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レジェンドアイテム


 俺たち一行はアリスメイリスと出会った洞窟を離れ、山間部を縫うように続く大街道を歩いている。


 大街道と銘打ってるだけあって、傾斜は少なく、割と平坦になるよう整備されてあった。

 流石は王都と主要都市を結ぶ大動脈である。


 このような道を作るのに、いかほどの財や人手が必要となるのだろうか。

 生半可な労力ではなかっただろうことは想像に難くない。


 現に、この大街道が整備されたのは数十年ほど前らしいが、俺の父親もこの国を挙げての一大事業に、出稼ぎとして参加していたのだ。


 勿論だが俺が生まれる以前の出来事である。

 『大街道を作る出稼ぎがあったおかげで、蓄えに余裕ができてな。母さんも嫁にもらえたんだ。あれがなかったらリヒトハルトは生まれてこなかったかもしれんなー。がはははは』と言うのが、父親の談であった。


 ……滅茶苦茶どうでもいい話だな……


 ともあれ、俺たちはそんな大街道の整備に携わった人々に思いを馳せながら一歩一歩有難さを噛みしめつつ歩を進めているのである。


「うーん! いいお天気ですねーっ! 私はやっぱり青空が好きだなぁー」


 リーシャが大きく伸びをしながら俺に笑顔を向ける。

 いつになくご機嫌なご様子。


「そうだねぇ。お天道様の下ってのは落ち着くからねぇ」


 そうリーシャに返事をする俺はマリーを左腕に乗せ、右手でアリスメイリスの手を引いて歩いていた。

 アリスメイリスにも抱っこしようかと聞いてはみたのだが、『お父さまに負担はかけたくないから自分の足で歩くのじゃ!』と元気な返事をいただいた。


 ……いい子だなぁ……


 しかし、アリスメイリスに気を使ってもらったにもかかわらず、俺の足腰は既に悲鳴を上げそうになっていた。


 特に腰。

 この内部から襲い来る鈍痛はいかんともしがたい。


 二年ほど前のある日、子豚亭で働いていた頃、納品された木箱を厨房へ運ぼうとした時に腰を痛めた。

 いわゆるギックリ腰だが、あれが今になって再発したとでも言うのだろうか。


 昨日など、力の有り余っているグラーフに相当マッサージしてもらったんだけどね。

 いくら外部からのダメージは受けなくても、内部の痛みはどうしようもないなんてなぁ。

 意味あるのかなこの身体……


「ほらほら、リヒトさん! もっと景気のいい顔してくださいよ! アリスちゃんと言う可愛い娘が出来たんですから、ね?」


 赤毛と共にバサリと黒いマントを翻すリーシャ。

 俺がプレゼントした金の髪留めがキラリと輝く。


 リーシャに黒マントなんてどうかとも思ったけど、意外と似合っているし、気に入ってもくれたようで安心したよ。


 無論、この黒いマントは、盗賊団に襲われていた商人さんを助けた折にいただいたものである。

 まぁ、その盗賊団の団長がグラーフだったのだが。

 ともかく、撥水性や保温性に優れた希少な革で出来たマントは、俺がずっと身に着けていた物なのだ。




 では何故それがリーシャの手に渡ったのかと言えば────




 アリスメイリスの洞窟で一泊することとなったあの時だ。


 俺が腕を振るった燻製肉のチーズ焼きとポトフで、みんなの胃袋を至福の世界へ連れ去ったその食後の一服中である。


「お父さま」

「? なんだいアリス?」


 食器の片づけを終え、焚火の前に座り直した俺に、アリスメイリスが声をかけてきたのだ。

 そして、俺の肩にファサっと黒い布を羽織らせた。


 毛布がわりに使えと言うことなのだろうか。

 俺は最初にそう思った。

 丁度ウトウトし始めたマリーに、自前の黒マントをかけてあげたところだったからだ。


「ありがとうアリス。これは良い布をつかってるみたいだね。手触りが全然違うよ。これならよく眠れそうだし、お借りするよ」

「お父さま。それは貸したのではなく、【真祖】を討伐したことによるドロップアイテムなのじゃ」

「……え? ド、ドロップアイテム?」


 確かにモンスターを倒した場合、時折なんらかのアイテムを獲得することがあると知ってはいるが……

 こんなドロップの仕方があるのだろうか?

