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初級魔導スキル……?


「パパすごいねー!」

「あれはもう、すごいとかって次元じゃない気がするわ……」


 何事もなかったように立ち尽くす俺を見て、リーシャが呆然と呟く。

 子供らしく素直に感心するマリーとは対照的だった。


 ごめん。

 俺本人ですらそう思うよ。

 リーシャの認識も同じってことは、俺の頭がおかしくなったわけでもなさそうだしな。


 本気でどうなってしまったんだ俺の身体は。

 ガチであらゆる攻撃が無効化されるってんなら、とんでもないことだぞ。


 つまり……無敵ということでは……?


 いや、待て。

 落ち着け俺。

 そう考えてしまうのは簡単だが早計だ。


 調子ぶっこいた俺がモンスターにやられでもしたら、残されたこの二人はどうなる?

 そうだ。

 そうだよ。


 大事なマリーや、うら若いリーシャを危険にさらすわけにはいかない。

 まだまだ慎重に検証する必要がある。

 俺自身もじっくりと調べたいのだ。


 おっと、その前に、釘を刺しておかないとね。

 何かの拍子にポロっと言っちゃうそうなリーシャへ口止めをな。


「すごいですよリヒトさん! 私のスキルを片手で受け止めるなんて……もごもがもご!」

「そら見たことか! おじさんびっくりだよ! リーシャ! 大声で言うんじゃない!」


 考えたそばからこれだもの。

 すかさず手で口を塞いでやったが、誰にも聞かれていまいな?

 ……よし、大丈夫そうだ。


「リーシャ、聞いてくれ。これは俺にもまだよくわかっていないことなんだ。だから騒がないでほしい」

「もがもが」


 うんうんと頷くリーシャ。

 この子は本当にわかってんのかね?


「ぷはっ、わかってますよ。他言無用ってことでしょ? 内緒にしておきます」

「わたしもないしょにするー!」


 はい! はい!

 と何度も挙手をするマリー。

 かわゆいなぁ。


 それに釣られてリーシャも挙手をしていた。

 大丈夫、きみも可愛いですよ。


「で、リヒトさんはスキルを取らないんですか?」

「いや、勿論取るよ。せっかくのランクアップだからね」

「ですよねー! で? で? 何系ですか?」

「で? で? パパはなにをとるのー?」


 俺の脇腹を肘で小突く興味津々のリーシャ。

 ほらー、マリーが真似しちゃうだろう?


 でも、マリーは小さいもんだから俺の膝上あたりを肘でつついてる。

 可愛い!


「そうだなぁ、おじさんはあんまり動き回れないから魔導系にしようかと思ってるんだ」

「あ、いいじゃないですか。私が前衛でリヒトさんが後衛ならバランスもいいですし、マリーちゃんも守ってあげられますね」

「うん、それも見越して考えたんだ。でもさ、リーシャは他のパーティーを探した方がいいんじゃないかい?」

「なんでそんな寂しいこと言うんです!? 私がいちゃ迷惑なんですか!?」


 あれ、激昂しちゃったぞ。

 なにかまずいことを言ったかな。

 そうか、言葉足らずだったかも。


「い、いや、迷惑とかそう言う意味じゃなくてだね、こんなおじさんといるよりは若い連中とパーティーを組んだ方が色々効率もいいのではないかなーと思ってさ。瘤付きのおっさんなんか放っておいてイケメンを……」

「あはは、なぁんだ、そんなことを心配してたんですか! ダメダメ! 若い男なんて頼りになりませんから! 顔だけ良くても人生の重みってもんが足りません! ……それに私……」

