雪の日の思い出
小さい頃の記憶。
君は、誰だったんだろう?
深々と降る雪の中、突然現れた女の子。
俺に気づくとハッとして
「みつかっちゃった・・・」
とつぶやいた。
君の声も顔も思い出せない。それくらい幼い頃だった。
そして11歳の冬・・・。
その日は、あの記憶の日のように雪が降っていた。
君を見つけた。
すぐ、分かった。
なんで、だろう。
いきなり記憶が降ってきたみたいだ。
もう何年も経っているはずなのに、
君は幼い頃のままだった。
君は、誰なの?
ふっと思った疑問を心の中でつぶやいたはずだった。
「やっぱり見たんだ」
「えっ」
君はいきなり俺の方を振り返った。
君は誰なの?
心の中でつぶやいたはずだった。
心を覗かれたような感覚がした。なんで?まあ、そんな体験したことないけど。
「あなたはあのときの男の子でしょ。やっぱり見たんだね」
やっぱり、君だ。
「・・・君は誰なの?」
君はちょっと困ったような淋しそうな顔をした。
「しりたい?」
「うん」
「見たん、だよね。私のこと」
「うん」
俺の二回目の「うん」を聞いた君は悲しそうだった。
「私、の、正体、は、・・・雪女です」
「・・・は?」
「見られちゃったらもう仕方がないの」
「えっと・・・」
頭が追いつかないけど、そんな気はしていたんだ。
「あなたに見られたなら私は人間の世界にはいられない」
「・・・うん」
まわりの雪に溶け込んでいるみたいな君を見ていたら納得できる気もした。
でも、秘密はそれだけじゃない。そんな雰囲気だった。
「・・・あなたの記憶も消さないといけない。今の記憶も昔の記憶も」
「・・・なんで?」
記憶を消す理由を聞きたいだけじゃない。
頭の中のハテナを全部まとめた「なんで?」だった。
「なんででも」
君は、初めて、くすりと笑った。
ちょっと困った笑い顔だった。
それならしょうがない。
そう思ったはずだった。
「消さないで」
きっと心のどこかで思っている本音が僕の口からポロリと溢れ出た。
なんで、だろう。
初めて、だった。
ただの、記憶。
こんなに大事に、
持っていたいと思うこと。
忘れたくない。
忘れちゃいけない。
大切な、
大切な、
・・・思い出。
「君を忘れたくない」
そういうこと。
「・・・ありがとう」
君の周りの雪が綺麗に舞った。
君の気持ちと雪が比例しているように思うのは気のせいだろか?
「私も忘れたくない。ずっとあなたに会いたかった。分からないけどあんな気持ちになったのは初めてだったんだ」
君の瞳から涙がこぼれると周りの雪がさあっと溶けた。
「最後にあなたに会うためにここにきた・・・、もう会えないから」
君の声が落ち着くと雪は元の静けさが戻った。
「ありがとう」
俺もそういった。
「もっと君のことを知りたかった。一緒の時間を過ごしたかった。思い出が欲しかった。もっと、もっと、」
気づくと俺は泣いていた。
「君の大切な人であり続けたかった」
「・・・私も」
君は今日初めて見せた本当の笑顔を残したまま、雪に包まれて・・・消えた。
・・・・・・。
あれ?
なんでだろう?
なぜか俺は泣いていた。
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
涙と一緒に何か大切なものも流れ出て行く気がした。
読んでくださってありがとうございました。