時にとても長い1日 前編
今回は前後編に分けます。
ミーン ミー ミー ミー ミーン…
ミーン ミー ミー ミー ミーン…
ミンミンゼミのやかましい声が部屋中に響き渡る。それとともに、時頼ふく風が風鈴を揺らし、夏らしさを演出している。
私は今、畳の上に寝っ転がっている。
あの日から数日経ったが、今だに答えは見つからない。それどころか普通に“ボク”である日々を満喫してしまっている。早く答えを見つけたい自分とそうでない自分が同居していた。
朝6時に起きてラジオ体操して始まる1日とは時にとても短く、時にとても長い。今日は後者である。
柚月たちは自身の学校で午前中はプールがあるらしい。朝食を取るとすぐに向かってしまった。流石に他校の生徒である“ボク”が行けるはずもなく、時間を持て余していた午前9時である。
すると和室に続く縁側へ伯父さんがやってきた。農具かなんかを担いでいる。
「よう、今暇かい?」
汗を拭きながらきいてきた。
「良かったら、畑仕事手伝わないか?車でちょっと行ったところにトウモロコシ畑があるんだ」
どうやらこの家には敷地内のほかにも畑を持っているらしい。私は頷いて、行くといった。
「そうかい、じゃー準備ができたら車庫の前な」
伯父さんはそういうと縁側から立って歩いて行った。入れ違うようにして伯母さんが来た。
「ボクくん、畑に行くのはいいんだけど、その格好じゃ汚れちゃうよ」
確かに半袖はまだしも半ズボンは流石によした方がいいだろう。
「そうだ、柚月のオーバーオール借りちゃいなさい。待ってきてあげるから。着れるだろうし」
というわけで柚月の服を借りることになった。なんだか申し訳なかったけど“ボク”なら許されるだろう。たぶん。
着替えてみるとピッタリというか少し大きいくらいだった。そして車庫に向かうと、低いエンジン音が聞こえてきた。
ドル ドル ドル ドル…
その音は体に響き渡るような独特なものだった。車庫には大型のトラックとこれまた大型のバンタイプの車が止まっていた。クリーム色のトラックのグリルの部分にはv8と書かれている。全体的に見ても日本車ではないなと思った。
「ほんと困っちゃうのよねー、こんな古いアメリカの車乗ってさ。絶対日本車がいいのに」
伯母さんがちょっと呆れながらぼやいた。なるほどやはり日本車ではないようだ。アメリカ車、アメ車というやつか。
「トラックだけならまだしも、家族の自家用車もだよ?すぐに壊れたりするし困っちゃうのよー」 と笑いながら言った。
「まぁまぁ、いいだろう?俺の唯一の趣味なんだし。それにかっこいいだろう?」
伯父さんがやってきて“ボク”の隣にしゃがんで続けた。
「どうだ、この車かっこいいだろ?55年式のフォードっていうアメリカの大きな会社のトラックなんだ。で、愛称がパンプキン!なんとなく、そんな形に見えるだろう?」
言われてみれば確かに、全体的に丸っこくカボチャのようなシルエットだ。伯父さんはかなり愛着を持っているらしい。
「よし、準備もできたみたいだし出発だ。」
伯父さんに言われて車へと乗り込んだ。“ボク”は伯父さんと伯母さんの間にちょこんと座った。
「ふふふ、なんだか皓が小さかった頃を思い出すわね」
伯母さんはそういいながら“ボク”の頭を撫でた。
誰かに頭を撫でられるのは、やっぱりなんか恥ずかしかった。
パンプキンは間も無く走り出した。低いエンジン音とともに。雲ひとつない空に吸い込まれそうな午前10時であった。




