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二人の出会い



「……ん? 九頭龍。何か皇都のほうから聞こえてくる。速度を落としてくれないか」

「承知した。リヒトハルト殿」


 すぐさま飛行速度を落としてくれる九頭龍。

 見た目の厳つさとは裏腹に優しい男である。


 いやぁ、今は飛べない俺が龍神族と出会ったのは、ある意味運命だよね。

 飛べると飛べないとでは行動の幅に違いがありすぎるもんな。

 九頭龍はもはや俺たちの要だね。

 まぁ、もうすぐ【コートオブダークロード】の修復も終わると思うけどさ。


 そんな風に仲間を頼もしく感じながら耳を澄ませる。

 まだ皇都までは結構な距離があると言うのにここまで聞こえてくるのは、かなりの大音量だからであろう。

 だが、聞いているうちに俺の眉間に険しい皺が刻まれていった。


『皇都に住まう全ての民草と、皇帝陛下に申し上げる! 皇帝陛下の正統なる末御子すえみこである、秋津姫宮アキツヒメノミヤさまが今こそ御帰還なされた! よって、春宮は正統後継者に非ず!』 


 忠光の声のようだが……あいつは何を言っているんだ……?

 アキツヒメノミヤとは一体……


 しかし次に聞こえてきた声で、俺は気絶しそうなほど仰天する。


『私は秋津姫宮です! 兄の襲撃を受け、やむなくこの東大陸を脱出し、中央大陸へ逃れました! そこで出会った人々の助けを借りて、兄の暴挙を止めるべく只今戻ってきたのです!』


「なっ……!?」


 聞き違えようはずもない。

 この声は愛娘アキヒメのものだったのである。


「なんだって!? ア、アキヒメが皇女!?」

「ど、どう言うことなんですかリヒトさん!」

「これは驚いたでござるな……アキヒメ殿が皇女……確かに、そこはかとなく品のある子でござったが……」


 俺とリーシャ、霞ちゃんが三者三様に驚愕する。

 しかし九頭龍と僧正坊の反応は違った。


「はて、これは異なことよ」

「うむ。アキヒメと言う娘はリヒトハルト殿の息女だと記憶しておったが」


 うわっ忘れてた!

 彼らには俺の娘が全員実子ではないと説明してなかったよ……

 うーん、今更だけど話しておく方がいいか……



「なるほど……得心がいった」

「そのようなことが……何とも数奇な運命よ」

「……だよねぇ……俺もびっくりだよ」


 説明を終え、うんうんと頷き合う三名のおっさん。

 全員が娘を持つ父親なだけに、分かり合えるのだ。

 そのお陰で俺も幾分か冷静になれた。


「アキヒメも水臭いな……話してくれても良かっただろうに」

「うーん……でも事情が事情ですし、せっかく父親になってくれたリヒトさんには言い難かったんじゃありません? 多分、知っていたのはずっと一緒に居たフランちゃんだけだと思いますよ」

「……リーシャは優しいね。ありがとう」

「やだそんな、真面目な顔で言わないでくださいよ!(あぁん! 憂えた顔もかっこいい!)」


 リーシャの気遣いに感謝だね。

 思い切り抱きしめたいけど人目があるからなぁ。


 それにしても忠光の野郎は許せん……なんであいつは知ってんだよ……

 ……あれ? そう言えば以前、アキヒメと忠光が城の廊下で何やら話してたよな……まさかあの時からアキヒメはこうなることを覚悟してたってのかい……?


「ねー、パパー……」

「お父さまー……」


 そんなことを考えていた時、マリーとアリスメイリスがおずおずと呼びかけてきた。

 そう言えばこの子たちは随分とおとなしかった。

 真っ先に騒ぎ立ててもいいはずなのに。


「なんだい?」

「あのね、だまっててごめんねパパ」

「わらわとマリーお姉ちゃんは知っておったのじゃ」

「えぇ!?」

「でも、アキヒメちゃんが、パパにいうとしんぱいするからいわないでって」

「じゃが、こうなった以上、お父さまにはちゃんと話したいのじゃ」

「……わかった。俺もきちんと聞くよ。おいで」


 俺は二人を膝に乗せた。

 このほうが娘たちもリラックスして話せるだろう。


 そして俺は聴いた。


 春宮の魔手を逃れ、アキヒメは命からがら少数の腹心と共に逃げ出し、当時は海沿いにあった皇都から船で脱出。

 しかし、追っ手を海上で撒くも、嵐に遭遇し長いこと漂流したそうだ。

 水も食料も底を尽き飢えと渇きに苛まれ、いよいよ死を覚悟した時、大きな島が見えた。

 それこそが中央大陸である。


 アキヒメと腹心は、幸運にも王都の港へ辿り着いたのだ。

 だが、5名いた腹心も、船中で4人が死亡し、残った一人も病に罹っていた。

 老齢の彼女は長い船旅に耐えられなかったのであろう。

 アキヒメが生まれた時から『ばあや』としてずっと身の回りの世話をしてきた彼女は、今際の際にこう言い残した。


『秋姫さまは皇帝陛下の正統なる後継者……いつの日か東大陸へ戻り皆を…………いえ、今のは忘れてくだされ……姫さま。どうか、辛くとも決してくじけず……健やかに……幸せにおなりなさい……それだけが婆の望みでございます……』


 まだ幼かったアキヒメに老婆の言葉はあまり理解できなかったが、これでたった一人になったのだと悟った。

 泣いて、泣いて、泣き暮れて、見知らぬ地に放り出された幼き皇女は当てもなく彷徨った。



 そして絶望のさなか、アキヒメは出会ったのだ。


『えっと……だいじょうぶ? どこか痛いの?』


 ブンブンとかぶりを振るアキヒメ。


『あなた一人なの? もしかして、おなかすいてる?』


 アキヒメは頷く。


『おばあちゃ~ん! この子おなかへってるって~! ね、いっしょに行こ? ちょうどごはんをたべるところなの』


 笑顔と共に差し伸べられた手。

 アキヒメはそれを一生忘れないと言う。


『アキヒメっていうのね。私はフランシア。フランってよんでね。おともだちになってくれるとうれしいな~』


 ────フランシアの温かな手を。



 娘たちから話を聴き終えた俺は、図らずも滂沱の涙。

 周りを見れば、いい大人が揃いも揃って号泣しているではないか。


 ははは……僧正坊や九頭龍まで泣いてるよ。

 気持ちはわかる。大いに泣こう。


 ……フラン。アキヒメを絶望の淵から救い上げてくれてありがとう。

 ……アキヒメ。そんな経験を乗り越えてきたのに、良く再び皇女として立ち上がったね。


 きみたちの父親になれたことを俺は誇りに思うよ。



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