こんな可愛いなんてありえない!
俺とポセイドンは街を回ってサタン討伐の為の準備を行った。
これから行う事は非常に物騒なのに、今は楽しいと思える自分は凄いものだと自画自賛しながらこの街の商店街(王宮御用達)を回ってると、ポセイドンが鍛冶屋に案内してくれた。
どうやら、ポセイドンの頼みでこの国最高峰の鍛冶職人に俺の武器を作って貰えるのだとか。
ポセイドンが言うには、ポセイドンが愛用の三又矛を使っていない時に使うのはその人の槍らしい。
壊したく無いからなのか、と聞いてみたら、ポセイドンは
「儂の槍は強過ぎて困るのじゃ」
と笑いながら言って来て、俺も笑ってやったが、頼んだ鍛冶職人は溜息を吐いていた。
もしかしたら、笑い事では無い程に強いのかもしれないと内心思いつつ、俺は鍛冶の様子を見ていた。
ちなみに、旅への出発は明後日になるようだが、目の前の鍛冶職人はそれまでに完成させると意気込んでいた。
よく考えたら余所者である俺に対してもこのように接してくれる、この街の人々はとても優しいのであった。
ある程度頼み事を済ませた後、俺はポセイドンに呼ばれこの国で一番深い所にある『闘技場』へと赴いた。
そこで俺はポセイドンに会い、能力の使い方を教えて貰った。
俺の持つ『海王の力』は、ポセイドンの持つ『自然の怒り 海』より一段階低い能力でありこの世界では三人しか使えないのだとか……って凄すぎる事なのではないか!?
ポセイドンは神で、その一つ下なのだから確かに凄い事なのだが、世界で三人というのがより嬉しさを高めた。
前の世界じゃあ、七十億人に三人なんて特別すぎるからな。
そして短い修行の中で、まず俺は昨日もやった『水圧操作』について学んだ。
どうやら、『水圧操作』とはこの水系の力の殆どの技術を詰め込んだ物で、主に『無限水源』と、『水流操作』を用いてるらしい。
多くの人はその両方の基礎から学ぶらしいが、時間もなく、俺のようにポテンシャルが高い者なら初めから完璧にして、そこから技術を絞り込んで派生していく感じの方が良いとポセイドンは言っていた。
そしてこの『水圧操作』とは、指定した場所に『無限水源』で水を発生させ、それを『水流操作』でさらに指定された場所へと押し込むものだ。
勿論難しいらしいのだが、昨日やった感覚を思い出せば結構簡単に出来た。
これにはポセイドンも感嘆し、『さすがカナタ!!』と言って来た。
どうやら、普通のよりも何倍の威力であったらしいが、ここまで来ると、自分ももう少しは自信を持った方が良いのだろうか?
そんな事を考えてると、ポセイドンはさらに『水龍操作』をしてみないか、と言われたので試してみる事にした。
『水龍操作』とは技術こそ難しいものの、『秘力』なる物の消費は少ないのだとか。
とりあえず分からない事があったらすぐに聞く、これはポセイドンに言われた事であるため、俺はここに来て初めてこの世界の生き物の概念である『秘力』と『魔力』について知った。
『秘力』は、生き物なら誰しもが一定以上は持ち、肉体そのものに存在し、さっきから使う『何とか操作』にも使い、走ったり泳いだりにも使う。
眠ったり食べ物を食べたりすれば回復可能と言われていて、元の世界で言うスタミナのようなものだと解釈出来たが、問題は『魔力』だ。
これは魂を持つ者のみが持っていて、たとえ魂があったとしてもその限界には限りがあるらしい。
しかも元素的な感じで何属性の魔力とかと分けられてて、全部で光、陰、無の三属性。
正直この時点でラノベとかの炎の魔法とかは無いと分かった。
そう言った炎や水、風とかは秘力を使うものしか無いのだとも分かった。
そして、その三属性を用いてるのが魔法であり、この世界の人間ではある高見に達したような人間や、そもそも人間では無い者達しか扱えないらしい。
ちなみに、ポセイドンが俺に使った『アーテム・メーア』と呼んでる魔法は、人に救済を与える光魔法に、ポセイドンの水の秘力を込めたものであって、そう言った高等技術は神位しか使えないらしい。
と、話しが結構それてしまったが、そのような『秘力』の使用が少ない分、技術で大差が付く『水龍操作』は、言わば料理人の中で言う卵焼きみたいなものだろうか。
