まさかの女性限定
「さぁぁぁぁ! まずは第一試合! 去年に続いて二度目の挑戦! 冒険者カーミラ! 西の陣から登場だぁ! そしてぇ! 東の陣からは【ブロンズ】級冒険者アヴィントンがやってきたぁ! フィオナ団長、この試合の見どころはどこでしょうか?」
「そうですね、実力はあるものの無冠の冒険者であるカーミラの動きに注目したいです」
「なるほどぉ! 前回もいい闘いを見せてくれましたからねぇ! それでは! 第一試合、開始ぃぃぃ!」
ゴォォォン
ウオォォォォォォォオオオオオ
巨大な銅鑼の音とともに試合が始まった。
観客の心情も一気にヒートアップする。
「ワクワクしますわ!」
「そ、そうですか」
頬を上気させ、興奮した様子のシャルロット王女。
だが俺は色々と困惑したままである。
「まさか『女だらけの御前試合』だったなんて……」
「あら? きちんと御触れには書いてありますわよ? 配布したチラシにも」
「はい!?」
俺は慌てて懐に入れておいたチラシを取り出す。
うわ!
本当だ!
隅っこに小さく『出場資格:女性冒険者及び戦闘に携わる職業の女性のみ』って!
誰が読むんだこんな部分!
「この御前試合も当初は殿方ばかりだったのですけれど、幼いころにわたくしが『女の人の闘いが見たい!』と父王に申したところ、たちまち女性限定になったのですわ。しかも盛り上がりと収益は数倍に跳ね上がりましたのよ」
「えぇ!?」
なんちゅう親バカぶりだ!
なにも男全員を排除しなくてもよかろうに!
「リーシャさん、でしたかしら? リヒトハルトさんの同居人も出場なさるのですわよね? わたくし、とっても楽しみですわ!」
「ご、ご存じだったんですか」
「えぇ、お婆さまから伺いましたの」
シャルロット王女のお婆さま……
そうか、シャロンティーヌさまか!
くっ、まさか俺たちのことをお話になっていたとは……
「しかも、【剣聖】オルランディに弟子入りを志願なされたとか。ふふふ、無謀なかたですわね」
いたずらっぽく笑うシャルロット王女。
そんなことまで聞き及んでおられるのか。
しかし随分嬉しそうなのは何故だろう。
「ですからわたくし、お相手には【白百合騎士団】随一の使い手を選んでおきましたの!」
「はぁ!? リーシャの対戦相手は王女殿下がお選びになったと申されるのですか!?」
「リヒトハルトさま、また硬い口調になってますわよ。えぇ、勿論ですわ。毎年わたくしが見たい対戦カードにするのが醍醐味ですもの!」
申し訳ないが、正直『このアマ! 余計なことをしやがって!』と思ってしまった。
リーシャにとってはこの先の未来がかかった大事な試合だってのに、なんと言うことをしてくれたんだろう。
当の王女は『試練を与えてあげましたわ!』的なドヤ顔だし。
妙な本や劇の見すぎなのではないだろうか。
「リヒトハルトさまと冒険をともにしてきた女性ですもの、この程度で音を上げるのならば、貴方にとって相応しいとは思えませんわ」
「…………お言葉ですが、リーシャは強い子です。負けませんよ」
「あらあら、随分自信がおありのようですわね」
「ええ。私が付きっ切りで特訓した成果を……」
「まあぁぁ!? リヒトハルトさまが付きっ切りで寄り添って!? 四六時中!? いやん! いかがわしいですわ!」
「いぃ!? いかがわしいことなんて……」
「やんやん! ぴったりと密着して手取り足取りだなんて……! きっと盛り上がってしまった二人はそのまま……!」
シャルロット王女は両手で紅潮した顔を覆い、ブンブンと首を振って妄想にいそしんでいるご様子。
その反動で、王女の輝くようなブロンドの髪がビシバシと俺の顔に当たりまくった。
彼女の脳内で俺とリーシャはどうなってしまうのか非常に危惧される。
それより、試合を見なくてもいいのだろうか。
ほぼ王女が主催者なのに。
「ここで決着ーーーー! 第一試合は冒険者カーミラの順当勝ちだーーー! いやぁ、両者ともにいい動きでしたねぇフィオナ団長」
「そうですね。実力ではカーミラに分があったものの、アヴィントンには将来性を感じさせられました」
「私もです! 皆さま! 未来の勇者アヴィントンにも盛大な拍手をーー!」
オォォォオオオオオオ
あぁ、ほら終わっちゃったじゃないか。
しかし実況の子、盛り上げるの上手いなぁ。
「あびんとんちゃんおしかったねー。もうちょっとぶたいをひろくつかえればよかったのにね!」
「じゃのー。足さえ怪我しておらなんだら勝っておったはずじゃー」
えぇぇ!?
