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色々と準備をします


「えっ! おうじょさまがうちにおとまりしてくれるの!?」

「それは本当かえ?」

「ええ。マリーちゃん、アリスちゃん。今夜はわたくしと一緒に眠りましょうか」

「わーい! あのね、あのね、おうきゅうのおはなしをたくさんきかせてほしいの」

「わらわも興味津々なのじゃー」

「勿論ですわ! ですが、ひとつだけわたくしと約束してくださる?」

「なぁに?」

「なんなのじゃ?」

「わたくしのことは『シャル』と呼ぶこと。良いですわね?」

「はーい! シャルさまー!」

「シャルさま、わらわも了解なのじゃー」

「ふふふ、お二人ともいい子ですわね」



 あははうふふと楽しそうな三人。

 なんだかとても仲の良い姉妹にすら見えてくる。


 本来ならば微笑ましく思える光景なのだが、俺の心には焦りと言う名の寒風が吹き荒れていた。

 王女をこのまま我がラインハルト城へお泊めしても良いのかという葛藤に苛まれているのだ。


 いくら書置きしてきたと言っても、陛下をはじめとして皆が心配しているに違いない。

 出来ることなら王女を一刻も早く王城へ返すべきだ、と煩悶する常識人たる俺。


 いやいや、王女とて国の代表である前に、一人の人間なのだ。

 日頃の王宮暮らしで、この奔放な王女は堅苦しい思いをし、疲れや鬱憤も溜まっておいでだろう。

 やり方は少々強引だったが、せっかくここまで来たんだから一日くらいゆっくり休ませてやったらどうだ?

 と、王女を慮るフェミニストな俺とのせめぎ合いが脳内で繰り広げられていたのである。



「リヒトハルトさまー! お呼びでごぜーますかー?」

「ああ、ニアーナ。忙しいのにすまないね」

「とんでもごぜーません! リヒトハルトさまのお役に立てるならこのニアーナ、なんでもするでごぜーますよー!」


 嬉しいことを言ってくれるニアーナ。

 まだ用件も言っていないのに、メイド服の袖を捲り上げているあたりがいかにも彼女らしい。

 おや、今日は青い髪をサイドテールにしているのか。

 うんうん、よく似合ってる。


「さぁ、なんなりとお申し付けくだせー!」

「うん、それじゃ俺の寝室を掃除して、シーツを新しいものに変えてくれないかな?」

「はい? わかりましたです! それはわたすに『夜伽をせよ』との命令でよろしいのでごぜーますね? そう言ってくださるのをずっと待ってたんでごぜーます!」

「違うよ!?」


 まだ昼間じゃないか!

 じゃなくて、どこでそんなのを覚えてきたんだこの子は。


「そうじゃないんだ。今晩、王女殿下をお泊めすることになってね。余ってるベッドもないから俺のを綺麗にして使ってもらおうかと思ったんだ。ほら、俺のならキングサイズだしさ」

「はー、なるほどでごぜーます。すぐに始めますです」

「ああ、頼むよ」


 パタパタと走り去るニアーナの小さな後姿を見送った。

 うーむ、あれで本当に人魚か?


