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再出発



「と、とにかくみんな準備を急いでくれ! 何日も寝てたんだから食事を摂るのも忘れずに! マリー、おいで! 鎧を着けるの手伝うよ! アリスは本体のほうで鎧を!」

「はーいパパ!」

「了解なのじゃー!」


 全員が騒然となり、場が慌ただしくなる。

 とても決戦に赴く部隊とは思えない。

 寝坊で慌てる学生と何ら変わらん。

 実際に豪快な寝坊もいいところなのだが。


 俺はマリーの着付けを手伝いながら声を張り上げる。


「持っていく荷は最低限にしよう! 鬼族は龍神族の背に荷上げを! 僧正坊! 天狗族を何人か皇都へ斥候に出して欲しい! 九頭龍! 皇都まで全速力でどのくらいかかる!? コラ酒吞童子ちゃん! こっそり酒を積み込まない! あぁもう、収拾が……宵闇ちゃん、済まないが各族を統括しておくれ!」


「おうさ! 野郎ども荷を担げィ!」

「鴉天狗よ! 五人ほどゆけ! 一時間ごとに一人ずつ報告に戻るのだぞ!」

「リヒトハルト殿。我らとて人や荷を乗せていてはそれほど速度が出ぬ。故に半日かかると見てくれ」

「え~~~! 酒がないとあちしは闘えないのだ~!」

「承知でありんす、お父ちゃま。各族は準備が済み次第点呼を取るでありんす! 特に鬼族! 阿保族長の酒吞童子をよく見張っておきんし! 桜花に芙蓉! 今度はお主らも自力で飛ぶように!」

「誰がアホなのだ!」

「えぇっ!? 私は龍化してリヒトハルト殿の肉壁になれと申されるのですか……!? そ、それはそれで悪くありませぬな……」

「最期までリヒトハルト殿をきっちりねっちりもっちりとお守りするつもりでしたのに……!?」

「お主らも阿呆でありんすか!? 九頭龍の負担を少しでも減らすためでありんしょうが!」


「リヒトさん! わたしは準備が終わったのでマリーちゃんの着付け手伝いますね!」

「拙者も完了でござる! みんなを手伝うでござるよ!」

「リーシャおねえちゃん、ありがとー!」

「霞姉さま。わらわもお供するのじゃ!」


 てんやわんやもいいところ。もはや誰が喋っているのかもよくわからない。

 だが、ある意味では俺たちらしいとも言える。

 気負わず背負わず、マイペースで行こう。


 ……そんな余裕ないけどね!


「よし、出来た! みんな忘れ物はないかい!? 出発するぞ!」

「各員、搭乗するでありんす! 天狗族は先行し、状況によっては忠光軍の援護を! 連絡は密にせよ!」


 ウオォォオオオ


 こうして、数日間と言う大きすぎる遅れを取り戻すべく俺たちは出発した。


 そしてジリジリとした気持ちを抑えつつ、数時間ほど飛行した頃。

 僧正坊に命じて放っておいた斥候の一人が報告に戻ったのである。


「報告いたす! 忠光軍は皇都近郊にて軍を展開、布陣を完了! 盤石の構えにて対峙するも……」

「なんだ! 早う申せ!」


 何故か言い淀む斥候の鴉天狗。

 すかさず族長の僧正坊が一喝した。

 どうやら彼は焦らされるのが嫌いらしい。


「はっ! ……未だ春宮軍の姿が見えておらず、交戦には至っておらぬ様子!」

「へ?」

「ぬぅ?」

「なんと!?」


 思わず首を傾げる俺と九頭龍、僧正坊の首脳陣。

 おかしな話もあったものだ。


 確かジロキチが言ってたけど、春宮は自らの近衛軍を温存し、ジロキチら各地から寄せ集めた部隊を魔神戦に投入してるってことだったよな。

 だったら忠光が皇都まで来たってのに、すぐさま春宮は戻ってこないのは不思議じゃないかい?

 自分の街が制圧されるかもしれないんだよ?

 魔神よりも国民のほうが余程大事だろうに。


 ……何か戻れない理由でもあるのか……?


「現況はわかったよ。ありがとう」

「ご苦労だった。交代して休め」

「ははぁっ!」


 僧正坊は代わりの鴉天狗を再び斥候に出し、飛行しながら腕を組む。


「リヒトハルト殿。おかしいとは思わんか?」

「そりゃ思うさ。春宮は国民を守る気がないのかねぇ」

「春宮もそうなのだが……魔神がいささか大人しすぎる」

「うん? 魔神と言っても、眷属のほうならこんなもんじゃないのかい?」

「それはリヒトハルト殿が規格外だからだ。我らとて危ういと言うのに、寄せ集めの軍が対抗できるとは思えぬ」

「ぐっ」


 規格外ってどう言う意味なんだろう……

 だけど僧正坊の言いたいことはわかる。


「春宮が魔神に対抗できるわけがない……なら、春宮は魔神復活に失敗したんじゃないのかな?」

「それはない」

「あれっ!?」


 ちっともわかってなかった!


「魔神は既に復活しているはずだ。でなければ眷属が現れるはずもない」

「なんだって……! 魔神が復活したら世界は危機に陥るんじゃなかったのかい……かつての魔神大戦のように……」

「そう、おかしいのはそこよ」


 僧正坊は大きく頷く。


「眷属が我らのもとに姿を見せたのは二年ほど前よ。つまり魔神はその頃から復活していた」

「……なのに世界はまだ……」

「然り。だからこそ不可思議なのだ。復活した魔神はどうなったのか。なにゆえ世界を滅ぼさぬのか」


 確かにそうだ。

 お銀さんと忠光から聞いた伝承では、魔神とは破壊の化身を意味していた。

 どこからともなく現れ、破壊の限りを尽くしたと。

 そんな存在が復活してから二年間も何もしないなんてあり得ない。

 しかし眷属が在る以上、復活は間違いないと言う僧正坊。


 破壊をしない破壊の化身。

 この矛盾は何なのか。


 魔神が心を入れ替えた、とか?

 ははは……んなわけないか……眷属は明らかな殺意を持ってたもんな……


「フ、悩んでも答えは出ぬぞリヒトハルト殿。こうなれば己の目で確かめるのが正解であろう」

「……そうだね。何が待っていようと俺たちは行くだけさ」

「その意気よ」


 わかりにくいけど、僧正坊なりの激励なのかな……?


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