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切り詰めるしかなさそうです


「パパー! みてみてー! どうー?」

「うん、とてもよく合ってる。可愛いよマリー」

「えへへへー!」


「お父さまー! わらわも見てほしいのじゃ! どうかの? 寸法はぴったりなのじゃが」

「うんうん、もちろんアリスもよく似合ってるよ。可愛いね」

「くふふふふ」


「リヒトの旦那ァ! あっしはどうですかい?」

「おお、立派な大剣と鎧……だね……い、いやぁ……これまたすごい色の鎧を選んでしまったね……グラーフ。 ……なんだか赤黒いよ」

「これは尊敬する旦那の『黒』とリーシャの姐さんの『赤』をイメージしてのことですぜ! おふたかたの武勇にあやかろうって魂胆でさぁ!」

「あ、あぁ、そうなんだ? ……嬉しいけど、それを言っちゃったら意味ないんじゃないかい? そういうのは心に秘めておいたほうがご利益りやくありそうだけど」

「うぐっ!」


 俺は青ざめてしまったグラーフへ微笑みかけながら、居間のランプに【ファイアボルト】で火を灯した。


 ダルーインさんの冒険者ギルド本部公認ショップ【アドベンチャーマスターズ】で買い物をしたのは昨日のこと。


 さすがに三人分の武具を抱えて運ぶのははばかられ、ダルさんに配達を頼んだ。

 購入した武具の調整もしたいとダルさんは申し出たので、俺はそれを快諾した。

 それがつい先ほど、娘たちとグラーフの下校時間と合わせたかのように馬車で届いたわけだ。


 よほど待ち遠しかったのか、娘たちとグラーフは嬉々として開封し、早速身に着けてお披露目会の真っ最中と言うのが現在の状況なのである。


 まぁ、俺一人でも運べないことはなかったんだけどね。

 そんなことをしても無駄に目立つだけだと思ってさ。


 ……いやいや、そんなことよりもなによりも、本当に痛かったのは武具の代金だよ……


 いくら名工が手掛けた品とは言っても、あんなふざけた値段になるものなのかい……?

 正直、失神しそうになったよ。

 だってさぁ、手持ちの大金貨がほとんど消え失せたんだよ?


 まだ隠し貯金はあるけど、しばらくは相当切り詰めないと飢え死にしちゃうね……


 都会に住むと言うのは、それだけでお金がかかる。

 なんせ薪ですら買わねばならないのだ。


 そして普通の都市部よりも物価が高い!