 ま、ニアーナに任せておけばきっちりと仕上げてくれるだろう。

 王宮での仕込みが良かったのか、彼女はベッドメイクや洗濯が得意なようだった。


 マリーたちと一緒に寝るってことなら、大きいベッドのほうが王女も喜ぶと思うんだよね。

 俺も普段娘たちと寝てるしな。

 リーシャのベッドを貸してもらうって手も考えたんだが、それだと今度は彼女の寝る場所がなくなっちゃうからね。

 俺なら居間のソファにでも寝転がればいいわけだもの。


 さて、シャルロット王女の相手はマリーとアリスに任せて、俺は風呂の掃除をしようかねぇ。

 公爵領自慢の温泉、その一番風呂を気持ちよくシャルに浴びてもらうのさ。


 掃除道具を持って浴室へ向かう。


「? なにしてるんですリヒトさん」

「ん? ああ、リーシャか。いや、シャルが……ごほん、シャルロット王女殿下が本日宿泊することになったもんで風呂の掃除を」

「今、殿下を『シャル』って呼びませんでした?」

「ギクッ」


 なんて耳聡いんだリーシャは……

 まぁ、黙っておくわけにもいかないよな。

 大事な恋人に隠しごとなんてしたくもないしさ。


 俺は今日あった出来事をつぶさに語って聞かせた。


「はぁ~……殿下って、ほんっと自由ですよね……」

「俺もそう思う。あのシャルを王宮に閉じ込めておくのは無理だろうねぇ。周囲の人たちの苦労が手に取るようにわかるよ」


 そう言いながらガッシュガッシュとブラシで風呂桶をこするリーシャ。

 何気に手伝ってくれるあたりにリーシャらしい優しさが滲み出ていてなんともいとおしくなる。

 俺の彼女にしておくのは勿体ないくらいに出来た子だ。


 負けじと洗い場をガシガシこする俺。

 総檜造りなだけあって、とてもいい香りが漂う。


「!?」


 そんな時、俺の目に飛び込んできたのは、上半身を湯船に突っ込んで内側を洗うリーシャの後ろ姿。

 当然、豊かなお尻をこちらへ突き出しているわけで。

 しかも赤いミニスカートなわけで。


 こっ、これは……!!


 ……待て待て。

 なにを動揺しているんだ俺。

 自分の彼女なんだから何が見えても焦る必要なんてないだろ?

 むしろ、ガン見するくらいで丁度いいんだぞ。


 ……無理だ。

 そんな変態行為は出来ないよ……

 決して見たくないわけじゃないんだけどさぁ。

 これは卑怯だよね。

 やるなら正々堂々と。


「正々堂々と、なんですか?」

「!? 声に出てたかい……?」

「いえ、なんとなくそんな気がして」


 俺の心が読めるの!?

 リーシャは恐ろしい子だよ……

 流石は【紅の剣姫】だね。

 もしかして【心眼】ってヤツかい?


「ところで、殿下をここに泊めるなら私はどこで寝ればいいんです? たぶんお使いになるなら私のベッドだと思うんですけど」

「あー、それなんだが、シャルはどうやら娘たちと休みたいらしいんだ。だから俺の寝室を使ってもらうかと思ってるんだよ」

「……でも、それだとリヒトさんの寝るところが……」

「俺はソファにでも寝転がっておくよ。どこでも眠れるしさ」

「ダメですってば、風邪引いちゃいますよ」

「そうは言ってもなぁ。グラーフとザコ寝はもっと嫌だし」

「じゃ、じゃあ、わ、私のベッドで一緒に寝ればいいじゃないですか」

「へ……? へぇぇぇぇ!?」

「だって、ほら、私たちは恋人同士なんですもん。全然問題ないですよね? ね?」


 大問題としか言いようがない。

 仮に一緒のベッドに入ったとして、すぐ間近にリーシャの柔らかな身体があるわけだろ?

 ちょっとでも動いたら身体が触れあって、お互いがビクッと……

 そんなもん、眠れるはずがない……っ!

 悶々とした一夜を明かすのは心臓に悪そうだ。


「私は、リヒトさんがそういうごにょごにょ……を望むなら、いつでも覚悟は出来ています」

「リ、リーシャ……」


 赤毛と同じくらい顔を真っ赤にしたリーシャが、ズイッと膝を詰めてくる。

 覚悟とは、やはりアレがソレのナニな覚悟だよな?

 うおお、頭が上手く回らん。

 おっさんだけど純情なんだよ俺は!


 だが取り敢えず、そっと目を閉じたリーシャが今、何を待っているかくらいはわかる。

 俺も応えるべく顔を近付け────


 ドバンッ


「あぁ~ら、なんの覚悟ですかしら? 騎士リーシャには説明を求めますわ」

「あっ、シャルさま! パパたちにみつかっちゃうよー!」

「もはや手遅れなのじゃ~!」



 シャルばかりか、マリーとアリスにまで覗かれていました!



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