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Not too late  作者: 月夜野 宇宙
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夜釣り

 伯父さんは敷地内にある畑の方にいた。

「ねぇー、ねぇーお父さん、ボクくん描いたんだよ」

「よっ、2人とも。柚月、宿題やったのか?」

「やったってば、それより見てよ」

 柚月に促され、私は“パンプキン”の絵を見せた。

「おっ、こりゃまた上手に描いたな。なかなかやるな。これは額に入れて車庫に飾りたいくらいだ」

 なかなかの評価をもらった。でも額に入れて飾りたいだなんて、少し大げさな気もしたが。

「こんなに出来がいいなら、もう一台の方も描いてもらおうかな」

 視線をパンプキンの隣に流しながら、彼はつぶやいた。

 もう一台、とは柚月の家がファミリーカーとして所有しているアメリカ車のことだ。こちらも伯父さんの趣味全開の車である。確か、こっちもフォードでファルコンという名前らしい。ちなみに年式は62年だそうだ。形はいわゆるバンというやつだ。

「なんてな、嘘だよ。もちろんいつかやってくれたら嬉しいけどね」

 と伯父さんは私の頭をポンポンと叩いた。

「2人とも今日やらなきゃいけないこととかある?」

 続けて彼は聞いてきた。

「ないよー」

 私と柚月は声をそろえて返答した。

「そっか、じゃー、夜釣りでも行くか?」

 伯父さんのその言葉を聞くと、柚月は少しはしゃいだ。そしてそのまま尋ねる。

「三日月湖にいくの?」

 伯父さんは大きく頷く。

「ボクちゃんは夜釣りは初めてだろ?ちょっと説明してやるよ。」

 その後私は2人からレクチャーを受けた。なるほど、夜釣りとはなかなか奥が深いらしい。そして注意点もいくつかあった。

「いいか、この注意点を忘れるんじゃないぞ、2人とも。では今日は早めに夜ご飯を取ってから、出発するぞ」


 夜ご飯を食べ終え、2人で車庫へと向かった。そこには荷物を“パンプキン”へと積んでいる伯父さんの姿があった。

「よっしゃ、こっちも準備万端だ。乗った、乗った」

 伯父さんにそう言われると、柚月は颯爽に荷台へ飛び乗った。

「そっちに乗るの?」

 私は思わず聞いてみる。

「うん、こっちは夜風に当たって気持ちがいいんだ。それに星空だって綺麗に見えるんだよ」

「伯父さんはいいっていうの?」

 私は少し不安になって伯父さんの方を向くと、親指を立てた。

「大丈夫、大丈夫。ここは田舎だし、それに大したスピードも出さないからさ。だけど暴れたりはするなよ」

「さ、ボクくんも早く乗って」

 と柚月が手を差し伸べてきたので、その手をつかみ、軽やかに乗った。

 程なくして、独特のエンジン音とともに家を走り出した。

 夜風が頬をくすぐった。



「風気持ちいいでしょ?」

 走り出してから5分ちょっと沈黙が続いた。そして不意に柚月が発したのがその言葉だった。

「うん、気持ちいいね。こんなこと体験したことなかったよ」

 すると彼女は少し満足した顔で

「そうでしょ。ボクくんは体験したことがないことで一杯でしょ?楽しんでもらえると、わたしもなんだかうれしいよ」

 と言った。その後は会話が進んで20分位すると目的地へと着いた。

「ここ、トウモロコシ畑の近くだね」

 と極力小さい声で言った。

「ふふ、まだそんな小さい声で喋らなくていいよ」

 と柚月に笑われてしまった。

 夜釣りでは魚を驚かしてはいけない と伯父さんに言われたのでそうしてしまった。

 けれども、ここからもまだ歩くらしく、まだ平気だと言われた。

 その後、川辺に着くとみんな黙って釣りを開始した。

 予想していたよりも、多くの魚がとれてかなり満足だった。しかし、伯父さんの方針で採ったら返す決まりになっていたので何だか惜しい気もしたが…

 開始から1時間が経過し、あくびの数が増えてきた。

 横を向くと柚月はうつらうつらしている。それを見かねた伯父さんは撤収の合図を出した。


 帰路において、柚月はいろんな意味で寝落ちしたら危ないということで、助手席に座った。真ん中に座る?と伯父さんに誘われたが遠慮しといた。

 こうして1人で荷台に座って、夜風に当たると色々なことが頭の中を巡った。

 ここに来てからのこと、そしてこれからのこと…

 柚月に言われた通り、私にとっても初めて体験することばかりだった。それらは全て私が生きているということを実感させるものだった。

 答えはでかけていて、タイムリミットが迫ってきているのを感じた。けれども昨日よりも、より戻りたくないという気持ちも強くなる。ジレンマだ。

 気づけば涙が流れていた。悲しいのか何なのかわからなかったけども、気持ちが良かった。

 涙を拭って見上げると、雲ひとつない満点の星空が広がっていた。

 夏が終わりに近づいている と感じた。





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