「ん?」

「実は…………と、年上の人がタイプなんです……あははは……」

「りーしゃおねえちゃん、おかおがまっかー!」


 や、やめてくれよ。

 真っ赤な顔でそんなことを言うのはさ。

 そんな気はないってわかっててもなんだか意識しちゃうだろう。


 おじさんをからかうもんじゃないよ。

 こんないい歳しててもウブなんだぞ。

 リーシャは勝気だけど優しいから気を遣ってそう言ってくれただけなのかもしれないけどな。


「じゃ、じゃあ、よかったらもう少し一緒にいますか?」

「は、はい! 喜んでお供します! マリーちゃん、よろしくね!」

「わーい! おねえちゃんもいっしょー!」


 いかん。

 動揺してつい敬語になっちまった。

 あーもう、女の子に免疫ないんだなぁ俺……

 昔の彼女だった子も、いつの間にか付き合うことになってて、いつの間にか自然消滅してたもんな……

 あれもきっと、免疫不足でどう接していいかわからなかったのが原因なんだろうねぇ。


 まぁ、マリーも喜んでるみたいだからいいか。

 女の子同士の会話と言うものも、今後マリーには必要になってくるだろうし。

 男の俺には言いにくいこともあるはずだ。


「よし、話がちょっと逸れたけど、魔導スキルを習得してみようか」

「おぉー! なんだかちょっとワクワクしますね」

「パパのまどーみてみたーい!」


 へへへ。

 そんなに期待されちゃあ俺も困っちゃうね。


 俺はニヤニヤしながら冒険者カードを操作する。

 では、この【ファイアボルト】から取ってみるとしよう。

 『初級魔導スキル【ファイアボルト】を習得しますか?』か、『はい』のボタンを押せばいいんだな。


 そぉい!

 ……すまない、おじさんになると、なんにでも掛け声をかけたくなるんだよ。


 おっ?

 おっ?

 こりゃすごい、リーシャの言った通りだ!

 頭の中にメッセージと言うか説明書と言うか、うんちくが流れ込んでくる!


『第一章、第一節、魔導とは。 魔導、それは太古の賢者たちによって体系付けられたとされる神秘に満ちた奇跡の御業。一説によれば、それは神々がこの地に顕現した際……』


 えぇ!?

 説明そこから!?

 ものすごくどうでもいいよ!

 こんなもん、ヘルプページにでもブチ込んでおけばいいのに!

 しかも第一章、第一節って、すっげぇ長そうなんだけど!?


 ええい!

 スキップスキップ!


『【ファイアボルト】の使用方法。まず、左右どちらかの手の人差し指と中指を真っ直ぐに伸ばしてください。次に、伸ばした指を撃ち出したい方向、または目標物へ向けてください。準備ができたら【ファイアボルト】! と、格好良く叫んでください。小さな炎の塊が指で示した方向へ射出されます。威力、射程、範囲に関しましては、スキル使用者が込める魔導力にて調整が可能です。なお、このスキルは薪や可燃物への点火、調理の際の煮炊きなどにもご使用いただけます。それでは、楽しい冒険者ライフを!』


 ……なんだこの説明は……

 いや、動作の映像も脳裏に表示されてわかりやすいのはいいんだけどさ……

 後半の部分、全く必要ないよね……?


 前言撤回!

 このシステムを作った魔導技師はアホだ!


 ……取り敢えず説明も終わったらしいし、試してみるか。


「マリー、リーシャ、炎が出るみたいだから、少し離れててくれよ」

「いよいよですね! マリーちゃん、こっちへおいでー」

「はーい! パパがんばってねー!」


 おお。

 可愛い娘の声援を受けちゃ、頑張らないわけにいかないよな。

 よーし、パパ張り切っちゃうぞー。


 俺は右手の指を二本立て、精神を集中する。

 ほほぅ、指先に何かがグングン流れ込んでいくのを感じるぞ。

 これが魔導力なのかね?


 後はこの指を向けてスキル名を言えばいいんだな?

 せーの。


「リヒトさん! 上! 空へ撃って!」


 手近な樹木を狙おうとした瞬間、リーシャが叫んだ。

 言われるがまま空へ指を向ける。


「【ファイアボルト】!」



 ズズズズ……ッ



 俺の指先で膨れ上がったそれは、とてつもなく巨大な炎塊と化していた。

 その炎塊は、一直線の軌跡を描き雲を突き抜け遥か上空へと飛翔し、そして見えなくなった。


 じょ、冗談だろ……?

 あ、あんなもんをブッ放したのか俺は……

 近場で炸裂したら、マリーたちどころか、街の中心部一帯が消し炭になるところだぞ……



 己の成した恐ろしい所業に、俺の全身はガクガクと震えるばかりであった。




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