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 五兵衛ゴヘエさんの炭焼き小屋を辞した俺たちは、西へ向けて歩を進めた。


 西の果てに位置すると言う、皇都を目指すためである。


 その道程は今のところ至極順調であった。


 ────時折現れる見たことがないモンスターの襲撃を除けば。


 五兵衛さんの言った通りだったね。

 俺が昨日出会ったヌエとか言う山のヌシの縄張りを外れたせいで、結構モンスターと遭遇するんだ。

 まぁ、今のところはモンスターレベルが一桁のヤツばかりだから、リーシャとマリーだけでも対処できているけどさ。


 俺は基本的にいつでも加勢できるよう、魔導の準備をしながらアキヒメとフランを守ってるわけだ。

 この二人は冒険者じゃないからね。


 ところで、俺がリーシャはともかく、目に入れても痛くないほど溺愛しているマリーを戦わせるなんて、と不思議に思われるだろうか?


 実は、ここへ来て俺も考えを改めたことがある。

 それは、【最年少冒険者】たるマリーと、【紅の剣姫】リーシャ、二人の冒険者ランクを積極的に上げるべきだと悟ったのだ


 なぜならば、ランクを上げることによって基礎ステータス値も上昇するからである。

 ステータスが上がると言うことは、それだけ肉体も強靭となり、怪我をしにくくなるのだ。


 簡単に言えば『身体は鍛えておいても損はないよね』ってこと。


 五兵衛さんも言ってたろ?

 『おっかねぇヤツもいるでなぁ』ってさ。


 つまり、鵺のテリトリーを抜けた以上、この先どんな強敵が出ないとも限らないわけだ。

 であれば、出現モンスターがまだ弱いうちに様々な戦闘経験を積ませるべきだと判断したのである。


 ま、リーシャとマリーで手に負えないようなのは俺が倒すけどね。

 これは別に自惚れてるんじゃなくて、死んでもみんなを守る決意みたいなもんだよ。

 なんせ俺たちにとっては未知の大陸。

 とんでもない怪物が生息してる可能性もあるからね。


 ただ、未知であるがゆえに解せないことも多い。


 先程戦ったモンスターなのだが、【解析アナライズ】のスキルを使ってみたところ……



 妖怪名:【豆狸まめたぬき

 個体ランク:5

 特殊技能:【形態変化(へんげ)】【死んだふり】



 『妖怪』ってなに!? モンスターじゃないの!? と思ったね。

 どうやら東大陸こっちではモンスターを妖怪と呼んでいるらしいな。


 ともあれ、五兵衛さんから聞いたように、その倒した豆狸を回収しながら先へ進んでいた。

 なんでもこいつの肉は美味いんだそうだ。

 彼の炭焼き小屋でも捌いた豆狸の肉が干してあったのだ。

 俺が貰った干し肉もそれだと言う。


 実際少し食べてみたんだけど、そんなにクセもなくて食べやすかったよ。

 調理次第ではもっと美味になるかも。

 そこは俺の腕の見せ所ってね。


 ちなみに毛皮も村や街へ持って行けば買い取ってもらえるそうだから無駄には出来ない。

 丁寧に処理しようと思う。


 そんな風にしているうちに日も暮れ出し、俺たちは程よい場所で夜営をした。


「ふぁあ……それでね……」

「……うん……」

「むにゅ……」


 欠伸をしながら尚も会話を続ける娘たち。

 しかし相当おねむのご様子。

 フランシアなど既に半分夢の中だ。


 アキヒメとフランシアも子供にしては健脚だが、冒険者のマリーとは比べるべくもない。

 それに、もう丸二日歩き詰めなのだ。

 疲労もかなり蓄積されているだろう。


 リーシャやマリーは口に出さないものの、疲れていないはずがない。

 特に今日は戦闘も多かったのだから。

 実は俺の足腰もシンシンとした痛みに変えて不平不満を訴えかけていたのだ。


 うーん。

 由々しき事態だね。

 まだまだ先は長いし……

 おかしな身体の俺はともかく、これでは子供たちが可哀想だ……

 どうにかしてあげたいところだけど……


「ふふふ、みんな寝ちゃいましたね。可愛い寝顔」

「リーシャ、きみも遠慮せずに眠っていいからね。ここらはまだ大したモンスターもいないみたいだしさ」

「はい。でも、もう少し大丈夫ですよ」


 俺とリーシャは仕留めた獲物を捌いている最中である。

 俺が解体し、リーシャが加工するのだ。

 元が料理人の俺にとっては苦にもならぬ作業だった。


 大型家畜の解体に比べたら楽勝ってもんさ。

 何度か牛を捌いたことがあるけど、あれはすごかったよ。

 冗談抜きでブロードソードみたいな包丁で切り分けるんだから。

 肉にしてもやたらデカいもんだから、運ぶのは荷車を使うほどだったよ。


 ん……?

