混浴?
珠美の合図とともに、2人は泳ぎだした。
思っていたより柚月は速くほぼ互角てあった。折り返し地点までは。
折り返し地点、橋の脚に触ってターンをした。若干のリードは取られているものの、まだスタミナは残っていたし、巻き返せると思っていた。けれども中々差は縮まらない。その理由を私はまだ気づいていなかった。
単純すぎることだが川の流れである。行きは流れに沿って泳ぐので速く進むことができるが、折り返し後にはそうにもいかない。
(身だけでなく、考え方まで子どもになってしまったのか)と心の中で苦笑しつつも、必死に食らいついた。乳酸が溜まって疲労してくる感覚すら懐かしく思えた。
なんとかほんのワンテンポ遅れただけで涼にバトンタッチすることができた。
「ボクくん、初めてやったにしてはなかなかやるね」
呼吸を整えながら柚月が言った。
「そっちこそね」
「あっ、でも勝つのはわたしたちだよ」
「えっ、なんで?」と聞くと、彼女は向こうを指差した。涼はもちろん速く泳いでいるのだが、珠美はその上をいっていた。
「珠美はね、学年で一番速いんだよ」
結果はもちろん、こちらの負けであった。その後も何回かやったのだけれども一度も勝てず、すっかり夕方になってしまった。
「かなり疲れたし、そろそろ解散としようか」
柚月の提案もあり、私と涼は悔しかったけれども、正論ではあるので帰宅することになった。
水着のまま家へ帰ると、伯母さんは台所で夕食の準備をしていた。
「あら、おかえりなさい。楽しかった?身体も少し冷えてると思うし、2人ともそのままお風呂に入っちゃいなさい。沸いているから」
ん?となった。伯母さんは“2人ともそのままいけ”と言った。これは柚月が拒否するんじゃないのかと思ったが、
「うん、わかった。着替え持ってきちゃうね」と言った。
ついさっきまでの自分が恥ずかしかった。水着のまま風呂に入るってことだったのね。確かにそれなら何も(?)心配いらない。(と言っても私にはそんな趣味などないのだが)
水遊びで少し冷えた体に温かいお風呂は気持ちが良かった。しかも一軒家ならではの窓を開けての風呂である。アパートの一人暮らしでは決して味わえないことだ。ヒグラシの声が風呂の中まできこえてくるし、なんて風情のあることだろう。
「はぁー、たくさん泳いだ後のお風呂って気持ちがいいよね。わたしこのまま寝ちゃいたいくらいだよ」 大きなあくびをしながら柚月は言う。と同時に、髪の毛をかきあげる横顔はなんだか大人びて見えて少しドキッとした。
「ボクくんもすっかりこっちの暮らしに慣れてきたよね。毎日が本当に楽しいよね」
「そうだね、それもこれも柚月がいなければあり得なかったことだよ。ありがとう」
すると彼女は少し照れながら
「えへへ、こちらこそありがとう」
と言いながらこちらに体を向けてきた
「ボクくん、あのね…」
「なに?」
「やっぱりなんでもないや、こんなこと言ってもどうにかなるわけじゃないし」
何を言おうとしたのかとても気になったが、敢えて詮索はしないことにした。
「さてと、そろそろあつくなってきたし、わたしは先に頭と身体洗っちゃうね。ということでボクくん、わたしが風呂を出るまでぜったいにこっち側に向かないでね」
えっ?!一瞬びっくりした。まさかそのまま洗っちゃうのかと。私は言われた通り窓がある壁の方を向いた。しばらくしてシャンプーで頭を洗っている音が後方からした。
「ねぇ、ボクくん」
「なに?」
と一瞬振り返りそうになったが慌てて我にかえる。
「うふふ、ちゃんと引っかからなかったね。えらいえらい」とくすくす笑っている。
湯船に長時間浸かっているからだろうか、それともこの状況のせいなのか、身体がやけにあつく感じた。そして結局のぼせてしまった。
その後伯母さんや皓に変な疑いをかけられたのは言うまでもない。