マリーとアリスが解説者よりも詳しく解説してるんだけど!?
そもそもアヴィントンさんは怪我してたのかい!?
観察眼がすごすぎない!?
む、娘たちよ……俺の知らないところでいつの間にか成長しているんだね……
それから、第二試合、第三試合と順調に『女だらけの御前試合』は進んで行った。
リーシャの出場順がわからぬゆえに、俺のやきもきは増す一方だ。
こう言った大きな大会の場合、遅い順番なほど出場者の緊張感は高まって行くものである。
始まる前からあんな様子だったリーシャなのだから、今や彼女の心臓は破裂せんばかりに鼓動を速めているであろう。
俺も昔、アトスの街で行われた若手の料理人による腕自慢大会に出場したことがあった。
その時は俺のクジ運の無さが見事に発揮されて、なんと一番目を引いてしまったのだ。
心の準備をする暇すらなく、いきなり本番にブチ込まれて異様なほど泡を食ったものである。
だが今思えば、そのほうがかえって功を奏した気がしているのも事実。
下手の考え休むに似たり、なんて格言もあるではないか。
緊張している最中にあれこれ模索したところで答えなど出るはずもない。
むしろ良からぬ思考に陥るばかりだ。
だったら、さっさと試合が始まってくれたほうが『やるしかない!』と開き直れるものだったりする。
しかし、それよりも俺が懸念しているのは、対戦相手のことだ。
俺もまさか御前試合が女性限定だとは思ってもみなかった。
今日までの特訓はリーシャの相手がごつい男であろうと言う想定のもとに行ってきたのである。
それが完全に覆されてしまった格好だ。
リーシャもそれほど小さいわけではないし、相手も女性である以上、都合よく大女が出てくるとは思えない。
「シャルロット王女殿下、リーシャの出番はまだですか?」
「あらあらぁ? 大事な女の子の出番が気になって仕方ないのですわね?」
「い、いや、ちが」
「それほどリヒトハルトさまに愛されているだなんて、わたくしそのリーシャさんに嫉妬してしまいますわ」
「殿下、そのようなことを軽々に口走ってはいけません。人の噂に戸は立てられぬと申しますから」
「……わたくしの本心ですから良いのです!」
「お……お戯れを……」
ごほんごほんけほんけほん、と周囲にいるお友達の皆さまが王女を諫めるように咳払いを始める。
振り返ればそのお友達も全てが女性であった。
俺に向けて引きつったような愛想笑いはするものの、誰一人目を合わせてくれないあたりに事の重大さを感じる。
状況がよくわかっていないマリーとアリスメイリスも真似をして咳をしているのがとても愛らしい。
だが、俺の心に吹き荒れる烈風はとどまることを知らなかった。
王女が俺を……?
有り得ないだろ。
今日を入れて二度しかお目にかかっていないと言うのに……
どこでどうなったらこんなことになるんだい……?
失礼だけれど、王女のおつむは少々……いや、かなりイカレてるとしか思えない。
やはりこのお姫さまは妙な本や劇の影響を受けすぎなんじゃないかな?
そもそもこんな子持ちのしかも足腰の弱い、いい年したおっさんをからかって楽しいのかねぇ?
もしかして俺をドキッとさせてその反応を楽しむと言う斬新な遊びだったりして。
そうとでも思わないと俺の脳みそが爆発しちゃうよ。
「さぁぁぁ! やって参りましたぁぁ! 超超超ちゅーーーーもくの第七試合! 今大会が初出場! 西の陣から現れしは期待の新星! 若くして【ゴールド】級の称号を得た冒険者、リーシャだーーっ! そしてそしてぇぇ! 東の陣より現れたるは、シャルロット王女殿下お墨付きの【白百合騎士団副団長】! 【神速】のベリーベリーちゃぁぁぁぁん!!」
「……仮にも我が団の副団長に『ちゃん』付けはどうかと思うが」
「かーたいこと言いっこなしですよフィオナ団長ぉぉぉぉ! ベリーベリーちゃんってば小っちゃくて可愛いんですもん、仕方ないでしょうに! そうだろう!? みんなーーーー!」
ウォォォオオオオオオォォォオオオ
リーシャの対戦相手とは、俺が考え得る想定の中でも、最悪の部類に入る者であった。