ポセイドンは、まず見本を見せてくれた。
『水龍操作』とは、『水流操作』とは違い辺りの水の動きや空気の動きに影響を与えずに水をはっきりとした形で動かすものだ。
ポセイドンの作り出した『水龍』は、長さが十メートルはあって、太さは三メートル近かった。
その『水龍』は少し体をうねらせた後に、俺に狙いを定めたように向き、その直後俺の目の前に現れ、消えていった。
ポセイドンは『怖かったか?』と聞いて来たので、ムカついて思いっきりドロップキックをお見舞いしてやったが、簡単にはじかれた。
その事に関してはもう別に気にしないが、さっきの『水龍』は何と全部ポセイドンが制御して動かしたものらしい。
一瞬意思を持ってるのかと疑いそうになったが、ポセイドン曰く、昔戦った巨大怪獣の動きをしたのがとか。
にしても、あの『水龍』がこっちに向かってくる瞬間は俺には見えなかったし、よくよく考えると普通慣性の法則で俺は吹き飛ぶ筈だったのだが、それも含め、『水龍』とは凄い。
俺はポセイドンに頑張ってみたいと言ったら、快くオッケーしてくれた……兄貴だな……。
『水龍操作』は思ってたよりも難しく、ポセイドンのように何かイメージがないと、たとえ作り出せたとしてもそれはただの水の壁と化すらしい。
俺は何とか数メートル程度の『水龍』を作り出す事に成功した。
やはり『水龍』と『水流』では全く感覚が違う。
しかし、イメージと言われても……俺は元の世界での記憶を辿った。
龍……龍……う〜〜む、うまく思いつかん。
俺が思案してると、ポセイドンは無理せずともゆっくりやれば良いと教えてくれた。
確かに、それに時間は掛けれないもんな。
取り敢えずは、『海王の力』に慣れるべきだと考える。
他とは違う圧倒的力も、使いこなせなければ意味を為さないからな。
この日は長くポセイドンと修行を行っていた。
次の日は朝早くから修行をするとポセイドンに言われたので朝早くに出る事になった為、俺が自室から出ると、そこにはモジモジとしたクララさんが居た。
朝から女神の顔を拝めるなんて……。
「あっクララさん、おはようございます」
「あっ、お、おはようございます」
「そういえば昨日クララさんを見なかったんですけど、どこにいらっしゃたんですか?」
「えっ!?いや……ずっと部屋に……」
「そうだったんですか!?」
何だ、クララさんを見ないかと思ったら部屋に引きこもってたなんて……。
俺は流れで『もし良かったら一緒に行きませんか?』と言いそうになったが、そうか、そうだったんだっけ。
クララさんは出ないのでは無く、出れないのだろう……礼の呪いもあってか。
俺はどうにかクララさんと仲良くなりたいのだが、どうしたものか……。
ポセイドンはこの位の時間は食堂に居たっけ……相談してみよう。
「それじゃあクララさん。また……」
「は、はい。カナタさんも頑張って……」
俺が急いで食堂に向かおうとすると、クララさんの寂しげな表情が見えた。
きっと、今までは良かったが、ある日突然周りに怖がられたりしたのがトラウマだったりしたのだろうか、いや、さすがに姫様にそんな態度はとらんだろう。
でも、前の世界ならこれ位の女の子は思春期だから、さりげなくでも、周りに避けられてたら分かっちまうだろうな。
俺の中でのサタンへの討伐欲が大きくなった……討伐欲?
食堂にはちゃんとポセイドンが居た。
今日はあまり人が居ないみたいで、少し静かに感じた。
「ポセイドン、おはようございます」
「おぉ、おはよう。カナタ!」
「早速なんですけどお願いが……」
俺はクララさんに今日一日だけでも楽しみを与えたいと相談した。
人情深いポセイドンならきっと……答えはNO、断固としてダメらしい。
確かに、俺たちの作戦では俺が討伐に行く時は絶対誰にも会わずに、静かにクララさんを待たせると言うものだったが、今日位良いじゃないか!?
何故ダメなのか聞いても、『ダメなものはダメなのじゃ!」としか返して来ない。
それじゃあ、納得行く訳が無く、何度も俺は頼んだ。
しかし、ダメ……変な時に頑固親父になるんだからな。
仕方が無い……俺は諦めた、と言っても、今日夜位は一緒に遊んだりしたいものだ。
悪い意味ではなくてだな……?