 荷車……

 なるほど、いいかもしれないね。


「なぁ、リーシャ」

「はい? おやすみのキスですか? んもう、遠慮せずにいつでもしてください」

「違うよ!? あのさ、明日の朝、ちょっと手伝ってくれないかな」

「? わかりました」


 詳細を聞かずに了承するリーシャ。

 その信頼に感謝しながら、ほどほどのところで作業を終え、俺たちも眠りについた。



 明けて翌朝。




「【エンチャントウェポン】! シャープブレード!」


「はぁぁああっ! …………嘘っ!? すっごい切れ味ですよリヒトさん!」


 俺がリーシャの武器にかけた鋭利化のエンチャント魔導は大きな効果を現し、彼女は大木をスパスパと切り倒していた。

 これは昨晩の思い付きを実行に移した結果である。


「パパ、こんなにきをきってどうするの?」

「ん? ああ、この木で荷車をつくるんだよ」

「にぐるま?」

「うん。簡単な馬車みたいなもんかな」

「お父さん、そんなのまで作れるの? すごーい!」

「パパ格好いい~!」

「わたしのパパだもん! えっへん! なんちゃってーあははは」

「そ、そうかい? ははは」


 娘たちの称賛を浴び、年甲斐もなく照れる俺。

 頭を掻きながら地面に棒で簡単な設計図を引く。


 いやぁ、それもこれもグラーフと色々作ってたお陰だよ。

 王都住まいの頃は家具で、公爵領に来てからはそれこそ簡易的な家屋まで建ててたからね。

 荷車くらいは余裕余裕。

 なんなら巨大な客室付き馬車でも作れるさ。


 おっと、馬車で思い出した。

 荷車にも屋根を付けよう。

 これなら日差しや風雨も大丈夫。

 ……うむ、これでいい。

 あとは……そうだ、車輪も工夫して、と。


 俺はリーシャだけでなくマリーの小剣にも鋭利化の魔導をかけ、大木を大まかな木材に切り出してもらう。

 勿論図面を引く道具もないので正確な寸法とはいかないが、細かなところは俺のほうで調整した。

 そして部品を合わせ組み立てて行く。


 いやぁ、公爵領の大工から釘を使わない加工法を聞いておいたのがこんなところで役に立つなんてね……

 まぁ、金属片を力尽くで釘にするくらいは出来るから補強したい部分に使っておこうか。


 アキヒメとフランシアがなにも言わずとも率先してお手伝いをしてくれる。

 そんな娘たちを心底愛おしく思いながら作業を進めることおよそ半日。


「うん。出来た」

「できたー!」

「完成ー!」

「やったやったー!」

「出来ましたねー!」


 職人が作製したものと比べれば少々不格好ではあるが、充分使用に耐え得る荷車が誕生したのである。


 サイズは馬車と遜色がないほどの大きさ。

 これならば全員が乗っても余裕があるだろう。

 荷物を積載するスペースはきちんと別に取ってある。


 車体の後半部分は板壁で覆い、女性陣のプライベートも確保。

 ついでに取り外し式の板窓も完備した。


 荷車としてはかなりの大型で、もし馬車に転用するとすれば最低でも二頭立てとなるだろう。


 だがそこはそれ、引くのは俺である。

 なんなら家一軒くらいの大きさでも簡単に引けるだろうが、取り回しを考えればこのくらいのサイズが妥当であろう。


「あれっ? リヒトさん、随分と車輪が太くありません?」

「おっ、いいところに気付いたねリーシャ」

「えへへへ」

「これはね、走破性を重視してるんだよ。普通の馬車みたいに車輪が細いとぬかるみや山道に弱いからね」

「あー、なるほど! 泥道で立ち往生してる馬車とかいますもんね!」

「うん、普通の道なら摩擦抵抗を減らせるから細い車輪のほうがいいんだけどね。ま、引くのは俺だからどんな道でも余裕さ。いざとなれば荷車ごと担いでもいいし」

「はぁ~……リヒトさんは本当にすごいですねぇ」


 リーシャに思い切り感心され、緩みそうになる口元をグッとこらえる。


 よせやい。

 褒めても愛しか出ないよ?


「よーし、みんな乗り込んだら出発だ!」



 『おー!』と元気よく返事をしながら乗り込む娘たちとリーシャなのであった。



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