたまた緊張してるのかわからなかったが心臓がドキドキしていた。




