変えたい過去
だんだん、ぼくなつがやりたくなってくる季節になっていますね。
ちなみに僕は2のボクくんとなぎささんの会話が好きです。
天然なボクくんに対するなぎささんの返しが秀逸でいいですよね。
夕食を軽く取り、縁側に腰掛け、のぼせて火照った体を冷ました。
こっちでは現代みたく熱帯夜になることなんてほとんどない。快適な夏の夜である。
時計の針はもうすぐ午後10時を刺そうとしている。ゆっくりと立ち上がり、和室の卓袱台へと向かった.
疲労していることを感じ、“ボク”の活動限界時間が迫っていることを察した。特に今日はたくさん泳いだ上に、毎朝恒例のラジオ体操もあったわけでクタクタである。
けれども、日課を忘れる訳にもいかないので日記帳をひらく。
絵日記を描くたびに、私の忘れかけていた感覚が戻ってきたのか、はたまた“ボク”の元からの才能なのか定かではなかったが、上達しているを感じる。
先日畑仕事を手伝った日の夜に、たまたま私が日記を書いているのを見かけた伯父さんに「上手いな、俺の車も描いてみてよ」と言われるほどの腕前であった。
自分がしたことが、例え親しい人からであっても、賞賛されるのは嬉しいことである。
思えば、小さい頃はどんな些細なことでも、良いことをしたりすれば褒められるものだった。大人になればなるほど、その回数は減っていた。最後にあっちで褒められたのはいつであろう?
流石に一緒に遊んだ4人全員を描くのは面倒だったので、桜川の絵を描くことにした。川の中の水草を表現するのが難しかったが中々上手くいった。
「もう身体は冷めたかい?おっ、上手だね」皓が覗き込みながら言う。
「もう大丈夫だよ、ありがとう」
「ボクくんは本当に絵が上手いんだな。他のも見てもいいかな?」
「いいよ、でも文章の方は見ないでね」
「少し見たい気もするけど、恥ずかしいだろうしね、見ないよ」
そして彼はパラパラと絵日記を観ていく。
「どれもよくかけてるね。なんかボクくんの世界観を感じるよ」
と賞賛してくれた。なんだか照れ臭かった。
「何か得意なことがあるっていいよね。その得意なことを伸ばすことはとっても大事なことなんだよ」
と彼の言った、何気ないその言葉は私の胸に突き刺さった。
過去において、私はそれをやめてしまった。親や周りの意見に流されたというのは、正直言い訳かもしれない。結局、決めたのは自分なのだから。
「ねー、皓兄は変えたい過去はある?」
唐突に質問してみた。
「うーん、どうだろ。あるっちゃあるし、ないっちゃないかな」
「どーいうこと?」
「例えばさ、店でラーメン頼んだとするじゃん、それで頼んだ後で他の人の食べてるチャーハンの方が美味しそうに見えて、ちょっと時間を戻して注文を変えてみたいとか思うことはあるよ。でもね、選択を変えたいとは思わないよ」
「選択って?」
「つまり人生における大きな決断をするときかな。確かに、やっぱりあっちの選択肢にすればよかったって思うことはいくらでもあると思うんだ。でも、未来は変えようと思えばいくらでも変えられる。そう俺は考えるかな。ていうか考えるようにしているかな、無理やりにでも」
「なっ、なるほど」
「ボクくんもこの先たくさん選択する時があると思う。でも自分の考えを捨てちゃいけない。自分の世界観を持ち続けてしっかり選択していくんだよ」
彼はちょっと姿勢を正し、私の肩に手をのせて続けた。
「君の未来は、まだ白紙という意味さ。誰もがね。自分の未来は・・・どんな風にも、自分で作るものなんだよ」
「そうか、なんかすごいいいこと聞いた気がする。ありがとう皓兄!」
「えへっ、どういたしまして。ちなみに最後のは思いっきり引用したし、かっこつけただけだよ」
「なんの言葉なの?」
「バックトゥザフューチャーのセリフさ」
さっきの改まった顔が思い出され、なんだかおかしくて2人で笑った。
私は答えを見つけ、自分の未来を変えることができるのだろうか。少しずつではあるが答えに近づいているとは感じた。
静寂の中、風鈴の音色だけが響いていた。今日は満月である。