俺は朝食を食べた後、再び闘技場にて修行をする。
今回は、『水龍』の維持と、『水流操作』と『無限水源』を仕上げる。
『水龍』の維持は予想以上に『秘力』を使う。
操作自体は秘力の消費は少ないが、時間制限というものは人それぞれだ。
ちょっと休んだら、残り二つに取りかかる。
休めば治るなら『体力』と表せば良いのに、何かの原理が違うから、と言われた。
『水流操作』と『無限水源』は比較的簡単であった。
水流の方は近い所の水を動かす事で応用的に素早く移動出来るようになった。
水源も物理演算は難しいが、一定の場所を指定したら簡単に水が生み出せるようになった。
これを使えば地上では、足下に水を作ったりして飛べたりなんかは……出来るのだろうか。
そういえば、さっきからポセイドンの口数が少ない。
見守りたいのか、もしくは朝の事を気にしてるのか、俺はもう過ぎた事、と話しかけてみるが相手が気を遣ってるかのように接してくるので、ちょっと調子が狂う。
まあ、なんだかんだでこの力にも慣れて来た。
夕方には昨日頼んでおいた武器の様子を見に行った。
ポセイドンは何かの準備があるからと、何処かに行ってしまった。
俺が鍛冶屋に入ると、見習い達は今も仕事をしている感じで忙しそうだった。
そんなに武器を欲しがる人が居るのかと思って覗いてみたら、アクセサリーを作ってた、なるほど。
昨日の職人の所に行った……そう言えば名前を聞いてなかったな。
「おう!ポセイドン様の所の、あぁ……何んでしたっけ?」
「カナタです。貴方は?」
「俺はネプスだ、改めてよろしく!」
「よろしくお願いします……」
「それでぇ、昨日の件なんだけどよ……」
昨日、ポセイドンが俺の意見を何も聞かずに勝手にオーダーした奴。
「明日には出来ると言ってましたが……結局何を作ってるんですか?」
男のロマンを語るなら大剣とか、太刀とか……でも、やっぱり槍だろうか……。
俺がそんな事を考えてると、ネプスは布に包まれた何かを持って来た。
「カナタさん、ちょっと試して貰いてぇんだけどよ……」
ネプスはそう言うと、布の中から剣も何も付いてない柄の部分だけを持って来た。
出来てないのか?てか試すって……。
「これを持ってみ……」
「この柄の部分だけをですか?何で?」
「いいからいいから!」
ネプスは自分は触らぬようにと布でその柄を持って俺の手に押し付ける。
持ったら爆発とかか?ドッキリかよ……俺はそう考えながらも触って見る。
その瞬間、持ってたそれは光り出し、奇妙に蠢き出す。
「な、な、な、何ですかこれは!?」
「大丈夫だって!見てろよ?」
少しネプスは顔を真剣にして、俺の手を祈るように見つめる。
それは俺の手の中で大きくなったり小さくなったり変形を続けるが、少しずつゆっくりになる。
「おおぁ!カナタさんこれは凄いぞ!!」
ネプスは子どものように目を輝かせながら言って来た。
何が凄いんだ?俺からしたら気持ち悪いだけなんだが……。
すると、光りながら動いてたそれは動きを止め、やがて大きくなっていく。
それはどんどんどんどん体積を大きくしやがて……って……。
「カナタさん!大、いや、超成功だぜ!!我ながら感動だ!!」
「何でだよ!これって剣なんだろ!?めっちゃ小さいんだが!?」
そう、俺の手にある『剣』はとても小さかった。
まさに短剣、いや、ダガーというよりもナイフというべきだろう。
その薄く、短く、細い剣……らしき物は不安要素でしかない。
本当にこれで良いのか?
「何言ってんだよ?こんな至高の一品は初めて見たぜ……家宝にしたいくらい……まぁ、料金前払いだし、しゃ〜ねぇ〜んだけどな」
「本当に凄いんですか?」
「まぁまぁ、今の鍛冶法は持ち主に最も合う形や性能に変化するっていう、代々受け継いで来た職人技だからな。魔剣とも呼べるんじゃないか?」
「このナイフが?……まあ、そこまで言うならそうなのだろうか……」
「安心しろって!……俺も良いもん見れたし……。じゃあ!毎度あり!!」
そう言われ俺は店を出て行く。
俺はこのナイフをついでに作って貰ったベルトみたいな奴に下げておく。
もう暗くなってきたし、俺はそのまま王宮へと戻った。
そうだ、クララさんの所に寄らないと……。
俺は夕食を執った後にクララさんの部屋の前に立ち寄り、ノックした。
「クララさん……カナタです。居ますか?」
「ひゃあ!カ、カナタさんですか!?ちょっと待って下さい」
今思えば俺は、前の世界じゃ起こる筈も無い、女子の部屋にノックをしたのだ。
そして予想通りの反応が来てくれて嬉しい。
そう、そして、次に行うべきは。
ラッキー……。
結構長くて読み応えがあったなら嬉しいです!
カナタはラッキー……が出来るのでしょうか!?