 家賃や光熱費はともかく、食材や雑貨に至るまでもが軒並み高いのである。

 ざっと換算してみても、俺が以前住んでいたアトスの街の2倍から3倍はあった。


 こりゃ、並みの冒険者じゃ食っていけないわけだよ。

 大抵の冒険者が王都には直接住まず、普段は郊外の村々に分散していて、クエストを受ける時だけ王都に来るって聞いたけど、それも深く頷ける話と言うもんさ。

 近年の冒険者不足は王都のせいなのかもしれないね。


 うーん……俺たちも、もっと安い家賃の家に引っ越した方がいいのかなぁ。


 くそっ。

 見栄張ってあんなに高い武具を買うんじゃなかった。


 グラーフのは普通の金額だったものの、マリーとアリスの武具は頭がおかしい値段だったね……

 ダルさんは『相当勉強したお値段ですぞ』なんて言ってたが、嘘こけ! と、思い切りツッコミを入れたくなったよ。


 さすがに彼も悪いと思ったのか、おまけで最高級の磨き油や砥石、永久メンテナンスフリー券とかくれたんだけどさ。

 ついでに武具の割引券もいただいたものの、俺って基本的に鎧すら身に着けてないからあんまり使い道がないんだよね。

 どうせならその分、値引きしてくれればよかったのに……


 まさかとは思うが、もしかしたらこうやって金のありそうな冒険者からふんだくってるとかじゃないだろうな。

 冒険者ギルドの資金を確保するために。

 だとしたら納得がいかんね。

 そのうち副ギルド長のネイビスさんに問いただしてみよう。


 ネイビスさんで思い出した。

 どうやらダルさんは上手くやってくれたらしく、先ほど荷物を届けてくれた折に『例のブツは兄へ』と短く言い残してくれたのだ。


 これはつまり、俺の手紙がネイビスさんへ直接届いたと思って相違ないだろう。


 フフフ。

 ネイビスさんめ。

 俺と連絡を取れるような方策を編み出すために、せいぜい頭を悩ませてください。

 あなたの弟さんから受けた仕打ちは、きっちりとあなたへ返してやりますよ。

 なんつってね。


 さて、冗談はさておき。


「パパー! わたし、にあってるー!?」

「うんうん、とっても可愛いよ。マリーはまるで小さな勇者さまだね」

「あはははは! ゆーしゃさまー!」

「お父さまー、わらわも褒めてほしいのじゃー!」

「よしよし、アリスもそれを着ていると少し大人っぽく見えるね。綺麗だよ」

「くふふふふ! お父さまがそう言ってくれると、とっても嬉しいのじゃ!」

「キャンキャン!」


 もう何度目かもわからぬこのやり取り。

 そろそろ褒め言葉の語彙ごいが尽きそうだ。


 二人は自分専用に制作された武具がとんでもなく気に入ったのだろう。

 子犬のリルと共にくるくる回ったり、走り回ったりしてずっとはしゃいでいる。


 懐事情は壊滅的で瀕死もいいところだが、この娘たちを見ているだけでそんなことすらどうでも良くなってくるのであった。


 さすがにオーダーメイド品と言うだけあって、娘たちにピッタリなんだよね。

 名工の名は伊達じゃないってことか。


 キラリと青く輝く鎧は、マリーの青き瞳に合わせたのかな?

 そうなると、縁取りの黄金は彼女の髪色を表している感じ?

 ってことはアリスのほうもそう言ったコンセプトになってるわけか。


 へぇー、考えるもんだねぇ。

 職人のセンスってのはこう言うところで輝くんだなぁ。


 マリーのは胸当てと肩当てが一体化しているタイプか。

 それに冠型の兜、手甲、グリーブ、赤いマントがセットになっているようだ。

 腰には一本のショートソードを帯び、小型のカイトシールドも左手に持っている。


 俺が言った通り、絵本や童話に出てくる『勇者』を彷彿とさせるスタイルなのであった。


 それと、武器がまたすごいんだよね。


 その昔、若き日の【剣聖】オルランディさまが、この大陸を荒らしまわったドラゴンを討伐した際、二刀流だった彼の左手に握られていたのがこの剣なのである。

 ドラゴンの血を浴びた剣は、特別な力を得たと言う。


 その後、その剣は貴族の手に渡ったが、没落した。

 債務整理で売りに出されたそれを引き取った人物こそダルさんだと言う話なのだ。


 まぁ、全部ダルさんの受け売りだから、どこまでが真実なのかはわからないがね。

 でも、ドラゴン云々(うんぬん)の部分はともかく、オルランディさまの紋章が刻まれているのは事実なんだよなぁ。


 そしてアリスメイリスの鎧はマリーの物とは対照的に、全身をくまなく覆う、いわゆるフルプレートとかスーツアーマーなどと呼ばれるものであった。

 これは肌の露出する部分が全くないか、極めて少ない構造になっている。

 それでも身体の動きを阻害しないように、関節部分には工夫に工夫を重ねてあるのだ。


 これぞ現代技術の結晶と言えるだろう。


 だが、兜はない。

 どうやらアリスメイリスは視界が遮られるのを嫌ったようだ。

 多少不安ではあるが、彼女の意思を尊重したいと思っている。 


 俺も被り物って嫌いなんだよね。


 マリーは兜を被っているが、ポニーテールのままではなんだか窮屈そうだ。


「マリー、ちょっとおいで」

「はーい!」


 俺の膝に乗ったマリーの髪を櫛で丁寧にいていく。

 やはり窮屈だったのか、マリーはホッとしたような声を漏らしていた。


「よーし、これでいいよ」

「うん! らくになった! パパありがとー!」

「うんうん、髪をおろしたほうが姫騎士みたいで素敵だよ」

「えへへーっ!」

「あーん! マリーお姉ちゃんだけズルいのじゃ! お父さまー! わらわの髪も梳いておくれなのじゃー!」

「いいとも。おいでアリス」

「わーい!」


 うーむ。

 鎧なんて装備してると、二人ともちょっとだけ大人びて見えるねぇ。

 こうやっていつの間にかどんどん成長していっちゃうのかと思うと、結構寂しいよね……


 成長かぁ……


 ……ん?

 ちょい待ち。


 成長……そうだよ!

 この二人はまだまだ成長期なんだよ!


 おいおいおいおい!

 すぐに大きくなっちゃって、こんな鎧は来年あたりにはもう装備できなくなるよね!?


 うわあああ!

 クソ高い鎧を毎年買い替えろってか!?



 無茶言うなぁああああああ!




 突然苦悶し、頭を抱えた俺を不思議そうに見つめる三人と一匹なのであった。





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