 これではドロップではなく、手渡しだ。

 それとも贈呈と言うべきか。


「両親曰く、『よいかアリスメイリス。我々は至高の存在たる【真祖】、だが時には強き人間に敗北することもある。そんな人間がお前の前に現れ、尚且つ、お前が信頼に足る人物だと判断したならば、このマントを贈るがよい』と」


 普通に贈呈でした!


「そ、そうだったのかい。だったら有難く受け取らないとね。感謝するよアリス。きみにも、そして本当のご両親にも」

「くふふ、お父さまは本当に律儀じゃのー。遠慮なく受け取って欲しいのじゃ。そのマントには【真祖】代々の強力な加護が備わっておるからの」

「えぇっ!? そんな大事な物を……じゃあこれってご両親の形見ってことにならないかい?」

「ならないのじゃ」


 意外にもきっぱりと断言するアリスメイリス。


「わらわのリヒトハルトお父さまは、今目の前で健在じゃから」


 真摯な表情でそんなことを言われたら……

 俺の涙腺が決壊しちゃうじゃないか。


 俺は思わずアリスを抱き寄せた。

 華奢な背中と小さな薄紫色の頭を何度も何度も撫でるしかなかろう。


 そうだよな。

 俺が父親になったんだから、そのマントも受け継いで行かないとな。

 だけど強力な加護ってなんだろう?


「お父さま、立ってきちんと身に着けてみてほしいのじゃ」

「ああ、着てみよう」


 俺とアリスメイリスは立ち上がって、黒光りする布を広げてみた。

 まるでシルクのような手触り。

 いつまでも触れていたくなるような心地になる。

 素材は不明だが、素晴らしいとしか言いようがない。


 ふわりと羽織ってみると、丈は俺に丁度いいくらいなのだが、幅がやたらと長い。

 大人の3人くらいは軽々と包み込めそうなほどだ。

 両肩の部分に、見事な意匠が施された金属製の留め金があるから、きっとそれで固定するのだろう。


 しかも、裏地がド派手な真紅。

 色合い的にはアリスメイリスが身に着けているマントとお揃いと言うことになる。


 こりゃマントを翻した時に目立ってしょうがないぞ。

 だけど、強力な加護って割には何も感じないな。


 うーん、スキルポイントが勿体ないけど仕方ない。

 識者セージ系スキルに【アイテム鑑定】があったはずだ。

 どのような物か知らないことには使いこなせなかろう。


 俺は冒険者カードを取り出し、スキルを習得した。

 この【アイテム鑑定】のスキルだが、【解析アナライズ】と使い方は同じで、対象物をよく見ればよい。

 マントを少し持ち上げ、じっと目を凝らすと、視界に詳細な情報が現れた。


 それによると────



 アイテム分類:【レジェンドアイテム】


 アイテム名:【コートオブダークロード】


 レア度:【神話級】


 保有アビリティ:【精神異常無効】【幻惑無効】【火炎無効】【氷結無効】【雷撃無効】【衝撃無効】


 特殊アビリティ:【飛翔】



 ほほう。

 俺は素人だし、アイテムに関しても門外漢だけど、こいつはきっととんでもない装備だと思う……

 ……は?

 ……はぁ!?


 つらつらと読んでいたのだが、最後の部分が目に入った途端、全力で見開かれた。

 何度も目をこすって確かめるほどに。


 『特殊アビリティ:【飛翔】』


 【飛翔】!?

 俺が飛べる……!?




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